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24 文明地帯への潜入

 高原地帯を抜けると、眼下に青く広い農地が広がっていた。

 ほっとする一行。

「あれがキルボール伯国です。気を付けて、よそ者は歓迎されないわ」

 カノが指さす。

「狼と山羊さん連れて行けるクマ?」

「うーん、たぶん、税金を払えば大丈夫だと思います。国境の宿場町にダレスという男がいますから、彼に金を払えば何とかなると。我アルガン族の名を出してください。たぶん、便宜を図ってくれます」

「ありがとうカノさん。帰りも危険だと思うから、小鳥あげるクマ」

「え、でも、私に操れるのかしら」

「知性精霊を支配する支配精霊を受祚したクマ。それを身に着けたら、小さな精霊なら支配できるクマ。小鳥の知性精霊を支配しておけば意思疎通もできるし、命令もできるクマ」

「ちょっとわからないけど、ありがとうクマさん」

 カノは祚物を受け取ると身に着ける。

「そうそう、大丈夫、使えばわかるクマ」

「ええ、意味が分かったわ。このネックレスの精霊の力で小鳥を支配するのね。ありがとう、本当に助かるわ」

 翔一たちはカノと手を振って別れる。

「私は小鳥開放するわ。ありがとう、頑張ってくれて」

 ダナは小鳥の術を解くと、空に返す。

 ゆっくりとなだらかな坂を下っていく。この辺りは青い大地が広がる豊かな土地だった。

「綺麗なところクマー。精霊もいっぱいいるクマ」

「それだけ、取り合いが多い場所と思った方がいいぞ。いい土地は誰もが欲しい。だから警戒もしっかりやってるだろう」

 フロールは考え方が辛い。

「どうやって入っていくクマ」

「まず、俺は目立つからタマゴ形態になって動かない。メガネを貸すから翔一と涼子は二人ともかけろ。俺と常時リンクできる」

「二人同時にリンクするクマ?」

「未来技術は世界一ぃいい! というか当たり前だな、二人リンクくらいで驚くような話か! 俺は基本、お前たちにリンクする。ダナは眼鏡のことはわからんだろうから、しっかりお前らが世話するんだ」

「もちろんわかってるクマ」

「語尾、クマ禁止な」

「え、それ、かなりきついクマ」

「人間形態になれば問題ないだろう。さっさと変身する」

 翔一はあきらめて人間形態になる。

 オークから貰った一般的な人間の衣装だ。

「目立つから今後はその姿が基本だ」

「はいはいクマクマ」

「クマいうなっての! ハイは一回!」

「クマちゃん、翔一さんになったの。私クマちゃんの方がいい!」

 ダナの不満が聞こえる。

 フロールは手足を引っ込めて、山羊のサドルバックに入る。

「俺はなぞの骨とう品で、イスカニアの商人に鑑定してもらうという設定だ」

「謎タマゴですねク……」

 クマといってはいけないとなるといいたくなる翔一だった。

「だから大事に扱えよ。涼子はお姉さんで、翔一は弟。お前らは若い交易商だ。ダナは……金持ちエルフのお嬢さんで、辺境を遊び過ぎた、それでいいだろう。街に入ったら護衛を雇え」

「ちょっと無理がある設定かもしれませんよ」

「諦めろ、どう言い訳しても、現状、説明つけるの難しいだろ。何かありそうなら暴力か賄賂で押し通すしかない」

「暴力はなるべく最後にしますが、賄賂なら平和かなぁ」

「おまえの得意技だ」

「それは誤解ですよ、たぶん」


 宿場町は簡単に入れる。

 守衛はほぼ何もいわない。その分、宿と税関しかないシンプルな町だった。

 ダレスという男を探す。

 ダレス商会という看板が目立つ場所にあり、簡単に発見できた。

「こんにちは、ダレスさんという方に会いたいんですけど」

 涼子がそういいながら、一行は店に入る。

「私がダレスだ。お嬢さん方は」

 店番は一人の中年で、鋭い目つきの男。

 店に人は彼以外居らず、雑多交易品のサンプルらしきものが置いてある。

「私たちはアルガン氏族の関係者です。代価はお支払いしますので、便宜を図って頂きたいのです」

「フム、アルガンの人たちが来るとは珍しい。ちょっと雰囲気が違うようだが……値は張るぞ」

 うなずく涼子。

「で、何が欲しい」

「イスカニアに行きたいので身分証と必要な書類」

「イスカニアは巨大な貿易大国だから、入出国は簡単だ。しかし、貧乏で頭の固いキルボール人が難しいな。アーロン人などはほとんど入れない。キルボール人とイスカニア人なら簡単に出入りできる」

