44 捨てる神あれば拾う神あり、新たな旅
一カ月後。
翔一たちはエラリア王国にいた。
エラリアは子熊村のはるか西、死人平原の西側、大西海の沿岸、東に『死霊の都』、北はレイド王国残党の北方諸国群。その北は白戴山脈を越えてイスカニアになる。南は元宗主国のレイド王国。レイド王国の南はガルディア、東は黒騎士領。
あの後、拷問虐待されていた人々を救い、エルザの元にいた。しかし、長居はできず、リリーの亡骸を埋葬し彼女の両親への手紙を託してから、コンラッドを頼ってエラリアに逃げたのだ。
エルザは翔一に同情的だったが、天罰騎士やローヴィエ勢力から敵意を持たれる可能性があるので、孤軍奮闘しているエラリアに行くことになる。
コンラッドも快く受け入れてくれた。
天罰騎士団の本体はレイド王国に向かったのでエラリアからすれば、結局、敵でしかないという事情もある。レイド王国は元宗主国であり、勝手に独立したエラリアを許さず、敵視していた。
尚、壊滅した天罰騎士団の分隊は魔物の襲撃を受けて滅んだということになっている。ポーラ以下、分隊の士官はほぼ翔一が殺してしまったので、詳細が伝わる可能性がないことも幸いしたのだ。
コンラッドは翔一とその仲間を大いに歓迎してくれた。
彼は現在エラリア王として統治している。
到着の数日後、エラリアの宮廷に招かれる。
「よく来てくれた。翔一、いつまでもいてくれ」
コンラッドは顔面に大きなひっかき傷があり、相当な戦を潜り抜けた面魂になっている。
翔一は人獣なので拷問の跡は一つ残らず完治している。
不思議なことに、人間形態には残っているが。
「あんたが王子だったとはな、知らなかったぜ」
フロールが見様見真似のお辞儀をしながらいう。
翔一も何とか子熊形態で人間風お辞儀をした。
くすくす笑う廷臣や侍女たち。
「翔一がくれたお守りがなかったら、俺はシリウスに劣化狼男にされていた。可愛いだけの存在じゃないんだ憶えておけ」
彼の臣下たちはそういわれると、少し気まずそうに笑いを止める。
「目下、我が国は人獣軍との全面戦争を行っている。普通にいって苦しい状況なのは事実だ。だから、助けになるならどんな援助でも受け入れる、そして、どんな人間でも仲間にする」
ニヤリと笑うコンラッド、いかなる危機的状況でも笑えるタフガイという雰囲気だ。
「お守りとかいっぱい作るクマ」
「助かるぜ。早速必要なものや人員は用意するから何でもいってくれ」
「手はいくらでも貸すが、この国大丈夫なのか。人口も少ないみたいだな」
フロールはいつもながら口に衣せぬ発言をする。
「まあ、そうだな。人獣以外にも、東から死者軍団、南のレイドはおとなしいがいつ来ても不思議ではない状況だ。西の港の存在と北部諸侯の一部が手を貸してくれているから何とか現状維持している」
「北部諸侯も大変だろう、ホブゴブリンと死者が迫っているのは同じなのに」
「まあ、あれだ。北部諸侯の筆頭アルノエ公爵が俺の姉と結婚してる。姉はガルディアで勇名をはせたアデラ姫だ。聞いたことはないか?」
タマゴの上半分を横に振るフロール。
「姉君のことは知らないけど、結婚同盟外交って奴だな。上手くいっているなら何より」
「コンラッドさん、ユアンおじさんに手紙を書きたいけど送れるクマかな」
「ユアンおじさん?」
「イスカニアという国の皇帝さんクマ」
ブホっと飲みかけていたワインを噴き出す。
「王よ、汚いぞ」
傷だらけのタマゴ表面にワインがかかった。ワインはかなりの距離を飛んだのだ。
「す、すまん。翔一、イスカニア皇帝のユアノール十二世と知り合いなのか?」
「偶然知り合ったクマ」
「そ、そうか、一応経緯と手紙の内容は知っておきたい。それと、頼む、何でもいいから我が国への援助を頼んでくれ」
頭を下げるコンラッド。
コンラッドは誇り高い男で頭を下げるなんてことは絶対しないはずだが、国を背負った現状、恥も外聞もない。
