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59 つるぎの兵

「これでいいクマ」


 誰かの声が聞こえた。

 恐ろしく深い眠り。

 しかし、その深い眠りは微かな異変ですぐに覚める。

 エルネスト将軍は痛む筋骨が悲鳴を上げているのを無視して、体を起こした。

 長年の軍隊経験のおかげで、わずかな物音でも熟睡から覚めることができる。

 彼の部屋から、小さな影がそっと去ったのを見た。

(あの声、あの姿は勇者殿……)

 ふと足元を見ると、彼の剣があった。

 巨猿のボスから奪った、武骨で巨大すぎる剣。

 凡そ、人間が使えるサイズではないが、他に武器もないのだ。

 何やら見たこともない文字が刻まれて、蒼く輝いている。

(何らかの魔術……勇者殿が?)

 そっと持ち上げる。

 恐ろしく軽い。

 ゴウっと風を感じた。

(風の魔力が封じてあるのか。これなら……)

 エルネストは剣をブンブン振り回す。

「軽い。軽いぞ」

 正派剣術を試してみる。片手でも行えるようだ。


 部屋を出ると、兵士が頭を下げる。

「今、勇者殿が参られたか?」

「はい、将軍の武装が心配だから精霊を受祚すると仰られて……」

「勤勉なお方だ」

 足音がするので振り返ると、家臣が見えた。

「将軍、まだお休みになられては」

 ケイスがやってくる。彼は寝ずの番をしていたのだ。

「うむ、もう大丈夫だ。状況を教えてくれ」

「ホブゴブリンの武装は五十人分と多少の予備、主だった兵に分配を終えました」

「こちらは二百。半分にも満たぬか」

「足りぬ分を棍棒や即席の槍などで補っております」

「矢はどうだ」

「これはそれなりにあります」

「少し、心苦しいが、勇者殿に相談する。得物がないのでは戦えない。魔術で武器が作れないか聞いてみよう」

「は、勇者殿は厩で出発の準備をされています」

 

 厩に行くと、翔一とフロールがいた。

「将軍、お体大丈夫クマ?」

「ご心配なく。死んだ戦友たちを思えばこれぐらい」

「俺たちは日が出たら行くぜ。無理はするなよ。いざとなったら、脱出するんだ」

 フロールが鞍を点検しながらいう。

「ここまでの援助を貰いながら、恐縮だが、兵に武器が足りない。百五十以上の武装が必要だ」

「ホブゴブの武器では足りないか。確かに、そんなにいなかったよな」

 フロールは自分が射殺した数を数える。

「手持ちは小剣とか短剣が多いクマ。それは全部あげるとしても、到底足りないクマ」

「精霊界にないのか、剣とか銃とか大砲とか」

「たぶん、原始人が使うようなのはあると思うクマだよ」

「何でもいいから持って来いよ」

「わかったクマ。サンダーアッシュ君、横になるクマ」

 翔一はサンダーアッシュを横たえ、ベッド代わりにして寝てしまう。

「……これは?」

「ああ、寝てるわけじゃない。寝てるかもな。とにかく、今精霊界に行っている」

「昨日も思いましたが、勇者殿は精霊術の方でいらっしゃる」

 

 翔一は精霊界に魂を飛ばした。

「物を精霊界ポケットに入れるのはお前の特殊能力なんだぜ。気軽に物体があるとか思うなよ」

 ダーク翔一が暇そうに寝ころんでいた。

「しかし、このままではエルネストさんが負けてしまうクマ」

「悠久の時の流れの中で、お前みたいに物品を魔性化して持ち込んでる奴もいるかもな。祖霊に聞いてみるか」

「大至急お願いするクマ」

 ダーク翔一はすぐに精霊界の闇に消えた。

 そして、入れ替わるようにすぐに人物がやってきた。時間の概念がない影響だろう。

 土器の仮面、石器の槍、腰蓑。

「あ、祈祷師のおじさん、お久しぶりクマ」

「翔一殿、腕を上げたな」

「お願いが……」

「心配するな、事情は聞いておる。……魔性化した武器は確かに精霊界に無数に存在する。しかし、そのような武器は幾つか問題があるぞ、まず、時代が古い、素材や形が古いのだ。そして、必ず、何らかの神や精霊に捧げられたものだ。神剣、魔剣、聖剣、そういった類しかない」

