第2話『ちょっと寄り道』
「ねぇねぇ風玲亜ちゃん、一緒に帰ろうよ‼︎」
そんな一言で今日も私は、風玲亜ちゃんと家まで歩く。だけど今日は真っ直ぐ帰りたくない気分だから、ある交差点で露骨に寄り道をする事にしてみました‼︎
「ちょっとあかりさん⁉︎ 寄り道は親を心配させますよ⁉︎」
「大丈夫だって‼︎ 私のお母さんは夕方までいないし、鍵っ子だからね‼︎」
そう言って家の鍵をチラつかせると、風玲亜ちゃんはあんまり納得してなさそうな表情を浮かべつつも私の後に付いて来てくれた。
「そう言えば風玲亜ちゃんって、寄り道とかダメだったかな? 無理して付いて来なくて良いんだよ?」
「い、いえ大丈夫です…… では行きましょう」
少し無理矢理気味に風玲亜ちゃんと一緒に商店街へ向かって、色んなお店を見ながら財布を取り出した。と言ってもおやつ程度しか食べないから、小銭を片手に歩き回った方が私的には楽かな。
「あっアレ食べる? アイスクリーム屋さんのクレープアイス、すっごく美味しいんだよ〜」
風玲亜ちゃんの分も買って、店のすぐそばの壁にもたれ掛かって一緒に一口食べる。
「う〜ん美味しい‼︎」
「あっ、美味しい……」
「でしょでしょ? おやつの時間に食べるお菓子って、最高に美味しいよね‼︎」
「今食べてる場所は、家じゃないですけどね」
う〜ん、やっぱり風玲亜ちゃんは買い食いは好きじゃなかったかぁ。親のしつけが厳しくもしっかりしてる証拠かな。
「あのさ、こんな事聞くのってまだ失礼かもしれないけどさ…… 風玲亜ちゃんの家って、結構厳しかったりするのかな?」
「厳しくはないと思いますよ。一人で出歩くのは夜の六時までって言われてますし、お友達とは思いっ切り遊んで良いって言われてますし。ただ私からして厳しいかなと思うのは…… やっぱり異性関係ですね」
「そっかぁ〜、やっぱり付き合う人はきちんと見極めておかないと人生お終いだからね。そこは徹底的に厳しくしないと」
風玲亜ちゃんと好きな人のタイプとかの恋バナを、壁にもたれ掛かりながらしばらく話し続けた。そしたら今の風玲亜ちゃんは彼氏がいないって‼︎ つまりこれはさ、この私が風玲亜ちゃんを貰っても良いって事だよね⁉︎
「よしっ、頑張ろう‼︎」
「急に気合を入れてどうしたんですか⁉︎」
「あっ、ゴメンゴメン。驚かせちゃったねアハハ…………」
丁度クレープが食べ終わったし、そろそろ家に帰らないとね。包み紙は店が用意したゴミ箱に捨ててっと。
「それじゃあ急いで帰ろうか‼︎ 寄り道した分だけ走らなきゃ‼︎」
『あれっ、そんなトコで何やってんの?』
うぅわ、見つかっちゃったかぁ……
「お、お母さん…… おかえりなさーい……」
「お母さんって…… あかりさんのお母さん、なんですか?」
「そっ。アタシは月宮倫子、四五歳の主婦兼歯科医よ」
「初めまして倫子さん。私はあかりさんの友達の日向風玲亜と言います」
風玲亜ちゃんがお母さんと一緒に軽い挨拶を交わし、お母さんを私達で挟んで帰る事になった。
「あかり〜、アンタ友達誘って寄り道してたの〜?」
「う、うんそうだよ……」
「ん〜まぁ気持ちは分かるんだけどさぁ、もうすぐゴールデンウィークなんだから数日くらい我慢したらどうなのよ?」
「うぇっ⁉︎ もうそんな時期だった⁉︎」
「あのねぇ……」
お母さんに軽く怒られながらも、自宅の前までは必死に明るく振る舞い続けた。二人で風玲亜ちゃんを見送って、それから私が家の鍵を開けて無事に帰宅した。
「あぁ〜、疲れたぁ〜」
ソファーに腰掛けてグッタリするお母さん。一方で私は手洗いとうがいを済ませてから、お母さんのすぐそばに近寄り、少しだけ勇気を出して話し掛ける。
「ねぇお母さん。少し気になったんだけど、お母さんには風玲亜ちゃんの事、どう見えたの?」
「あぁ、そうねぇ〜…… すごく素直で一途で繊細そうな子だったわよ? 何さ、もしかしてあの子の事が気になってるってワケ?」
「何故にそうなるのお母さ〜ん。私は風玲亜ちゃんの事は友達だとは思ってるけどさぁ……」
「そうかしら? もうあかりと風玲亜は一ヶ月くらい一緒にいるんだから、少しくらい勇気を出すべきなんじゃないの?」
「いや、一ヶ月なんかでそんなに変わるのかなぁ? カップルとかってさ、実際は何ヶ月もかけてなるものなんじゃ……」
「それは偏見だって。あかりはもう充分に風玲亜の恋人になるキッカケを持ってるはずだよ。一ヶ月も仲良く出来たんだから、後は駆け引き無しに行動しないと…… アンタ、一生後悔するよ?」
ソファーの背もたれに首を乗せながら、真剣な表情で言われてしまう。何だかお母さんの発言に妙な重みを感じるのは、ただの気のせいだったりする?
「まぁそういう事だから、もうすぐ修学旅行だし準備しときなさいよ」
「は、はーい……」
リビングを出る直前にもう一度だけお母さんを見てみたけど、既にお母さんは普段のほんわかお母さんに戻っていた。