昼食の後、翔一は手紙を書いた。
宰相が魔王かつ呪詛王であり、彼の魔術で様々な因果がゆがめられていたこと。そして、その死の間際に呪力を集めるため、大勢の直接支配下の人間、皇后以下重臣やその他大勢を魔王が殺したこと。彼を倒したのは翔一と聖剣の主ミレーヌと他一名。ミレーヌは神界で魔王の息の根を止めるために探索行に赴いたことを書く。
そして、天罰騎士団は依代に適した子供を生贄にして『盲目の天使』を作り、防御魔術に使っていたこと、その事実をばれないように魔王と結託して因果をゆがめていたこと……リリーが亡くなったことも記す。
翔一はリリーが死亡したことを書いたとき、少し涙が流れた。
最後に現状も書く、
『今、人獣を率いるエパットと戦うためにエラリアにいます。東には吸血鬼軍団、南は冷酷なレイド王国と天罰騎士の残党。エラリアは滅亡の危機に瀕しています。コンラッド王も奮戦していますが、良識のある国民が追い詰められている状況です。皇帝陛下にこのようなお願いをするのは僭越だと存じますが、エラリアに救助の手を差し伸べて頂けないでしょうか。お願いします。あなたの子熊、翔一より』
「うーん、まあこんなものか。お前が聖剣の主で怪物たちと戦う義務があることも書いておけ、帰って来いといわれたら面倒だからな」
下書きを読んだフロールの感想。
「僕が聖剣の主かどうかはわからないけど……」
「何いってんの。お前が主じゃなかったら、他の人間なんてだれ一人資格ないぞ」
「……」
翔一は下書きを訂正する。
「とにかくコンラッドに見せよう。外交も関わる話だからな」
翔一は下書きをコンラッドに見せる。
彼は会議室で数人の重臣とエラリアの地図とにらめっこしながら頭を抱えていた。
「ああ、翔一か、手紙だな。外交も関わることだから重臣全員で一読するがいいか」
うなずく翔一。
読んだ人々は、一様に驚愕の表情になる。
「魔王を倒したと、そのようなものが存在していたのか……」「宰相が魔王だった。イスカニアからすれば隠したい話ですな」「その熊殿は大英雄でござるな、これが本当なら」「天罰騎士! あの糞どもの正体が露見しましたな!」
重臣たちは様々な反応を見せる。
「翔一殿、疑うつもりではありませんが、あまりに突拍子もない話。聖剣を見せて頂いたら我らも納得が……」
重臣の一人が翔一に提案する。
翔一は無言で精霊界から聖剣を取り出し、鞘を抜く。
あたりに満ちる、蒼き清浄な光。
美しく輝く太刀。
どよめきが起きる。
「なんとも、確かに、凄まじい魔力ですぞ」
重臣の一人は術者なのか、一目で魔力の強さを理解した。
「前より強さが増したように思う。主と共に成長すると聞いたことがある」
コンラッドもうなずく。
「翔一、グロウギル公爵も見せてやれ、喋るから説得力あるぞ、フフフ」
フロールが半笑いで促す。
翔一はグロウギルを出す。
「こいつは公爵という立場を利用して、領民の子供を奴隷として売り払っていたクマ。魔王の正体を白状した時に魔王の呪詛でこのような気持ち悪い生き物になったクマ」
ビンの中でうごめく人面蛆虫のグロウギルを見せる翔一。
「うわー、気持ち悪!」
コンラッドの素直すぎる感想。
「なんとも汚らわしい生き物だ」
「我はグロウギル公爵だ。高貴なのだぞ、見世物にするな!」
グロウギルがキーキー怒鳴る。
「あの名高いグロウギル公爵がこのような姿になるとはな。たしか、イスカニアでは公爵家は断絶になり、新たな領主がハイエルフ領の主になったとか……ハイエルフ領自体、首都郊外に移転すると聞きました」
事情通らしい老人の重臣。
「よし、もういいだろう。手紙には我が国の親書も添える」
「コンラッド王、オークの大祈祷師ゴル・サナスに援軍頼んだらどうだ。翔一と俺は知り合いなんだぜ。アーマーラ女神信仰のオークは魔物じゃない。信頼できるぞ」
