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65 嘘と友情

 翔一とフロールはエラリアに帰還した。

 正面から宮殿に入る。

 番兵たちは驚いてから、微かに笑顔になった。

「おお、これはお二方。王がお待ちですよ」

 敬礼で迎えてくれる。

 番兵の一人が急いで宮殿に向かったようだ。

 狼を預け、歩いて宮殿に入ると、王の侍従が小走りでやってくる。

「フロール殿、翔一殿、王は宮廷でお二人の報告を聞きたいと仰せです」

「宮廷だと一般人や外交官がいるだろ、世界のかなりヤバいことが公になってしまうぞ」

 フロールは腕を組む。

 そう聞くと、侍従はまた大慌てで、

「す、少しお待ちを」

 走っていく侍従。

「コンラッドはもう少し優秀な侍従雇った方がいいぞ」

「クマクマ」

 侍従は少し荒い息で帰ってくる。

「お二人の判断に任せると王は申しております。お二人はエラリアの家臣ではありませんから、お気になさらないように。話したいことは自由に話していいと」

「わかった。翔一と少しだけ打合せするから待ってくれ」

 二人は小さな控室に入る。

「フロールさん、僕は全てお任せしますクマ」

「……責任重大だな、『原初の野獣』関連の話はしないでおくぞ。あれはお前の正体がばれてしまう。『ジルバール』は強力な魔聖剣というものを神界から持ち帰った……こんなところかな」

 うなずく翔一。

「『死霊の都』でやった儀式は、人間に使えるように改造した、とでもとしておくか。あの儀式の真実を知る者は婆さんだけだ、問題ないだろう。ヴィックを倒した結果、ガラエルは無害になった。……多少、嘘も交じってるが、真実を暴露して不幸が増えるようなことは避けないといけない」

「……それでいいと思いますクマ」

「じゃあ、宮廷に入るぞ」

 小さな二人は連れ立って歩く。


 宮廷に入ると、あまり多くない重臣達と王座に座るコンラッドがいた。

 翔一たちの後ろには身分がそれほど高くないギャラリーが数十人いる。

 大国の宮廷を見た翔一からすると、エラリアの宮廷はみすぼらしいものだった。しかし、家に帰ったような安心感も少しある。

 もちろん、貧相な国家であっても、外交官は存在した。

 彼らは興味津々で異形の二人を眺めている。

 見知っている顔もいる。ガルディア王国のケヴィンとエルザ女伯領の家臣アントン。他は知らない。イスカニア帝国とアーロン王国の外交官もいるようだ。見た感じ彼らは本国で地位の高い人たちではない。

 ケヴィンは二人の異形を見て驚愕。彼はつい先日赴任したのだ。

 アントンは少し大人になった顔でにっこり微笑んだ。

「あれが、有名な英雄ですぞ」「あんな小さな熊やゴーレムが大勢の人狼を……」「可愛いクマさんじゃないか、あれが本当に強いのか?」

 異形の英雄を初めて見た人々はこそこそとうわさ話をする。

「翔一殿、フロール殿、よくぞ帰ってきた。しかし、長い旅だったな」

 コンラッドがにんまりとする。

「王よ、報告するぞ。吸血鬼王を討伐に向かった時から、ここに帰ってきた経緯だ」

 フロールが語る。

 吸血鬼王を退治したこと。そして、神界において完全に息の根を止めたことをまず報告する。

「吸血鬼王がこの世から消えた……これが本当なら偉業だ、王に報告せねば」

 ケヴィンがさらに驚いた顔。

 ガルディアは長年、吸血鬼王に苦しめられていたのだ。

「これは嘘の可能性が高いのでは?」「しかし、あの熊は先日の戦闘で大戦果を上げたと聞き及びます。それほどの腕前なら……」「そんな場所からどうやってここにきたのだ」「荒野からアンデッドが減ったと報告があります」

