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48 神界に集う聖剣

 翔一とフロールは荒野に立っていた。

「これが神界か、なんだか死人平野と変わらんぞ」

 どこまでも続く平原。

 空は晴れているが、若干霞がかかったように見える。 

 フロールはスコープで辺りを観察する。

「……あの岩陰で人がいるみたいに見えるクマ」

 翔一の指す方向を見ると、確かに岩場が見えた。

「あんな岩あったか……、あ、録画機能が調子悪いわ」

「神界のことは記録しない方がいいと思うクマ。そんな気がする」

「そうだな……」

 フロールは機能を切った。

 翔一は徒歩、フロールはダークファングを駆って進む。

 二足歩行だと、翔一はかなり遅い。

「僕もサンダーアッシュ君連れてきたらよかったクマ」

「後悔先に立たずって奴だ」

 岩の陰で野営をしている人間が居るようだった。

「誰かいるクマ……あ」

「どうした」

「知ってる人の匂いがする。知らない人もいるクマ」

「いつもながら、便利な奴だ。敵の匂いじゃないんだな」

 うなずく翔一。


 岩を回り込むと、数人の人間が待っていた。

 半裸の女と、漆黒の鎧の大男、片目の若い男と斧を持ったドワーフの戦士。

「やあ、翔一君久しぶりだね、これで聖剣が四本、いや、五本もそろいましたよ」

 半裸の女は聖剣の主ミレーヌだった。

「うむ、しかし、一つは主が存在しない異端の剣だ」

 黒い鎧の大男が答える。

「やあ君たち、ようこそ。僕はピット、本当は長ったらしい名前だけど、ピットでいいよ」

 片目の男は翔一に手を出す。

 翔一はモフ手を差し出して握手する。

「モフモフだね、フフ」

「僕は翔一クマ、このロボさんはフロール・高倉さん」

「翔一とフロール・高倉、変わった名前だ。異世界の人かな」

 ドワーフが重々しくいう。

「この黒い鎧の人は黒騎士アモン殿。黒騎士領って知ってるだろ? 彼が領主さんだよ。ピットさんはいいね、彼はアーロン王国の王様だよ」

 ミレーヌが紹介してくれる。アモンは人間では持てないような巨大な剣を背負っている。

「王様なんていわないでくれないか、僕はいまだに性に合わないんだよ」

 片目の王ピットは笑顔でミレーヌを制する。

 翔一は、同じく片目の王であるガルディア王を思い出したが、ピット王の方が瞳に深みがあると感じた。表向き柔和な雰囲気は似ている。

「このドワーフさんはピットさんの仲間で、『破戒僧』ドーリン。二つ名はあれだけど、凄い聖人なんだ」

「おいおい、褒め殺しする気か」

 ドーリンも苦笑い。

「翔一君は熊の人獣で、この子熊の姿が基本形なんだ。人獣といっても全然邪悪じゃなくて、それどころか聖剣の主で大英雄だよ」

「そ、そんな偉い人ではないと思うクマ」

「吸血鬼王を倒したのに謙遜は要らないよ」

「魔王も倒したというではないか、我々の中では最も高い功績を上げたといえる」

 アモンの声は男らしく野太く、穏やかな声だ。

「みんなの力で倒したクマ」

「こんなにモフモフで可愛いのに、精霊術も使うし、剣術も凄い、体力も人獣のそれ。彼が最強の聖剣の主だよ。彼は現代の勇者としてちょっとその筋では有名になっているんだ」