「わかった、この際だ、このお二人に力を借りよう。諸君も良いな?」
コンラッドが重臣たちに聞く。
「御意」
反論する重臣もいないようだ。
「ちょっと控室に来てくれ、話がある」
コンラッドは翔一とフロールを控室に案内した。
粗末な机があり、召使が茶を用意する。
「あまり頼みたい話ではない。俺も気が咎める」
「遠慮するなよ」
フロールが促す。
「東の吸血鬼軍団、『死霊の都』において、吸血鬼王が復活したと神託があった。このままでは我が国は終わる」
「……」
「実際、死人の軍勢は増えて、国境を越えて次々と襲来している。拠点防衛は可能だが、農地を守る余裕まではない。現在南と東側の農園が稼働しているが、東側が機能しなくなったら、現状の少ない人口も維持できなくなるのだ」
「つまり、『死霊の都』に行って吸血鬼王をどうにかしろってことだな」
「ああ、すまん。頼む」
「エパットは放っておいていいクマ?」
「人獣は強いが数が少ない。死人共は一人一人は弱いが、無数の数で押してくる。戦略的に見て死人の方が脅威なんだ」
「わかったクマ、吸血鬼王を倒すクマ」
「すまない、何百年も生きている奴だ、相当手強い筈。こんなことを頼める義理じゃないのはわかっているが……」
「目の前で困っている人を助けるのは当たり前クマ」
召使がやってくる、
「ダナ? あの小さな女の子か。通せ」
コンラッドが怪訝な顔。
ダナがおずおずと入ってくる。胸にはユニコーンの杖を抱きしめていた。
「ダナちゃん、その杖は……」
翔一が子熊村に放置してきた杖だった。
「あの人たちには使いこなせないわ。それに、このユニコーンの杖はこの国で使った方がいいと思うの」
ダナもこの国の状況は理解している様子だった。
この国の戦士たちは皆どこか怪我を負っている。
常に戦争状態なのだ。
「ユニコーンの角が付いた杖? 確かに凄い魔力だが……」
コンラッドはどう反応していいかわからないという顔。
翔一はコンラッドが立ち上がるごとにうめいているのを知っていたので、杖をかざしてコンラッドに治癒精霊を張りつかせる。
「杖の力を解放するクマ、じっとしていてコンラッドさん」
「おお! 体が軽い! 痛みが消えたぞ。シリウスにかぎ爪でやられてから痛みが凄かったんだ」
コンラッドは軽く跳んだり、太い腕をくるくる回して、痛みがないか確かめている。
「傷跡は消えないのだな」
フロールがスコープを動かす。若干、作動音が変だった。
「いいや、これで十分だ。兵士共に早速使いたいがいいか」
「コンラッドさんにあげるクマ。僕が持っていてもほとんど使わないクマ」
「ありがとう。遠慮はしないぜ。それにしても、お前たちには助けてもらってばかりだな。助けるつもりが、結果は真逆だ」
苦笑するコンラッド。
「吸血鬼王とやらを倒すにしても、準備がいる。少し待ってくれ」
フロールは腕を組む。
「ああ、必要なものがあったら遠慮するな」
コンラッドは杖を抱えて控室を出た。
翔一が天罰騎士から助けた人々は全員が女で、牢から出して治癒してから半分は故郷に帰った。
残った四人の女たちは『聖熊四姉妹』と自ら名乗って翔一に仕えている。
筆頭が老女のアガタ、妖術を使う。二番手が中年のゼルマ、ローヴィエの神官で異端。三番手がマルギット、半裸の蛮人で祈祷師。四番手が少女モリー、アルナーという誰も知らない神の巫女。
翔一たちが話を終えて休憩していると、四姉妹と二人のエラリア兵がやってくる。
「翔一さま、ゼルマとマルギットがこの二人の男と結婚したいと申しております。祝福をお願いします」
筆頭のアガタが四人の男女を膝まづかせる。
「おい、まだこの国に来て数日しかたってないぞ」
フロールは呆れ気味だ。
「このようなご時世、結婚できるときにしておかないと」
フフと笑うアガタ。
「わかったクマ、でも、祝福ってどうやるクマ?」
