第4話『修学旅行:後編』
「あぁ〜風玲亜ちゃん久しぶりぃ〜‼︎」
「うわっ、ちょっと⁉︎」
ホテルの部屋割を見て、自分が泊まる部屋に風玲亜ちゃんの名前があるのを知った途端に子供みたいに泣いちゃった。私達たった一枠の三人部屋メンバーの中に美紀も一緒にいるから、せっかくこの機会にと三人でお互いについて軽く紹介し合って仲良くなった。
「という事で、これからお風呂の時間なんだけど三人で一緒に入らない?」
「入ろう、今すぐ入ろうよ‼︎」
美紀が着替えとかを抱えて行く気満々な姿を見せている。風玲亜ちゃんも無言だけど行く素振りを見せたから、アイコンタクトで三人で行く事になった。
“あ、そういえばクラスメイトの裸を見るのって初めてじゃん。誰かにイジられたらどう返せば良いのかなぁ……”
ハーレム漫画でよくある「女子同士で裸を見せ合う」とかのシチュにリアルで出会してしまった私。こういうのが本当にあるんだとしたら、それはそれで何かイヤだ‼︎
「よしっ、じゃあ入ろう‼︎」
だから私はそうなる前に、さっさとお風呂に入る事にした。かと言って入浴時間を短くするのは身体に悪いから、そこは手抜きしないでおこうっと。
「おぉ〜、結構広いんだねぇ。風玲亜ちゃんと美紀はどれから入るの?」
「私はあそこにある、ジャグジー付きの温泉にします」
「じゃあ私はその隣にある、深い所で泳いでるね‼︎」
「ちょっと美紀、お風呂で泳ぐのはちょっと……」
「マナー違反、ですね」
「……じゃあ普通のお風呂で」
それから話し合いで三人で別々のお風呂に入る。そのまま良い効果音が鳴りそうな位に最高の温泉タイムに身体をホッコリさせ、お風呂に上がってタオルでしっかりと濡れた身体を拭き取る。
そしてお風呂から出る前に忘れ物が無いかどうかも確認して、外へ出て部屋に戻る。
「ねぇあかりに風玲亜、さっきお風呂から出た時に向こうでゲームの音がしたんだけどさ…… 良かったら一緒に遊ばない?」
「良いねっ、早速ゲームしに行こうよ‼︎ 風玲亜ちゃんも行こうよ‼︎」
「あ、はい……‼︎」
畳んでた服を急いでしまってから私達のもとに来てくれて、さっきまでいたお風呂の所まで戻ると、確かにゲームの音が聞こえてくる。
「あっ、景品ゲームがあるじゃん‼︎ せっかくだから風玲亜ちゃんがやってみてよ‼︎」
「わ、私ですか……?」
少し戸惑いながらも、お金を入れてボタンに手を置く風玲亜ちゃん。左へ動かして奥へずらす。そしてボタンを離せば景品が捕まって穴へストン‼︎
「えっ、一発で獲れた⁉︎」
「ぐ、偶然だと思いますけど……」
景品を手に取り笑顔ながらも少しだけ、戸惑う風玲亜ちゃん。ただこれを見た私と美紀はあんまり納得出来なかったから、今度は指定した景品を獲ってもらう事にした。
そして結果は、同じだった。
学年の皆んなでバイキング料理を楽しみ、和気藹々と会話をする事小一時間。私達は日程通り部屋に戻って日誌を書く事にした。日誌と言っても自分の日課としてじゃなくて、修学旅行の課題として課せられた日誌。今日一日を軽く思い出しながら、ページ一枚分。文字数で表すと五百文字くらいに纏める日課がある。
私は作文とかに自信は正直言って、小学生並みだと思う。
《今日は朝早くに起きて眠かった。けどこれから楽しい事があるんだと思うと、眠気なんか吹っ飛んで昨日寝てなかったくらいに楽しみになってきた‼︎ 初めての飛行機で空を飛ぶのは少し怖かったけど、結構楽しくてまた乗りたくなった‼︎ 北海道に初めて来た感想は、寒い‼︎ あと涼しい‼︎ そして暑くない‼︎》
“…………書いてて恥ずかしくなってきた”
こんなペースでノルマをこなしてたら、絶対お母さんに笑われるなぁ。だったらもっと大げさに書いてみよう‼︎
《北海道ってこんなに涼しくて最高なんだ‼︎ 空気美味しい、風が気持ち良い‼︎ 最高だね‼︎》
“…………何この小並感‼︎”
恐る恐る二人の日誌を覗き込んでみるけど、やっぱり風玲亜ちゃんも美紀も尊敬しちゃうレベルの文才を持っていた。風玲亜ちゃんの日誌は予想してたんだけど、美紀の日誌が少しおかしく感じた。
まじまじと見てないからハッキリとは言えないんだけど、まぁ強いて言うなら、狙ってやってる感じがある。あざといって言うのかな?
