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66 人獣都市

 翔一はいつもの子熊姿で歩いていた。

 とても美しい場所で、色とりどりの建物が並ぶ。

 行きかう人々は背が高く美しく高貴である。

 ハイエルフの村だ。

「ここはハイエルフさんの『奇跡の里』」

 翔一はそう口に出したが、ハイエルフ達はあまり気にも留めず通り過ぎる。

 やがて、見たことのある宮殿に入った。それは翔一が知っている廃墟ではなく、とても美々しい清浄な宮殿だった。

 複雑なガラス窓に日光が幾度も反射して建物全体を美しく輝かせる。

 宮廷に侍る人々も美々しく優雅で気品にあふれていた。

 翔一は場違いにも感じたが、彼ら彼女らの優し気な目を見ると穏やかな気分になる。

 人々は視線でどこかにいざなうようだ。翔一はなんとなくそちらに向かった。

 そこは清浄な中庭である。

 特別美しく高貴な女性がベンチに座っていた。隣には同じくとても美しい少女が座っている。

 翔一はドクンと心臓が跳ねた。

 高貴な女性は翔一を見ると手招きする。王冠とブローチ、見覚えがあった。

(ヘルメール女王クマ)

「勇者様。あなたは私たち親子の恩人です」

 ヘルメール女王の横にいる少女はダナが成長した姿だったのだ。背もかなり高くなったが、女王よりは小さいようだ。

 彼女は翔一の存在に気が付かない。何か書き物をしている。

「ダナちゃんが幸せになってうれしいクマ」

「フフ、あなたは何の見返りも求めないのね、偉大なことを成し遂げたのに」

「……」

 翔一の心に寂寥が走る。

 欲しいものは何かあるのだが、それは物ではなかった。

 ひょいっと女王は翔一を膝に抱く。

 とても良い匂いと、美しい顔が目の前に。

 翔一はやわらかい胸に抱かれる。

「あなたの欲しいもの……このまま何のお返しもできないなんて、私には我慢できない」

「気にしなくてもいいと思いますクマ」

「もし、気が向いたら、この里に来て。あなたの時代ではみすぼらしい廃墟だけど……贈り物を残しておくわ」

「ありがとうございますクマ」

 彼女は翔一の額に軽く口づけをする。

「え、クマちゃんがいるの?」

 ダナが突然キョロキョロする。

 翔一は何か話しかけようとしたが、スッとすべてが闇に包まれた。


 気が付くといつもの海岸にいる。

 翔一には確信があった。

「あら、もう迷わないのね」

「この道を行けば、いつか、僕たちは自分の世界に帰ることができるよね」

「そう、不可能ではないわ。精霊界は無限の世界に繋がっている。あなたの実力がもう少し高まればできると思うわ」

「ありがとう、頑張るよ」

 翔一はアリアに手を振って、白い道を行く。

 アリアの表情はなぜか悲しげだった。

「レベル十一です」

 どこかで声が聞こえる。





 エラリアに帰還してから一カ月が経った。

 エラリアは吸血鬼王とホブゴブリンの攻撃からは解放されたが、依然として、人狼人獣集団に襲われ続け、南のレイド王国からも虎視眈々と狙われる状況だった。

 翔一は『ジルバール』を使って、大規模な儀式を行い、魔術的監視網を作ることにした。

 警戒精霊という人に敵意ある存在や魔物の接近を知らせる精霊。

 それを大型の知性精霊に統括させて、エラリアからゲール地方全体をカバーする警戒精霊による警報システムを作った。

 ただし、これはエラリアの支配域だけに効果のあるものなので、敵の動きを完全に把握することはできない。

 敵の支配域に入ると、様々な魔術防御が精霊を消滅させるようだった。

 魔聖剣『ジルバール』の魔力は無限であり、大きな石の柱に精霊たちを受祚する。

 それを使うのは、精霊たちと契約した人間だけにした。

「これでこの国に敵が侵入したらわかるクマ」

「うむ、未来世界でも使えそうな魔術だな。しかし、翔一。この国の王様が今はコンラッドだからいいけど、もっと凶悪な、そうだな、レイド王みたいな奴になったら、今度は、国に害意向ける方が正義ってこともある。今の時代だけ使えるものにしておけ。たぶん、強力過ぎる力だ」

 フロールの評価。

「……そうするクマ。エパットがこの国を諦めるまでとするクマ」

 翔一は時限をつけた。

 三年間人獣を見なかったら制御の知性精霊が消えることとした。

「俺たちは人助けでやってるんだ。未来の悪人に利用されることもない」

「……」

 あまり、未来の為政者が悪人になると思いたくない翔一だったが、フロールの考えの方が正しいと思った。

 人間の本性は変わらない。

 

