57 捨城干城
高い丘の上に上って、カルネスを見下ろす。
狼と馬に乗った一行は朝日の中、異形のシルエットを見せた。
眼下に大都市。
西と南側が山地で北と東側が広大な農地。南側の門はあるが、その前に新しく作ったと思われる出城があった。
「なんだあの砦は。あんなのあるって聞いてないぞ」
フロールが文句をいいながら、スコープで観察している。
「アガタ婆さんも知らないってよ。婆さんがここに居たのは何年も前の話だ」
精霊界ではダーク翔一がアガタと連絡を取っていた。
「最近できたらしいクマ」
「出城の壁は木の杭、建物は安い煉瓦。粗製乱造の応急品だな。恥ずかしい出来だ」
フロールは酷評。
「曲輪としては連携がとれていない、支城としては近すぎる。目的の分からない砦だな」
「位置的に南への抑えだろ。しかし、何というか捨てているような感じもあるな」
エトワールとビアンカも望遠鏡で調べている。
「何か理由があるのだろう。とりあえず、我々の邪魔になっているのは事実だ」
「……」
無言になる二人。
「眺めていても仕方がない、あれを何とか迂回するか潜り抜けるしかない」
フロールはそう結論付けた。
「迂回は相当無理だな。確かに、あれを通るしかないね」
ビアンカが面倒くさいという顔をする。
「慎重に行こう。無理なら、他の道を考えるしかない」
エトワールは望遠鏡をしまいながらそう答えた。
「僕が先導するクマ」
翔一はよく効く鼻で辺りを警戒しながら、ゆっくりサンダーアッシュを歩かせる。
山地は雑草と灌木、ゴロゴロとした岩。
身をひそめながら麓を目指す。
麓まで降りると、翔一、エトワール、ビアンカは動物を降りる。
「俺は脚が壊れかけているからこのまま行く、少し離れているから心配するな」
フロールはそういうと、ダークファングから降りようとはしない。
隠密精霊を使い、慎重に道の脇を灌木や岩に隠れながら砦に迫る。
「見張りの兵が二人いる。ホブゴブリンだ」
フロールはスコープがあるので人より視力が高い。
杭の壁は五メートルくらいだった。
杭の壁の上を歩けるように、壁の後ろ側で通路が作られている。
エトワールとビアンカはうなずくと、岩陰から飛び出す。まるで風のように一気に壁を駆けあがった。
そして、エトワールは剣で見張りの首を突き刺して即死させる。
ビアンカも駆け上がると、鎖で首を絞め、頭を真後ろに回転させた。
そいつも無言で死亡する。
「エレメンタルで死骸を固定するクマ」
翔一はエアーエレメンタルを呼ぶと、死骸が立っているように制御させる。
二人はニヤッと笑って壁を降りる。
壁の外に取りつく四人。
「中には化け物のような奴らが大勢いる。入っていけば乱闘だ」
エトワールは一瞬だけだが、砦の中を見た様だ。
「壁の上は目立つからね。どうするよ、あの死骸もいつまでもばれない保証はないぜ」
「とりあえず、様子を探る。ちょっと待て」
木の杭は適度に隙間がある。フロールはセンサーを突っ込むと、腹からタッチモニターを出して中の様子を皆に見せる。
「あんた便利な体だねぇ。魔法なの?」
「科学だよ」
「何だよそれ」
ビアンカは納得いかないようだが、モニターに映った光景を疑ってはいないようだ。
砦の中にはかなり大勢の存在がいた。
大勢の人間と化物である。
人間たちは全員後ろ手に縛られた男女で、男がかなり多い。
服装から、
「全部じゃないけどイスカニアの兵隊だと思うクマ」
翔一は見覚えがあった。
一般兵ですらイスカニアの兵士は洒落ていたのだ。
逆にいえば、田舎者である神聖平原諸国の兵士は野暮ったい。
「アーロンの兵もいるな。たぶん、かなり混ざっている。二百人くらいか」
対して、化け物たちは巨大な猿のような生き物だった。
