表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/70

22 旅と友人 広域図あり

挿絵(By みてみん)


 暗い闇の中、大勢の人がいる。

 突然正面が光り輝き、エイミーが英語で何かを話ながらステージに出てくる。

 かなりぴったりした肉感的な衣装で、観客を魅了しつつ、歌を披露する。

 翔一は彼女の優しい歌声に穏やかな気分になった。

 周りの人は白人の大柄な人ばかりで、どうも彼女がよく見えない。

「うーん、どこか高いところはないクマ?」

 キョロキョロしていると、誰かがふいに持ち上げてくれる。

 はっと振り向く。

 そこには目をぎょろつかせて。張り付けたような薄笑いを浮かべる女がいた。ローヴィエの僧侶服を着た女。

「逃がさないわ、化け物!」


 いつもの海岸にいる。

 前回と同じく、道は四つ。

 陶器の仮面の男はおらず、大柄な侍と、ダーク翔一が手招きしている。

 翔一は銀色の道を進む。

「ご先祖様、お世話になりますクマ」

「フフフ。いいだろう、わしの技術を全て叩き込んでやる」

 翔一は銀色の道に進む。法則の道だ。

 やはり、単純に剣術を鍛えたかった。これからの道行きで剣術は大きな助けになるはずだ。

 ただし、あまり技術への期待はない。精霊術は技術とはあまり相性がいいものではないからだ。テクノロジー否定の機械精霊のような物が最初に来る辺り、技術を使う人間を強化するようなものだと感じていた。

 気が付くと、綺麗な小川の河原で、大柄な先祖と相対していた。

「剣の修業の間は礼儀は要らぬ。ただ、技を学び強くなることを目指すのだ。礼儀は生きていくに必要だが、いくさ場においては邪魔でしかない」

「そうだと思いますクマ」

「わしはそう信じて弟子に技を伝授した。しかし、それは野獣に牙を与える結果にもなった……」

「武の本質は暴力クマ。心がない人はそれを気ままに使ってしまうクマ」

「そうだ、心が無ければ、矛を止める武の神髄には至らん」

「僕は今まで人を斬りたい、魔物を斬りたいと思ったことは一度もないクマ」

「よくぞいった。そのようなお主だから、我技を習得するに値する。覚えて帰るのだ。ワシは晩年、技を得たが、誰にも教えなかった。惜しんだのではない。心を憂えたのだ」

「お気持ち察しますクマ」

「では、前置きはここまでだ。ここからは容赦せぬからそう思え。お主は不完全ながら、刀の技、剣の技を得ておるが、一旦すべて忘れろ。ここからはそれを心のどこかにしまって、わしの究極奥義だけを一心不乱に修業するのだ」

「わかりましたクマ」

「まず、白虎一剣、三段まであり初段が最も強力だが単純。高度になるにつれて、多人数を想定した技になる。次に月光乱剣。これも三段。月光は闇討ち包囲などを想定した技。次は傀儡乱舞……」

 翔一は大柄なご先祖が語り、実演する技をじっくり見る。確かに、実戦においてかなりの威力を発揮するのは間違いなかった。コンラッドの正派、動画の剣術。そういったものと似たものも多いが、独創的な技もあった。

(気のせいか、全体的に中二病くさい技名が多いクマ。ご先祖様は思いついて形にしたけど、恥ずかしくて教えられなかったのかもしれないクマ)

「では、早速最初の白虎一剣からやってみろ」

 翔一はうなずくと、剣を構える。

「おい、その構えはおかしいだろう。なぜ、両手を離して持つ」

「剣道だとそうやってるクマ」

「わざわざ太刀行きが遅くなるだけだ。拳と拳は一体化して構えよ」

 翔一はそうやると、剣との一体感が増したように感じた。

 翔一とご先祖の修業は非常に長い時間がかかる。

「精霊界にいつでも来るのだ。精霊界に時間はない。お前はいつでもこの河原で修行を再演することでわしの技を追体験できる。全ての技を一通りやり遂げた後、剛刃素戔嗚、月読三突、天照岩割剣の三奥義を教えよう。今は焦らず、基本技を覚えるのだ。

(剛刃素戔嗚、月読三突、天照岩割剣……かなり中二くさいクマー!!!)

