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第3話『修学旅行:前編』

 五月が過ぎて、六月。第一週になってすぐに訪れる学校行事、修学旅行の日がついにやって来ました‼︎ 前々から準備を済ませてたから忘れ物はゼロだし、もしもの為のナプキンだってしっかり揃えた‼︎

「おっはよー風玲亜ちゃん‼︎ 昨日は眠れた⁉︎」

「お、おはよう…… ございます……」

「うぇっ⁉︎ 大丈夫なの、身体フラフラしてるんだけど⁉︎」

「な、何とかなると、思いますよ……」

 とか言いながらよろけてるけど、本人が大丈夫って言ってるからそっとしておこうか。さてと、気を取り直して本日から二泊三日の修学旅行で私達が目指すは北海道の観光地、帯広と音更、池田に釧路‼︎

 帯広では周辺の町を彷徨いたり、釧路も同様に彷徨いて終わり。細かい事は忘れちゃった‼︎

「よーし、先生の話も終わった事だし…… いざバスへ乗り込もう‼︎」


 バスの座席は先生の計らいなのか、何故か風玲亜ちゃんとは別々にされてしまって離れ離れになった代わりに、学年でよく目立つクラスが別の美紀(みき)が隣に座る事になった。

「えへへ〜、あかりと一緒になるのっていつ振りかな? それとも初めてだったかな?」

 床に届いてもない短い足を、子供みたいにパタパタさせながら話すこの子は伊藤美紀。もし美紀を語るんだとしたらまず、高校生には見えないくらいに身長が低いのが大きな特徴。

 だからさっき軽く話した「学年で目立つ」って言うのは、()()()()という意味で言ったんだよ。見た目だけでの判断だと、最悪小学生に見えてもおかしくないかも……?

「まぁとりあえずだよ、これからもよろしくね〜あかり‼︎」

「うん、よろしくね」

 高校から羽田空港までの道のりに皆と軽いレクリエーションをして時間を潰し、目的地に着いた頃には既に午前九時になる直前になっちゃった。

「まだ朝だね〜。少しオヤツ感覚で何か買っていかない? 飛行機の旅って結構退屈だからね」

「そうなんだ〜、私飛行機初めてだから色々買っておこうかな。やっぱりお弁当とかが王道かな?」

「そうだね、あんまりお菓子は選ばない方が良いよ。食べたら音を立てちゃうからね。という事で美紀に付いて来て‼︎ お弁当売り場まで案内してあげるから‼︎」

 グイグイ来る美紀に手を引っ張られながらお弁当売り場にやって来た私達は手頃な大きさのお弁当を三人分買ってはダッシュで戻り、リュックにしまってゲートをくぐった。

 まだ飛行機に乗るまで時間があるからゆっくりと休みたいと思っていた矢先、隣に座ってきたのは風玲亜ちゃんじゃなくて美紀だった。

「あのねあのね‼︎ あかりってさ、さっき飛行機に乗るのは初めてって言ってたよね。それならジェットコースターをイメージしてみるのはどうかな⁉︎ アレと同じだって思ったら飛行機も平気なんじゃないかな⁉︎」

「そ、そうかな…… でも離着陸の瞬間とかはどうイメージしたら良いのかな?」

「そこは気合で‼︎」

「何故に気合で⁉︎」

「えっとホラアレだよ、一気に上昇するアトラクションをイメージしながら乗れば多分何とかなると思うよ」

「結局、気合になるんだね……」

 しばらく美紀と会話を続けていく内にようやく搭乗時間になって、また整列して飛行機に乗り込んだ。その時もまた美紀が隣になったけど、ようやく風玲亜ちゃんが私の近くに座ってくれたよ‼︎

 実際には後ろの席だけどね‼︎

「さぁ、そろそろ離陸だね。準備は出来てる?  私は出来てるよ」

「う、うん。覚悟は––––」

 最後まで言い切る前に飛行機が発進して、一気にスピードを上げていく。その急な展開に思わず座席にかける手の力が強くなってしまう。

「んっ……‼︎」

 また投げ飛ばされるんじゃないかとビクビクしながら目を瞑っていたら、突然かつてない浮遊感が乗客全員に襲った。これはもしかして…… 離陸したのかな?

