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54 四人の戦士

 目が覚めた時むにゅっとした柔らかいものが頭に当たっていた。

 見ると、ビアンカが翔一の横で寝ている。

 起きようとすると、ぎゅっと抱きしめられた。

「クマたん……」

 ビアンカは寝ぼけているようだが、翔一は大きなオッパイにつかまって動けない。

「むぎゅ、く、苦しいクマ」

「うーん、もふもふ……」

「朝ですよ、起きてほしいクマ」

「はあ、朝か。もうちょっと寝る」

 ビアンカは二度寝を開始したが、翔一は解放された。

 毛布を彼女の上に乗せて、翔一は伸びをした。

「朝ごはんできたわよ。一緒に食べましょう。ビアンカも起きなさいよ。エトワール帰っちゃったわよ」

 エルザがやってきてビアンカの毛布を剥ぎとる。

「なにすんのよ、あんたは金貸しか」

「さっさとご飯食べないと、一人で置いていくわよ」

「あーはいはい」

「ハイは一回!」


 中庭に出ると、焚火に鍋が掛けられて、おいしそうなスープがある。

 翔一は一皿貰うと、硬いパンと一緒に食べる。

 なぜか両側に座る女性陣。

「狭いように感じるクマ?」

「モフモフは文句いわないの」

 ビアンカはパンをかじる。

「ウフフ。たくさんあるからお腹いっぱい食べてね。毛皮の勇者様」

 エルザはいつものお母さん的雰囲気になる。

「おいしいクマー」

 スープを飲む翔一。

「クマクマ」

 チビクマがやってきてじっと見る。

「おまえもちょっと食べるクマ」

 翔一がスプーンにスープを掬うと、ちょっとだけ味見をするチビクマ。

「キュー、クマクマ」

 おいしかったらしい。嬉しそうだ。

 ビアンカが驚く、

「え、何それ、超可愛いじゃん」

「キャー! 可愛い。なんていうのこの子。クマちゃんの弟?」

「チビクマです。防御攻撃焦点具であり、呪詛防御機能を持つ形代でもあるクマ」

「む、難しいんだな。まあ、俺には使えないか」

「そうよね、でも可愛いわ」

「防御に特化したら誰でも使えるクマ。お礼に、お二人にも差し上げますクマ」

「そうなの。じゃあ貰っちゃうおうかしら」

 エルザもにっこり。

「お、オウ、貰えるなら。欲しいかも」

 翔一は食事が終わったら、早速作り上げる。

「なんだか、最近こればっかり作ってるな。俺チビクマ職人じゃないんだぜ」

 ダーク翔一はぶつぶついいながら作る。

「チビクマ職人の朝は早いクマ」

「ほれ、できたぞ」

 精霊界からクマの手が出てきて、チビクマ二匹を現実世界に解放する。

 翔一はそれを受け取ると、ビアンカとエルザにチビクマを渡す。

「ちくっと噛みますクマ。それで契約完了、よかったら名前つけてほしいクマ」

「ええっと、待って、可愛い名前にしたいから」

 エルザが悩む。

「ちびモフでいいや、おいでちびモフ」

 ほとんど悩まないでチビクマと契約するビアンカ。

 言動は男っぽいビアンカだが、チビクマを抱く顔は少し少女に戻っている。

「あなた早いわね。どうしようかしら……」

「決断が遅い!」

 ビアンカがイライラしているが、エルザはこだわりが強いようだった。

「だって、可愛い名前じゃないとねぇ」

 結局、彼女が名前を付けたのは翔一たちが出発する直前だった。

「いいわ、クピちゃんにする」

「ようやく決まったクマですか……」

 若干うんざりしていた翔一だった。

「俺たちは偽勇者を追っていく。あんたたちには世話になった。命がけで戦ってくれなかったら、儀式は失敗していただろう。これを受け取ってくれ」

 フロールがズシリと重い袋をエルザに渡す。

「これは?」

「合計金貨一万枚の価値のある装飾品だ。宝石のついたネックレスとか指輪とかだな。死んだ兵士の補償に当ててくれ」

「……遠慮は無粋よね。私の国は貧乏だから、ありがとう、ありがたく使わせてもらう。でも、あなたたちからは貰ってばかりみたいに感じるわ」

「気にするな」

「じゃあ、お二人ともお元気で、さようならクマ」

 翔一はサンダーアッシュにまたがる。