「はい……でも、僕の聖剣は刀ではなくて長剣なので、ちょっと技と合ってない時があるクマ」

 翔一は懸念を話す。

「うむ、お主はその剣の力に気が付いておらぬ。その剣は、主の思いを具現化できる」

 翔一は聖剣を手に取ると、刀になれと願う。すると、非常にカッコいい青く光る刀になった。柄の部分に変化はないが。

「カッコいいクマ! これで僕も侍クマ!」

「刀を調べろ、お前は何も知らずに使っている。技もしっかり練習するのだ」

「ありがとうございました、また来ますクマ」

「いつでも来るのだ、わしは待っている」

 翔一が精霊界を出るとき、声が聞こえる。

「レベル七です」


 子熊村に帰った翔一たちはすぐに出発しなかった。

 今は夏で、荒野を行く場合かなり危険な気候だったのだ。

 特に高原を通るときは真夏は外したい。そう考えて、準備に時間をかける。

 フロールはすぐに壊れる関節部分の修理に苦戦しているようだった。

「やはり、元々安物だからなぁ」

 フロールのつぶやきが聞こえる。

 主に足が壊れやすいようだが、彼の話では、素材が安物を使っているという。

 涼子がフロールの手伝いをする姿をよく見かけるようになった。

 翔一は精霊界に通い、大柄な侍から様々な技を習得し続けた。彼の技は実戦的で、刀だけではなく、槍、手裏剣、長巻、薙刀、鎖、柔術……なども含んでいた。

「武芸百般を習得するのだ。いくさ場において決まり決まった状況なんぞない。その状況に応じて、最適の技を出すのだ。それがお前が以前学んだ技でも構わん。形は知るべきだが、形に囚われてはいけない」

 今までの実戦経験があるから、翔一には技の一つ一つが腑に落ちた。

「似たような技が多いクマ。なぜ、技に名前があって、決まった形があるのだろう」

「それは、名を出すことによって技を思い出す効果があるのだ。いくら覚えても実際に使わなければ宝の持ち腐れだ」

 これが侍の回答である。

 次に翔一は聖剣を詳しく調べることにした。

 今まではその破壊力に満足するだけで調べようと思ったこともなかった。

 これは作業が得意なフロールの手を借りる。

「中央のピンを外せば、刀身と柄が外れる」

 フロールはかんかんと叩くとピンを外し、魔法のように聖剣をバラバラにしてしまった。

「フロールさん、凄いクマ」

「こんな単純な構造、誰でもわかるだろ」

 苦笑しながら、ボロ布で汚れを拭くフロール。長年の埃や血、油などが中で固まっている。

「刀身に色々な文字が書いてあるクマ。読めない……」

 この異世界標準語ではないらしく、翔一には読めなかった。

「知識人や魔法使いに聞いてみるか」

 村の魔法使いは筆頭がダナ、今はすっかり農婦になってる女魔法使いのキャシー、ハスタ、そして、ハスタの弟子をして医術の修業をしているレダとダークエルフのコルバール。

 彼らは招集されると、不思議そうな顔で彼らはその文字をまじまじと見る。

「たぶん上古人の文字よ、わからないわ」

 キャシーが首を振る。

 同じく首を振るダナ。読めないらしい。

 ハスタとレダも読めない。

「これは……上古文字でもかなり古いですね。ハルス、トウ、ルウ、ウルラ……この剣へのコマンドワードですよ。たぶん、これを唱えて掲げると、機能を使えると思います。発音だけで意味は分かりません」

 コルバールは辛うじて読めた。

 翔一は剣を組み立てると、早速使ってみる。

「ハルス、トウ、ルウ、ウルラ、バースト クマ!」翔一が剣を天に掲げると、心に選択肢のようなものが浮かぶ。

(形態変化、剣精招来、冷撃)