 ミレーヌが翔一の横に座って、背中をモフる。

「どんな筋なんだ。でも、確かに、それは凄い。『勇者』称号は長年形骸化していましたが、彼にこそふさわしいかもしれませんね」

 ピット王も嬉しそうに翔一の背中を撫でる。

「フロール殿は英雄の介添え人ですな」 

 ドーリンがフロールに話を振る。

「翔一はワシが育てた」

 フロールが胸? を張る。

「ところで、皆さんは僕たちを待っていたクマ?」

「そうだ、聖剣の使い手が集まったら吸血鬼王を討つつもりだ」

「そういうことなら話は早いな、各人の実力を教えてくれ、チームワークには情報が必要だ。俺は弓が得意」

 フロールは弓を見せる。

「俺は斧と治癒術」

 ドーリンが斧を見せる、これも相当な業物だった。

「僕は剣技だけ。一番ダメな奴だな」

 苦笑しながらピットは白く輝く聖剣を抜く。

「私も剣技だけだが、ガルディア王から力を授かったので、かなり独特なことができる」

 そういうとアモンは大剣を投げつける。

 岩を貫いて突き立ち、次の瞬間には彼の手元に戻っていた。

「すごいクマー」

 翔一は驚いて口をぽかんと開ける。

「僕もこの聖剣をガルディア王から授かった。後は天使の力を借りている」

 ミレーヌも剣を抜いて光にかざす。非常に美しい。

「ガルディア王様って凄い人だったクマ……以前、会った時には正体ばれたくなかったから、動物の振りして話とかしなかったクマ」

 翔一は宮廷で動物の振りをして子供とかくれんぼしたことなどを話す。

「あはは、君の正体知ったら、彼は腰を抜かすだろうね。あの人はいい人だけど、ちょっと抜けてるから。この熊君が凄い人だと気が付かなかったんだよ」

「ダナ王妃は……」

 翔一は彼らなら、何か知っているのではと思った。

「そのことはまだ追及してはならない。いづれわかる、嫌でも」 

 黒騎士が重々しくいう。

「……」

「そろそろ、出発しよう。話は尽きないが、語ってる時間もあまりない」

 ピットがため息をしつつ皆を促す。


 野営を片付け、装備を整えると、暗い空の地域に向かって出発する。

 動物に乗っていないのは翔一だけだった。

 明らかに、翔一だけ遅い。

「君、僕の前に乗らないか」

 ミレーヌが翔一に手を差し伸べる。

「ありがとうクマ」

 ひょいと持ち上げられ、ミレーヌの前に乗る。

 白くて、綺麗な馬だった。

「君みたいにフカフカの聖剣の主って有史以来いないかもね」

 ミレーヌはそういいながら翔一のモフモフを楽しむ。

 長い移動をしたようでもあり、ほんの一瞬で移動したようにも感じた。

「そろそろ、敵の館だな」

 フロールは空を見上げ、スコープに写す。

 空はいつのまにか、真っ暗だった。

「フロールさん、そういえば、いつも支配攻撃とか効かないクマ。何か秘密があるクマ?」

「俺みたいな義体はハッキングが一番怖い。簡単に支配される。それはどんな暗号を使ってもいつかは破られる。だから、俺のような専門家は、支配されたときの予備人格アプリを入れている。それも一つじゃないぞ」

「へえ、凄いクマ」

「メインにも入っているし、完全独立の予備人格もある。これは本当の緊急用だがな。俺の行動がおかしい時に、強制終了させて、予備人格が短時間支配する。今のところそれを使うまで追い詰められたことはないが」