 そういいながら、身分証のメモを見せる。

「まあ、普通に考えてイスカニアの偽造身分証がいいだろう。キルボールでもいいが、それはお前らに任せる」

「イスカニアの身分証を作って下さい。人間二人、エルフ一人」

「そのエルフは……なんだか、ちょっと普通のとは違うようだが……まあいいか、ハーフエルフの子供ってことにしておけば珍しくもない」

「では、それで頼みます」

 涼子の心のこもらない返事。

「あんたもなんか普通じゃねぇな。でも、詮索はしないぜ。代金は三人分、総額六十枚だ、うち前金で十五枚くれ。明日にはできるから残金持ってきてくれ」

 涼子は無言でうなずく。

「護衛を雇える店を知らないか」

「酒場が冒険者ギルドやってるからそこに行けばいい。正規の奴を雇った方がいいぜ。多少高くても」

 うなずく涼子。三人は店を出る。

「あの男は嘘をついていなかった。大丈夫でしょう」

 涼子。翔一はうなずく。

「酒場は行きたくない」

 ダナは嫌がる。以前悲惨なことになったのだ。

「コンラッドさんみたいな汚れ仕事ができるタイプが必要だよ。僕たちは見た感じどう見ても女子供扱いで、馬鹿にされるからね」

「女子供っていい方嫌い」

「ごめん、気を付けるよ」


 翔一たちは意を決して酒場に入る。

 それほど活況という感じではない。

「はい、いらっしゃい。お嬢さん方、どのようなご用件で。食事ですか、仕事ですか?」

「冒険者を雇いたい、旅の護衛任務だ。それと食事」

「では、目的地を書いて下さい。依頼主の名前も」

 涼子はほとんどためらいもなくさらさらと書く。

「涼子さんね……目的地がイスカニアの皇親大聖都……ほとんど何も起きないと思いますよ。これは経費込みで一人金貨十枚もあれば十分ですよ、三日ほど待ってもらえますか」

「十二枚出すから明日朝までに四人ほど集めてくれないか」

「いいでしょう、今すぐ連れてきますよ、食事をして待っていてください。食事は三人で一銀貨になります」

 涼子は無言で出す。

 三人は贅沢とはいえないが、そこそこの食事をとった。

 翔一が食後のワインを飲んでいると、男たちがやってくる。翔一はこの世界に来てから酒に強くなった。

「ほう、あんたらが、急いでいる客か。俺たちはボルトン四兄弟だ。よろしくな」

 涼子は無表情に握手する。

 翔一はこっそり霊視する。

(武器は一応魔法、弱い。鎧はベザントとラメラ―。これは魔法じゃない。首に下げている護符は守護系の魔法。……なんだか見分けがつかないなぁ。顔も装備もあまり変わらない)

 翔一はそう考えて、彼らを内心番号で呼ぶことにした。

 装備から判断するに、多少経験を積んだ兵隊レベルだと思われた。

「俺たちは熟練冒険者だから安心していいぜ」

 ボルトン二が答える。本当に見分けがつかない。

 彼らを見分けるには若干の装備の違いを覚えるしかなかった。


「それにしても、涼子さんもそのお嬢さんも凄い美形だな」

 ボルトン三、ダナがお気に入りのようで良く笑顔を見せる。

 ボルトン四は涼子に見とれてボケーっとしている。

 彼らを引き連れ、翌日、出発することになった。

 まだ暗いうちから税関に向かう。

 税関ではそれなりにチェックされる。

「ウヒヒ、お嬢さん、持ち物を拝見しますよ」

 スケベそうな親爺の税関職員が涼子を触ろうとする。

「おい、お前がセクハラやってるって、上司にチクるぞ」

 ボルトン一が怖い顔で睨む。

「ボルトン兄弟か……地元青年会の幹部だからって偉そうに」

「お嬢さんは先を急いでいるんだ。お前の嫁にお前のやってること教えてやろうか」

 ボルトン二、だと思われる。

「なんだと! そんなことをしたらどうなるかわかってるのか」

 税関の親爺はイラッと来ているようだ。

「まあまあ、お役人様。ここはひとつ穏便に、へへへ」

 翔一はそっと金貨を二枚、親爺の手に握らせる。

 得意の揉み手と卑屈な笑顔。

(見事な贈賄だ。決まったぞ翔一、お前は天才だ)

 フロールの絶賛が聞こえる。

(……それ、褒めてないから)

「フム、わかればいいんだよ。人間七人、動物……変わったのもいるな、総額銀貨一枚と銅貨五枚だ」

 金額を支払うと税関を通過する。

 彼はほとんどイスカニアの身分証は見なかった。


 キルボール領内はあまり豊かさを感じない農村だった。

 土地は肥えているが、農民はぎりぎりの生活をしている。

「税金が高すぎるんですよ、毎年みたいにホブゴブリンとアンデット軍と戦争やってますからね。おかげで内乱は減りましたが、庶民は疲弊してます」

 ボルトン一の説明、長兄だけあり知識は豊富だ。ボルトン四などはボケーっと涼子の体を見ている。

 途中、睨みつけてくる男たちと遭遇したが、ボルトン兄弟が睨み返すと去っていった。

 所々に処刑された人間がつるされていた。

「刑罰も厳しいから、庶民はおとなしいですね。キルボールはいい国とはいえませんが、通過するだけなら無害です」

 たぶん、ボルトン二の発言。

 ほとんど何も起きないので、二日ほどで北の国境に差しかかる。

 巨大な山脈が北側をふさぎ、一本の道は巨大な峡谷に入っていく。

 ボルトン達の話では、白戴山脈を割る唯一の通路であり、イスカニアとキルボールとアーロンを結ぶ幹線道路であるという。

 峡谷はイスカニアの支配下にあり、ここでも税関があり、ごった返している。

 ここはキルボールの税関より機械的で税を徴収するだけだった。ほとんど荷物もチェックしない。

 交易商絡みの大量の荷物だけが問題という雰囲気で、個人は金を払えば、あとはどうでもいいという役人の態度だった。

 それでも、タマゴフロールは魔術でチェックされたが、認知阻害精霊を張ってごまかした。

 役人は不思議な顔をしたが、結果が出ないのならマニュアルに従うだけという態度で何事もなく通れる。


 大峡谷を抜けて二日。

 豊かな農村地帯を通り、大国イスカニアの主都、皇親大聖都に一行は到着した。




ちょっと短めで申し訳ありません。

もう少し進むべきかと思いましたが、どうしようもなく切りの悪さがあり、無理に長くするのもどうかと考えました。

代わりに、小まめに投稿したいと考えております。


いつも、お読みいただき感謝申し上げます。

評価ブックマークもありがとうございます、励みになります。

2020/12/30 読みにくい箇所の修正しました。

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