「おぉ〜、飛んだね〜」

 美紀は飛行機に乗り慣れてるらしく、呑気に窓から見える景色に対して身を乗り出して覗き込む。窓際の席は私が座ってるから、ちょっとよそ見しただけで恐ろしい程に高く傾いた空の世界が広がる。

「な、な、何この乗り物…… 私達を何処へ連れて行くつもりなの……?」

「何処って、新千歳だよ?」

 空を飛んだ瞬間にあちこちで悲鳴が聞こえてきたけど、風玲亜ちゃんはどうなんだろ?

“あっ、風玲亜ちゃんも怯えてる……”

 どうやら風玲亜ちゃんは飛行機が初めてらしく、緊張しきった表情で私と目が合った瞬間に恥ずかしさのあまり視線を逸らす素振りを見せてくれた。その間も美紀が私の脚に乗り掛かって、窓の景色を見ようと必死になっている。

「あっ、見てあかり‼︎ あれがチュウチュウランドだよ‼︎」

 美紀が指差す先には、確かにテレビでよく見かけるチュウチュウランドの敷地が見えた。こうして上空から見ると、すごく広いんだなぁ〜……

「見て見てあかり‼︎ あれが富士山だよ‼︎」

 緑が生い茂る世界に一つ、大きくてとても目立つ山。富士山が目に入る。ただまた美紀が身を乗り出しているし、コーラを飲みながらだから制服が心配になりながらの見物になっちゃった。

「あかり、北海道に着いたよ‼︎」

「あっ、ホントだ〜。あそこが確か小樽だったかな?」

「うんかもね。よく分かんないけど」

 そして飛行機がゆっくりと高度を下げていき、ついに目的地の新千歳空港に到着‼︎ おぉ、おぉ〜。涼しい〜‼︎

『ではトイレ休憩が済んだら、すぐにバスに乗って帯広に向かいます。時間厳守でお願いしますよ〜』

 先生の話が終わった瞬間に風玲亜ちゃんの所へ行こうと振り向いたら、風玲亜ちゃんが美紀と話してる様子が目に入って、美紀が風玲亜ちゃんに向かって謝る仕草をとっている。もしかして私へ頻繁に話しかけてたのを少なからず気にしてたのかな? 美紀って、意外と周りへの気配りとかが上手なんだなぁ……


 トイレ休憩の時間が終わってバスに乗り込み、私達は一日目に泊まるホテルへと向かう。北海道がどんな所でどんな名所があるのかは別海が酪農王国なのと札幌が県庁所在地だって事以外は全然知らないけど、多分ホテルだけは何処に行っても凄く良い所だと勝手に思ってる。

 そもそも大自然に囲まれた場所に建つホテルなんて、そうそう泊まれないからね。私にとっては今こうしてバス移動するだけでも感動的だよ‼︎

「何処を走っても自然だなぁ…… このままだと寝落ちしちゃちそうかも……」

 それでも寝落ちを避ける為に買った、この眠気覚ましガムを噛んで気分転換をする。強い刺激を味わいながら噛み続けていると、バスが高速から下りてしばらく走らせていき、自然の中にある施設に入った。