「言霊で祝ってやってください。翔一さまにとって最も偉大な存在は何になります?」
「たぶん、『原初の野獣』さんだと思うクマ」
「では、そのお方の名のもとに祝福してください」
翔一は彼らの名前を読み上げて、から『原初の野獣』の名のもとにおいて祝福する。
四人は感謝して立ち上がる。
「お祝いクマ」
翔一は精霊界を覗いて、たくさん置いてある受祚物から適当なものを出す。毛玉お守り、綺麗な石で作った護符などである、翔一は暇な時間があれば祚物を作って研究していた。
「これは魔法や悪い呪詛、小さな怪我を吸って膨らむクマ。膨らんだらきれいな水中で絞るクマ」
彼らは礼をいって受け取る。
「翔一さまは剣術だけではなく、魔術も得意ですね。私より上ですよ」
アガタが褒める。
「僕とフロールさんは準備が整ったら、吸血鬼王を征伐にいくクマ。生きて帰ってこれないかもしれないけど、皆さんはコンラッド王を助けてほしいクマ」
「そんなこといわないで、クマちゃん」
モリーが翔一に縋る。
「これ、よしなさい、モリー。聖剣の主が強敵と戦うのは宿命。我らはせっかく術を学んでいる。何か手助けできないか考えるんだ」
アガタが諭す。
「私もついていきます」「私も」
新婚二人の女も夫のことを忘れたような言葉を吐く。
「駄目だよ、とても危険な旅なんだ。ダナちゃんも連れて行くつもりはないクマ。彼女をよろしく頼むクマ」
「え、私も行くわ」
ダナが驚いて口をはさむ。
「これは大人の戦いなんだ。子供はおとなしくしておけ」
フロールは手加減ない。
「タマゴちゃんの意地悪!」
ダナは怒ってどこかに行ってしまった。
「……アルナーさまのご神託を降ろします。アルナーさまの預言の力はとても高いのです。せめて、お聞きになってから出発してください」
モリーが頭を下げて懇願する。
「私も……ほとんどのことは翔一さまの方が上だから、そうだ……」
アガタはそういうと、左目をぽろっと取り出す。どうやら義眼だったようだ。
「わわ、大丈夫クマ?」
「心配なく、これは義眼です。私の魔力水晶です。これをお渡しします。これを使えば私と交信できますぞ」
「でも、お目めがなくなって大丈夫クマ?」
「大丈夫です。私が翔一様より勝っているのはこの世界の知識だけです。よかったらこの婆の知識をお使いください」
「ありがとう、助かるクマ」
翔一は義眼を精霊界ポケットに入れる。
「ふむ、婆さん聞こえるか、俺はダーク翔一。翔一の宿精だ」
ダーク翔一が義眼を手にしている。
「おお、これはこれは。翔一さまの宿精殿は妖術をお使いになるようですね」
「あんたに頼みがある、この宝物で杖を作ってくれ。片割れは作ってくれないから……ごにょごにょ」
「……はあ、わかりました……」
翔一は宿精と老女がこそこそ話しているのは気が付いていたが、介入するのも面倒なので放っておく。
「わかりました、呪物はここに……」
老女がボロ布の袋をかざすと、にゅっと精霊界から毛皮のモフ腕が伸びて、そこに何かが入ったようだ。老女は大事そうに抱えてどこかに行く。
「ダーク君何か渡したクマ?」
「おまえは興味ないだろ、今までの戦いで敵から回収したものだ。俺が使う」
「悪用しないと約束するクマ」
「ああ、もちろんだ。俺はお前の目的を尊重している」
数日後、準備を整えると、翔一、フロール、涼子は出発する。
厩を出ると数人の見送りがいる。
女性ばかりで『聖熊四姉妹』とダナだった。
「アルナー様からのお告げです。翔一さまは大きなものを失います。それは幾つもです。しかし、それに耐えたならば未来は開かれるでしょう」
出発前にモリーが告げる。
「うーん、何か気を付けることとかないのか」
フロールが腕を組む。
「諦めないことです。そうとしかいいようがありません」
「わかったクマ」
「今のお告げ何か意味あったのか、漠然とし過ぎだろ」
フロールは手厳しい。