「背に腹は代えられないクマ。すぐに持って来られるものを人々に与えたいクマ」

「わかった、とにかくすぐに手に入るものだけ持ってこよう、ただし、手に入れるには持ち主との契約がいる。ここを祭場にして、希望者に主と契約させるのだ」

「すごい儀式になるクマ……」

 必要な魔力を思うと、翔一の力が尽きる心配もあった。

 しかし、見捨てることはできないと考え、必要な魔力を想定する。

 そうしていると、

「お前はやらなくていい。やってくれる奴を連れてきたぞ」

 ダーク翔一が帰ってきた。

 後ろには見え憶えのある女。

 アリアだった。

「アリアさん、精霊界の人だったクマ?」

「私はどこにでも行ける。水のある所なら」

 いつもの薄物を纏い、重力が無いように歩く。

「ではお願いしますクマ」


「エルネストさん、今から大規模な儀式を行うクマ。剣が欲しい人は集めて欲しいクマだよ」

「概略を教えてくれ」

「精霊界には神秘的存在に捧げられた武器が無数に存在するクマ。しかし、それは誰かに捧げられたものだから得るには契約が必要クマ」

「契約……嫌がる者も多いでしょうな」

 ローヴィエ信徒中心に忌避する兵がいるとエルネストは思った。

 彼が貰った精霊の剣ですら、彼の信徒たちは批判する可能性すらある。

「無理強いはしないクマです。ただ、持てば強いと思います。必ず、何らかの魔力を持ってるクマですから」

「わかった、夜明けまで時間もない。すぐに兵に事情を話しましょう」

 エルネストは兵を中庭に集める。

 翔一は急いで祭場を作った。

 集まった兵たちはエルネストから説明を受ける。

「いいか、これから勇者殿が精霊界から剣を招来する。ただし、この剣は全て何らかの存在と契約する必要があるのだ。当たりもあれば外れもある。希望せぬもに無理強いはしない」

 それを聞いて話し合う人々。

「訳の分からん者との契約なんて俺は死んでも断る」「素手で戦うってのか?」「背に腹は代えられないかもな」

 やはり、もろ手を挙げて賛成という雰囲気ではない。

「俺は石ころや棍棒で戦って死にたくない。剣をふるって死ぬなら本望だ!」 

 一人の勇敢な兵士が叫ぶ。

「将軍、これは非常に危険な賭けです。そして、ローヴィエ神は喜ばぬかと」

 神官戦士らしき男が恭しくいう。

「ローヴィエは頭が固すぎるんだ。我が神エクセレスは大事の前の小事として、この契約を受け入れましょう」

 同じく、別の神官戦士らしきものが反論する。

「いいだろう、断る者はホブゴブリンの武器を取れ」

 そういわれると、誰も動かない。

 エルネストは厭味で発言したわけではなく事実を述べただけだが「そんな物を使うのか?」と受け取った者も多かったようだ。

「仲間を斬り刻んだホブゴブリンの武器なんか使いたくない。俺は、危険があっても儀式を選ぶ」

 誰かがそういうと、大勢のものが賛同した。

 数人の人間が儀式の場を去った。

「我らは敵を見張ります」

 将軍はうなずく。

 兵の大半は儀式に臨む。


 翔一はアリアを呼んだ。

 美し女神のような存在に人々は唖然とする。

 汚く地獄のようなこの地に現れた、清浄さの化身のようだったのだ。

 実際清々しい水気が満ちる。

「つるぎは精霊界からの贈り物です。戦いの中で酷使したとしても、普段は敬意をもって所持しなさい」

 アリアがそう述べると、祭場に入った人間と同数の剣が宙に浮かぶ。

 人々がひざまずくと、剣は各人の前に浮かんだ。

 ほとんどの兵はすぐに剣を欲する。

 超自然の剣の主たちが何らかの制約を彼らに課すが、兵がうなずくと、剣は彼の手に入った。

「すごい剣だ……」「俺はこんな宿命に耐えられるのか?」「新たな神を受け入れろと?」

 喜びと懐疑。

 不思議と、剣を手にしないものはいなかった。

 誰も契約を拒否しなかったのだ。

 それが、いかに重い契約だとしても。


「将軍は剣を手に入れないクマ?」

「私は、お主が授けてくれたこの『風の剣』で十分だ。それに、私は既に帝国と重い契約を結んでいる」

「もういいだろう。俺たちは行くぜ。武運を祈る」

 フロールはそういうと仲間を促した。

 兵たちが儀式に忙しい間、こっそりと出発する。

「勇者殿。我らのことは忘れて存分に悪を征伐してください」

 エルネストはひざまずいて翔一を見送った。

 翔一は手を振る。

 外には敵が集結し始めていた。

 通用門から、静かに砦を出る。


 