 狼に乗った二人は吸血鬼の館を後にする。

「うーん、エルザ、やっぱり私あの二人についていくわ。後は任せたから」

 ビアンカはそういうと馬に乗る。

「はあ、私も行きたいけど、領主だから……クマちゃんとタマゴさんをよろしくね。タマゴさん、ちょっと壊れかけてるみたいだから気を付けてあげて」

「わかったぜ。元気でな。おーい、待って!」

 ビアンカはそう告げると馬を駆る。


 二人の狼は余程早いのか、『死霊の都』内では追いつけない。

 廃都を出て暫く行くと、遠くで二人と誰か男が一人話し込んでいた。

 敵という雰囲気ではない。ビアンカは拍車をかける。

 男はエトワールだった。

「お、あんた帰ったんじゃなかったのか」

「青剣城に戻っても暇だからな。腕を試す仕事があるのに、見逃す手はないだろう」

「公認勇者さんを追うのは、相当危険クマですよ」

「危険に生きるから冒険者をやっているんだ」

「金は出ないぞ、最近カッコつけてばらまき過ぎた」

 フロールが肩をすくめる。

「戦利品をいただくぜ」

「勝てばそれなりに大きいだろう、敵が敵だ」

 エトワールもうなずく。

 結局、四人連れ立って行くことになった。

 北東方向のカルネスを目指し、広大な『死人荒野』を進む。

「ところで、何だ、その小さなクマは。空を飛んでいる」

 エトワールが不思議そうに尋ねる。

「僕の防御護符クマ。前のお守りより強力になってますから交換しませんか? 壊れかけに見えるクマ」

 翔一はエトワールに渡した前の護符を見た。

 若干壊れかけているように見える。

「愛用していたがな。連戦の間にかなり傷んできた。しかし、その飛ぶクマは遠慮するよ。気が散る」

 苦笑するエトワール。

「じゃあ、この毛玉護符で。前よりかなり性能が向上しているクマ」

 シンプルな毛玉の護符を見せると、エトワールは交換に応じた。

 今はさらにベースに聖性精霊を常時受祚し、禍の呪詛変換とは別機能にしている。魔を防止しつつ、禍も汎用で止める優れものだった。

 翔一が説明すると、

「お主は研究熱心だな。いいことだぞ」


 以前、『死霊の都』はスタニールという小都市だった。

 当然、大都市のカルネスとは街道が整備され繋がっていたが、今はホブゴブリンが軍用道路として使っている。

 荒野の岩陰で、一行は作戦会議をしていた。

「儀式のときも突然やってきたように、常時敵が警戒している。街道を外れて荒野か山地を行かないと敵に簡単に捕捉されるだろう」

 エトワールが簡単な地図で説明してくれる。

「うむ、確かに」

 フロールがロボ腕を組む。

「平原ルートは北方諸国連合と睨みあっている。兵が展開しているから、危険極まりない。山岳ルートが若干マシだろう。俺の所感だが」

「山岳ルートが安全なんてことはないだろう。でも、狭い山道なら大軍に包囲されないだろうな」

 エトワールとビアンカはこの辺りで活躍していたので地形に詳しい。

「広い平原で大勢に囲まれたら、多少強くてもいづれ死ぬ。山は道が少ないから敵に出会う確率が高い。どうせ敵とは戦うと考えるなら、包囲されない山岳だ」

「それがよかろう」

 フロールの意見にエトワールは同意した。

 翔一は彼らが同意したことに特に反対もなかったので、素直にうなずく。

 精霊界から声がする。

「翔一、カルネスに入る住民専用の合言葉をアガタ婆さんが知ってるらしいぜ」

「それは助かるクマ、それにしても、かなり長いこと連絡くれなかったクマだね」

「俺たちが大物著名人と接触してたから、婆さん、自重していたそうだ」

「なるほど」

 翔一は南門の合言葉を知らせる。

「ふむ、合言葉のうわさは聞いたことがある。カルネスの住民が簡易に出入りできるように魔女ガラエルが設定したのだ」

 エトワールがうなずく。

「ガラエルさんって、住民の便利とか考えてくれるような人なんだクマ」

「悪の都でも農作物は必要だ。商人もいるんだぜ」

 ビアンカが何でも知ってるという顔。

「そりゃまあ、そうだよな。霞食って生きてるわけじゃないし。あの、ホブゴブ共も」

 フロールはダークファングにもたれかかっている。

