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58 魔物の使者

 翌朝。

 翔一とフロールは狼に乗り、エトワールとビアンカは馬に乗って砦を出た。

「俺たちの設定は、俺と熊は狼ライダーの護衛。エトワールとビアンカは毛皮商人」

 人間二人の馬の後ろには巨猿から剥いだ毛皮が満載されている。

「俺たちが商人というのも無理があるし、それに、こんな臭いのが本当に売れるのかよ」

 ビアンカは不満顔だ。

「アガタ婆さん信じるしかないだろう。元現地民だからな」

「魔物に支配された都市だ、常識が通じなくても不思議ではない」

 エトワールは気にもしていないようだ。

「猿皮って、なんか嫌だ。やっぱり、子熊の毛皮よね」

 ちびモフをもふるビアンカ。

「蝙蝠男の身分証は使わないクマ?」

「ああ、あれは直前まで温存しておこう。下手に「身分」明かして、大物来たから司令官にご面会なんて話になった面倒だ。エパットの近況とか聞かれたら困るだろ」

 フロールの言葉にうなずく翔一。


 早朝なので霧の精霊を呼び、隠密精霊も出す。

 ゆっくり慎重にホブゴブリンの先遣隊をすり抜ける。

 予想通り、魔物は、朝は苦手らしい。動きが鈍かった。彼らに気が付かない様子だ。

「ふう、でも、心臓に悪いぜ」

 ビアンカが冷汗をぬぐう。

 ホブゴブリンは霧ではっきりしないがかなりの数が集結している。

 カルネスの背後に突然強力な要塞が出現したのだ。

 兵をかき集めているのだろう。

「山地を抜ける小道があるから東に回って、東門から入ろう。南門は軍が多すぎだ。一般人が近寄れるわけもないぞ」

 フロールが簡単な地図を広げて、確認する。

 山を抜け平地を目指す。

 砦からのルートは時間との勝負だった。

 ホブゴブリンの小隊が続々と集まっている。

 何度か止められた。

「貴様ら、どこから来た」

「俺たちは毛皮商人だ」

「クマクマ」

 ホブゴブリンたちは人獣翔一に気が付くと、それ以上は詮索しなかった。

 乗用狼を使っていることも信用されたようだ。

 ホブゴブリンの中には、狼を撫でる奴もいる。

 彼らは基本的に戦闘部隊であり、例の砦に集結することが彼らの任務であることも幸いした。

 山の小路を抜け、平野に出ると移動する小隊は迂回できた。

 集結するために急いでいるのか、あえて一行に構う者もいない。

 平野は農地である。

 奴隷を監視する兵は翔一たちには無関心だ。

 人間、オーク、ゴブリン……様々な連中が奴隷として働かされている。強制労働の嫌な光景ではあるが、死ぬほど虐待されているという雰囲気でもない。

「魔女は生産者を殺すような愚か者じゃないな」

 フロールはつぶやいた。


 大きく迂回したので、昼前に東門に到着した。

 門の前には一般人の列ができている。

「人間が多いクマ」

「都市の内部は人間とダークエルフが主に住んでるらしいぞ」

 ダーク翔一の声。

「人間の方が入り易いクマだよ」

「ならば、俺は荷物のふり、お前はいつもの冴えない人間形態になれ」

「冴えないは余計だと思いますクマ」

 フロールは手足を引っ込めて荷物に。翔一は久しぶりに人間形態になった。

「ガルディアでなって以来かな……」

 服は無残にボロボロだったので、慌てて外套を纏う。

 外套は雪山用が精霊界ポケットに置いてある。

 エトワールとビアンカはその光景を奇異な目で見ていたが、何もいわなかった。

 番兵はホブゴブリンだ。

「貴様たちは何者だ」

「毛皮商人です」

 翔一が答えた。

 結局、人間三人のうち見た目の優しい翔一が商人役になったのである。

 番兵は顎をしゃくって、もう一人の兵が耳に手をやった。

 合言葉をささやけということらしい。

「『白き手』の恵み」

「……古いぞ、その合言葉」

 緊張が走る。

 エトワールは不穏を感じて剣の柄にそっと手をかけた。

 番兵が相棒に目配せする。

 翔一は慌てて、人間形得意の卑屈な笑みを作った。