「敵は二千はいるな。こちらは二百」

 砦の北側は石ころだらけの荒野。

 そこにホブゴブリンの兵が充満していた。

 ホブゴブリンだけではない。重武装のトロール、巨猿部隊、魔神信徒オーク、人間、空には不気味な飛ぶ爬虫類。羽根もないのに宙を浮く蛇のような生き物だった。

「あの蛇はなんだ」

「ワームですね。異世界から魔女が呼んだのでしょう」

「あれには嵐精霊を当てよう、サラマンダーはトロールを集中攻撃。石投げのアースエレメンタルは射程に入れば順次行う。兵の弓攻撃は引きつけてからやれ」

「は」

 トビアスがうなずき、兵に指示を飛ばす。

 アースエレメンタルは何かを受け取ると、いきなり中庭から投げ飛ばした。

 血液を落としながら、巨猿軍団のど真ん中に落ちる。

「キキー! これは親分の首だ!」

「殺せ、人間どもを殺せ!」

 巨猿軍は命令も何もかも無視して、砦に迫る。

 砦はごつごつした一個の岩でできた壁が取り囲んでいる。

 猿たちは何も考えずに突撃したが、取り付くことができない。登り切れず、ズルズルと落ちるところを矢や岩で攻撃を受ける。

「殺せー、登らせるな!」

 ホブゴブリンたちもそれを見ると、太鼓を鳴らして一斉に進軍開始した。

 彼らは巨猿とは違い、冷静に何本もの梯子を用意して、それで城壁に突撃を行う。

「梯子が来るぞ、一匹たりとも入れるな!」

 矢が飛ぶが、ホブゴブリンは鎧がしっかりしていて盾も持っている。矢はあまり効かず、城壁に到達される。

 巨猿たちもようやく幾匹が登ったようだ。

 一人の兵士が、黄金に輝く神剣で登ってきた巨猿を一刀の元に斬り伏せる。

 彼の背後を襲うホブゴブリンは、黒い魔剣を持った兵に真っ二つにされた。

 赤く目を光らせた兵士が雄たけびを上げる。

「敵を一人も生きて返すな!」

 エルネストは一番苦戦している場所に飛ぶように乱入すると、武骨な鉄剣を旋風のように振り回す。

 切れ味は悪い剣だったが、巨大な鉄の塊をぶち当てられて、城壁から叩き落される。

 ほとんどは墜ちる前に打撃だけで死んでいるようだった。

 上空を見ると、ワームたちは来ない。

 矢と電撃を喰らい、何匹か落ちるのを見ると、積極的には来ないようだ。

「取り囲め!」「逃がすな」

 魔剣を持った兵の一団が、梯子を下って、逆に敵の陣地に突撃を開始していた。

 数人の兵士だが、獅子奮迅の猛攻で、ホブゴブリンは逃げ回るありさまだった。

「まずいな。下がらせろ!」

 将軍の目には彼らを狙うように重装トロールの集団が向かっているのが見えた。

「彼らは理性を失っています」

「魔剣の影響か。俺が救いに行く!」

 部下の制止も聞かず、エルネストは飛び出した。

 勇者が眼前で死ねば、砦の士気はがた落ちになる。

 懐からロッドを取り出すと、

「サラマンダー、トロールを集中攻撃!」

 城壁の上から、火炎の球が飛び、トロールを焼く。

 火炎以外彼らを倒す方法がない。

 予想通り、斬っても斬っても死なないトロールが魔剣の兵たちの前に現れると、勢いが落ちている。

 それでも、首を飛ばされて倒れるトロールもいるようだった。

 のうのうと、背中を見せる重装トロール。

 疾風のように駆け抜けて、背後から首を刎ねる。

 さすがに、首を失えば死ぬようだった。

「引け! 孤立して死にたいのか!」

「将軍!」

 将軍に無理をさせたことに気づき、理性を取り戻したのか、魔剣の兵たちは城門に向かった。

 ホブゴブリンたちが殺到するが、間一髪、少し開いた門に滑り込む。


「ハァハァ。戦況はどうだ」

「地母神オーク部族の援軍が向かっているそうです。伝令が来ました」

「よし、あと一頑張りだ」

 エルネストはきれいな水をごくごく飲む。

「アリア様が来た時に井戸が清浄化されたようです」

「フム、彼女は神人だったな。勇者の知り合いとはそのようなものだ」

 城壁の上に立つと、部下に訓示する。

「いいか、敵は焦っている。次に総攻撃が来るだろう。しかし、心配はいらない。援軍は向かっている」

 この宣言に喜びの声を上げる兵士たち。

「俺たちの戦いは勇者の背後を守る戦いだ。そして、敵を引き付けて北の友軍を守る戦いなのだ。命をかけるぞ、正義は我らにある!」

「エルネスト将軍万歳!」「イスカニア帝国万歳!」「勇者万歳!」