アガタがやってきて、何かジャラジャラと野蛮な装飾が施された一メートルくらいの杖をそっと差し出す。精霊界からクマの手が伸びてそれを引きずりこんでしまった。
(ダーク君また変なもの手に入れて……)
「地獄のダイヤ、オーギュストの上顎、ケーネの頭蓋、砕けたユニコーンの角、そして、魔王の魔剣の破片。この杖は一晩で育てた木だ。精霊の力で一気に成長させて各呪物を杖に練り込ませている。これは焦点具であり、同時に、異界と現実をつなぐ力の特異点でもある。このチビクマを持て」
ダーク翔一は精霊界で獣の精霊を呼んで粘土をこねると、杖から魔力を発して動く人形にする。
手のひらサイズの小さな子熊の像。
ダーク翔一が魔力を込めた瞬間、モフっとした小さな毛皮の熊になる。
「このちっさい熊は?」
「現実界における俺の出先だ。ここから魔術を撃つことで、力の減衰がない。お前の毛玉に似たようなものだが、これは攻撃もできる」
「まあいいけど、あ、歩くし飛ぶクマ」
精霊界から出したチビクマは自在に飛べる、しかも、
「クマクマ」
何やら喋るようだ。
「キャア、それ凄く可愛い。私も欲しい!」
ダナが叫ぶ。
「これはあまりいいものではないクマ……」
「それくれたら、私を置いていってもいいわ」
「翔一、それか同じもの作れないのか。ダナが納得してくれるチャンスだぞ」
フロールが小声で耳打ちする。
「ダーク君、同じようなので自立型、防御中心のを作れないか、ダナに持たせたいクマ」
「精霊術師以外はあまり持てないが、毛玉と交換なら大丈夫だろう」
そういいながら同じようなチビクマを作るダーク翔一。
ぽむっと、小さな熊が出てきた。
「ええっと、まず、前あげた毛玉と交換して……ちょっとだけ噛むけど我慢して」
チビクマはダナの指を噛む、
針で突いたような痛み、ダナは微かに痛そうな顔をしただけだ。
我慢強いし意志が強い。
「これでダナちゃんはこのチビクマのご主人様クマ。前の毛玉と同じ性能があるけど、自分で判断してお風呂に入って瘴気を出したりできるクマ」
「クマクマ」
「きゃー」
ダナは大事そうに抱きしめる。チビクマもダナにすりすりする。
「ありがとうクマちゃん。大事にするわ」
「さあ、出発クマ」
「待て、俺からも贈り物があるぞ」
そういうと、フロールが二つの包みを見せる。
出すと、一つはケーネに破壊された三日月の前立てがある侍ヘルムと同じもの。もう一つはどう見ても茄子の形をした侍ヘルメットだった。
「すごい、この三日月! レッツパーリィクマー! ……しかし、もう一つは凄くかっこ悪いクマ。茄子?」
「おいおい、茄子ヘルメットも性能は変わらんぞ。これをつけて突撃する雄姿!」
「……すごく微妙なのでこれはお返ししますクマ。気持ちだけでおひとつ」
「前のあいつみたいなのが出てきたら、ヘルムが壊れて予備がいるかもしれんぞ。持っておけ」
「うーん、わかりました。すごく切羽詰まった時だけ使いますクマ」
「遠慮はいらんぞ、常時つけろ。ドン臭いクマに、面白ヘルム。すごく似合ってる」
「……まあ、そんな魂胆だとは思ったクマですが。あくまで予備です」
茄子ヘルムを渋々受け取る翔一。
「よし、じゃあ出発だ」
フロールはダークファングに乗る。
翔一はサンダーアッシュ、涼子は新たに購入した乗用山羊。
涼子は大型の斧を持っていた。
「あいつはちょっと破壊力がないからな」
何かいいたげな翔一が口を開く前にフロールが答える。
「あとで、力精霊をつけておくクマ」
毛玉お守りが余っているのでフロールと涼子にも渡す。
「おまえの怪しげなアイテムだらけにするつもりか」
フロールは苦笑するが、特に断ることはなかった。
はるか東に山地が見え、その麓に『死霊の都』があり、そこに吸血鬼王がいるという。
一行は宮殿の門をくぐり出発した。
2020/7/22~2022/11/26 微修正