二メートル程度の身長、兜をかぶり、棍棒や斧、武骨な剣を持っている。
五十匹はいるだろうか。
「異界の化け物だな、見たこともない、ビアンカは何か知っているか」
エトワールが問う。
「俺も初めて見るぜ」
巨猿たちはよだれを垂らしながら、兵隊たちを見ていた。
「お前たちはこれから俺たちの食料になる、ヒヒヒ」
ひときわ大きな巨猿がそういうと、一人の兵士を鷲掴みにする。
そして、がぶっと頭を噛むとバリバリと生きたまま頭を砕いて食べ始めたのだ。
男は少し痙攣したが、すぐに絶命した。
「今のは慈悲だ。次は生きたまま手足をじわじわ喰ってやる」
「兄貴、早く喰いたいぜ!」
後ろの類人猿たちが叫ぶ。
キーキー大騒ぎだ。
「やめろ!」
一人の男が決然と立ち上がる。
「なんだ貴様。ああ、負け犬のエルネスト将軍じゃないか」
「兵たちに罪はない。俺を喰え。彼らは許してやってくれ」
エルネストは、以前、翔一がイスカニアの宮廷で暗殺者から救った男だった。
「あ、あの人見たことあるクマ」
翔一は忘れていたので、すぐに思い出せない。
値踏みするようにエルネストを見ていた巨猿だったが、
「おまえを喰っても俺たちの腹は治まらない。お前たちは食料代わりに魔王様から下賜されたのだ。残念だったな。クヒヒ」
類人猿はそういうと、エルネストを棍棒で殴打した。
脛を強打され、膝をつく。
明らかに脛の骨が折れている。
「ぐ! は、うう」
折れた脚。
エルネストは激痛に渾身の力で耐える。
「ハハ、どうした将軍。何かいいたかったんじゃないのか」
にやにやしながら猿は棍棒をくるくる回す。
「頼む。兵に罪はない、俺を喰ったら兵は許してくれ!」
ひざまずき、叫ぶように言葉を吐くエルネスト。
「将軍! このような化け物に頭を下げてはいけません!」
部下たちが叫ぶ。
「ハハハハ! 惨めだな。人間ども!」
大笑いする巨猿たち。
巨猿はエルネストの頭を踏みつける。
「ぐあ……」
エルネストは意識が飛ぶ、猿は軽く踏んだつもりだったが、人間の頭蓋は割れそうだった。
無言で見ていたフロールが声を出す、
「翔一、俺は壁の上から援護する、狼ごと上げてくれ。お前は突撃しろ」
「はい! フロールさん!」
「!……」
一瞬、驚いた顔になるエトワール。
ふと、ビアンカを見ると彼女も同じ考えだったのだろう。言葉に詰まっている。
しかし、二人でにやりとする。
エトワールとビアンカ、美しくも不敵な笑顔だった。
翔一は巨大化すると狼を抱えて壁に乗せ、自分はひょいっと壁を飛び越える。
「ガアアアア!」
巨大な赤い精霊を呼び出して喰ったのだ。
腹の中で怒りが爆破しそうだった。
「なんだ、あいつは!」
巨猿たちが驚いて身構えた。
翔一は虚空からバチバチと音を立てながら、『ジルバール』を抜く。
剣は翔一に合わせて、巨剣となっていた。
「あの怪物は敵だ!」
猿たちが叫ぶ。
しかし、翔一は全く意に介さず、防御しない跳躍を行う。
翔一の跳躍距離は巨猿の想像を超えていた。
壁際から中庭中央まで、一度の跳躍で迫る。
エルネストを踏んでいた巨猿は慌てて後退するが、気が付くと背後に巨熊がいた。
「え、俺、飛んでる?」
巨猿は首が飛んでいた。
熊は彼らよりさらに大きかった。
巨猿たちは自分が小人になったような恐怖でパニックに陥る。
翔一は怒りに任せて魔聖剣を旋風のように振り回した。
血煙が舞い、毛が撒き散らされ、首や手足が地面に転がる。
「逃げろ! こいつは『魔旋風』だ!」
巨猿の誰かが叫んだが、次の瞬間には彼の首は宙を舞っていた。
怪物どもは士気が低く、強敵が現れるとパニックを起こした。動物らしく、不利になったら逃げる。そんな考え方の生き物なのだ。
フロールは無言で矢を連射する。
