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55 悪の影

「そろそろ、寝るかなぁ」

 翔一は祭場を掃除し、儀式の痕跡を消した。

 儀式の触媒に使っていた『ジルバール』を手に取る。

 剣はブオンと不気味な振動を手に伝えた。

 ふと、霊視すると、様々な魔力を無理やり一つの剣に封じ込めた状態が見て取れる。

 今にもはちきれそうだ。

 精霊界ポケットに入れる。

「この剣もこのままではだめだ。一応あの儀式で形にはしたが、いつ崩壊しても不思議ではない」

 ダーク翔一の声。

「じゃあどうすればいいクマ」

「あの、アガタの受け売りもあるが、まずはこれで活躍して名を上げる、すると、世間の評判という呪力が剣を固定する。それと、もう一つの策として、剣に知性を宿らせて意志を持たせる。意志を持てば目的があるから力が放縦にならない」

「知性って、神でも宿らないと、無理だと思うクマ」

「これもいずれ出会うのじゃないか」

「わからないことを悩んでも仕方がないクマ」

 翔一はそこで話を切って、寝てしまう。

 寝ずの番は途中で起きたフロールがやってくれるようだ。

 しかし、翔一も警戒監視能力のある精霊を召喚してキャンプを守らせることにした。


 朝、干し肉と硬いパンをかじって朝食を取る。

 朝日に魔聖剣をかざすと、非常に高貴な剣のように見える。

 黒い刀身、柄の全体は骨、柄頭は虹色の宝石。

 念じると形を変える。小剣からかなり長大な両手剣。日本刀のような形にもできる。

 翔一はかなり大振りな野太刀に変えると、軽く振る。

「魔聖剣は形を変えられるのだな。その形は片刃、東洋のシャムシールのようだが、違うな」

 エトワールが腕を組んで翔一の形を見る。

 剣士として興味があるのだろう。

「これは日本刀、野太刀クマ。斬るのに合理的、突いても使えるクマ」

「フム、いい形だ、確かに。考え抜かれている」

 翔一は気に入った木を魔聖剣で斬り飛ばす。

 枝を伐り最後に幹を薙ぐ。

 剣をしまい、魔法の小剣を出して、形を整えていく。

「それは何をしている」

「昔、僕の故郷の剣豪が、強敵と戦うのに敵の剣より長い武器ならいいだろうと、木を削ってでっかい木刀で敵を倒したという話があるクマ。僕もそれに倣う」

「へぇ、面白そうなことやってるな。銀の鋲を埋め込んだらどうだ。人獣にも効くぞ。それ以外にも効くだろ」

 フロールがバックパックから銀貨から作った鋲を取り出す。

「あんたら、のんびりやってる時間ないよ」

 ビアンカの言葉に、手が止まる面々。

「怖いねぇちゃんに怒られる前に出発だ。作業は今夜やるぞ」

 フロールは作業用アームを腹にしまう。

「誰が怖いねぇちゃんだよ。殴るぞ!」

「それが、怖いんだが……」

 一行は動物に乗ると北東を目ざした。


 昼頃、何かが後方から迫ってくる。

 岩の亀裂に入りじっとする一行。

「バサバサと翼の音がするクマ。悪魔鳥よりは小さい」

「うむ、何か人のような蝙蝠のような黒い奴だ」

 フロールがスコープで確認している。

「人獣だと思うクマ。かなり臭い」

 はるか遠くなのに、既に匂っている。

「伝令か何かではないか」

「エパットの手下だぜ、たぶん」

 エトワールとビアンカも小さな望遠鏡で確認していた。

「近くに来たら射ち落とすか?」

 フロールが弓を構える。

「やってみてくれ。あいつがいたらうかつに動けなくなる」

 エトワールがうなずく。

 今のメンバーで長距離攻撃ができるのはフロールだけだった。

 翔一も石ころを拾うと手伝う準備をする。

 やがて、バサバサと蝙蝠の特徴を持った半人半獣の怪物が通り過ぎようとした。