『え〜、まだホテルのチェックインまで時間があるので、ここでしばらくの間休憩時間にします。一時間後になったらバスに乗ってて下さいね〜』

 バスから降りた途端に思った事は、空気が違う。北海道と言えばでまず思い付くイメージが酪農と自然なだけあって、物凄く空気が爽やかで美味しい‼︎

「あかり‼︎ コッチコッチ‼︎」

 美紀が手招きで施設の中に入って行った。どうやらここは公園施設らしく、大自然の中を体感するのが目的みたいだね。

 そんな自然公園みたいな施設内の奥深くへ美紀に連れられて走って行くと、そこには大福みたいな形のドームの上を飛び跳ねる子供達の姿がまず目に入った。

「えっ、何コレ……? トランポリン……?」

「まぁそんなモンだと思うよ。さぁホラ‼︎ 私と一緒に飛ぼうよ‼︎」

 そう言いながら美紀が突然過ぎるタイミングで制服を脱ぎ始めて、なんと既に着ていた私服姿に変身した。

「えっ、ちょっと美紀⁉︎ 一体何やってるの⁉︎」

「何って…… 子供に紛れて飛ぶんだよ?」

「いや、ソレは流石に無理があるんじゃないの……?」

「大丈夫、私の幼い外見と自慢のロリ声を信じて‼︎‼︎」

 ちょっとだけある胸を張って威張ると、早速子供のテンションを演技しながら子供達の間に割り込んで行った。

「キャー‼︎ すっごく跳ねるよコレー‼︎」

 私は近くのベンチに座り込んで、美紀が脱いだ制服を畳みながら様子を見ている。こうして見ていると本当に美紀の外見と声が相まって、小学生に見えてもおかしくないと変な事を考え始めていた。

“あれッ⁉︎ コレが俗に言う合法ロリってやつ⁉︎”

『ねぇお姉ちゃん、ホントに小学生なの?』

“あっ、美紀が本物の子供に捕まった……‼︎”

 流石に無理があったのか、美紀が本物の小学生数人に年齢を疑われ始めた。美紀は必死の説得をしているけど、なかなか子供達は納得してないのか、美紀も段々と焦りだした。

『ホラ見てよこの身体をさ‼︎ 私は()()()()()なの‼︎ 少し背が伸びちゃった子供なの‼︎』

 美紀が聞いてて無理のある嘘で何とか危機を乗り越えようと必死になる姿に、第三者…… つまりクラスメイトや先生が来ないかと心底不安になりながら見守った。もし先生に見つかったら即ホテルから一歩も出さないらしいから、美紀にとってはすごく苦痛の時間かもね。

 だから小さな子供相手に、めちゃくちゃ必死になって嘘を吐き続けてるんだなぁ〜って思って。

「はぁ〜、何とかごまかせたけど…… もうトランポリンはいいや。ボロが出たら色々とマズいし」

「うん、その方が良いって。えっとほらねッ、一回戻ろうよ?」

 トイレで着替えた美紀を連れて、また施設付近に戻る道中で二人乗り自転車を走らせるクラスメイトが目に入った。いくつかのグループが走らせてる中には、風玲亜ちゃんの姿もあった。

“自転車かぁ。最近ちっとも乗ってないから、久しぶりに走らせてみようかな”

「ねぇ美紀、私と一緒にアレ走らせようよ。二人で漕いだら楽しそうだよ‼︎」

「言うと思ってたよ、それじゃあ早速レンタルしに行こー‼︎」

 美紀とお金を出し合って二人乗り自転車をレンタルして、道路上まで自転車を手で漕いでいき、そして脚を跨いでペダルに腰を深く落とす。

「よし、じゃあ漕ぐよ美紀ー」

「あいさー‼︎」

 声を合わせながらペダルを同時に漕ぐと、思った以上に加速が入って足がペダルから外れかかった。それを何とか堪えて漕ぎ続けていると何だか風を感じ始めていき、美紀とのチームプレイを意識しだした。

「左に曲がるよー、ゆっくりねー」

 減速しながら左旋回。

「デコボコしてるからスピード落とすよー」

 姿勢を崩さない様、しっかり捕まりながらスピードを落とす。何だかこうしてやってみると、結構面白いねコレ‼︎

「よしっ、じゃあそろそろ時間だから戻ろう‼︎ 美紀、旋回準備‼︎」

「あいさー‼︎ ところで足はまだまだ余裕なの?」

「正直かなりキツイね、気合入れ過ぎちゃったよ……」

 その後も美紀と連携して自転車を漕ぎ続け、無事に自転車を返却してバスに戻る事が出来た。バスの中はしっかりと空調が効いてたから、少しだけ暑かった身体が少しずつ冷えていった。

「はぁ〜、生き返ったよ〜。あそうだ、ホテルってまだ着かないのかな?」

 バスが発進したと同時に美紀とホテルの話をし始めた。だけど美紀は、何故かキョトンとした顔で私を見てくる。

「え? 何言ってるの、ホテルすぐそこだけど?」

「うぇっ⁉︎」

 そう言ってるそばでバスがすごく立派なホテルに到着。時間にして一分あるかどうかの距離…… これってコントか何かですか⁉︎

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