「噂ではホブゴブリンは異界の人間で、ガラエルが異界の門を開いて連れてきているらしいぜ」

「異界って……じゃあ、俺の故郷にもつながっているのか?」

「僕の家にも帰れるクマ!」

「さあ、知らないよ。魔女に直接聞くしかないだろ」


 話し合いの結果、カルネスから南東に走る山岳に向かって移動することになる。

 低い山が連なり丘陵地帯といった方が正しいようだ。その丘陵地帯は東に向かってじわじわと高くなり白鱗山脈に繋がる。正式には緑覆山地というのだが、彼らは知らなかった。

 道は複数あり、馬で移動することもできる。

 古くからの文明地帯なのでカルネス近郊までは問題なくいけるだろう。

 問題は敵の存在だった。

 やはり、そこかしこにパトロールがうろついている。

 そのたびに身を隠し隠密精霊でやり過ごすが、移動速度の低下は避けられなかった。


 夜になって、キャンプをする。

「このペースなら四日は見ないと無理だな」

 エトワールが腕を組んでカルネスの方向を見る。

 ここはちょっとした高台だった。

「火を起こすと危ないから、熱の精霊でお料理するクマ」

 平べったい石に熱の精霊を宿して、鍋を乗せスープを沸騰させる。

「へぇ、あんた本当に便利なクマさんだね。精霊の力を便利な道具にしてる奴なんて見たことないわ。大抵の精霊術師は勿体ぶった占い師みたいな奴らか、半裸で大騒ぎしてるようなイカレタ奴らか」

 あったまったスープを飲みながらビアンカが褒める。

「他の人は知らないクマ。ゴル・サナス婆ちゃんだけが僕の知り合いクマ」

「世界の魔術界の十指に入るようなの以外は知らないってのも凄いことなんだぜ。じゃあ、その凄い祈祷師クマさんなら俺にすごい精霊を宿すことはできるか」

「できないことはないけど……」

 ちょっとリスクを考えてしまう翔一だった。

「戦力強化になるなら一つの手段だぞ」

 フロールが寝ころびながら賛成する。

「じゃあ、どんな精霊が欲しいクマ? 背中の入れ墨みたいなの?」

「ああ、これか、何かツキがよくなるって聞いたから腕の良い奴に頼んだ。フェニックスの入れ墨だよ、なかなかだろ」

 自慢げに背中を見せるビアンカ。

「フェニックス……ちょっと深い精霊界で話してくるクマ」

 すっと動かなくなる翔一。尚、この状態を「寝ている」と判断されることが多い。

「フェニックス……半神に近いような存在だぞ。あの女には手に余る力だ」

 ダーク翔一は否定的。

「呼ぶことは可能クマ?」

「できんことはない。お前の呪具とその魔聖剣を使えばな。そうだ、あの女の祖霊を召喚して近しい存在と同盟させればかなりのものが呼べるぞ。ほとんどの人間はどこかで野獣と交わりがある」

「入れ墨を完全な呪祚物にするより、その方がいいと思うクマ。契約にして必要な時に憑依させるクマ」

「さすが俺の本体。じゃあ早速やろう」

 パッと目を覚ました翔一。

「ビアンカさん、フェニックスは生身の人間には手余ります。しかし、契約してあなたの血筋に近い野獣なら呼んで助けにすることはできるクマ。祚物じゃなくて、憑依にちかい……守護霊的な感じクマ」

「それでいいよ。単なる模様じゃもったいないと思っていたんだ」

「じゃあ、魔法陣書くから、上半身裸になって中央でうつぶせで寝てくださいクマ」

 ブラ的なものを外すだけで簡単に上半身裸になるビアンカ。

 砂地に描く魔法陣の中央にうつぶせに寝る。

 儀式を守る祖霊を数体呼び出し、場の守りとする。

 精霊界に入って、ビアンカの魂から祖霊をたどって行く。

 無数の祖霊をたどり、とうとう、『原初の野獣』の元まで来てしまった。ほとんどの人間が全く彼と関係がないということはないのだ。 逆にいうと、あえて細い線をたどったともいえる。

 無限の草原と無限のジャングルが交差する場所に彼らはいる。

「息子よ、よく来た」

 実際は喋っているわけではないが、意思が伝わってくるのだ。

「お久しぶりですクマ」

「いつぞやはよく助けてくれた。妻も喜んでいる」

 彼の傍らには、大きな猫がリラックスしている。

(猫母ちゃんだ)