 人々は顔を見合わせて真偽を噂し合った。

「諸君、疑問はわかるが、まずは報告を聞こうではないか、続けてくれ」 

 コンラッドが促す。

 うなずくフロール。

「神界から帰還して直後、翔一は公認勇者ヴィック・カースに背中から刺され、生死の境をさまよいました」

「なんと、あの、腐った裏切り者め! ただ裏切るだけではなく、英雄を背中から刺すとは!」

 アーロンの大使が声を上げる。

 既に元公認勇者の悪評は知れ渡っていたようだ。

「どうやって助かったのだ」

 コンラッドが尋ねる。

「私達の、友の、涼子が命と引き換えに秘儀を施し……彼女は……死亡しましたが、翔一は助かりました」

 一瞬、フロールの背中が震える。

「……そうか、残念だ」

 翔一はフロールの背中をそっと撫でた。

「翔一を刺した公認勇者は聖剣『フェルシラ』とカルネスの『白き手』ガラエルを支配できる秘宝を奪いました」

「ガラエルを支配……そんなものどこで拾ったのだ」

 コンラッドは興味津々という顔になった。

(イスカニアで盗んだというと角が立つし、俺たちがガラエルを操ってたみたいに邪推されても面倒だ……)

 フロールはそう考え、

「神界に赴いたとき偶然拾ったのです、その時はそれがそんなものだとは全く分かりませんでした」

「……」

「ガラエルはヴィックに支配されていたのか……」

 重臣の誰かがつぶやく。

「それからどうしたのだ、帰ってこなかったな」

「俺たちはヴィックを追うためにエルザ様とオークのゴル・サナス大祈祷師に依頼し、神界から持ち帰った様々な魔力を統合して、魔聖剣『ジルバール』を人間が使えるようにしました」

「その剣は知っておりますぞ、つい先日の北死人荒野の合戦で『聖魔旋風』ドゥーベ殿が魔を叩き伏せた武器だと……」

 イスカニアの大使が顎髭を撫でる。

 彼らは魔術での通信が確立しているのだ。

「ドゥーベ?」

 誰かが怪訝な顔。

「あの子熊、翔一殿の異名ですよ。最近、知れ渡っているのです」

 誰かの声。

「その後は?」

 雑談を遮るため、コンラッドが促す。

「『青剣城』在住の手練れ冒険者『疾風剣』エトワール、格闘士ビアンカの協力を得て、カルネスに潜入。イスカニア帝国のエルネスト将軍の援助の元、魔女ガラエルと自称魔王ヴィック・カースを討ち滅ぼしました」

 人々はそれを聞いて安どのため息をつく。

「エルネスト将軍は我らが誇りです」

 イスカニアの大使が胸を張る。

「エトワールとビアンカは我が国の冒険者です。忘れないで頂きたい」

 アーロンの大使が対抗する。

「尚、エトワール殿はその時、聖剣『フェルシラ』の主となられました。新しい英雄の誕生です」

「エトワールの野郎が聖剣の主とはね。この俺が王になったことより珍事だ」

 コンラッドは満面の笑み。

 どうやら、王はエトワールと友人らしい。

「ハハハ、やはりアーロン王国は英雄の生まれる国。エトワールはアーロンの冒険者です!」

 アーロン大使さらに自国自慢。

 しかし、

「彼はシンシア生まれですぞ」

 イスカニアの大使が遮る。

 仲が悪い二国の大使はにらみ合う。

「ガラエルを倒したのか」

 コンラッドはやはりそれが気になっていた。

 彼女は有名な悪の首領なのだ。

「彼女は不滅の半神です。彼女は復活しましたが、支配の秘宝を善良な半神に預けましたので、ガラエルが今後悪事をすることはないでしょう」

「それはよかった。しかし、善良な半神ですか、名は?」

 誰かが問う。

 人々は不安なのだ。

「それは……名を明かせばその方に迷惑がかかります。俺の口からは申し上げられない。とにかく、カルネスは人類の敵ではなくなりました。魔物はガラエルの命令で去り、今は人間が主に住む普通の都市になりつつあります。各国が襲い掛かるなどということがないようにお願いしたい。これは俺と翔一の願いでもあります」

「外交官の皆さん、本国にカルネスのことをお伝えください。俺は友を信じる。エラリアもカルネス保護を希望します」

 コンラッドが外交官たちを見る。

「その半神の名を知りたいですな、コンラッド王」

 どこかの外交官が不満げにいう。

「彼らは私の家臣ではありません。友として私の危急に駆け付けてくれた英雄です。私からは無理強いも命令もできない。ご理解ください。そして、彼らに何か無理な要求をされるなら、私が敵になることも」

