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46 公認勇者ヴィック

 エラリア国境から『死霊の都』は動物に乗っていたら二日ほどで着く距離だ。

 しかし、途中にはうろうろする死者が所々塊になっているので、予定より時間がかかり、あちこち迂回する羽目になる。

 荒野は果てしなく、不毛の大地が広がっている。


「昔は耕作地だったんだよな。なんでこんな不毛の大地になってるんだ」

 フロールが硬い地面を触る。

 翔一と涼子は大地を調べた。

 霊視をすると、大地は暗黒の瘴気に満ちている。

「たぶん死の力が大地に蔓延してるクマ」

「死の力……んな、オカルト臭いこといわれても」

「大地がアルカリ性土壌になってます。植物は生えにくいでしょう」

「俺が聞きたいのはこういう回答だわ」

「極端な農業開発森林伐採などが行われると、大地が塩基化し、植物の生えない土地になります。古代文明の発祥地が砂漠化している原因の一つだといわれています」

「へぇー、じゃあここもそうクマ?」

「わかりません。ここの歴史には詳しくないのです」

「レイド王国のアホが支配してたというじゃないか。無理に開発して、砂漠化しても不思議じゃない」

 翔一とフロールの心に、首都レイドでの思い出がよみがえる。

 今でも思い出すとはらわたが煮えくり返りそうだ。

 あのような統治をする国家が、大地を破壊しても驚きはなかった。

「村の廃墟は多いクマ。一時的な破壊だけじゃないと思うクマ」

「だろうな、長年の蓄積と何らかの大きな原因があったんだよ。長期の干ばつとか、蝗とか、保水力がなくなって大洪水とか」

「……」

 翔一の勘ではあったが、それだけではないような気がした。

 不自然な荒野と感じる。

 フロールに批判されそうなので口にしなかったが、大規模な呪詛が大地を覆っているように翔一には思えた。

「あのアンデッドどもが放射線でも撒き散らしてるんじゃないか。本当にどこにでも居やがる」

 フロールが指す先にはボロボロの服を纏った骨と皮でうろつくゾンビやグールが屯している。

「あいつらを相手している暇はないクマ」

「そうだな、先を急ごう」


 都へ後一日というあたりで南から大勢の人間の気配を感じた。

 フロールが望遠で確認すると、人間の兵隊と鎖と枷をつけられたボロボロの人間の集団。

「兵士が三十人、鎖つけられた囚人が百人といったところだな」

 翔一はチビクマを飛ばす。

 旗を確認した。

「見たことがある紋章クマ、レイド王国だと思う……」

「レイド王国が囚人を連れてどこに行くんだ……方角的に、どう見ても、『死霊の都』だよな」

「囚人を吸血鬼の犠牲にするつもりクマ……」

「あいつらはこのままだと吸血鬼に血を吸われ、死骸はゾンビやグールになるという算段だな」

「何とか助けたいクマ」

「兵士共は雑魚だな。問題は助けた後だ。人口が減ってるエラリアなら受け入れてくれるかもな」

「ダーク君と相談してみるクマ」

 精霊界を覗く。

「道案内の精霊を使えば大丈夫だろう。危険を避けて案内してくれる」

「じゃあ、助けられたら頼むクマ」

 現実界に目を戻す。

「道案内の精霊? そういうのがいるなら話は早いな」

 フロールは何か気になるのか、関係ない場所をじっくり観察している。

「助けに行かないクマ? さっきからどこ見てるの」

「なんだか、あの岩の影が怪しいんだ。誰か潜んでいると思う」

「それは気になるけど、しかし、今助けないと、『死霊の都』の領域に入ってしまうクマ」

「そうだな、やるしかないか。涼子は潜んで、こそこそしている奴らが俺らに襲い掛かるなら攻撃してくれ」

「はい」


 フロールと翔一は狼に乗って飛び出す。

「なんだ貴様ら、熊とゴーレム?」

 レイド王国の隊長は道を塞ぐようにして出てきた二匹の人外に驚く。

「貴様たち、そいつらは囚人で吸血鬼王に差し出すつもりだな」

「そうだ、お前たちは吸血鬼王の手下か?」

 翔一とフロールは顔を見合わせる。

「そうだ、俺たちは人外の魔性。囚人共は我々が引き継ぐ、お前たちはこのまま帰るがいい」

「クマー、僕は悪いクマクマー」

 悪の雰囲気を出す翔一。

「フム、ちょっと話は違うようだが、ここまでの異形なら間違いないだろう。よし、俺たちは帰るぞ、代金は?」

「後払いだ、囚人共が死にかけている場合減額させる。商品を調べてから払うのは当たり前」

「フン、まあいいだろう。どうせ、多すぎる貧民は口減らしせねばならんのだ」

 兵士たちはあっさり帰投した。


 二匹の人外に怯える囚人たち。