「『クマ』はワードに入ってないだろ」

 フロールが突っ込みを入れる。

 翔一は形態変化を試みる。すると、日本刀のような形になる。

「おお、かっこいいクマ!」

「凄く大きなサーベルのようですね」

 コルバールが日本刀を見た感想である。

 翔一は短剣を願うが、それはできいなようだ。ブロードソードから両手剣。片手剣はサーベルから野太刀サイズまで変われる。

 形を好きに変えていると、ズンっと疲労がたまる。

「う、これは体力を奪われるクマ。気軽にやることじゃないと思う」

 翔一が遊んでいると、集まった人たちは忙しいのか、去ってしまう。

 フロールは残って見ている。

「剣精招来と冷撃をやってみたらどうだ」

「じゃあ、剣精招来!」

 翔一が叫ぶと、剣から何か白い影のようなものが現れる。

「何か出てきたクマ」

「何もいないぞ」

 暇そうに横になるフロール。

 白い剣精は可愛い目をした謎の存在であり、翔一が話しかけても答えようとしなかった。キョロキョロして、すっと消える。

「キョロキョロして消えてしまったクマ」

「何か探していたのかもな、敵とか。よくわからんが、いつか理解する課題としておこう。それより、冷撃を撃ってみろ」

「冷撃!」

翔一は適当な切り株に冷撃を指す。すると、刀身から冷気がほとばしる。が、何かが飛び出るということもなかった。

剣が冷気を纏ったので、練習用の立木を軽く打つ。

すると、剣の冷気は立木を凍らせた。

「おお、どんな理屈だ? 木が凍ったぞ、霜が降りている」

「凄いクマ!」

「でも、凍ったのはいいけど、何に使うんだこれ。……お、暑いし、いい塩梅だな」

 フロールは木に抱き着く。

「ひんやりして気持ちいいよ、クマたん」

 ダナも暑いのか木にしがみつく。

「今度はアイスクリーム作ってくれよ」

「これはそんなことに使うものではないと思うクマ」

 翔一は精霊界に剣をしまう。

「あ、しまいやがった。けち臭い奴だなー」

「クマたん、暑いよ」

 ダナが潤んだ目で見ると、翔一は抵抗できないようだ。

「仕方がないクマ。冷撃!」

 剣で水の入ったコップを軽く撫でる。すると、コップの中の水は一瞬で氷になる。

「キャー、冷たい!」

 嬉しそうにコップをすりすりするダナ。

「剣の能力を使うと、僕の魔力が消耗するクマ」

「だろうな、ただでできることなんてねぇわな」

 やはり、寝っ転がるフロール。

「そういえば、イスカニアまでのルートは決まりましたクマ?」

 翔一は木刀を出して、剣技を訓練する。

「ウム、俺としては白鱗山脈越えルートがいいように思う。西からの迂回ルートは平原を行けるから普通ならそっちだが『死霊の都』というまずい存在が近すぎる。吸血鬼と混沌人間、グール、ゾンビ、そんなのが無限に湧き出している場所だ。山越えより楽とはいい難いぞ」

「山もホブゴブがいましたクマ。あまり変わらないのでは?」

「直線距離なら山越えの方が近いし、山中は友好的なオークの領域だ。戦闘リスクは少ないだろう。俺たちの遭遇は運が悪かった面も大きいぞ。そこは冷静に見ないとな。東ルートは高原に出たら一応人間の支配領域だから、金さえ出せば安全かもしれない」

「……西はキルボールまでホブゴブリンの領域クマ。僕も東ルートがいいと思いますクマ」

「オークの案内人を雇う予定だ。山越え一週間、高原とキルボールを一週間で越えて、イスカニアに二週間滞在。そこから帰ってくるのに二週間。大体一カ月半の旅だ。帰途の山越えがちょっときつくなるが、まだ暑い季節。危険は少ないはずだ。案内人もそういってる」