 フロールはシュッと矢を射る。

 見事、怪物の胸に命中した。

「ギャー!」

 失速して地面に激突する。炎と電撃が怪物の体を焼いた。

「よし、突撃だ!」

 翔一、エトワール、ビアンカは飛ぶように跳ねると、怪物を包囲する。

 怪物は矢を抜き、慌てて逃げようとするが、首筋に『ジルバール』を押し当てられる。

 怪物の火傷や怪我はみるみる治っていくが、魔聖剣の魔力が当たる部分は逆に皮膚が割れる。

「ひ、ま、待て、何だこの剣は。か、体が、捻じれるように痛むぞ」

 混沌の魔力が怪物を侵食する。

「死にたくなければ、素直に吐くがいい。貴様の任務は何だ」

 エトワールは剣を抜く構えで怪物に詰め寄る。

「いうわけがなかろう、貧弱な人間め。……しかし、この恐ろしい剣を持った奴は何者だ。熊? 熊の人獣! 聞いたことがあるぞ、『魔旋風』ドゥーベだな」

「『魔旋風』ドゥーベ? 僕は翔一クマ」

「ひひひ、ショウイチ、そうだ、『魔旋風』ドゥーベの本名はそのはずだ」

「勝手な名前を付けないでほしいクマ」

「おまえほどの災禍なら、特別な名称を得るのは当然だ。誇りに思うがいい」

「そんな名前、お断りクマ」

「断っても無駄だ。神が名づけたのだ。世界が承認してしまったぞ」

「あー、まあ、仕方がないこれはそういうものだよ、翔一。敵ですら敬意を持って名をつけたら、全体の認識として広がってしまうんだ。それが英雄たちの善悪関係ない一つの共有感覚なんだ」

 ビアンカが説明してくれる。

「名前は呪力を持ってしまう。お前の世界ではどうか知らないが、この世界ではそうだ。俺も『疾風剣』という二つ名のおかけで、剣が強化されているのだ。冗談みたいだが、現実だ。二つ名がついてから剣の速度が上がった」

 エトワールまで肯定した。

「はぁ」

 翔一はがっかりして、一瞬剣先がずれる。

 ニヤッと蝙蝠男が笑う、

「気をつけろ!」

 エトワールが叫ぶが、一足遅かった。

 蝙蝠男は口から何か音波を発すると、それが術となって辺りを覆う。

 即座に暗黒に包まれた。

「キヒヒヒ! 俺は『音魔術』コールター様だ。多彩な術で貴様らを手も足も出ないようにしてやる!」

 さらに、蝙蝠の気配が消えたと思った次の瞬間には、全ての音が消えた。

(闇と、消音の魔術!)

 翔一はそう思ったが、後の祭りだ、

 クンクン嗅ぐが、匂いまで消えている。

(知覚を奪われたクマ! こうなったら)

 霊視に切り替えるが、辺りが魔術に反応して一面の光になるだけで敵の所在はわからなかった。

(このままではやられる!)

 翔一は焦って、思わず、精霊界に入った。

「お、お前肉体ごと精霊界に来れるようになったのか」

 暇そうに寝ていたダーク翔一が驚いている。

「あ、本当クマ。今までは魂だけだったのに。でもどうしようこのままではやられるクマ」

「あのなぁ、思うけど、ここまでやったら、蝙蝠男もお前たちの場所がわからんだろ」

 ダーク翔一が暇そうにしている。

「どういうことクマ?」

「お前らの空間は知覚奪われたけど、魔術の範囲だけしか効果ないってことだ」

「なるほど」

 そう聞いて、翔一は現実界にもどる。

 飛び出し、一気に跳ねて、範囲から出ようとする。

 何かに激突する危険があったので両手を前に出して飛び出した。

 思ったより狭かった。すぐに知覚が戻る。

 見ると、蝙蝠男はビアンカを手に掴んで宙に浮いていた。

 互いにもがいている。

 蝙蝠男は魔術を駆使しながらビアンカを捕らえようとするが、チビモフがつまらない術は消してしまう。

(直接攻撃系の術はチビクマで止まるクマ。エリア型の術対策もいるかな?)

