1.追放
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「シリウス。君みたいな役立たずは、この勇者パーティには要らないんだよ!今日で君はこのパーティから追放だ!」
そう言ってきたのは勇者のアランだ。アランは金髪碧眼で、初めて会った人は誰もがそろって優しい人だろうと判断するようなイケメンだ。剣術に関しても勇者にふさわしいだけの実力は持っている。
俺は、その言葉を聞いた途端に頭が真っ白になり、何を言われているか理解ができなかった。
しかし、時間が経つにつれ徐々に頭が理解していき、アランが言ったことが完全に理解できると、次にはどうしてだ…という思いで頭の中がいっぱいになった。
俺は元々、暗殺者ギルドで活動していた暗殺者だ。暗殺者ギルドで、他の暗殺者の追随を許さないほどの高い実力を持っていた俺は、その実力をかわれ、勇者が魔王討伐にむけて旅立つ際に、勇者パーティの一員として勇者達と一緒に旅立った。
暗殺者ギルドを通しての、国からの依頼という形で引き受けた俺は依頼主の要望通り、勇者が気分良く魔王討伐の旅をできるように、道中の雑務や調査などは全て俺がして、さらに俺の手柄を全てアランの手柄にした。
それなのに、この俺をパーティから追放するだと⁉︎
「そうね。ソイツをパーティに置いておくより、他のパーティメンバーを募集した方がもっと楽に戦闘をこなせるんじゃないかしら。」
声がした方を見ると、勇者パーティの魔法使いであるカレンが、興味なさげにその赤色の瞳を明後日の方向を見て、少しウェーブのかかった赤髪を弄りながら言ってきた。
カレンはこの世界でも上位に位置する、腕の立つ魔法使いである。
それに続くように、
「まぁ、妥当な判断なんじゃねぇか?正直言って、暗殺者より別の職業の奴を入れた方がパーティの火力も上がって良いと思うぜ。」
ともう一人のメンバーで槍使いのキースが酒を豪快に飲みながら、アランとカレンの意見に賛成する。
キースは茶髪黒目の槍使いでお酒が好きな戦闘狂だ。こんな酒好きでも槍捌きに関しては、達人と呼べる実力を持っている人物なので侮れない。
「ほらな。二人もこう言っていることだし、さっさと出て行ってくれよ。」
「…ちょっと待ってくれ。俺はギルドの依頼を受けて此処にいるんだ。それに、俺が出て行ったら料理や他の雑務はどうするんだ?」
三人から出ていくように言われた俺は、一瞬思考停止してしまったが、すぐ三人に聞き返す。
「あぁ〜?依頼だって?そんなのどうでも良いじゃないか。雑務も新入りにやらせればどうとでもなるし。」
「はぁ〜?そんな下っ端みたいなこと他の人にやらせておけば良いのよ。」
「まぁ…お前が料理や雑務をしっかりこなしているのは知ってるが、お前じゃなけりゃ出来ないってもんでもないしな。」
この言葉を聞いた時…今まで1年以上このパーティを支えてきても、コイツらからしたらそんなものだったのかと、そんなことを思った途端、俺の中でブチッと何かが切れるような音が聞こえた。
(あぁ〜…今までの頑張りは何だったんだろうなぁ。この旅が始まった時から、俺は自分なりにみんなを支えてこれたと思っていたんだが。俺の頑張りは完全に無駄だったな。)
俺はそれだけ考えると、了承の意を示してサッと席を立つ。
「分かった。今日で俺はこのパーティを抜ける。」
「おぉ‼︎聞き分けが良いじゃないか!」
俺がパーティ脱退をすぐに了承したからか、アランは気分良さそうに、声をあげる。
「じゃあな…今まで世話になった。」
そう言って、俺はそのまま酒場を出て行った。
「さて…これからどうするか。」
俺はそう呟きながら街中を歩いて行く。
「そうだ!どうせ暗殺者ギルドに戻っても依頼失敗でどうなるか分かったもんじゃないし、新しく冒険者として活動するか!」
これまでは勇者パーティの為に頑張っていたが、これからは自分の為に自由気ままにしたいことをしようと決心した。
俺が今まで暗殺者として培ってきた技術を使えば、冒険者でも通用するだろう。
「ヨシ!そうと決まれば早速この街の冒険者ギルドに行くか!」
これからの行動方針を決めた俺は冒険者ギルドに向かうのだった。