「了解クマ」

「来週出発だ。しっかり準備しておけよ。キルボールまでは補給が期待できない。オークの小村が途中にあるから、多少は補給できるが、道に迷えばあてにはできない」

「僕は荷物が多く持てるから、何とかするクマ。ところで行く人間は僕、フロールさん、ダナちゃんでいいの?」

「涼子も連れて行く」

「山岳を行くのに、ちょっと徒歩では遅いと思うクマ。人間を連れて行くのは難しいクマ」

 翔一たちには乗用狼がある。

「心配するな、山岳山羊という乗用動物を買ったから、涼子も徒歩で来ることはない」

「それならいいと思いますクマ」

「あと注意事項だが、涼子はかなりパーツを取ってしまった。もう、ほとんど単なる人間と変わらない。関節が逆に曲がりはするが、ぐにゃぐにゃになるのは無理だ。代わりに、弓、剣、短剣、槍のアプリを入れて、弓にセンサーつけて視線とリンクさせている。だから、俺と同じくらい弓矢は正確に撃てる」

「心強いクマ」

「筋肉のリミッターも若干落としたから、筋力も俺より上。骨は金属製だから心配ないだろう。つまり、戦力としては涼子の方が俺より上なのだ」

(もうフロールさんいらないかもしれないクマ)

 そう思ったが、口に出さない分別はある翔一だった。

「アプリで技術があるということは、それ以上成長もないということクマ?」

「そんなことはないぞ、新しい技術を普通に学習して習得することもできる。涼子の人工知能は伊達ではない。悪徳大企業から盗んできた最先端技術だからな」

「それに関してはコメント差し控えますクマですけれど、この本読んで短剣術を習得できるクマ?」

 翔一はヤニスの奥義書を見せる。

「フム……面白そうな本だな。以前よく読んでいただろ……よし、涼子、これを読んで出発までに技を覚えろ」

「わかりました」

 涼子はそういうと、凄いスピードで本を読み始める。

「涼子さんの装備は僕が精霊を受祚させておくクマ。彼女の武器とかコートとか貸してほしい」

「わかった、いいだろう」

「それと、お願いがあるクマ」

「なんだ?」

「兜と小手を作ってほしいクマ」

「材質に拘らないなら、お安い御用だぜ。どんなのがいいのか教えろ」

 頭部と手は大型化してもそれほど大きさが変化ないことに気が付いていた。大型熊程度までなら、兜と小手なら付けられるだろう。巨大化すると、その手の装備は精霊界ポケットに送られてしまう。

「フム、材料は上古人の防具を使えば簡単だな」

 そういいながら、フロールは翔一の頭のサイズなどを計る。

「できそうですクマ?」

「オープンヘルムでいいだろ? 小手はスプーンのようなざっくりしたカバーでどうだ」

「それでいいと思うクマ。密着しすぎは僕に合わないクマ」

 話が決まると、あとは準備に勤しむ彼らだった。


「じゃーん、これを見ろ!」自慢げにフロールは兜を見せる。

「三日月の前立て。サムライヘルメットクマ! 超カッコいい!」

「被って見せろ」

「うーん、これは渋いクマ。レッツ、パーリィ! クマー!」

 翔一は小手も嵌めてみる。若干大きく作ってある。護拳は第一関節ぐらいまで覆う金属の緩い椀のような形で、手首部分は緩く稼働する。全体としては前腕部分を七割程度覆う。木刀を抜いて幾つか技を試すが、邪魔になることはない。元々、先祖が教えてくれた武術は兜や小手をつけた想定なのだ。

「気に入ってくれたのなら何よりだ。涼子の武器はどうだ」

「聖性のお守りと、コートには守護の精霊。剣と短剣には刃の精霊。弓には強矢、ブーツに隠密」

「ええ、いいなぁ私も欲しい」

「長旅だし、ダナはおとなしくしておけ。というか、今でもじゃらじゃら持ってるだろ。色々と」

「でも、もっと欲しい」

「武器はダメクマ」

「クマちゃんもケチ」

 ぷっと頬を膨らませるダナ。非常に可愛い。

「いいですか。薬は一日二回。必ず飲むのです。今は健康に見えても、解毒し続けないといけないのです」

 ハスタが珍しく送ってくれる。普通に行けば二カ月も掛かる旅なのだ。薬は大量に持たせてくれている。以前は液体の薬だったが、今は携行しやすい丸薬になっている。ハスタが改良したのだ。