壁の上の見張りの兵、ホブゴブリンを焼き殺し、逃げる猿の背中を射抜く。
「オラオラ! 猿共かかってきな!」
鉄球を振り回すビアンカ。これも人間離れした怪力で猿たちを叩きのめしていた。
エトワールは最初、巨大すぎる敵にやや苦戦していたが。猿たちのトリッキーな動きに目が慣れてくると、ズバズバ斬り倒す。
ダークファングを疾駆させ、フロールは北門まで到達する。
敵を一人も逃さない。
警報を鳴らす兵は最初の攻撃で殺したので、音の心配はなかったが、逃げる兵が襲撃を知らせたら厄介だからだ。
翔一が猿共を追い詰めていた時、エトワールは兵士たちの縛めを切って回った。
「ありがとう、剣士殿!」「助かったぞ!」「生きて母ちゃんに会いたい」
涙を流して喜ぶ兵士たち。
兵士たちも立ち上がり、石や棍棒で猿たちと戦う。
「無理はするな、敵の数は少ない。お前たちは牽制に回れ」
エトワールが叫ぶ。
ビアンカはジャンプすると、空中で鉄球を振り回して、猿の頭を二つ纏めて潰した。
「見たか、俺の必殺技!」
ビアンカは満足げだ。
巨猿たちは逃げられないと悟ると、命乞いをするありさまだった。
しかし、人間の兵士たちが集団で取り囲んでなぶり殺しにする。
翔一は最後の敵と両手を組んで力比べをしていた。
身長は同じくらい。
特大の巨猿だった。
剣は二匹の猿を串刺しにして傍らに落ちていた。
「俺の腕力に勝てる奴はいない。あのスレッソンでもな」
巨猿のボスが臭い息を翔一にかける。思わず息が詰まるが。翔一は敵の顔にゆっくりと顔を近づける。
「は、死にたいらしいな」
口を大きく開けると、巨猿のボスは噛みつこうとする。
ガキッ、ボスの牙は空をきる。
翔一はさっと躱すと、子熊に戻った。
さすがに小さすぎて、ボスの手をすり抜ける。
「何! 消えた!」
キョロキョロするボス猿。
翔一は転がってボスの背後に回っていた。
すぐに気が付いたボスは、振り向く。
翔一はツキノワグマサイズになって、木刀を構えていた。
ボスは慌てて、手に取れる場所にあった『ジルバール』を手にしようとする。
しかし、
「グア! 手が、溶けた!」
ボスの右手は『ジルバール』の混沌の魔力を浴びて大やけどした。
「白虎一剣!」
翔一の木刀は吠えるような音と共にボスの脳天に迫る。
グオオオオオオオオオン!
剣に宿った精霊が吼えた。
銀の鋲が白い牙のように飛び出し、巨大な木刀が猿の額を一撃する。
ビシャ!
頭蓋が砕け、骨片と脳漿が飛び散った。
眼窩から上を完全に破壊する
巨猿のボスは体を痙攣させていたが、すぐに動かなくなった。
一瞬の沈黙、
そして、
「ウォー! 猿共を倒したぞ!」「熊の英雄万歳!」「『魔旋風』万歳!」
見ていた兵士たちは大喜びだった。
「しー! 静かに! 気が付かれたら、すぐに敵の本体が来るぞ!」
ビアンカが怒鳴ると、兵士たちはおとなしくなる。
翔一は敵の全滅を確認すると、複数の治癒精霊を召喚して、けが人にまとわせる。
エルネスト将軍には特別大きな治癒精霊を送った。
「翔一殿とフロール殿が作ったその木刀は、凄まじい力を持っている。まるで水竜の叫びだった。周りに水気が満ち、邪悪な奴らの瘴気が浄化されるようでもあった。その木刀を『水竜剣』と呼んではどうだ。ひねりはないがわかりやすい名前だ」
木刀を見つめる翔一はエトワールにそういわれてうなずく。
「『水竜剣』……ありがとう、今度からそう呼ぶクマ」
「う、うう……」
血塗れのエルネストは首を振りながら、部下に起こされた。
「我らは助かりましたぞ、将軍。英雄がやってきて猿共を一掃しました」
「何があったのだ……傷が癒えて……」
兵士が将軍の折れた足を真っ直ぐにつなげようとしている。
普通なら激痛だが、痛みがない。
