3.暗殺者と聖女
俺を見つめている視線が気になったが、面倒ごとになる前に宿を探して歩く。すると先ほどまであった視線が消える。
…俺を見つめていた視線が無くなってから数分後、先ほどの視線と同じ気配が遠くから段々と近づいてくる。ある程度近くまで来ると、その気配が俺の知っている気配だと気付く。
(あぁ…俺を見ていたのはアイツだったのか。)
暫くすると、背後から走ってくる足音と叫び声が聞こえてくる。
「シ…ス〜!シリ…ス〜!やっぱりシリウスだ〜。」
そんな声が聞こえ俺が振り返ったと同時に、後ろから俺に抱きつき頬ずりをしてきたのは、聖女のオーフェリアだった。
(やっぱりオーフェリアだったか。別れの挨拶を言い忘れてたからな。)
「あぁ〜…オーフェリア。そろそろ離れてくれないか?」
ひとまず、さっきから引っ付いて離れようとしないオーフェリアを俺から剥がす。
すると…
「シリウス!何で私に何も言わずに出て行っちゃうの!私、シリウスが追放されたって聞いた時は、本当に悲しかったんだから。」
そう言いながら、また引っ付いてくる。
「あぁ。その事は済まなかったな。それより、どうしてこんな時間に外に居たんだ?」
別れを言わずに出て行ったことを謝り、オーフェリアが何故こんな時間に外に居たのか聞いてみる。
「いやぁ〜私もね…、シリウスが居なくなったって聞いて意気消沈してたんだけど…。」
そんなことを言ってオーフェリアが語ったのは、次のような事だった。
全く寝付けずにいたオーフェリアは、宿屋の窓から外を眺めていたそうだ。その時、丁度俺が宿屋の前を通ったのが見えたらしい。俺に気付いたオーフェリアは、すぐに着替えて荷物をまとめ、書き置きだけ残して宿屋を飛び出し、俺の後を追ってきたそうだ。
「おい。アラン達に何も言わずに出てきたのか。絶対後で面倒なことになるだろ。」
「良いの良いの、そんな事。だって私はシリウスのことが大好きなんだから。」
面倒なことになると頭を悩ませている俺に、オーフェリアは一切の躊躇い無く、そう言い切った。
どうしてオーフェリアが、ここまで俺に好意を寄せているかというと、旅の途中…一度だけオーフェリアが誘拐されたことがあった。まぁ、こんなに綺麗でしかも聖女なんて肩書きまであれば、そういう輩に狙われても仕方がないと思う。
その時に俺が犯人達を探し出し、オーフェリアを助けたことで、俺に好意を持つようになった。
それからは、事あるごとにその好意を俺にぶつけてきている。今まではオーフェリアやアラン達も依頼の護衛対象だったので、仕事上、オーフェリアの気持ちに応えることができなかった。しかし勇者パーティを追放された今となっては、もう依頼もどうでもよくなっている。
俺は、自分のしたいことをすると決めたのだから。自分のしたいように行動する。絶対、後で面倒なことになるだろうが、どうでもいい。
抱きついているオーフェリアの腰に手を回し、俺から抱き締める。
今まで一度もそんなことをしてこなかった俺がいきなり抱き締めたからか、オーフェリアはピクリと肩を震わせた。その直後には、顔を真っ赤にしてアタフタとしていた。
「どど…どうしたのシリウス?い…いつもはこんな事しないのに。」
オーフェリアからは女性特有の柔らかさが伝わってくる。彼女の豊かな胸は俺の体に押し付けられ、見事に潰れている。彼女はそのエメラルドグリーンの瞳をうるうると潤ませながら、俺の顔を見上げてくる。
「オーフェリアは俺のことが好きなんだよな?」
「…う、うん。好き…だよ。あの時、私を助けてくれた時から。それに、シリウスは文句も言わずに、みんなの為に自分を犠牲にできる優しさを持ってる。シリウスのことを考えるだけで胸の奥がキュンとなって切なくて、でも同時に幸せも感じてるの。」
頬を赤らめながら言ってくるオーフェリアに俺も応える。
「俺もオーフェリア達と1年以上一緒に旅をしてきて過ごすうちに、いつも真っ直ぐな気持ちを伝えてくれたお前が好きになったみたいだ。だから、一緒に来てくれないか?」
「え…。シリウス、それ本当?シリウスが私のことを好き?ほんとのほんと?」
「あぁ。本当だ。」
オーフェリアは相当驚いたのか、俺の言ったことが真実なのか聞いてきたので質問に答える。すると、次第にオーフェリアは満面の笑みになっていく。
「…やった〜‼︎シリウスと相思相愛だ〜‼︎やった!やった〜‼︎」
そう言いながら、俺についていくと言ってくる。なんでも、元々俺についてくるつもりだったらしく、その為に書き置きを残したそうだ。
「だって!シリウスは、みんなの為に頑張ってきたのに、それで追い出されるなんておかしいよ!」
「ありがとう。俺の為に怒ってくれて。…さて、そうと決まれば、アラン達に気付かれる前にこの街から離れておくか。」
…俺達はすぐに街を出ることにした。まずは隣街の『エイン』に向かう。
「それじゃ、出発するか。」
「うん!」
そして俺達は、『エイン』へと夜空の下歩き出した。
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