「心配しないで。僕がしっかりダナちゃんをお世話するクマ」

「もし、薬が無くなったり切れたりした場合、エクセレス神殿の高位の神官に解毒薬を作ってもらえたら、何とかなると思います。翔一殿の解毒精霊も効果はあるようですが、神聖の解毒奇跡が最も有効だと推測しています」

「ありがとう、ハスタ殿。もしもの時はご忠告に従うよ」

 フロールはハスタには最大限の敬意を持っているようだった。

「皆さんが旅立っている間、エルザ様のご依頼により、青剣城城下町でしばらく医術を教えることになっています。私がいない間、もし帰還されたら、コルベールかレダに相談してください。彼らなら必要なことは教えましたから」

 翔一、フロール、ダナ、涼子、この四人で出発する。

 翔一とフロールは狼に乗り、涼子とダナは乗用山羊に乗る。

 翔一の狼はサンダーアッシュと名付けられた。灰色の毛皮で性格も優しい。フロールの狼はダークファングと名付けられ一番性格が活発だ。ダナの銀モフは最も美しくきれいな毛皮だがダナを乗せずに、荷物を少し載せてついて来る。

 ダナは涼子の前に座って二人乗り。山羊はかなり大型なので、それでも苦ではないらしい。山羊は予備が二頭いる。予備の山羊には荷物が積んである。

 出発の時、村人は総出で手を振ってくれる。

 翔一たちも手を振って別れた。


 白鱗山脈の登山口にはオークの案内人が待っており、彼らと同行することになる。

「聖母様からこの護符を預かってきました」

 ゴル・サナスは翔一とフロール、ダナ用に護符を用意してくれていた。これをオーク領内で見せると、フリーパスというだけではなく、補給や休息場所の提供などいろいろと便宜を図ってもらえるのだ。

「この護符は形代クマ」

「形代?」

「呪詛とか怨念を吸い取ってくれるクマ。後は浄化の儀式を行えば消え去ってくれるクマ」

「なんかオカルトウォーズなんだな。涼子もってろ」

 黙ってうなずくと、首にかける涼子。

「タマゴちゃん、涼子さんに優しいんだ」

 ダナが無邪気にいう。

「俺は完全無欠だから、そんなオカルトは必要ないんだよ」

「でも、涼子さん嬉しそうだよ」

「大人をからかわないの」

 ちょっと照れ臭いような態度を取るフロールだった。

(涼子さん、確かに嬉しそうだ。でも、彼女は人工知能……フロールさんのことが好きなのかな。まさか、でも)

 翔一は涼子がフロールに特別な感情を持っているのではないかと、なぜか思った。

 山越え横断ルートは古来からオークたちがかなり開発していたので、気候が不安定ということ以外、ほとんど問題なかった。運にも恵まれていたのだろう、予定通り、一週間で山岳地帯を越え、高原を見下ろす地点まで来た。

 途中、何度もオークの小村や砦で助けを借りた。

 オークたちはゴル・サナスの印を見ると、深々と頭を下げ、翔一たちを精一杯歓迎してくれる。

 翔一たちが、邪悪な怪鳥を三体も倒したこともそれなりに知れ渡っており、戦士たちは翔一たちの話を聞きたがった。

「……その時、俺の矢が怪物の動きを止め、俺は二の矢を敵の目に深々と刺し怪鳥は生まれて初めての悲鳴を上げる。そして、止めは翔一の天上天下唯我独尊剣で怪鳥も真っ二つよ」