将軍の足は添え木が当てられ、一応小康を得る。
頭の怪我にはボロ布が巻かれた。
その間も精霊が将軍の体を治し続ける。
「あんたがリーダーか。すぐに部下にホブゴブの鎧を着せて、見張り代わりに立って偽装してくれ。カルネスが気が付いたら万事休すだぞ」
フロールが狼に乗り、急いでやってきてそう告げる。
「わかった、おい、この御仁のいう通りにやるんだ」
部下の数人がうなずく。
彼らは走り、武器を拾って大勢を整えている。
訓練されているのかきびきび動く。
「将軍、このお方が我らの救世主です」
兵士が黒い毛玉のような存在を紹介する。
「どなたかは知らぬが、よくぞ助けてくれた。このエルネスト、恩は忘れぬ」
エルネストは霞む目で助けてくれた何者かに頭を下げる。
「ご無事で何よりクマ」
翔一は小さくなっている。
将軍が心配で見に来たのだ。
「お、おぬし、皇帝陛下の子熊ではないのか。また、お主に助けられたのか……」
エルネストは数奇な運命に絶句した。
翔一の仲間も来ていたので、紹介する。
「僕は翔一クマ。このタマゴさんはフロール・高倉さん。カッコいい剣士さんがエトワールさん。おっぱいのおねーちゃんはビアンカさんクマ」
「オッパイのねーちゃんじゃねぇだろ。格闘士だ」
苦笑するビアンカ。
「うぬ。『疾風剣』エトワールは知っておるぞ。凄まじい手練れだとな。相棒の格闘士ビアンカも有名だ。フロール殿も帝都で名を成した。聞き覚えがある。翔一殿のうわさは皇帝陛下の友人であると……」
「ユアンおじさんにまた会いたいクマー」
翔一は優しい楽しい老人の顔を思い出す。
「翔一殿は『魔旋風』ドゥーベともいう。聖剣『フェルシラ』の主、魔聖剣『ジルバール』の主、オークの大祈祷師ゴル・サナスから勇者の称号を与えられている」
エトワールが紹介する。
「そ、そんな偉い人ではないと思うクマクマ」
エトワールがいった事は事実だがあまりピンとこない翔一だった。やや、恥ずかしい。
「そうか、本物の勇者が……世界を救うために……あの、偽勇者ヴィックとは違い、本物の勇者は人のために戦ってくれる」
エルネストは翔一の毛皮の手を掴む。
ぼと、涙が落ちた。
「将軍も凄い英雄と思うクマ。部下を救うために命を懸けて……」
「私などは……」
首を振るエルネスト。
「勇者一行はどのような任務でここにいらっしゃったのですか」
部下の一人、宮廷でも見た腹心の一人が問う。
「……いっても問題ないだろう、翔一殿」
エトワールが促す。
「ヴィックさんは聖剣『フェルシラ』を奪ってしまった。それと、魔女ガラエルさんを支配するアイテムも奪ってしまった。僕たちはそれを取り返して、ヴィックさんと魔女さんを討伐するつもりですクマ」
「ガラエルとヴィックは今や同盟し、我々人類に対して牙をむいているのです。わがイスカニア皇帝陛下とアーロン王は歴史的和解を行い。カルネス討伐の軍を編成しました。私は先遣隊として派遣され、キルボールとアーロンの軍と共に、会戦を挑みました。しかし、魔女の恐ろしき魔力の前に我が軍は壊滅……」
「敵は何をやったんだ」
フロールが問う。
「広範囲の眠り呪文です。多少腕のある術者ならよくつかわれる術です。雑魚でもない限りそうそう効くものではありませんが……」
「全軍寝たんだな」
「はい……大半が」
「魔的な防御を持っている、術者、神官、高位の戦士等は寝ませんでしたが、兵の大半が寝て、戦線が維持できるはずもありません。一方的な虐殺と拉致……」
「厄介な敵だな」
「……」
「やはり、少数精鋭で敵を討つ以外あるまい。将軍は兵をまとめたらすぐに退却して頂きたい。俺たちはカルネスに潜入する」
エトワールが厳しい顔で断ずる。
「それがいいと思うクマ」