 この精霊警戒装置の効果は絶大で、エパットの部下が侵入するとすぐに居場所がわかった。

 翔一はサンダーアッシュに乗って駆けつけ、何匹もの人獣を倒している。

 フロールは脚の修理にてこずっており、彼は付いてこない。

 警戒装置を人々は『隼の目』と呼んだが、これが確立されてから、翔一はコンラッド配下の騎兵部隊と共に人獣狩りを行った。

 その結果、騎兵たちは翔一の恐ろしいまでの強さに信仰に近い崇拝を行うようになっている。

 人獣だけではなく、上級アンデッド、トロール、巨人、小竜、巨大魔獣……凡そ人間では太刀打ちできない魔物であったとしても、翔一が『ジルバール』を一閃させるだけで、消滅にまで至った。

 急速に人々は安全を手に入れている。

 エラリアは目に見えて人口が増えた。去っていた難民が帰って来たのだ。

 交易も再開され、商品や人の行き来が増えている。

 レイド王国も国境に兵団を配置するだけで、攻めてこない。『聖魔旋風』ドゥーベを恐れて動かないという噂だった。


 そんなある日。

 翔一とフロールは緊急の呼び出しを受ける。

 フロールはようやく歩けるまで治ったが、関節を無理やり固定してスムーズには歩けない。

「歩けるだけましだ」

 彼のいい分だが、翔一は何もできない自分が苦しかった。

 宮殿に入ると、控室に案内される。

「おお、これはようこそ。『聖魔旋風』ドゥーベ殿、フロール殿」

 エラリアの重臣が迎える。

 背後にはコンラッドが待っていた。

 気のせいか目を合わせようとしない。

「いいたいことがあるなら、いえばいい」

 フロールが促す。

「すまんな、頼みがある。危険な任務だ」

「皆さんを助けるためなら、助力は惜しまないクマ」

「ありがとう……実は、北東に北方諸侯というのがいるのは知っていると思う」

「ああ、あんたの姉が嫁いでいるから助けてくれてるって話だろ」

「そうだ、北部諸侯の筆頭アルノエ公爵、俺の義理の兄だ。最近、エラリアの治安が回復したと連絡を送ったら、姉が一時帰国したいと申し出たのだ。もちろん、手ぶらじゃない。戦闘部隊を引き連れて援軍に来てくれるという話だったんだが……」

「何があったんだ」

「公爵と姉には娘と息子がいる。息子はさすがに跡取りだからということで来てはいないが、夫妻は娘を連れて俺の国に向かった。しかし、途中に中立都市国家のレグルスという都市があるんだが、そこに入った瞬間、部隊は攻撃を受けほぼ壊滅。夫妻は必死に戦って逃げたが、娘は馬車に取り残された……」