「すごい、さすが聖母様が認めただけのことはある! 一度、その弓術と剣術を拝見したいですな」

 筋骨隆々のオーク戦士が髭をひねりながら、しきりに感心している。

「我らの技を見るときは、その者は死を同時に見ている。……翔一はちょっと忙しいみたいだから、せめて、俺が技を少しお見せしよう」

 翔一は何やら必死に兜と小手に受祚していた。

 フロールはふらりと立つと、後ろ向きに次々と矢を射る、建物の木の柱に正確に一列に矢を突立てる。

「すごい、何ということだ。見ないでここまで当てるとは……これぞ、まさしく、偉大な精霊の力」

 ひれ伏すオークたち。

「はっはっはっ、ちょっとカッコよすぎたかな」

 ふんぞり返るフロール。当然、弓矢に付けたセンサーで普通に見て撃ったのだ。

「フロール殿に接近するまでに敵は死骸の山を作ることになりますぞ」

 オーク戦士たちはキラキラした目でフロールを見る。

「そうでしょう、そうでしょう、ウワハハハ!」

 腰? に手を当てて大笑いするフロールだった。

 その様子を見て、若干不機嫌なダナ。

「ずるい、私も頑張ったのに、皆に褒めて貰ってるのタマゴちゃんだけじゃない」

「聖母様はお見通しクマ。お守り貰ったのはそういうことクマだよ」

「あのお婆さんいい人ね。アーマーラ信仰のオークさんたちは、顔つきも穏やかだし私好き」

「僕も同じクマ」

 翔一は守護精霊を一通り受祚し終えると、ふと、ゴル・サナスが授けた形代を見る。

 鋳鉄の小さな人形である。

 不思議な存在の感触と、何者でもない存在性が同時に両立している。オーラがあるが、意識は持っていない魂のような物品だった。

(この状態……涼子さんの存在の在り方に似ていると思うクマ。彼女はもしかしたら依代としてかなり能力が高いかも)

 呪術的に見て、彼女は白紙の弱い魂であり、人間と同じ大きさの人形である。

(精霊や神を降ろせば、凄い存在に……待て、そんな考えはやめよう。彼女にとっていいことではないクマ)

 そう思って、首を振る翔一だった。

「ここから先、山を下ると高原人の領域になります。高原人はアーロン王国の支配下ということになってますが、それはあくまで名目だけで、部族単位で戦いを繰り広げてます。大戦争になりそうだと、王が介入するという形です」

 オークの有力者がフロールに説明している。

「そうなると、治安は悪いのか? 交易もしてないのか?」

「交易は盛んですね。部族が競い合っているから、発展しないと敵に呑まれるということで危機感があるんです。旅人の治安は……部族は襲ってこないです。でも、野盗の類は居ると思ってください。しかし、商売熱心な部族は保護してくれますよ」

「部族によって考え方が違うということか。運だな、そうなると。キルボールのことは何か知っているか」

「あの国は酷く閉塞してます。部族じゃなくて封建領土単位で農業をやって暮らしています。よそ者を凄く嫌います。オークなんて話し合いもできないですよ。イスカニアの属国でアーロンとはすごく仲が悪いです」

「そうはいっても内輪もめは多そうだな」

「内実はわかりませんね。よそ者は入っていけませんから」

「旅人も無理なのか?」

「税金払って所定のルートから外れなければ大丈夫だと聞きます。もちろん、人間とエルフ以外は入れてもらえません。我々オークはもちろんのこと、森エルフも半オークも無理です。物凄く嫌われてます」