「しかし、我々もこのまま去るというわけには。勇者の援助もせずに逃げただけでは末代までの恥。……そうだ、ここで我々はこの砦を占拠して死守します。騒ぎが起きている間に、敵を討ってください」
「そんな無茶な……こんな砦すぐに陥落するぞ」
フロールが粗製乱造の砦を見ながら断言する。
「アースエレメンタルで壁を強化していくクマ。守護精霊も呼ぶクマ」
「そうだ、オークの婆さんに援軍頼んだらどうだ」
フロールがポムっと手を打つ。
「オーク勢力は距離的にかなり近いです、援軍が呼べるなら……」
部下の顔色が明るくなる。
「これを持っていけ、婆さんのお墨付きだ」
フロールが祚物を差し出す。ゴル・サナスがくれた身分証だ。
(涼子さんにあげたものクマ……)
翔一は涼子を思い出して、悲しくなった。胸に手を当てる。
「翔一、急いで手紙を書け、砦への援軍依頼だ。死地に兵を送ることになるから婆さん渋るかもな」
「心を込めて書くクマ」
「精霊も呼ぶんだ、忙しいぞ、勇者」
「フロールさんも勇者と思うクマ」
「やめろ、そんな名前で呼ぶな」
兵の中でも手練れが招集され、密使として即座に出立する。
翔一は『ジルバール』等の強力な呪具で特大のアースエレメンタルを呼び、砦を巨大な土の壁で覆う。
そこまで強力なエレメンタルは特殊な能力があり、壁を石に変えてしまった。
「魔術を防ぐ守護精霊、火炎を吐くサラマンダー、電撃を吐く嵐精霊、アースエレメンタル上位君はしばらく残って石を投げる。いいね」
魔聖剣の魔力は無限であり、数時間で吹けば飛ぶような砦を魔力の要塞に変えてしまった。
砦の改修と兵の配置や準備を行っていると、いつの間にか夕方になっていた。
「砦の主が精霊を制御できないと意味がないぞ」
フロールの指摘。
「……じゃあ、作るから待っててほしいクマ」
翔一はさらに支配精霊を受祚したロッドを作る。
翔一の毛がタールで巻き付けてあった。
「これで命令できるクマ。永久じゃないけど、精霊の魔力が尽きるまでは現実界に居てくれるクマ」
「……これが勇者の魔力なのか。凄まじい。『七人の魔女』でもここまでの力を持っているのでしょうか」
あまり動じないエルネストが驚愕していた。
「うーん、あまり比較とかしたことないからわからないクマー」
「油断はするなよ、将軍。俺たちは明日朝に立つ。ホブゴブは朝日が一番苦手らしいからな。そうだ、食料はどうするんだ」
フロールはあくまで実務的だった。
「それは心配不要ですよ。たっぷり猿肉がある」
ニヤッと笑うエルネスト。
「まさしく弱肉強食だな」
翔一は術を終えると、その場で寝てしまう。
さすがに、術を使い過ぎたのだ。
「俺も寝るか……」
フロールも機能停止して寝てしまった。
二人は何も考えていないのか、土の地面の上で寝転がる。
「おい、英雄たちを最上の寝床に運べ」
エルネストが大声を出す。
「は!」
数人の兵士が翔一たちをそっと運んだ。
「敵が偵察に来ております」
兵士がやってきてそう伝える。
「我らもさすがに疲れた。将軍、手に余る敵なら遠慮せず我らを起こしてくれ」
エトワール、ビアンカもあくびをする。
「ご心配なく、しっかりお休みください」
将軍も疲労困憊だったが、目は爛々と燃えていた。
「九死に一生を得た。そして、俺は勇者のために戦う。正義の戦いだ。もしかしたら生まれて初めて、迷いもなく戦えるのかもしれん。帝国にいる間はつまらぬ権力争いに、無駄な血を流すばかりだったが……。すまんな、ケース、トビアス、お前たちの命を預けてくれぬか」
「は、我らは将軍と運命を共に致します」
名を呼ばれた家臣はそういうと、ひざまずく。
将軍はカルネスの方角を睨んだ。
「一矢報いるぞ」
将軍の声は部下には聞こえなかったが、天には届いたかもしれない。