 このような声がこだまする。

 しかし、

「『白き手』の君のために!」

 彼らの声を圧するような唱和が、外から聞こえた。

 その日は、それ以上、大規模な攻撃はなかったが、散発的に攻撃が行われ。

 守備側を休ませないつもりなのだろう。

「敵も愚かではないな……」

 魔軍を睨むエルネストの目は血走っている。



 翌日の総攻撃は苛烈を極めた。

 前日より数を増やしたカルネス軍は、明るくなるといきなり突撃を開始する。

 人間の徴用兵が非常に多い。 

「死骸の山で壁を埋めろ!」

 ダークエルフの将軍の声がかすかに聞こえる。

 カルネス軍の総攻撃は津波のようであった。

 ホブゴブリンと続々と集結する人間の徴用兵は正気を失ったかのような突撃を行った。

 実際、何かの魔術があったのかもしれない。

 いくら殺そうとも、全く足を止めず、城壁の下に死骸として積み重なっていく。

 エルネストの兵の奮戦の結果、本当に城壁は低くなっていた。

 死骸を登れば、城は歩いて越えられるかもしれない。

 神剣魔剣を持った兵たちも、一人、また一人と、じわじわと討ち取られている。

「何人死んだ」

「二十名です。負傷は同数」

 ケイスが答える。

「死亡が多いな」

「つるぎの強さに溺れる者がいます」

「そうか」

 勝手に突撃して包囲されて死亡したのだろう。制約や剣の魔力の悪影響なのだ。

「ワームが攫って行った兵います」

「彼らも助からないだろう」

 日が陰ってきた。

 ふと、手を見ると、血塗れ、浅傷だらけだった。

 握る手がこわばって、微かに震えている。

 しかし、敵も相当な数を減らしているようだ。

 味方を元気づけようと、高い場所に行く。

「見ろ! あれは……」

 どんよりと雲る空。

 大地に突然黒い何かが沸き上がる。

 虚ろな目、乾いて干からびた皮膚。ボロボロの服。漆黒の剣。

「死霊だ。死霊の兵士だ!」

 数は千はいるだろう。

 死霊に対抗するには魔術が必要だが、精霊は嵐精霊が消えてしまった。

 ワームを多数討ち取ったため、ワーム部隊は撤退している。しかし、そのためか、嵐精霊は敵の魔術の集中攻撃を浴びてしまった。

 サラマンダーは火炎を撃ちすぎて、消滅寸前になっている。

 これもトロールを相当数倒したので、仕事はしたといえた。

「我らもよく戦ったが……」

 引くことも考えたが、既に包囲されていた。

 背後にも待ち構えるようにホブゴブリンの兵が見える。

 脱出はできないだろう。 

 降伏もあり得ない。食料にされるぐらいなら死ぬまで戦うだけだ。

「よし、俺が先頭に立つ。死霊共を粉砕してくれる」

「背後に敵が居ります」

 トビアスが心配そうに聞く。

「背面も十分な壁がある。勇者殿のおかげだ。背後の兵は軽歩兵で攻城装備を持っていない。脱出させないための抑えだろう。いまは警戒だけでいい」

「は」

「聖剣神剣の類の者は集まれ。将軍を守るんだ。魔剣の者は援護に回れ」

 それでも兵士たちはてきぱきと動く。

 絶望に囚われたりしないのだ。

 兵の目を見て、エルネストは落ち着いて城門を開いた。

「野戦は形勢不利になったら引く。敵の動きをよく見ろ」

 一斉に押し出した将軍だったが、死霊の兵はあまりに多かった。

 聖なる剣の列が死霊たちを次々と打ち倒すが、幾らでもわいてくる。

 見ると、死亡した敵兵たちがふらふらと立ち上がる。

 死霊の兵士はゾンビを作り上げるようだった。

「将軍、これ以上の野戦は!」

「わかった、引くぞ!」

 急いで退却した。

 城門を閉じるとき、ゾンビが手を伸ばして、何本も腕が落ちた。

「もう終わりだ……」

 誰かの声が聞こえる。


 死霊の兵たちは、死骸をゾンビに変えていた。

 ゾンビは矢を喰らっても全く効かない。首を落とすか、頭を破壊するしか方法がないのだ。

 ホブゴブリンの残軍、死霊の兵、そして、戦場に満ちるゾンビの大集団。

 さすがに、一部の兵士に怯えが走っている。

 おぞましき怪物の大集団を、エルネストのつるぎの兵たちは奮戦して退けていた。

 兵たちはここまで生きのびただけあって、一騎当千の強さを誇っている。しかし、いかに魔力の剣をふるおうとも、無数とも思える敵の大集団の前に、少しずつ意気を消失していた。