「ありがとう、参考になったよ」

 オークの有力者は、思った以上に優雅にお辞儀をして去る。

「そうなると……」フロールは何か考え事をしていたが、翔一を呼ぶ。

「フロールさん、そろそろ出発クマ?」

「その前に、確かめたいことがある。翔一、人間になってみろ」

 翔一はキョロキョロする、あまり自分が人獣とばれない方がいいと、今までの経験でわかってきたのだ。

 精霊界を覗くと、ボロボロの服を着た自分がいる。さっと入れ替わる。

「ふぅ、あまりやらないから……」

 少し額に汗をかく。上半身は裸。ズボンもボロボロだった。

「なんだ、お前……前見た時より筋肉は付いたな。顔も若干ふてぶてしく……というかなんだその体。切り傷だらけ、虎女に噛まれた跡とか、いっぱい残っているぞ」

「うわ、本当だ。これ消えないですよね」

「クマの体だと全く残らないのに、人間体には暴力の後が残るんだな。腕なんて切り傷だらけじゃないか。ちょとは身を守って戦えよ」

 苦笑しながらフロールが指摘する。

「これじゃあ、ちょっと目を引きますね……」

「心配するな、顔はまだ傷が少ない。服をまともにしたら大丈夫だ。一般人ぽい服をオークに用意してもらうから、それを着ろ」

「それは助かります」

「それと、お前の正体を隠すオカルト何とかはそのじゃらじゃらしたネックレスだったか」

「ええ、そうです」

「それ、取り外されたら終わりなんだよな」

「そうですね」

「オカルトで調べられるとばれるかもしれない。ネックレスじゃなくて、直に自分に効果を施せないのか?」

「うーんそれは……クマの体は入れ墨とかできませんからね。ああ、今の体にしたらいいか。でも、入れ墨はちょっと嫌だなぁ」

「贅沢いってる暇はないぞ。装備外せといわれて、それからチェックされて、お前がバイオビーストとばれたら、お尋ね者になるか殺し合いになる」

「うーん、わかりました。これもダナちゃんのため。でもどうやって入れ墨しましょう」

「俺の応急手当キットにアプリ入れたら、入れ墨くらい簡単だ」

「じゃあ、呪紋を、お腹に書いてもらおうかな……」

 先祖の祈祷師に教えてもらった象形文字のような紋様をメモして、フロールに渡す。

 フロールはスキャンすると、異常に正確に、腹へ黒い入れ墨を入れる。かなりの痛みがあったが、翔一は無言で耐えた。

「せっかくだから、いつも絶対持ってるのは書いて貰っていいですか」

「別にいいぞ」

「聖精、迅速、守護、正体隠匿の認知阻害、幸運……これだけでいいね」

 翔一はそうつぶやきながら、メモを描く。

 フロールは十分ほどですべて描き終える。

 その後は翔一が精霊を召喚して受祚することになる。基本はダーク翔一が精霊界から連れてくる精霊を象形文字の入れ物に入れるだけだった。

「人間体でも普通に儀式はできるね」

「もっと邪悪な秘儀を使えよ、つまらん」

 ダーク翔一が文句をいう。

 儀式を終えた頃には夜になっていた。ふと見ると、部屋に入り口付近に、食事と清潔な衣装がたたんで置いてあった。

翔一は服を着ると、食事を見る。焼いた肉に香辛料を振りかけたもの、ワインとパン。ワインはいつの間にか飲めるようになっていた。 たぶん、前の世界では子供なので飲んだこともなかったが、この世界では飲まないと生きていけない。

「あ、クマちゃん……じゃないのね、翔一さん?」

 ダナがいつの間にか来ていた。なんだかもじもじしている。

「ダナちゃん、ご飯食べる?」

「えっと……」

 ダナはプルプルと首を振ると走ってどこかに行ってしまう。

 翔一は子熊に戻ると、ごろッと横になる。

 フロールもいつの間にか機能を切って寝転がっていた。

 グオーといびきをかいて寝ている。

「あれ、フロールさんっていびきかいたっけ? そういうアプリかな? クマ」

 クマになるとどうしても最後に「クマ」といわざるを得ない翔一だった。

「ああ、でもやっぱり、この体が一番楽クマー」

 すぐに眠りにつく。

 夜中。ふと、微かな物音がした。

 寝ぼけ眼で見ると、フロールを涼子が膝枕していた。




地図を入れました。

子熊村から北上するルートはありません、西か東に迂回して北上することになります。

話の中では東に山脈を横断して、高原に出ることとなります。


~2022/8/18 微修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