 コンラッドは言葉の最後に凄みを効かせる。

 高名な冒険者だったコンラッドの気迫に恐れを抱かない人間はいないだろう。

「良いではありませんか。世界は平和になり、悪は打ち滅ぼされたのです。……そうだ、二人の勇者にお願いがあるのですが、その、名剣『ジルバール』を我らに披露して頂けませんか。末代までの言伝えにできますからな」

 頭の禿げた重臣がそう告げて、場を収める。

 話題を変えようという助け舟なのかもしれない。

「ハゲのおっさん、ナイスフォローだな」

 フロールは小声で翔一につぶやく。

「人は毛根が消えるとともに人格が増すと聞きますクマ」

「聞いたことないぞ、ハゲ勢力のプロパガンダだろ、それ」

「その可能性はありますクマ」

 人々はその剣について騒然としていた。

「そうだな、俺も興味あるぞ、翔一殿披露してもらえないか」

 コンラッドが快活にいう。

「わかりました。でも、ちょっと危ない武器ですから、広い場所……外でお見せしますクマ」


 人々はぞろぞろと外に出る。

 今聞いた話があまりに突拍子がないと感じていたので口々に憶測を話し合う。

 しかし、同時に興味津々でもあった。

 宮殿の前の広場で、人々が見守る中、翔一は精霊界から『ジルバール』を出す。

 バチバチと音を立て、虚空から剣が出てきた。

 それだけで、人々はどよめく。

 魔聖剣『ジルバール』。漆黒の刀身、白い柄と虹色に光る柄頭の宝石。

 宙に浮き、聖と混沌の魔力を発する。

 晴天の日差しの中、輝く剣。『混沌』のマナを聖剣で封じたその神器のような異常な力は、人々に神話の世界の畏敬を抱かせた。

「な、なんという、恐ろしい、凄い力だ」

「あれは人間が持てるものではない。神が使う武器だ……」

「俺たちは奇跡を見ている……」

 人々は唖然とし、ひざまずくものが続出する。

 祈りをささげる者。神に助けを乞うものまでいた。

「おい、何か良いことできないか。マジでビビッてる奴が多すぎる」

 フロールは人々の反応を見て不安になった。

 小声で翔一を促す。

「うーん、じゃあ、豊穣の精霊を呼んで、そこの庭木を大きくするクマ」

 エラリア宮殿の中庭には、小さな木が植えてある。

 翔一は魔聖剣の魔力で豊穣の精霊を呼ぶ。 

 特大の精霊が訪れ、若木に取りつくと、みるみる巨大化していく。

「剣の魔力で精霊を呼んで、この木に生命力を与えているクマ。剣の力は良いことにも使えるクマです」

「な、なんということだ」

 誰かのおののく声。

 木はメキメキと大きくなり、生け垣を壊して花を咲かせる。

 おいしそうな実まで付けた。

 リンゴの木だったようだ。

「すごい、神の力だ!」「偉大な剣、神聖なる剣だ!」

 翔一は木の実をもぎ取って口に入れる。

 少し酸っぱいが、甘くて旨い。

 人々も欲しがったので、使用人が実を採取して一人に一つ渡され、彼らは実を頬張った。

「甘い! これはおいしいですぞ」「単なるリンゴなのに」「我らは神の実を食した!」

 人々の反応は恐怖から崇拝、喜びに変わっていく。

 翔一は安どのため息をついた。

「もういいだろう、コンラッド王」

 フロールは人々の反応を見て進言する

「あ、ああ、そうだな。もういいしまってくれ」

 コンラッドも唖然としてみていたが、慌てて告げる。

 翔一は柄を掴むと、精霊界ポケットに入れた。


 人々は夢から覚めたような顔になり、ふらふらと立ち上がる。

 そして、口々に今見たもののことを噂した。

「今日の宮廷は終わりだ。重臣はこれから会議があるから会議室に集まってくれ。外交官の方々もお越し頂き感謝申し上げる」

 外交官たちは王の前に集まって、お辞儀をして去る。

 ガルディアの大使ケヴィンだけは去らずに、二人の元にやってきた。

「まさか、あの、異形の怪物として捕らえた二人が……大金を盗んで逃げた君たちがこんな大英雄だったなんて……処刑しなくてよかったよ」

「ケヴィンさん、あの時はごめんなさいクマ。でも、理由も聞かず処刑するといわれて、僕達もちょっと怒ってしまったクマ」

「僕はあの時かなり酷い目にあったからね……あれをもみ消すのは大変だったんだよ。よかったら、僕にだけガラエルを支配しているその大物の名前教えてくれないか。僕に恩もあるだろ、フヒヒ」

