Vol.12 料理対決・蕪木 恋編
大きく場をかき乱された料理対決前半戦。
続く挑戦者は恋だ。
「さあ、恋ちゃん!今回は何を作ってくれるのかな?」
「今日はみんな大好き肉じゃがを作っちゃうよー!」
「おー!家庭の味肉じゃがを恋ちゃんは美味しく作る事が出来るのかー!?早速料理スタートだー!!」
こうして始まった料理対決後半戦。
恋が選んだのは肉じゃが。
この料理は不味く作ろうとするとわざとらしくなり、美味しく作るにはしっかりとレシピを頭に入れていないと難しい料理である。
料理の手際を見てみると、不器用ながら練習してきた跡が垣間見える。
そう、蕪木 恋は危機感を覚えているのだ。
長くぬるま湯に浸かっていると、それがあたかも暖かいお湯に浸かっている様に感じる。
しかし、外から手を入れればすっかり冷めきったただの水。
この事に気付き始めたのだった。
華麗な包丁捌き……とはいかないが、レシピに忠実に進んでいっている。
そして、肉じゃがの要となるじゃが芋の皮を剥こうとしたその時、恋の手元は狂った。
「痛っ……」
「おっと恋ちゃん大丈夫かー!」
プレッシャーからなのか、包丁で指を切ってしまった。
この時、何故だかコメント欄は少し荒れた。
「おいおい、わざとかよー」
「ぶりっ子の次はドジっ子かよ」
「恋ちゃん心配だよー!!」
「血とか放送事故じゃねwww」
荒れたコメント欄とは裏腹に飛び出した者がいた。
「大丈夫か!血が出ているぞ、早くこれを巻くんだ」
紅莉栖がいの一番に恋の元へと駆け寄り、ハンカチを渡そうとする。
「邪魔しないで!これは私とあなたとの勝負なの!だからあなたの助けなんかいらないわ!!」
しかし、恋はこれを突っぱねた。
落ち込む様子を見せるかと思った紅莉栖だが、爽やかに笑う。
「そうか……勝負という事を一瞬忘れてしまっていた、
すまない」
紅莉栖が戻ろうとした時、小さな声が聞こえた。
「…………ありがと」
「……ん?何か言ったか?」
「早く戻りなさいよ!私の番なんだからあなたは映らないで!!」
こうして再開された料理対決。
時間は刻一刻と迫ってくる。
指を切った事で大幅なタイムロスが生まれてしまった恋だが、味付けまでこぎ着けた。
「ちゃんとレシピは頭に入ってる。落ち着けば大丈夫」
そう言い聞かせる恋。
「司会者さんはどういう味付けが好きですかー?」
「んー、そうだねー……甘めが好きかなー!」
「じゃあ特別に甘めに作っちゃおう!!」
「おーっと、これは全国の恋ちゃんファンの皆様申し訳ありません!」
アイドルとして最低限可愛く見せるために、時間がなくても徹底する。
それが蕪木 恋だ。
いよいよ残り時間も1分を切った段階で、盛り付けに入る。
じゃが芋は程よく色が付きよく煮えているのがわかる。
「終了〜!!さあ早速食べてみましょうー!!」
時間いっぱいとは言え、かなり完璧に近づけた恋は司会者の顔を自信ありげに覗く。
一口頬張り、満面の笑みで……と思ったが、恋が想像していた司会者の顔ではなかった。
「うっ!しょっぱい!!」
「え!?嘘よ!!そんなはず……」
慌てて肉じゃがを味見する。
しかし、口内を駆け巡るのは肉じゃがの”あの”程よい甘みではなく、塩辛さだけだった。
ふと、恋はあの時のことを思い出す。
甘めが好きと言った時自分は何を入れたのだろうかと、あれは本当に砂糖だったのかと。
そう、大量に入れられたのは砂糖ではなく塩だったのだ。
完璧に練習してきたつもりだったが、ひとつの間違いで大きな失敗となってしまった恋は下を向いたまま顔を上げない。
「恋ちゃん……?」
「……わ、私……頑張って練習したのに……」
「うんうん、視聴者のみんなも恋ちゃんを慰めてあげてねー!!」
恋は目に涙を浮かべては必死に泣くのを堪えている。
泣いたら負けである事が分かっているからだ。
この普段は見せない恋の姿に、コメント欄は少し変わりつつあった。
「恋ちゃんマジ泣き?」
「練習とかするタイプなら話は変わるわ」
「恋ちゃん泣かないでー!!」
「なんか応援したくなってきた」
これを遠くから見ていた紅莉栖は気合が入った。
「餅川、あの子が可哀想か?」
「んー、まあせっかく頑張ったのに可哀想だよね」
「じゃあ……わざと負けるか?」
「それはあの子のためになるかな?」
「ふん、わかっている……行ってくるぞ」
司会者に呼ばれ、紅莉栖は向かう。
「さあ、いよいよ紅莉栖ちゃんの登場だー!」
料理の腕は未知数だが、コメント欄は大盛り上がりだ。
「やっぱり紅莉栖ちゃん可愛いなー」
「料理出来ても出来なくても良い!」
「俺のために作ってくれー!!」
「眩しくて目がああああ!!!」
紅莉栖への期待が最高潮に高まり、料理対決は最終局面へと向かう……