 一瞬、そんなことを考えたが、それどころではない。

 先ほど集めた石ころを手に取った。

「喰らえ!」

 翔一は石ころを投げつける。

 見事、蝙蝠の脳天にヒットした。飛び散る獣毛と血液。

「グホ!」

 蝙蝠はビアンカを落とす。

 ビアンカは華麗に空中で回転して。さっと立ち上がって蝙蝠を探した。

「てめぇ、よくもやってくれたな!」

 ビアンカが鎖を取り出した時には、矢が刺さってもがく蝙蝠男が地に転がっている。

「赤外線にスコープに変えたら、場所が分かったのでな」

 フロールがゆっくりやってくる。足を引きずっている。

 蝙蝠の怪我は急速に治っていく、しかし、四人の戦士が目の前にいる。

「ヒヒ、これは無理だな」

 蝙蝠は不利を悟って今度は全力で逃げようとした。

 しかし、その試みは無謀といえただろう。

 エトワールの稲妻のような斬撃、ビアンカの鉄球、フロールの矢、そして、

「白虎一剣! 雲耀斬!」

 翔一の『ジルバール』はボロボロの蝙蝠男の首を刎ねていた。

 突撃から斬り捨てる動作で、逃げる怪物を追い越している。

 背後で首を失った蝙蝠男が倒れる音。

 蝙蝠男の首から噴水のように血液が舞う。

「見事な剣技だ翔一」

 エトワールが褒めてくれる。

「ありがとう。でも、エトワールさんの剣のほうが凄いクマ」

 事実、エトワールの反応の方が速かったのだ。

「倒したのはいいけど、話とか聞けなくなったな。それにしても、気持ち悪い顔だなぁ」

 フロールは拾った木の枝で蝙蝠の首をつついている。

 蝙蝠男の首は若干人間に戻っているが、人外の特徴も残っている。

「まだ幽霊がいるクマ」

 翔一はそういうと精霊界を見る。

 ダーク翔一がさえないおっさんの幽霊を捕らえていた。

「相手が弱ければ無敵。それが俺」

 幽霊をねじ伏せて上に座っている。

「それ、自慢にならないクマだよ」

「ま、まて、俺は、エパットに噛まれ嫌々悪事に加担を……」

「気のせいかノリノリで技を使っていたぞ。とにかく、お前の任務を吐け」

「俺の任務は伝令だ。魔王と同盟したから、定時連絡をしている」

「魔王? 何のことだ、魔王はイスカニアで死んだ」

「知らんのか、新魔王のこと。今魔王といったら、元公認勇者のヴィックだ」

 翔一は耳を疑ったが、仲間たちにこのことを話す。

 皆驚いた様子だった。

「こいつヴィックやガラエルに近づけるのか、何か持っているか」

「俺は伝令だからな、宮殿には入れる。俺の荷物に密書と身分証がある。もういいだろ、解放してくれ」

 ダーク翔一は男を解放した。

 元蝙蝠男の幽霊には大勢の怨霊が迫っていた。

 彼を助ける祖霊もいない。

 彼はただ殺人や食人を楽しんだのだ。

 救いはなかった。

「許して、許して、許して、ゆる……」

 冴えない男の叫びが聞こえ、やがて聞こえなくなる。

 蝙蝠男の荷物を探ると、確かに、身分証と思われる証文と手紙があった。

「これで入れるな」

 フロールが調べている。

 何気に封蝋をばらして、手紙を広げる。

「おい、そんなことして、使い物にならないだろう」

 ビアンカが止めるが、

「こんな蝋ごとき俺がすぐに元に戻してやるよ。えーとなになに、北部連合への合同作戦には、人狼二十を送る。エラリア軍は必死に守りを固めているが、レイド王国が半年以内に侵攻する。フム、まあありそうな話だな。やっぱり、カルネスとエパット、レイドの極悪人共は同盟関係なのだな」