《お風呂上がりで見かけて気になってたクレーンゲームで、とっても大きなぬいぐるみを獲れた‼︎ あんな大きいぬいぐるみを獲れるなんて思わなかったよー‼︎(๑>◡<๑)》
……まぁ、そっとしておこう。
「……………………」
今は何時かな?
よく分かんない時間に起きちゃった証拠として、まだ窓から光が差していない。だとすると夜中かな?
「…………早起きにも程があるって〜」
そういえば美紀と風玲亜ちゃんって、いつも何時に起きてるんだろう? 部屋の時計は見えないし、私自身は腕時計とかしない 人だから、本当に時間を知る方法が全くない。
それにしても眠いし、頭が回らないなぁ〜。ホントに今何時なんだろう?
そもそも暗いからって時間を知るって行為は、不安から来るのかな?
暗いっていうのは孤独や疎外を連想させていき、やがては死に繋がるから、それを回避する為に明るくなる時間を求める。つまり誰かに会いたいって事なんじゃないかな?
“…………頭、ヘンだな”
『……あかり? もう起きたの?』
突然過ぎるタイミングで美紀に呼ばれて、驚き声を上げそうになるけどギリギリでそれを引っ込める。
「み、美紀…… 今何時かな? 実はいつもより早く起き過ぎちゃってさ……」
「今は朝の四時だよ。ちなみに私はいつもこのくらいに起きてるから」
「へぇ〜四時起きなんだ。手伝いとかさせられてるとか?」
「うん、まぁそんなトコかな」
それからは軽く美紀と会話をした。
「でね〜、そしたら小夜ちゃんが…………」
ふと美紀が窓を見る仕草に、私もつられて振り向く。そこには日の出が私達の目の前に被さって真っ白になる光景が。
「うぉッ、まぶし‼︎」
すごくわざとらしいセリフと仕草で目を覆い被さって、互いに太陽から目を背ける。そうやってワイワイ騒いでいたら風玲亜ちゃんを起こしてしまった。
「あ、えっと…… おはよう風玲亜ちゃん。良い天気だね……」
「…………えぇ。おはようござい、ます」
朝食を食べてすぐチェックアウトした私達はホテルを出て、バスに揺られ続ける。少し朝早過ぎるのもあるのか、みんな少し目元がパッチリしてない印象だね。
まだまだ眠たい高校生達を連れて、池田に着いたのは大体十時半くらい。ここはワインを作る工場として観光名所になってる感じなんだけど、今回はあくまでトイレ休憩と昼食の場所として訪れただけだから、みんなワインには目もくれずにバスへ乗り込んで行く。一応私はお土産屋さんで売ってる商品に目を通してみたんだけど、あんまり特別感のある商品は見当たらなかったかな。
もしあるんだとしたらワインだから、高校生の私達には買えっこないしね。
「なんかずっとバスに乗ってるけど、釧路ってそんなに遠いのかなぁ? 北海道の端まで行くつもり?」
「あかりさん、そこは根室ですよ」
「えっ、そうだっけ? アハハ〜、ちょっと北海道を勉強する必要がありそうだねコレ……」
日本国民として地理がなってないのは流石にどうかしてる。そう思っていたらバスが発車して、目的地である釧路目指して走らせる。
“あぁ、また田舎の風景に戻っていく……”
少しずつ街とは言えない景色になって畑だけの光景を見ると、やっぱり北海道だなと思ってしまう。と言うのも北海道に対しては、どうしても田舎のイメージが付いてしまう。それは東京に住む私の勝手な固定概念なのかもしれないし、思い込みかもしれない。ただ自分がそうなってしまうのも無理ないと思う。実際の北海道が一体どんな所なのかは全く知らない私が、他人から北海道のイメージを求められたら、当然の様に田舎に溢れた光景を思い浮かべてしまう。ただ今回の修学旅行でもしかしたらそんな固定概念が少しでも崩れ去るかもしれないから、今回の行事はある意味私にとっては最高のイベントになると予感している。
出来ればそうであってほしいと、心から願っている。