「つまり、都市レグルスの領主が裏切って娘を人質にしたんだな」

「少し違う、襲った連中は全員人獣だった。率いてたのはシリウスだ。レグルスはエパットの支配下にあるのだ。アルナーの神託では『人のいない都市、破滅の種』だという」

「は? 人がいないのなら都市全部が人獣だとでもいうのか」

「わからないが、可能性はある。レグルスと取引があった連中は連絡が取れないと焦っている。都市は封鎖されて入れない、状況はわからないが、この手紙を見てくれ」

 フロールは手紙を広げる。

 そこには、公爵はエパットから脅迫を受けていること、娘の命と引き換えにエラリアとの手を切れと迫られたことが記されている。

 公爵はエラリアとの関係を一時中断すると内示したらしい。

「これは俺の密偵からの報告だ。エラリアの外交官も今は苦しい状況だといっている……公爵の援助がなくなれば……」

「つまり、娘を助けに行けというのだな」

「すまない……」

「コンラッドさん。僕がこの女の子を助けるクマ」

 翔一がコンラッドの手を取る。

 コンラッドは硬くてがっしりした手で握り返す。

「ありがとう翔一。頼んでばかりだな……」

「その娘の名前、特徴を教えてくれ」

「アンナ。よくある名前だな。特徴は六歳、栗色の髪、そばかす、青い目。かなり可愛いそうだ。アルノエ公爵は溺愛している……」

「匂いがわかると見つけやすいクマ」

「……おお、姉は出産のときこの国に帰っていた。今は誰も彼女の部屋を使っていないからもしかしたら匂いがあるかも」

「小さい女の子とお母さんなら匂いが混ざっていると思うクマ。何か身に着けていたものがあれば……」

 側近が急いで部屋に向かい、衣類を持ってくる。

 翔一はショールのようなものを貰うと、匂いを嗅ぐ。

「大体わかったクマ、これは借りていくけど……」

「持って行ってくれ」

「未来の警察にも使いたい人材だな。クマ材か」

 フロールが感心する。

「僕が一人で行くクマ。騎兵隊は隠密とか無理だと思うクマ」

「すまんが頼む」

 コンラッドが恥も外聞もなく頭を下げた。

「俺も行くぜ、翔一」

「でも、フロールさん……」

「俺が時間かけて足を修理したのは冒険に出るためだぜ。ごろごろしているのは俺の性に合わない。お前が断ってもついていく」

 翔一は断るべきだと思ったが、フロールが付いて来ることに安心感があったのは事実だった。

「じゃあ、一緒に行くクマ!」

「すぐに出発といいたいところだが……数時間待ってくれ、アプリを入れる」

「アプリ?」

 コンラッドが怪訝な顔。

「ああ、こちらの話だ気にするな。じゃあな王よ。達者でな」

「ああ?」

 フロールはそういうと自室に向かった。


「俺の呪力がどこまで対抗できるか……」

 彼らを見送ってから、コンラッドはポケットから干からびた不気味な節くれだった指を取り出す。

 以前拾ったエパットの指だった。

「『聖熊四姉妹』を呼んでくれ」

 家臣はうなずくと彼女たちを呼びに行く。

「人間の力でどれだけ抑え込めるか。相手は半神」

 四姉妹がやってくる。

 四人はひざまずき、筆頭のアガタが発言する。

「王よ、どのようなご用件で?」

「四姉妹殿は俺の家臣ではないから、これはお願いだ。翔一とフロールがエパットのすぐ目の前で作戦をする。奴に邪魔をされたくない」

「その指を使って、呪詛を行うというのですな」

 うなずくコンラッド。

「対象は半神だ。呪詛を行えばどんな返しがあるかわからない、しかし……」

「我ら四姉妹はいつでもご主人様のために命を捧げる覚悟があります」

「すまぬ、ありがとう」

 コンラッドは王になってから人に感謝するばかりだなと思い、内心苦笑する。

 冒険者だった時は人に頭を下げるなんてほとんどなかったのだ。

「では、術の内容だが……」


 翔一とフロールは、サンダーアッシュとダークファングにまたがり、荒野を駆けた。

 レグルスはフルート川という大きな河川の南岸にあり、この荒野の中にあっても河川を使った貿易でどうにか生きながらえている。

 荒野化する前は周辺にいくつも都市があったが、食糧の自給もできず消滅し、現在はレグルスだけがぽつんと存在している状況だった。

「石ころだらけ、草も生えない。これでは復興の道は遠いな」

 フロールが狼を走らせながらつぶやく。

「エパットを退治したら、何とかしたいクマ」

「子熊村みたいにやるのか」

 翔一はその名前を聞くと心が痛んだ。

「うん、そうするつもりクマ。僕は前よりはるかに強い精霊が呼べる」

「そうしてやってくれ。農民共も大喜びだろ」

 高速の狼で移動すれば、一日で都市が見える場所に到着した。

「大した都市じゃないな、五千人くらいかな、人口は」

 スコープで確認する。

 最近はスコープの動きも悪い。動かすたびにカリカリと異音がする。

 翔一はあえて聞こえないふりをした、

「これでもこの辺りではかなり大きいクマ」

「ああ、そうだな。本当に悲惨な世界だ」

「身を隠す場所はないクマ、川沿いが岩ゴロゴロだから、こっそりそこから……」

「おい、あの大きな岩が見えるか」