「……驚きはないな」

 エトワールがうなずく。

「ついては、北部連合撃退の後には、召喚した魔物軍を援軍に派遣してほしいだってよ」

「思った以上に俺たちの仕事は重要だな」

「ボランティアなのが癪だが」

 ビアンカが肩をすくめた。


 人獣の死骸をアースエレメンタルで地中深く埋めると出発する。

 後一日でカルネスという場所で野営になった。

「無理は禁物だ、明日の早朝から都市に接近する」

 エトワールの言葉にうなずく面々。

 夜は待つ時間が長いので、例の木刀をさらに仕上げる翔一。

 フロールが細かな形を整える。

「宮本武蔵の木刀みたいになったな。打点には刃の代わりに潰した銀の鋲が入っている。なかなか面白い武器だ。俺が命名しよう、『甲斐風林火山』なんてどうだ」

「そこまで重々しいのはちょっと……シャイニングジャスティスとかどうクマ?」

「「クマ?」じゃねぇよ。中二病過ぎ」

 呆れて寝転ぶフロール。

「木刀なんか作ってどうするつもりなんだ。あんたにゃ『ジルバール』があるだろ」

 ビアンカが硬いパンをかじりながら聞く。

「強敵が二人いるから、剣も二本いるクマ」

「よくわからない理屈だね、その魔聖剣で二人仕留めたらいいじゃない」

「なんだかそんな気がするクマ」

「まあいいけどね、剣の名前は天命に任せるというやり方もあるよ。成し遂げたことに由来させてね」

「そうだな、それがいいと思うぞ。所詮は木刀、単なる木切れで終わるかもしれない。名づけは実績上げてから」

 フロールもビアンカに賛同する。

「そんなことはないクマ。フロールさんが作った木刀だから単なる木切れではないクマ」

「功を成してから名をつけた方が説得力がある」

 エトワールにもそういわれると、無理に名付ける事はあきらめた。

「そうするクマ」

 翔一はうなずく。

 

 皆と少し離れて、木刀に受祚を行う。

 翔一は『ジルバール』を焦点にして、頭蓋マスクと獣皮を纏って精霊を呼ぶ

 彼にとって最強布陣の召喚だった。

「僕と戦いたい精霊さんは木刀に入るクマ!」

 翔一は特定の存在を呼ばずに、広く訴えかけるようなことを行う。

 ブオンという音と共に、何かが木刀に入った。

「ダーク君、今入ったのは?」

「俺にもわからん、強力なアイテム使い過ぎだぞ。制御できるのか、そんな強力な奴を呼んで……正体もわからない」

「左肩の噛み痕が熱いから、獣の精だと思うクマ。よろしくクマー」

 木刀に反応はなかったが、悪意もないようだった。

 翔一はそっと精霊ポケットにしまう。

 キャンプに戻ると、ビアンカは寝ていた。毛布がずれていたので優しくかける。

 フロールは機能停止して寝転がっていた。

 見張りをしていたエトワールが手招きする。

「お前たちは異世界から来たのだろう。なぜ、俺たちの世界のためにここまで働いてくれるのだ」

 エトワールが静かに問うてくる。

「……僕は目の前の困っている人を助けたいのです」

「……」

「わかりません、本当のことは。口ではそういってますが、本当にそうなのかはわからない……。ただ、なにかしないと、何かやり続けないと。僕の中にはいつも焦ったような気持ちがある。……だから、僕はあまり頭が良い方じゃないから、ただ行動するだけなんです。でも、フロールさんは違う。フロールさんは悪いこともするけど、本当に正義を行いたい人なんです。本当の正義の味方だと思います。僕はそれに引っ張られているだけかもしれないです」

「彼は知らないかもしれないが、『地獄タマゴ』という二つ名を世間は付けている。二つ名とはかけ離れているな」

 少し笑うエトワール。

「フロールさんは怒っているんですよ。いつも。何かに。正義が行われないことに。だから、肉体を失って機械になってでも正義を行いたい。本当に滅茶苦茶で破れかぶれですよね、フフ。僕は彼の気持ちを代弁する器でしかないのかもしれない……まるで意志のない形代です」

「そうでもないさ、翔一殿。お主はお主だ。ただ、このタマゴの御仁と考え方が近いだけだ。そのような友人とはなかなか出会えるものではない」

「ありがとう、エトワールさん」

「もう寝よう。明日は緊張の連続だろう。見張りは寝なくても大丈夫なタマゴ殿に任せよう。起きてくれフロール殿」

「ああ」

 若干寝ぼけているフロールは見張り位置につく。

 翔一とエトワールは毛布を被る。

 二人は泥のように眠った。

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