 ゆっくりと確実に力尽きていく。

 エルネストは気が狂わんばかりに剣を敵に叩きつけ、肉を骨を鎧を破壊し続けたが、敵の肉の壁は尽きることがない。

「諦めろ、人間。お前たちが生きのびるには降伏しかないのだ」

 一際大きくて不気味な死霊がエルネストを指さす。

 一瞬、沈黙が起き、敵も動きを止める。

 しかし、エルネストは、ボロボロの皮鎧を脱ぎ捨てると、城壁の高い場所に立った。

「来い! 怪物ども! 俺が、お前らをだれ一人通さない! 正義が勝つことをお前たちに教えてやる!」

 エルネストの声は戦場に響き渡った。

 聞こえたのだろう、ホブゴブリンたちは笑い始めた。

「フフフフ」「ハハハハ」

「あの道化を殺せ」

 死霊の声が聞こえると、ぴたりと笑い声が止み、太鼓が響く。

 動くカルネス軍。

 まだ健在な大軍が小さな砦を飲み込むように襲い掛かる。

 エルネストも死を覚悟した。

 その時、

 突然、暗くなった。

 太陽を見る。

(陽も我らを見放したか)

 しかし、違った、巨大な何かが空を覆っていたのだ。

 その何かは、大きな口を開けると、

「ギャウウウウウウウウウン!」

 金属音が混じったような叫びと、巨大な光。

 エルネストは風を浴びた。

 戦場に巨大な光の玉が落ちる。 

 主に死霊やゾンビが一瞬で存在を破壊される。

「竜だ、巨大な竜だ!」

 見ると、それは白い金属的な鱗を纏った巨大な竜だった。

 地に這う者では抗えない、巨大な光を大地に撒く。

「オークの援軍が来たぞ!」

 何処からわいたのか、弓を構えたオークの軍勢が敵に矢の雨を降らせる。

 矢には聖性精霊が受祚されており、死霊もゾンビも魂を破壊されて、次々と倒れて行った。

「勝った、のか」

 光では死なないホブゴブリンや人間その他の敵が逃げ散っている。

 戦場はようやく死と破壊の嵐が治まるようだった。



「将軍、ご面会されたいという方が……」

 部下の言葉に振り替えると、大柄なオークの老女が立っていた。

「ゴル・サナスじゃ。お主だな、エルネスト将軍は」

「大祈祷師様ですね。援軍感謝申し上げます」

 エルネストは貴族的にひざまずいた。

「イスカニアの者だな? しかし、勇者殿のお願いとあれば、断る筈もない。イスカニア帝国は我らオークを禽獣のように蔑んでいるが、我らはそれに意趣返しするような者ではないのだ」

 エルネストは痛い言葉に頭を下げる。

「ゴル・サナス様は我らの命の恩人です。勇者殿と同じく」

「しかし、お主らの奮戦もすさまじいものであったな。我が配下のつわもの共も褒めておったぞ」

 厳しい顔のゴル・サナスだったが、武勇を褒めるときには穏やかな顔になった。

「ありがたきお言葉」

「我らとそなたの軍はカルネスを取る。しかし、絶対に暴虐略奪の類はご法度だ。よいな」

「はい、肝に銘じます」

「そして、全てが決するまでは、カルネスの領有権は保留にすべきだ。我らは善意で魔を討つために集結したのだ。勢力争いをしたいわけではない」

「陛下にはそのように」

「皇帝が来ておるのか?」

「はい、連合軍を指揮されております」

「……私は会うのはやめよう。私の将軍にカルネスの件は一任する」

 そういうと、ゴル・サナスは去った。

 代わりに、筋骨隆々としたオークの将軍がやってくる。

「俺はガリス。エルネスト将軍だな。共にカルネスに進軍するぞ」

「しかし、この兵でも……」

 カルネスは大都市だ。

「どうやら、カルネスはがら空きのようだ」

 二人の将軍は精鋭を率いると、カルネスに向かう。

 いつの間にか、空は晴れ、暑いぐらいの陽光が降り注いでいた。




2021/4/25 微修正

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