 翔一は暖かい毛皮に包まれたことを思い出す。

 猫母は翔一が来ると嬉しそうに頭を舐める。

「冷たいクマ、フフ」

「用件があるのだろう?」

「今日はフェニックスの霊をあの女戦士に宿したくて来たクマ」

 翔一ははるかかなたで寝ころんでいるビアンカを指す。

「お前が気に入った動物を連れて行くがいい。印を与えよう」

 突然、『原初の野獣』は翔一の左肩を噛んだ。

 右肩のエパットの噛み傷、左肩の『原初の野獣』の噛み傷。

「ありがとうございますクマ」

 翔一が頭を下げて、頭を上げた時にはもう二人ともいなかった。

 代わりに、光り輝く鳥のような者がいる。

「僕と一緒に来て、あの女の人と契約してくれないか」

 鳥は無言で翔一の前を飛ぶ。

 ビアンカのもとに行ってしまったようだ。

 翔一は即座に現実界に戻る。

 祭場に意識が戻ると、光り輝く精霊とビアンカが何かを話し合っていた。

 やがて、精霊はビアンカの背中に宿る。

「うおおおおお!!!」

 ビアンカの叫び。

 ぴょんぴょん飛び跳ねる。

「すっごい、体軽いよ。空でも飛べそうだ。ありがとうクマちゃん!」

 ビアンカはそういいながら岩を殴り、木を蹴る。

 木にはひびが入った。

「おい、何事だ。大きな音を出すな」

 見張っていたエトワールが文句をいう。

「今、俺の入れ墨にフェニックスが入ったんだぜ。これで、俺は百人力だ」

「これで増々嫁の貰い手がなくなったな」

 寝ころびながら、フロール。

「余計なお世話だよ、あんたこそ結婚なんてありえないだろ」

「まあまあ落ちついてほしいクマ」

 ひと暴れして、ようやく気分が落ち着いたのか、ビアンカは寝床に座る。

「しかし、面白そうな話ではあるな。俺にもやってくれないか」

「エトワールさんも入れ墨入れてるクマ?」

「まあな、死んだときの目印になるだろう。死人が身分証持っていられるとは限らんからな」

 そういいながらエトワールも鎧を脱いで背中を見せる。細くしまった筋肉。戦いの痕が縦横に走っている。背中にはこれもかなり美的な入れ墨があり、飛竜描かれている。

「飛竜クマか……やってみるクマ」

 これも同じ手順である、

 エトワールの祖霊をたどり、無数の祖先をたどり獣と関連のある者を探す、そして、荒野に行きつく。

 そこには巨大な翼竜がいた。

 蒼い金属の鱗、鋭い姿、手はなく翼があり、長い尾がある。

「君の遠い子孫が力貸してほしいといってるクマ」

「いいだろう、あの者が、重き使命を担う気持ちがあるなら、手を貸そう」

 翼竜の意思が伝わってくる。

「使命のことを教えてあげてほしいクマ」

 竜はうなずくと、虚空に舞い上がる。エトワールの元に跳んだのだ。

 急いで現実界に戻る。

 エトワールと精霊が話し合っていた。

「使命とはなんだ」

「……」

「……捨てた故郷に帰れというのか」

 エトワールの深刻な顔。

「……」

「いいだろう、お主が力を貸すなら逃げない。しかし、今の目の前の問題、友のために働く手伝いはしてもらうぞ」

 話が付いたのか、エトワールの背中に蒼き飛竜が宿る。

「不思議だな、これといった違いは感じないが」

「確実に変わったクマ。オーラがまるで桁違いクマ」

 翔一は霊視を使わないでもエトワールのオーラが感じられるほどだった。ビアンカよりやはり彼の方が上のようだ。

 さっと、稲妻のように居合抜きをする。

 翔一でも目を凝らさないと見えなかった。人の速度ではなかった。

 次に、ひょいひょいと二段ジャンプで立木のてっぺんまで跳躍する。そして、すぐに降りる。

「確かに、体が軽い」

「スゲーな、おい。俺もなんかすごい精霊入れてくれよ」

 フロールが寝っ転がりながらいう。

「それが人にモノを頼む態度かよ」

 ビアンカが怖い顔。

「わかった、ちょっと待ってほしいクマ」

 翔一は精霊界を覗く。

「あいつには祖霊がいない」

 ダーク翔一はフロールを見て断言する。

「え? それじゃ……」

「あいつに魂はある。しかし、どこともつながっていない。あいつに祖霊はいない」

「じゃあ、フロールさんは……」

「おまえの思った通りだ」

「……」

 現実界に戻る。

「フロールさんは無理」

「なんだよそれ、時間かけてその結末は」

「僕が呼ぶ単機能精霊だけつけられるクマ」

「じゃあ、要らないわ。もう色々つけてくれてるだろ」

 大の字になって寝てしまうフロールだった。

 もう闇が深い。

 翔一はあくびが出た。

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