「お願いします、食べないでください!」

 翔一はのっしのっしと近づくと、首枷足枷を聖剣で叩き切っていく。

 ぽかんとする囚人たち。

「お前ら、死にたくなければ、エラリアに行ってコンラッド王に面会しろ。臣民になって一緒に戦うなら受け入れてもらえるぞ」

 フロールがそう宣う。

「いいんですか、逃げても」

 先頭の男が跪きながらいう。

「道案内の精霊呼んだから、それに従っていくと危険がないクマ」

 翔一が精霊を呼ぶ。白い小鳥のような精霊で、人々の移動を促す。

 羊皮紙を取り出すと、コンラッド王へ彼らの紹介状を書く。

「俺も連名しておくぞ」

 フロールも名を連ねると、囚人の一人に渡す。

「これを王に見せるんだ」

「ありがとうございます、あなたたちは命の恩人です」

 受け取った男は涙を流して喜んだ。

 囚人たちはあまり若くない男女が中心だったが、それでも歩いてここまでくる体力はある人々だった。

 生きのびる可能性が出たとわかったら、いきなり元気が出たのか、歓声を上げて精霊についていく。

「あまり大声は出しては駄目だ! 静かに行かないと魔物が来るぞ」

 フロールが警告すると人々は慌てて静かに移動する。

「ありがとう、お二方。この恩は忘れません」「あんたたちは魔物じゃないんだな」「ありがとう、ありがとう」

 人々は小声で感謝しながらぞろぞろと移動する。

 フロールは念のため警戒していたが、とりあえずは敵はいないようだ。


「ご主人様」

 涼子の声がする。見ると、数人の人間が岩陰から現れる。

「お前たち、人外のくせに人を助けるのか。何者だ」

 翔一にはわかった、彼らは勇者一行だ。

「フロールさん、この人たちイスカニアから来た勇者一行クマ」

「勇者? なんかそんなご立派な奴らに見えんぞ、どこのならず者だ」

 フロールは全く信用してない雰囲気だ。

「酷いいいようだな。俺は公認勇者のヴィック・カース。こいつらは俺の仲間だ。お前たちは何者だ」

 勇者はにやつきながら自己紹介する。勇者一行は四人いる。

 フロールにならず者呼ばわりされて、ヴィック以外は明らかにムッとしている。

「僕は翔一クマ」

「俺はフロール・高倉。呪いでこんな姿になっているが、正義の味方だ。この熊は俺の下僕。この女もな」

 フロールのいつもの無駄な上から目線自己紹介。

「その狼はオークのウルフライダーが使う狼だ。お前たちはやはり魔物じゃないのか」

 筋肉だるまスレッソンが不信の目を向ける。

「この狼は魔神信徒のオークに酷使されていたクマ。僕が助けたクマ」

「下僕の割には相当な剣術よね、精霊術も使うみたい」

 魔法使いのゲオルギーネが指摘する。

「まあいいじゃねぇか、お前たち、方角からして『死霊の都』に向かうんだろ。俺たち一行もだ。ここは共闘しないか」

 ヴィックがにやりと笑っていう。

「いいと思うクマ」

 翔一は仲間が増えてうれしかった。

「……いいだろう、戦利品はパーティ単位で半分だ」

「おい、俺たちの方が人数は多いぞ!」

 スレッソンが切れかけている。

「気にするな、小さな話だ。いいぞ、フロールだったか、共に戦おう」

 握手の手を出すヴィック。

 フロールは嫌々握手する。

「フロールさん、勇者さんのこと信用してないクマ?」

 こっそりつぶやく。

「ああ、どうもな、こいつら目つきが悪すぎる」

 フロールも耳打ちした。

 理屈っぽいようだが、彼は勘が鋭い。


 しかし、彼らは同道する。

 全員、騎乗動物を駆って『死霊の都』を目指す。

「どうも気になるだが、その、翔一といったか、あんたはイスカニア皇帝の熊じゃないのか」

 ヴィックが聞く。

「ユアンおじさんは僕の友達クマ」

「こいつは凄いな。あの皇帝陛下のお友達とはな。大物じゃねぇか」

 ニヤリとするヴィック、スレッソンが何か耳打ちすると、大笑いする。スレッソンも下品に笑う。

 フロールはスコープをキュインと動かしただけで、反応はわからない。

 時々、ダークファングの頭を撫でるだけだ。

「俺たちのことばかり聞いてどうする、あんたたちも勇者というのなら、大物なんだろう。何かすごい魔物でも倒したのか」

 フロールが問う。

「あ? ああ、俺たちはまだ結成したばかりだからな。大した奴はやってない。吸血鬼王をやったら、それが最初の武勲だな」

 ヴィックが薄ら笑いを浮かべながら答える。

「あんたらが手練れなのはわかるぜ、組む前も武勲はないのか」

 氷原のトロールや蛮族、ゴブリンなどの討伐話を彼らはした。

(トロールは強そうだけど、他は大したことないクマ)