 フロールが指さす場所に高さが十メートルはあろうかという巨岩があった。

 平原のど真ん中にある。

「はい」

「あれを憶えておけ、それとこれを渡す」

 フロールはそういうと予備のタッチモニターを渡す。

「……どうしたんですクマ?」

「それがあったほうが密に連絡が取れる。街は小さいといっても人を探すとなると広いからな、下手すると手分けしてということになるだろ」

「そうですね、わかりましたクマ」

「俺はあそこに貴重品を埋めておく。持って行って敵に奪われるのもばからしいからな」

 巨岩を指さすフロール。

「じゃあ僕もそうしますクマ」

「おまえも倒されると貴重品が散乱するだろ。それが賢明だ」

 二人は都市の手前二キロメートル付近にある岩の前に行くと、そこに貴重品を埋めた。

 翔一はサンダーアッシュを降り、巨岩の付近に放つ。

「この辺で待ってるクマだよ」

 そこから川岸に向かい、隠密精霊を纏って静かに進む。

 二人はそれほど目立たない。

 隠密精霊の力も強大で余程目立つことをしない限り、昼間でも見つからない自信があった。

「夜に行っても、人獣には意味がない。そうだろ?」

「ええ、たぶん同じと思いますクマ」

 街壁に近づく。

 壁の上には見張りがうろうろしていた。

 微かに異様な匂いがする。

「フロールさん、見張りも全員人獣クマ」

「そうか、やはり……」

 翔一は匂いを消す精霊も纏った。人獣相手にはこれが効く。

「匂いを消しました」

「それなら風上から行けば、奴ら油断しきっているな」

 フロールの読みは当たった。彼らは風下を目で見て、風上は匂いで判断するようだった。

 風上をこっそり行けば、彼らはかなり隙があった。

 翔一は大型のエアーエレメンタルを召喚して、フロールとダークファングを乗せ自分も乗る。

「これを着てほしいクマ」

 翔一は何かの毛皮を出した。

「なんだこれ」

「エパットの宿精が着ていた皮です。これをなら匂いを嗅がれても疑われないと思うクマ」

「匂い消しの精霊が消えたら確かに重要だ」

 一行は音もなくエレメンタルを飛ばして壁に乗る。

 壁から見下ろすと、街の住人は酔っぱらった人間のようにふらふらして、翔一たちを気にする様子もなかった。

 急いで壁を降り、路地裏に隠れる。

「これを見ろ」

 モニターを見る翔一。

 レグルスの街の簡単な地図だった。

「どうやって……」

「簡単に測量したんだ。映像からな。たぶん、この一番大きな館に娘はいるんじゃないか」

 街の中央北寄り、港と繋がる部分に大きな建物がある。

「他にたいした建物はないですから、そうかもしれませんクマ」

「ただし、他の建物が貧相な分、警備の隙はつけない。戦うなら確証が要る。実はその辺のあばら家に居ましたなんてことになったら目も当てられん」

「このショールと因果のつながりで探すクマ」

「そんなことできるのか」

「精霊界からダーク翔一君の力で、でも、たぶんそれをすると、エパットにはばれると思うクマ」

「匂いはどうした。その方が安全だろう」

「もしかしたらですが。この街に大勢の人獣がいるとしたら、人間の、しかも、幼い女の子の匂いがしたら、食欲に狂った怪物が制御不可能になると思いますクマ、だから……」

 ダナを何としてでも食べたがった高橋のことを思い出す。 

「だから、匂いを消している可能性があるということか。確かに、大事な人質でも理性なく喰いそうなやつらだ……ということは、この街には、もう、まともな人間はいない。全て喰いつくされ……」

 フロールは暗い推測をする。

「魔術で因果をたどります」

「この街は丸い。街の中央でやれば最短距離で行ける。そこからは激戦になるかもしれないが。やる価値はあるな、確実に居場所がわかるなら」


 翔一はうなずくと、二人でこっそり街の中央に向かう。

 十字路と広場に近い位置になった。

 広場は市場であり、人々が大勢ふらふら立っている。

 翔一はぎょっとする、街の人々は男も女も老人も赤ん坊まで、全て、人獣だった。

 それも、真性の人獣。

「人肉が食いたい」「人肉食べたいよー」「食わせろ、人肉を食わせろ!」

 住民のつぶやきが嫌でも耳に入ってくる。

「フロールさん、この街の人は全員真性の人獣になったと思います……劣化はいないクマ」

「エパットの奴、こんなに人獣を作ったのか。手当たり次第だな」

「……」

「……これだけの数がエラリアに向かえば滅亡の危機だ。エラリアだけじゃないぞ。全世界だ」

 精霊界から、

「術を使うぞ、気合入れろ!」

 ダーク翔一の声。

 妖術が行われて、翔一には因果に引き込まれる感覚があった。

 繋がりは確実に領主の館である。

 三階建ての建物の最上階。

「わかりました。やはり、あの建物です、三階クマ」

「見つかったかもしれないが、なるべく可能な限り接近しよう……」

 二人は精霊を纏って、そろそろと館に近づく。

 しかし、

「みーつけた!」

 ぎょろ目の蝙蝠人獣が真上にいた。

 一斉に人獣たちが牙をむいて翔一を睨む。

(フロールさんには気が付いていない? エパットの獣皮が……)

