男の娘じゃだめですか?
春、それは出会いの季節。
これから一年付き合っていく仲間が決まる大事な時期で、ここで失敗しようものなら残り一年を棒に振ってしまうだろう。かくいう俺も去年はスタートダッシュを失敗して苦渋を舐めさせられた一人だ。
絶対に今年こそはスタートダッシュを決めて、細々ながら充実した高校生活を決める。
決める、、、。
決めるはずだった。
「あ!しんじだ~。おはよー。」
「あぁ、かおる。おはよ。」
「今日あついよね~、早く夏服に変わんないかなぁ。」
「おまえ、まだ新学期になったばかりだぞ、、。カーディガン脱げよ。」
「ふふふ。これは、私のアイデンティティだから脱げないのだ!」
「んだよ、それ。」
「ゲームのキャラとかずっと同じ服きてるでしょ?あーゆーのって個性が出ててかっこいいなぁって思ってたの!」
「個性って、、。皆同じ制服だろ。」
「む~!だからこそ差別化のしがいがあるのー!わかってないなしんじは。
そういえばさ、最近駅前にできたカフェがおしゃれでね、プリン食べに行きたいんだけど
今日大丈夫?」
「あぁ、いくか。」
そう、こいつさえいなければ、、。
紹介しよう。中田かおる、今年で花のセブンティーンを迎える俺の幼馴染だ。
茶髪でふわふわのセミロングヘア、パッチリとした目元に白い肌。明るいながらもどこかおっとりした性格。
おまけに成績まで優秀とくるから天は一体彼女に何物与えるつもりか、わからん。
しかし、かおるはこの有り余るスペックを以てなお俺と同じく腫物扱いを受けているのだ。
いや十中八九俺はこいつに巻き込まれているだけなのだが。
「そういえばしんじ見てみて。昨日出かけてきたんだけどさ。」
「あぁ。」
「じゃーん!新しいの買ったの~!縞パンなんだ、えへへ、どう?かわいくない!」
「ぶーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」ゴホッゴホッ
そういってスカートをたくし上げる、サイコパス。
ご覧の通り、かおるは奇行が多くて周りから不思議ちゃん扱いされている。
しかも、俺まで同類と思われているときたもんだから、誰も近くによらない。
つまり、ボッチ一号の完成。
俺の高校生活は悲惨なものであった。
----------------------------
「ねぇ、聞いた?しんじくん、またかおるくんにパンツ晒させてたらしいよ~。」
「聞いた、聞いた。最低だよねー。でもかおるくんも満更じゃないらしいよね、きゃーラブラブ。」
「ねー!関わりたくないけど、見る分にはおもしろいよね。あの二人~。」
ぐっ、最近は皆も気にしなくなったと思っていたが、やはり俺らは格好の的らしい。
だいたい俺はパンツを晒させてなどいないし、ラブラブもしていない。
だが、去年からこいつ(かおる)があることないこと周りに吹聴したせいで話が変な方向にねじ曲がったのである。
「きゃ、しんじ!僕たちラブラブだって!照れちゃうね。」
「お・か・げ・さ・ま・で・な!」
「あ、しんじまってよー。」
「なあ、かおる。おまえなんで俺にかまってくるんだ?中学までは普通に友達だっただろ?」
時刻は正午過ぎ、人気の少ない別棟の階段でかおると飯を食っていた。
ちなみに俺は購買のパンだが、かおるは弁当。本人曰く昨日の残りを詰めているだけらしいがこいつの女子力は計り知れない。
「んん、急になんだし、かしこまっちゃって、、。」
「だって、おまえ。頭良いし、女子力高いし、顔も、、、結構整ってるというか可愛いというか、、」
「え!僕可愛い?ほんと!嬉しい~」
「ちょ、こぼすから引っ付くな!
ともかく!おまえ普通に過ごしてたら絶対人気者になってたのに、、、そのなんで俺にかまうんだ?」
「んー?たしかに人気者になってたかもしれないけど、、それって意味ある?」
「はぁ?それってどういう、、」
「有象無象には興味ないってこと!男に言い寄られるのも結構めんどいんだよ?
次、移動教室でしょ?先行くねー。」
「あ、おい、、、、」
「男に言い寄られるって、お前も男だろが。」
ーーーーーーーーーーーーーー
俺とかおるは家が向かいあっていることもあり、幼少のころからよく遊んでいた。
かおるは昔から女性の服に興味を持っていたし、おままごとをしたがったりと少し変わっていた。
だからなのか周りは彼のことを気持ち悪いと言っていたし、クラスからも浮いていた。
でも俺は気にならなかった、純粋にかおると遊ぶのは楽しかったのだ。
進学先の中学では、かおるは普通に男物の制服を着用していた。
俺は直接聞いたわけではないが、酷く彼が窮屈そうにしているのを感じていた。
でもいつからだったか、、、
具体的な時期は思い出せないが
彼女は女物の制服を着るようになり、よく笑うようになったっけ。
.....................じ......................