「いやー、申し訳ありません。最近この辺りに来なかったので。ここはこれでおひとつ……」

 迷いのない素早い動作で、兵の手の上に銀貨を握らせる。

 そして、同額を相棒の兵の手に。

 翔一のこの素早い動きに呆気にとられた人々だったが、番兵が銀貨を確認すると緊張は解ける。

「今後ともご贔屓のほどよろしくお願いします」

 ペコペコ頭を下げる翔一。

「次はしっかり新しい合言葉を憶えておけ」

 番兵は顎でしゃくって、通れと合図した。

 緊張しつつも通る。

 警備兵たちは関心を失って次の人々の相手をしていた。

 ふぅっと、ため息をついた翔一。


 カルネスの内部は思った以上に清潔で、整然とした街並みである。

「翔一、あんたの人間形態なかなかかわいいじゃん」

 ビアンカはかなり気に入っている様子だった。

「え、そうですか、そんなふうにいわれたの初めてかもしれない。フロールさんなんて、凄く、ダメ出ししてますけど」

「あの腐れタマゴには翔一のよさなんてわからないよ」

「聞こえてるぞ」

 フロールがバックパックの中から声を出す。

「荷物は黙ってろ」

「それにしても、翔一、いつもながら見事な賄賂攻撃だったな。人間として成長したぞ」

「そんなことで成長を確認しないでください」

 フロールの言葉に苦笑する翔一。

「とにかく、その、アガタ殿の妹を探さなくてはな。術者通りの裏通りか」

 エトワールは道の案内板などを見て探している。

「占い師の婆さんね。もう、墓の下かもしれんぞ。何年も会ってないのだろう」

 もぞもぞと荷物から這い出すフロール。

「マジで不謹慎だな、この腐れタマゴ」

 ビアンカが怖い顔をする。

 カルネスはこの世界では大都市の部類だったが、レイドよりも相当小さい。

 昼過ぎにはその占い師を見つけた。

 尚、毛皮は毛皮商に彼らの言い値で引き渡す。処分できればそれでよかった。


「いらっしゃいま……ひぃ、なんだいあんたたち」

 アガタよりやや若い老婆が店を構えていた。

 翔一は子熊の基本形態に戻る。

「僕たちはあなたのお姉さんのアガタさんの知り合いクマ、レナさんだよね? この義眼水晶をお渡しするクマ」

「人間から変身したね。熊の人獣……あんたが噂の『聖魔旋風』ドゥーベだね、凄い魔力だよ。……確かに、この水晶は姉のものだ」

 震える手で水晶を受け取ると、レナはアガタと交信し始める。

「二つ名が変化したクマ」

「そういうこともある」

 エトワールがうなずく。

「そうか、この熊様に命を……そうかそうか、生きてたんだね、姉さん。うう。天罰騎士の悪魔に捕まったと聞いて、もう終わったと思っていたんだ。あいつらは普通には殺さないからね……」

 ボロボロと涙を流すレナ。

 ひとしきり泣いた後は、アガタが事情を説明してくれたようだ。

「そうだ、汚い家だが入っておくれ。動物は裏路地につないでおけば目立たないよ」

 レナは一行を家に入れてくれる。

 確かに綺麗な家とはいえなかったが、思ったより広かった。

「昔は宿屋をやってたんだよ。今は占い屋だけどね」

「すまぬな、しかし、我らも休息に来たわけではない、宮殿に入るのに何か情報はないか」

「そうだね……今、魔王は各国連合軍が大軍を率いてやってきているから、その最前線で戦っているよ。青い聖剣を掲げてね。あれを見せつけて、自分は聖なる王で連合軍は賊軍だってほざいているのさ。私たちには魔王と自称しているのにとんだお笑い草だよ」

「フェルシラ君、さらし者にされて可哀想クマ」

「魔女の方はどうだ」

 フロールが問う。

「『白き手』の君はヴィックの支配下に置かれて、再び悪事の手伝いをさせられて……お可哀想に……。宮殿に居られると思う、魔物が出てくるから」

 これは確証がないようだった。

「再び悪事の手伝いとは、どういう意味だ」

 エトワールはこれが気になった。

「ガラエル様は本来は聖女。しかし、太古の魔神に心臓を抜かれ、永遠の奴隷にされてしまった。今のガラエル様の悪事はほとんどが心臓を握る悪人の悪事でしかないよ。ご自身の意志が発揮できるところでは何とか我ら庶民を助けようとされてるのだ」