 思わず、翔一はそう感じた。

「あんたらの話聞いていると、シンシア辺りの冒険者なんだな。イスカニアじゃないのか」

「ああ、あれは違う。イスカニアは協力してくれているだけだ」

「あんたたちも、吸血鬼王をやろうってなら、何か武勲あるんだろう」

 スレッソンが問う。

「俺たちの最大の武勲は……多すぎるしいえないのもあるな。とりあえず、悪魔鳥を六羽全部倒したのは俺たちだ」

 フロールの言葉を聞いて、スレッソンとゲオルギーネ、僧侶エンケは顔を見合わせる。首を振って「嘘だろう」とでもいわんばかりの顔をしている。

「信じられないなら、好きにしたらいい」

「へへ、信じてないなんてことはないぜ、ただ、ちょっと突拍子もないからな」

「……」

 このような調子で、フロールと勇者一行は腹の探り合いをしながら『死霊の都』に向かう。

 野営も別々で、やはり、お互いに信頼はなかった。




 翌朝、朝日が昇るころ、『死霊の都』に到着する。

 異世界人翔一の目から見て、そんな大きな都市ではない。小都市というレベルだが、この世界なら大きな方といえた。

 街壁でぐるりと囲った城塞都市であり、堀もあり、簡単には侵入できない。

 しかし、まるで罠でもあるかのように、正面の街門は開いていた。

 跳ね橋も降りている。門番もいない。

「なにもおかしいところはありませんわ」

 ゲオルギーネの分析。

「……何だろう、街の温度が変だ低すぎる」

 フロールのセンサーが街の異常を察知した。

「あんた、変なことがわかるのね」

「吸血鬼王の街なんだぜ、何もないなんてことはないだろう」

 ヴィックが肩をすくめる。

「僕が先陣きるクマ。僕は硬い方だから」

 翔一は聖剣を出して肩に乗せて歩く。兜と小手を嵌めた。

 サンダーアッシュからは降りた。

「この辺で待ってるクマ」

 モフ手で狼のモフ頭を撫でる。

「おいあの刀見ろよ、凄い武器だぞ」「ああ、確かにあの剣なら大物をやれるだろう」

 ヴィックたちのつぶやきがかすかに聞こえる。

 フロール以外は動物から降りてゆっくり進む、フロールは弓を構えダークファングから降りない。最後尾につく。

 門から見える街並みは、災害も何もなかったかのような、綺麗な街が見えていた。

 人影は見えないが。

 翔一は降りている跳ね橋を越え、門に入っていく、入った瞬間スッと消えた。

「おい、おかしいぞ」

 ヴィックが皆を止める。

 しかし、翔一はすぐに出てきた。

「この町全体が幻覚クマ。中は怪物であふれているから気をつけて」

 皆うなずくと、ゆっくり門をくぐる。

 門を抜けると、街の本当の姿が露呈する。


 薄暗く太陽は見えず、街壁も建物も全て半壊している。

 廃墟の街だった。

 唯一まともに存在している建物は、正面にある大きな屋敷だけであり、そこだけは、逆に全く廃墟感がなかった。

 無数の死霊たちがうろうろしている。

「あの建物だな。行くぞ!」

 ヴィック、腰から剣を抜く。彼の剣は独特で、柄しかない。しかし、手に持つと光の塊のような剣身が音もなく出現する。

(ロボアニメのビームサーベルみたいクマ)

 翔一はそう思った。

 スレッソンは大型の両手用ハンマーを出す。光っているので何らかの聖なる力があるのだろう。

「聖なるローヴィエよ、光を宿らせよ」

 僧侶エンケは聖なる光で辺りを照らし、ふらふらとうろつく半実体の死霊たちを寄せ付けない。

 ヴィックを先頭に、左を翔一、右をスレッソンが守りながらゆっくり進んで行く。

 光を無視して迫ってくる死霊は戦士たちが斬り伏せた。

 三人とも破壊力は十分であり、死霊たちはただ倒されるだけだった。ヴィックもスレッソンも、武器は魔物の再生能力を阻害する力があり、死霊たちは斬られるとあっさりと消滅していく。

 ぬっと、地面が盛り上がり、巨大なゾンビが現れる。

「巨人のゾンビよ、どこから持ってきたのかしら」

 ゲオルギーネは魔法の矢を撃つがあまり効いていない。

 フロールが矢を連発する。

 矢は全て巨人の顔面を直撃し、巨人は電撃と火炎で脳を焼き尽くされて轟音とともに倒れる。

「おい、このタマゴも相当強いな」

 スレッソンの声がかすかに聞こえた。


 勇者一行が斬り開いて進む先には、巨大で陰鬱な屋敷が見える。

 これが吸血鬼王の住処だった。

 ヴィックは底知れぬ恐怖に震えながら、汗をぬぐい屋敷の前に立つ。

 屋敷の門は無防備に開いている。

 立ち止まると、足が進まない。

 後ろを見ると、仲間も同じだった。しかし、

「開いてるクマ」

 無神経に入って行く熊。

 思わずほっとしたヴィックだった。




2020/7/26~2022/9/29 微修正

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