 翔一とフロールは目配せした。フロールもそれに気が付いたのだ。

 翔一は大型化すると『ジルバール』を出す。

「ケケ、なんだその剣は!」

 蝙蝠はそれ以上何もいえなかった。

 魔聖剣は飛び出すと同時に蝙蝠を串刺しにしていた。

 ズボっと引き抜くと、蝙蝠は襤褸のように落ちる。

「化け物共! 僕が相手だ。『聖魔旋風』ドゥーベがお前たちを倒す!」

 翔一は大声で吼えた。

 人獣軍団は一斉に変身し、様々な動物のカリカチュアが現れる。

 フロールは一人、こっそり茂みに隠れると素早く館に向かった。

 すぐに見えなくなる。

 無数の怪物に囲まれる翔一、しかし、怪物たちは襲ってこない。

「フフフ、なんとも勇敢な小僧だ。一人でやってくるとはな。しかし、いかにお前の剣が強力でも一人では死ぬだろう」

 にやにやしながら、メガネの日本人、高橋ことシリウスがやってくる。

「高橋さん」

「俺の名を知るのはお前だけだ。どうだ、今更かもしれないが、エパット様と手を結ばないか。お前の実力なら俺より上の地位に行ける。それに、人間どもはお前が人獣と知ったらどういう反応をするか。絶対受け入れることはないぞ」

「僕は自分が助かるために戦っているわけじゃない。ただ、目の前の友達を助けたいだけだ」

「つまらん、つまらんぞ。お前には何も残らない。お前は勝ってもすべてを失う」

「僕は君たちみたいに人間を殺しても何も感じない者になりたくない」

 翔一はもうそれ以上会話したくなかった。

 彼とは考え方があまりに違う。

「仕方がない。所詮は小僧か。せめて俺が殺して喰らってやる」

 そういうと、シリウスは手を広げた。全ての指から剣のような爪が生える。

 そして、自在に指も伸びるようだ。

「この、剣槍爪で貴様をバラバラにしてやる、キヒヒ」

 怜悧な顔が獣のおぞましい顔になる。

 ばっといきなり両側から、人獣が襲い掛かってきた。

 翔一は正派剣術で華麗に斬り倒す。

 バラバラになる怪物たち。

 その血しぶきの影からシリウスがとびかかってきた。

「キエーーーーーーー!」

 普通なら、背後に跳んだだろう。

 しかし、翔一は侍の教え通り、十本の爪に向かって飛んだ。

剛刃素戔嗚ごうじんすさのお!」

 助走なしに翔一はいきなり秘奥義を繰り出す。

 一瞬、翔一の体は稲妻になり、次の瞬間、シリウスの背後にいた。

 シリウスはそれでも秘奥義を躱したのだ。

 左腕が混沌の炎を上げながら落ちる。

 ギロッと振り向くシリウス。

 翔一は体に刺さった一本の爪を抜いた。

 体を貫いていたが、即座に治り始める。

「死ね! 小僧!」

 右手五本の爪が迫ってくる。

 翔一は避けなかった。

月読三突つくよみさんとつ!」

 爪は三本が体を貫く、左腕がグラグラになったが、剣の柄を勢いのままシリウスの脇腹に刺した。

 虹色の光がシリウスを焼く。

「があ!」

 翔一は右手の爪を伸ばし、シリウスの眼窩に突っ込み、

 そして、引きちぎった。

「ギャー!!!」

 バリバリというおぞましい音。 

 全ての怪物たちが息をのむ。

 顔面を失って、一時的に正気を失うシリウス。

 ふらふらと立つシリウスの首を翔一は噛み千切る。

 首を抑えて脊椎を砕いた。

 ぶっと吐き出すと、シリウスは人間的な体になって、地に斃れ伏す。

「シリウスがやられたぞ、殺せ、熊の怪物を殺せ!」

 人獣たちはリーダーの死に、逆に興奮するようだった。

 翔一は剣を拾うと片手で振り回して人獣たちを斬り刻んでいく。

「左肩の爪を抜け! 治らないだろ!」

 ダーク翔一の声がするが、必死に集結する怪物たちの攻勢に、抜いている暇もなかった。

 飛び散る肉片、血の雨が降る。

 息をつく暇もない。

「路地に逃げろ!」

「しかし、フロールさんが」

「このままでは死ぬぞ!」

 翔一はあきらめて大ジャンプを行い、路地に逃げ込む。

(フロールさん……)

 心配な目を館の方角にむける。

 曇り空が見えた。





2020/9/13 サブタイトル変えました。

2020/11/7 2022/10/21 微修正

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