 いやらしい顔をするケヴィン。

「ダブル不倫」

 フロールが周りに聞こえそうな音量で一言いう。

「う、はわわ。何をいってるんだ。君は! と、とにかく、もう、君たちの罪はなくなったから。王も気にするなと。これあげるから、そのことは黙っていてくれたまえ」

 ケヴィンはそういうと、とっさに何かを翔一の手に押し込む。

 そして、キョロキョロしてから慌てて宮殿を後にした。

「何、貰ったんだ翔一」

「小さな袋。中は……飴玉クマ。甘いクマー」

 翔一は口に放り込んで舐める。

 甘味が口いっぱいに広がった。

「あんまり食べると虫歯になるぞ」

「変身するごとにそういうのは新陳代謝されて治るクマ」

「はあ? 恐ろしく便利な体だな」

「あのスケベ男はこれで許してあげるクマ」

「飴玉で買収されるとはちょっと安すぎるぞ」

「翔一、フロール、あのガルディア大使と知り合いなのか」

 コンラッドがやってくる、最初に出会った時と同じにやにや顔。

「ああ、あいつとは因縁があるんだ」

「見た感じ、何か弱み握っているのか、是非教えてくれ」

「うーん、今、飴玉貰ったクマだから、ちょっと簡単には……」

「じゃあ、わかった。蜂の巣とハチミツを腹いっぱい食べさせてやる」

「仕方がないクマ」

「いいのか? それで。……まあいいか。つまらん話だから。あいつ北平原城の代官の嫁とダブル不倫してるんだぜ」

「ほう、それは凄くいい話だぞ」

 目が光るコンラッドだった。

「クマクマ」

 王と話していると、『聖熊四姉妹』が待っていることに気が付く。

「皆さんどうしたクマ」

「先ほどからダナ様の姿が見えず……お転婆なお嬢様ですから、遠出をされたのかも……」

 アガタが心配そうに手を揉む。

「おい、本当か!」

 コンラッドが血相を変える。

「ご心配いらないクマ。ダナちゃんは今朝、故郷に帰ったクマ……」

 嬉しいような寂しいような感情が翔一に走る。

「そ、そうなのか、それならいいが……それはどこなんだ」

「魔術ではるかに遠く旅立ったんだ。もう会えないが、あの子はこれから家族と一緒に幸せに暮らせるんだ」

 フロールも声に寂しさがある。

「そうか……」

「ご主人様、等々やり遂げられました。ご立派ですぞ」

 アガタが少し目を潤ませながら褒めた。

「しかし、寂しいクマー」

「俺たちはとうとう成し遂げたんだよ。それはお前の力だ、翔一」

「そうだ、あの病気の子を助けたんだ。誇るべき偉業だよ。しっかり休んでくれ。英雄たち」

 コンラッドはそういうと召使たちを呼ぶ。

 寝室の準備をさせるのだろう。

「さて、休憩するか、部屋に帰ろう」

 フロールはそういって歩き出す。

 しかし、


 バキ!


 何かが砕け散った。

 転倒するフロール。

「フロールさん!」

「右足が完全に逝かれたな。左足もぐらぐらだよ」

 関節の部品が完全に壊れていた。

 配線などが露出している。

 翔一はフロールを背負うと歩きだした。

「僕が、何とかするよ、フロールさん」

 背負われたフロールの体は、よく見ると、びっくりするぐらい傷だらけで、装甲版はゆがみ、あちこち壊れている。

 コンラッドは声をかけたかったが、言葉が出なかった。


 この世界では治しようがないのだ。




2020/9/12 微修正しました

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