……っと、大事な行事なのに長々と自分語りをしちゃったね。これには流石の私も反省反省っと。
『はい、それで無事に釧路駅に到着しましたわけなんですけど。ここからは自由行動になりますが、釧路からは一切出ない事と賭博関係の施設や交通事故などに巻き込まれたりはしないで下さいね』
「先生‼︎ いきなり釧路湿原に行きたいって思ったんですけど、どうしたら良いですか?」
『そういう時は、近くにあるそこのバスターミナルから行けますよ。ただ観光目的でのんびり利用すると帰りのバスに乗り遅れたりもあるので、もし目的のバスに乗り遅れたりしたらまずは落ち着いて、次のバスを待って下さいね』
「ありがとうございます‼︎ じゃあ早速行って来ます‼︎」
『気を付けて行って下さいねー‼︎』
生徒達が次々と散っていく中、私は風玲亜ちゃんの所に行って釧路を巡る事にした。風玲亜ちゃんもノリノリで私に付いてくれるから、内心ガッツポーズしながら釧路駅を飛び出した。
「しっかし、もう昼過ぎだからあんまり街中を回れないよね〜。せめて近くにモールとかがあったら時間潰し出来るのになぁ……」
そしたら一緒に買い物したり、映画とか観て良い感じのムードになって、そして、そして……
「ふははは‼︎ 俄然やる気が満ちてきたぁー‼︎‼︎」
「あ、あかりさん……?」
「うえっ⁉︎ あ、あぁゴメンね。ビックリさせちゃったね」
とりあえずまずはモールを探そう。無難だけど無茶して迷子になるよりかは全然マシだから、真面目に探さなきゃ。バス停を使えば一発で…………
「あかりさん。もし大きな店を探すんでしたら、とりあえずバス移動で行けますよ」
「ナイス風玲亜ちゃん‼︎ それ採用‼︎」
賢い風玲亜ちゃんのアイデアで、モールに停まるバスに乗り込んで一気に走り出す。その間は私と風玲亜ちゃんは隣り合って座り、手を組んでじっとしている。
「あ、着いたね」
少しだけ時間が掛かったけど、すぐにモールに辿り着いた。大きさは流石に東京と比べたらダメなんだけど、やっぱり小さいって印象を持っちゃうな。これもブランクって事なのかな?
「ここが、釧路のモールですか…… かなり大きいですね」
「ん〜。そう、なのかな? あんまり風玲亜ちゃんの“大きい”に対する基準が分からないから、何とも言えないけど…… 大きいのは確かだね」
さてと、とりあえずモールの何処に行こうかな。映画館は二階の奥にあるから遠いし、その高くにはゲームセンターがあるけどうるさいから風玲亜ちゃんにはキツいだろうし、さらに近くにある同人ショップも風玲亜ちゃん好みが無いだろうから、二階はあんまり当てにしない方が良いよね。
例えばフードコートの近くにあるドーナツを食べたり、アイスケーキを二人で食べたりするのも良いかも‼︎
「どこ行こうか風玲亜ちゃん‼︎ 行きたい所ってあるの?」
「えっと、じゃあ…… 映画、観たいです」
「映画……?」
意外だな。風玲亜ちゃんが映画を観たいだなんて。
「ちなみに、どんな映画が観たいの?」
「あ、えっと…… こういうのなんですけど」
そう言って差し出したパンフレットには、意外にも超有名なロボット系アニメだった。あまりのギャップに風玲亜ちゃんを二度見したけど、それは現実だった。
「えっと〜…… もしかして、シリーズ全部観てたりする?」
「はい。お父さんが好きで観てたので、一緒に観てたら……」
なるほど、風玲亜ちゃんはかなり見る目があるね‼︎ ホントの事言っちゃうと、私がこの映画を観るのは初めてじゃないけど何とか話しを合わせなきゃ‼︎
「良いねぇ、私も観たかったから一緒に観ようよ‼︎」
風玲亜ちゃんの意外な趣味に驚きと嬉しさを覚えながら、塩味ポップコーンと飲み物を購入してスクリーンへと入った。ここからはもう戦場に近い場所、素人が立ち寄ってはいけない場所だから…………
一見さん、お断りって事で‼︎