「未来技術は凄いクマー。吸血鬼たちは人間の心を攻撃するのが好きみたいクマ」

「そうだな、念のためにちょっとしたアプリ入れとくわ」

 フロールはそういうと、起動ランプがピンク色になる、何かインストールしているらしい。

「クマクマ」

 チビクマが何かを警告する。うなずく翔一。

「もう少し行くと雨が降ってるらしいクマ」

「え、何その小さいの、凄い可愛い」

 ミレーヌがチビクマを器用にモフる。

「警戒、魔術焦点、魔術防御、多少の知能。非常に高度な精霊術妖術品だな。生命と精霊と物品の要素が全てある」

 黒騎士の分析。

「へえ、翔一君そんなことができたんだ。妖術も使えるの?」

「宿精のダーク翔一君が使えるクマ……」

 正義の英雄たちの前で悪い術が使えるのを告白するのはちょっとためらわれた。

「もう一人の自分ですな、聞いたことがあります。神界にも精霊界は繋がっておりますから、われらの会話を精霊界から聞いているのでしょう」

 ドーリンの蘊蓄。

「もしよかったら、皆さんに魔術防御として同じようなものを差し上げるクマですけど」

「ふむ、そうだな、お互い弱点を補う術を融通してから敵地に向かうのが賢明ですな」

 ドーリンの提案で、敵地に入る前に休憩し、術をかけることになった。


「エクセレスの聖なる光を皆に宿します。ミレーヌ殿とピット殿にはあまり意味がないですな」

 ドーリンが光を降ろしながらいう。

 それでも全員にかすかな光が宿ったようだ。

 霊視すると、全員のオーラが優しい光で守られている。

「じゃあ、ダーク君にチビクマ作ってもらうクマ」

 欲しがったのは意外と全員だった。

「フフ、可愛い。名前つけようっと。何がいいかな」

 ミレーヌは笑顔。

「こいつを使えば、俺の顔見て子供が泣かなくなるだろう」

 ドーリンがにやりと笑う。

 医者として傷だらけの怖い顔が彼の密かな悩みだったのだ。

「シルビア王妃が絶対喜ぶと思うんだよ。彼女が笑う顔が見たい」

 ピットはそういいながらチビクマを撫でる。

「私も妻が喜ぶと思う」

 黒騎士は小手を脱いで傷だらけの手を見せる。翔一より傷が多い。

 チビクマは軽く噛むと、騎士の肩に乗る。

「お、俺ももらってやってもいいんだからな」

 なぜかツンデレ風のフロール。

「フロールさんは肉体がないから……血が出ないと契約不可クマ」

「えー、何だよそれ。俺も欲しかった」

 最期にピット王が剣を抜いて、全員の剣や武器に魔を討つ加護を授ける。

「聖剣ではあっても、魔を討つ力があるとは限りません。僕のマナ『魔退治』の力を授けます」

 翔一はふと思いついて、ケーネの背骨を出す。

「これも聖剣だと聞いたクマ」

「超太古の聖剣でしょうな、これは」

 ドーリンが髭を撫でながら眺める。

 ピットはフロールの弓、黒騎士アモンの大剣、そして、ケーネの背骨に『魔退治』の力を付与する。

「すでに何らかの魔力があるものにさらに追加できるのか……マナの力とは神の力ですね」

 ミレーヌも感心している。

「これの主がいい人になるクマ」

 翔一は力の付いた背骨聖剣を眺める。青く光る紋章が刻まれた。

 準備が終わると、再び出発する。


 英雄たちはこの野営に馬を置くと、徒歩で移動し始める。

 フロールはダークファングに乗ったままだが。

「フロールさんは狼から降りないんだね」

 ミレーヌが不思議がる。

「残念ながら俺の体は壊れ始めていて治らない。あまり歩くと完全に足が壊れる」

「フム、確かにフロール殿の体はとんでもない技術ですな。遅れたこの世界ではどうしようもないのかもしれません」

 ドーリンはドワーフらしく技術に詳しいようだ。

「役立たずになるまでは、何とか命をかけるつもりだよ」

 フロールはあまり感情もなく答える。

「この御仁は体がどうあれ、心は英雄ですな」

 ドーリンはフロールが気に入ったらしい。

 ピット王もうなずく。

「得難い人物だよ、このご時世には」


 雨がしとしと降ってくる。

 辺りはかなり暗くなってきた。

 大地も濡れてぬかるみ、気持ちのいい状態ではない。

 吸血鬼の館はかなり巨大であるが、だれも住んでいないような空虚な雰囲気である。

「正面の門も開き、見張りもいない。待っているのでしょう」

 ピットが眼帯をめくり、輝く瞳を出す。彼の左目は何か独特な魔力を帯びだ強力なアーティファクトだった。

 皆、警戒して進む。

「現実界でも吸血鬼王は広間で待ち構えていたクマ」

「ああいう奴は同じパターンをしがちです。永遠を生きると、逆に新しいことができないんです」

 ミレーヌがうなずく。

「聖剣の主、筆頭の仰ることだ、間違いないでしょう」

 ドーリンが返す。

「僕がいつ筆頭になったんです」

「お主が聖剣の主になった時からだ。私の弟子だが、弟子になった時点で私より上の存在なのだ」

 黒騎士アモンが答える。

「僕より、どう見てもこの熊君の方が上でしょう。というか、アモン師匠には勝てませんよ」

「彼は異世界からの援軍。彼の義侠心に縋るのはどうかと思う。やはり、この世界の生まれのものが最大の責任を負うべきなのだ」

「……」

 翔一はアモンの言葉が自分を突き放したようにも聞こえたが、同時、自分をこの世界の責任から解放しようとしているようにも感じた。

 そっと、アモンの巨大な手が翔一の背中を軽くモフっとたたく。

「ありがとう、君は我々の恩人だ。だが、責任を負わないでくれ。この世界が愚かなのは君の責任ではない」

 翔一は何もいえなかったが。アモンの優しさを感じた。

「黒騎士さんは優しい人クマ」


 暗黒の館。

 現実界とは違い、執事がおらず案内はなかったが、開けっ放しの門や扉は悪意ある「歓迎」を意識させる。

 英雄たちは武器を抜き放つと、大広間に入った。

お読みいただきありがとうございます。

評価、ブックマークもありがとうございます、励みになります。


2020/8/1 副題変えました。

2020/8/2 誤字脱字修正。

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