「やっぱり、ガラエルさんは悪人ではなかったクマ」

「結局、奴隷化されてるなら一緒だろ。甘い考えは捨てろ」

 フロールは辛辣に諫める。

「すまぬが、あのガラエルが悪事を行い続けて他に手段がないのなら、討伐するしかない。すまんなレナ殿」

 エトワールが謝罪する。

「ガラエル様を倒そうと思っても、心臓を持たぬ限り絶対ガラエル様は死ぬことはない。心臓を握った者だけの特権だよ」

「一時的にでも力を抑えられないのか」

「激しく破壊すれば……しかし、身が滅んでも、いずれ心臓の所持者の元に奴隷として引き連れられる運命」

「ガラエルを倒し、復活するまでに偽勇者偽聖王自称魔王のヴィックを倒す。それしかないだろう。一緒に居られたら厄介だ」

 フロールが腕を組んで提案する。

「それがよかろう」

 うなずくエトワール。

「レナさん。あんたなんでそんなにガラエルのことに詳しいんだ」

 ビアンカは不信の目。

「私は、若い時はガラエル様の侍女だったんだよ。それと、未来と過去を霊視できるから。……神様がお見せしてくれることだけだがね」

「ふーん、なるほどね」


 レナが茶を淹れてくれたので、少し、休憩をする一行。

「宮殿にはどうやって入るクマ?」

「俺たちにはエパットからの親書がある」

 エトワールが答える。

「話は決まったクマ」

「それなら、これを持って行ってくだされ」

 老女は部屋の片隅にあるものを指す。

「これは一体……」

 エトワールは不思議そうな顔をする。

「熊のぬいぐるみと、銀色に塗った鉄の球が十個くらい。何だこれ」

 フロールは鉄球を手に乗せる。

 直径五センチくらいでズシリと重い。銀メッキされている。

「神様のお告げで用意しておけと」

 レナがうっすら笑う。

「物の意味、なんとなくわかるクマ。ありがとうレナさん」

 翔一はそれを受け取ると精霊界ポケットにしまう。

「とにかく助かったぜ婆さん。これはぬいぐるみ代だ」

 フロールが一掴みの金貨を渡すと、レナはにっこり笑って受け取る。

「宮殿に行くなら午前中がいいよ。私の家に泊まって行きなさいな。明日の早朝から行けば女王陛下に会えるかも」

「イスカニア宮廷もガルディア宮廷も、朝に人が訪れていたクマ」

「変なこと知ってるね、熊さん」

「こいつは世界の偉いさんと顔見知りなんだよ」

 フロールの言葉に半信半疑のレナだったが、一行を宿泊させる準備を始める。

 翔一たちはレナの宿に泊まり、翌朝、出発した。

 宮殿への道に迷うことは無かった。




 霞がかかり、どんよりとした朝。

 宮殿正面の門に来る。

 翔一は大型の熊形態に角付き兜をかぶって、偉そうにふんぞり返る。

 番兵に身分証を見せる翔一。

 兵はダークエルフ、街門の番兵よりかなり高級な装備を身に着けていた。

「クマクマ」

 しばらく眺めていた番兵だったが、

「エパット様の使者だ」

 ダークエルフがそう告げると、重々しく門が開く。

 宮殿は小さな城壁がいくつもあり、宮廷に至るまでに何度も門を通らないといけない仕組みになっている。

 一気に敵が乱入できない工夫なのだろう。

「今度は逆だな、熊はエパットの使者。残りは護衛。翔一は大型の熊になって、兜に角をつけてある」

「せっかくの三日月の前立てが台なしクマー」

 お気に入りの兜に瞬間接着剤で牛の角を付けられていた。

「なすび兜に付けてもいいんだぞ」

「それだけはお断りクマ」

 人獣熊形態で各小門に向かい、素通りする。

 兵士たちは最初の門をくぐった者を咎めることは無いようだった。

 途中、動物は降りるようにいわれたので、フロールは徒歩になる。

 サンダーアッシュとダークファング、二頭の馬は専用の獣舎に繋がれた。

「ち、かなり足が壊れてきたぜ」

 歩くたびにガチャガチャいっている。 

 ひょいっとビアンカがフロールを小脇に抱えた。

「これでうるさくない」

「あー、まあ、楽でいいか……」

 そういうと無言になってしまうフロールだった。


 宮殿に入る前に誰何される。

 さらに高級そうなダークエルフの兵だった。

 身分証を見せる翔一。

「クマクマ」

「エパット様の使者殿ですか……しかし、宮殿内はその獣形態では……」

「じゃあ、小さくなるクマ」

 子熊形態になる翔一。

「ふむ、それならばいいでしょう」

「クマクマ」

「待ってください、その、玩具みたいなブリキは何ですか。人間の護衛はわかりますが」

「これも護衛クマ。防衛用ゴーレムです」

「壊れかけてるようですが、ボロボロですな。余程戦ってきたのが伺えます」

 しげしげと眺める警備兵。

「おいおい、エパット様の使者に因縁つけすぎだろう。外交問題にしたいのか」

 エトワールが咎める。

「これが任務ですからな。しかし、まあいいでしょう。奥にどうぞ」

 兵が二人ほど案内につく。

 壮麗な宮殿に入る一行。

「クマー」

 翔一は美しい宮殿の内部を眺め、呆気にとられた。

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