「凄いラストだったね〜」
「あまりにも難しくて、少ししか理解出来ませんでした……」
「ま、まぁあぁいうのは考察のしがいがあるって事で、別の方向で楽しめたりするから‼︎ 時間をかけてじっくり謎を解いていこうよ、ね?」
あの映画は二時間半以上もするから、終わった頃にはもう夕方まっしぐらな時間帯になってる。どのくらい暗いのかは外に出ない限り分からないから、もうそろそろ目的地のホテルへ行く事にした。
「うわ、もう夜七時過ぎようとしてるじゃん。早くしないと先生達に怒られちゃう…………」
「えっと、あかりさん。その前に一度トイレに行って来ますので……」
「あ、うん」
風玲亜ちゃんが映画館のトイレに行ってる間は、すぐ近くの壁にもたれかかって待つ。周りは人が沢山いて、やっぱり有名な映画目的なんだろうなぁと、大体思い込んでいる。
『お? お前もしかして、月宮か?』
突然だった。あまりにも突然で、そして唐突に、それは始まってしまった。
「……………………」
目を逸らしてやろうと考えたけど、それじゃ解決しない。
『うんうん。やっぱりだ、月宮じゃん‼︎ 久しぶり〜‼︎』
解決させるつもりはある。だけど真正面からは向き合わず、ゴム手袋とトングで扱う様な感じで、目の前の男子高校生に向かって声を発する。
「…………久しぶり」
「お前がその立派な制服着てるって事は、ホントに転校してたのかよ。俺の言った事にどんだけ素直なんだって‼︎」
「…………それは」
「あぁそれとも親が転校を考えたのか? それはそれでラッキーだったんだろうけどさぁ〜、少しは自分の意見や文句を言ったらどうなんだって‼︎ 俺を突き飛ばすとかせずに『嫌‼︎』とか『やめて‼︎』とかハッキリとさ‼︎」
「…………言わないで」
「それにしても月宮ってさ〜、あれから恋人デキてるの? 俺はもう出来てるぞ?」
「…………あっそう」
「どこかにいたりするのか? あ、トイレか‼︎ じゃあ俺も待っててやるからさ‼︎」
「…………やめて」
『お待たせしましたあかりさん、遅くなってすみま、せん…………』
私と風玲亜ちゃんの目が合う。風玲亜ちゃんは私の目を見て、隣に割り込んでる男子高校生に強い視線を互いに向ける。
「あの」
風玲亜ちゃんが男子高校生の目の前に立ち、凄い形相で声をかける。
「離れてくれますか? あかりさんから」
私が今まで聞いた事のない、風玲亜ちゃんの静かな怒りの声。とても短いセリフに込められた感情が私を守ると教え、男子高校生から守ると教えてくれる。
「……あ、アァはいはい。なるほどね」
風玲亜ちゃんの表情を見て、何かを察する男子高校生。
「つまりアレだろ? 恋人なんだろ?」
やっぱりだ。からかう様な言い方で言ってきた。
「てかうわー、気持ちワリィなーマジで。女の子同士で結婚とかって事も考えてるんだろ? イヤそれは構わないよ、テレビとかでイヤほど見かけるから耐性は付いてんだよ。けどさ、君…… えっと〜……」
「日向、です」
言わなくていいのに。あんなヤツなんかに……
「月宮と付き合うんなら、まずはソイツの過去と向き合った方が良いぞ。二人の恋愛に夢見てるとか、正直気持ちワリィんだって」
「どうして、あかりさんの事を悪く言うんですか? あかりさんは何もしていないはずですけど?」
イヤだ、このままだとアイツの口から……
「何もしていない、か。それが実はしてるんだよなぁ〜、月宮はな」
「…………やめて」
言わないで。
「あのなぁ、月宮はな…… 俺の“元カノ”なの。そこんとこ分かる?」
「…………ッ‼︎ そ、そんな訳ない、ですよね?」
……………………。
「あ、あかりさん……?」
……………………。
「も、もしかして––––」
それ以上言わないでくれた。俯く私の気持ちを、一瞬で察してくれた。
「そんなんじゃ、ないよ…………」