「........じ、しんじ!」
「えっ、ああ、かおる、すまん。少し寝てた。
てか、お前別のクラスだろ、どうしたんだ?」
「なんでって、もう放課後だよ?
しんじ呼びに来たの。
ほら、帰ろ?」
--------------------
「で、駅前にできたかふぇがね!自家製のプリン作ってるんだって~。すごくない?
「.....................」
「しんじ?ねぇ、しんじってば。」
「え?悪い。考え事してた。」
「それさっきも言ってたよ?大丈夫?もしかして具合悪いの?」
「いや、大丈夫。それより何の話だっけ?」
「あ、そうそう。今朝言ってたカフェの話!楽しみだよね~」
「.................悪い。そういえば俺今日バイトだった!ほんとすまん。今度の休日とかに変更じゃだめか?」
「そっか、、うん!全然大丈夫だよ!じゃ、今度の休日ね!ばいばい」
------------------
「ありがとうございました~。」
「はぁ、かおるには悪いことしちまったな、、」
「おやしんじくん、かおるちゃんとなにかあったのかい?」
「あ、店長、、、。」
俺のバイト先は住宅街のコンビニということもあって、店長はかおるや俺の家族等と面識ある。
バイト先が家から近いと、知り合いが来るので嫌だったのだが通勤の手間を考えると、やはり家の近くにしざるをえなかったのだ。
「何があったか知らないけどね、さっきからかおるちゃん外で待ってたよ?もう、そろそろ上がる時間だしね
今日はもうあがりなさい。いいね?」
「ほんとですか?!ありがとうございます。」
貢物にかおるの好きな牛乳プリンも買ったし、これであいつも少しは機嫌直してくれるだろ。
「おーい、かおるー、、って。あいつ」
「ねぇ、君可愛いね?こんなとこで何してんの?」
「えと、友達待ってるんです。」
「え、こんな時間に?危ないよー。寒いしうちの車で温まらない?」
「あの、結構です。」
ナンパされてるじゃん。
ほっとくとすぐこれだからなぁ、、、。
「すみません。うちの連れに何か用ですか?」
「あ!しんじ!!!」
「あ?って、ちっ、友達って男かよ。」
「ったく、男いるならいえっての。おい、行くぞ。」
「おう」
そ男たちは車に乗って、どこかに消えた。
「...............じ.......じんじ....じんじーーーー!!
僕すっごく怖かったよ」
「おい引っ付くなって!ほらふけって、おまえ鼻水で顔ぐちゃぐちゃになってるぞ。」
「ゔん!!!ありがと!」
「おう、取りあえず帰りながら話すぞ。」
--------------------
「それで、なんでコンビニの前で待ってたんだ?寒かっただろ。」
「だって、今日しんじ顔色悪かったし、、。ちょっと心配で。」
「お前は俺の母親かっつの。俺に助けられてたら意味ねーだろ、、、、ったく。」
「ほら!」
「ん?プリン」
「今日ぷりん食いに行けなかっただろ?代わりにコンビニでお前が好きなやつ買っておいた。」
「え、ほんと?嬉しい!、、、、えと、ありがとね」
「お、おう。俺こそすまんかったな、約束破って。」
「ううん。全然大丈夫だよ。ほらいこ!」
ねぇ、しんじ。しんじは僕が困ってたらいつも助けてくれるよね。
今日だけじゃない、小さい時からずっと、
自分が周りと違くて浮いていた僕に、しんじだけは近くにいてくれたよね
気持ち悪いって言われても、そんなやつらの言うこと気にするなって励ましてくれたよね
僕しんじが、気持ち悪いって言ってくるやつ陰でボコボコにしてたの気づいてたんだよ?
初めは女子の制服を着てくのも怖かったけど、しんじは似合うって褒めてくれたよね?
背中押してくれたよね?本当に嬉しかったんだよ?
しんじにとっては、なんでもないことだったかもしれないけど、
僕はしんじのおかげで前に進めたんだ、、だからね、だから僕ずっとそんなしんじが........
............好きなんだよ。
あとね、しんじ。一つ謝らないといけないことがあるんだ。
君は太陽のように眩しい存在だから、他にも絶対に君が好きな人がでてくる。
でも、そんなの嫌だからさ、僕と一緒に孤立してもらってるんだ。
絶対に逃がさないからね、、、しんじ。
いつか、この気持ちも伝えるから。
----------------------
「あ!しんじだ~。おはよー。」
「あぁ、かおる。今日も朝から元気だなー。」
「ふふふ。でしょ?放課後うちでマオリカートDXしてこーよ。」
「いいな、それ。へーゲンダッツかけようぜ。」
「えー!僕弱いんだけど」
春それは出会いの季節
この思いが君に届きますように。