だけど、アイツのペースに持っていかれるのは絶対に避けたい。その一心で私は、一言ずつ、喋る事にした。
「私は、アイツの言いなりにされて…… それで、買い物させられたり、お金とか色々取られて……」
そして、大切なものまで失った。
「私、何も出来なかった…… こんなヤツの言いなりにされてるって、分かってたのに、何も出来なかった…… だから私は、あんなヤツに、自分を……」
その時だった。
「いっでぇぇぇぇぇぇ‼︎‼︎」
目の前で、奇妙な事が起こった。
「風玲亜、ちゃん…………?」
殴ってた。拳を作って。風玲亜ちゃんが、怒りを露わにして、アイツを殴ってた。
「もう………… 喋らないでください」
「い、いってぇな––––」
今度は首を、両手で。掴んでる。
「喋らないでと、言ったはずですけど……?」
「…………‼︎」
物凄く必死に首を振って了解の合図を送ると、風玲亜ちゃんは表情を変えないまま首から手を離した。すると男子高校生が突然むせ出したから、かなり強い力で掴んでいたんだと思う。
そしてそのまま男子高校生は無言でもたつきながら走り去って息、それを見届けた後は私と風玲亜ちゃんの間には微妙な空気が流れ続ける。
「あの、その…… ごめんなさい」
先に口を開いたのは風玲亜ちゃんだった。風玲亜ちゃんは人を殴ってしまった事について深く傷付き、ずっと後悔している事を知った。
「私、とんでもない事を…… してしまいました。人を殴ってしまうなんて、あの男の人よりも最低な事を‼︎」
「落ち着いて風玲亜ちゃんッ、深呼吸しよう。それにもうすぐホテルに行かなきゃいけない時間だから、バスに乗って落ち着こう?」
「…………はい」
バスに揺られる。ゆっくりと走って各駅停車を繰り返す。目的地のホテル付近の駅に停まるまで、私も風玲亜ちゃんも、終始無言で目も合わせずにただ座り続ける。
「あ、着いた」
「…………あかりさん、少し歩きませんか?」
風玲亜ちゃんに言われて、すぐにホテルには帰らず近くの橋の所へ歩き出す。私も風玲亜ちゃんも一切口を開かず、だけど何か言いたい空気もある。そんな空気を感じながらも黙ってしまう。
そんな空気の流れを断ち切る為にも、私は勇気を出して口を開いてみる。
「あのさ風玲亜ちゃん…… 私、もうどうしたら良いのか分からないよ。あんな事言われて平然を装っていられる訳ないもん」
「…………私が、いますよ」
「え?」
風玲亜ちゃんが突然足を止めて、振り返る。その姿に丁度夕日が風玲亜ちゃんに差し掛かって神々しい感じになっていく。
「私があかりさんのそばに、居たいです」
すると風玲亜ちゃんは突然私の手を取り、それをお互いの胸元の位置にまで上げると、いつの間にか風玲亜ちゃんは顔を赤くしていた。
「私は、あかりさんの事がずっと前から好きです……‼︎」
「えっ……?」
こ、告白……? 風玲亜ちゃんが?
「で、でも私ってほら…… さっきのアイツが言ってた様に、ホントに穢れてるんだよ?」
「穢れてなんかいません‼︎」
風玲亜ちゃんが強い口調で私のネガティブを否定する。その反論が引き金になって、私の汚れきった心が初めて洗われていく感じがした。
「あかりさんは強い人です。あんな人を前に逃げませんでしたし、向き合おうとしてました。どんなに酷い事を言われても泣きませんでしたし、殴ったりしませんでした。そんなあかりさんを見て私は…… 素敵な人だと思いました。だから言いたいんですッ、気持ちを伝えたいんですッ‼︎」
大きく息を吸って、真っ直ぐな目で私を見る。
「私はあかりさんの事が、好きです」
「風玲亜ちゃん…………」
「あかりさんの気持ちを、どうか私に教えて下さい…………」
そんなの、考えるまでもない。
「私もだよ……」
答えは、決まってる。
「私も風玲亜ちゃんの事が……」
片想いだった人生から、一歩踏み込む為に……
「大好きだよ」
私も、告白をする。