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20 山中の敵

 オークの大祈祷師ゴル・サナスに会うために、翔一たちは白鱗山脈に入った。 

 同行するのはオークの案内兼護衛十人、翔一、フロール、ダナ。エルザの部下はアントンたちを含め合計十人。

 荒涼とした岩だらけの山を行く。


 今は夏なので雪もないが、冬場は雪に閉ざされて簡単に通れる道ではない。

 翔一は大型の熊になって、ダナとフロールを乗せて登山する。

 オークと人間たちは徒歩。

 非常に急な段差もあり通常の馬などの何かに乗って移動できる道ではなかった。

 元々は上古人が作った道である。あまりに古い道であり、ところどころ崩れている。

 翔一とダナは交互にアースエレメンタルを召喚して、道を補修しながら進んで行く。オークと交易するなら道は改善しておく必要もある。それに、危険な登山をする意味もなかったのだ。

「時間はかかるが、これならば今後もこの道を有用に使えるようになる。魔法とはすばらしいものだ」

 ロニーがうなずきながら工事を眺めている。

 この工事に関しては概ねダナの方が強力な魔力を使っていた。翔一も精霊を呼ぶのだが、大きさも頻度も幼いダナの方が上。しかも、道を整えたのち、泥の石化魔法で道の恒常化までしているのだ。

「ダナちゃん、凄い魔力クマ。でも、無理はよくないクマよ」

「心配しないで、前より魔力も上がってるから。全然平気なの」

「でも、休息は取るクマ。ご飯もたくさん持ってきたから焦らなくてもいいクマ」

 精霊や魔術を使う二人を、オークたちは畏敬の念を持ってみる。

「二人がいたら、一日で小さな砦くらい作れそうだね」

 アントンも感心しきりだ。

「これほどの魔術は先進国の上位の術者でなければ無理だ」

 ロニーがつぶやくとアメリアも、

「崖にしがみついて登るようなことになったら、死傷者が出てもおかしくないわ。本当に助かる」

「思ったより楽に行けそうだな。俺の活躍する場はないか」

 ビアンカも半裸ではない。厚い皮のコートを着ている。

 人間たちの評価も好評だった。嬉しくなって翔一は頑張って作業を行う。


 山の稜線をたどる道に到着するまで二日かかった。その間、じわじわと寒さが増していく。

 しかし、山を登りきると、道はかなり楽になった。

「白鱗山脈の縦断ルートはよく使われてますからね。ここからは工事も要らないです」

 オークの隊長の言葉。

 彼の鎧にはアーマーラの紋章が刻まれている。彼らは大地母神の信者たちなのだ。

 ただし、もちろん、行きやすい道ではない。

 大祈祷師の御所までは三日程度かかる。

 ここからは子熊形態になって、二足歩行で歩く。

 翔一は皮のフードコートを取り出して被る。

「はあ、あったかクマ。さすがに僕の毛皮でもちょっと物足りないクマ」

「そういえば、お前いつも全裸だよな。わいせつ物陳列罪の匂いがプンプンするぞ」

「フロールさんもいつも裸んぼクマ」

「俺は高級サイボーグだからいいの」

「涼子さんもサイボーグクマ。彼女は一応服は着てるクマよ」

 彼女の服装はいつも露出過多なのでしっかり着てるといえなかった翔一だった。

「あっちは生体パーツがメインだからな。服を着ていないと変態的欲望を持った奴らが来ることになる」

「そういえば、涼子さんは来てないクマ」

「村との連絡に置いて来た。もうじき切れるが、今の所通信できている」

 彼女は非常に美しいので、村の男たちに人気だが、肉のゴーレムということで押し通している。村の人間も見慣れると、置物のような扱いになりつつある。

 普段は農作業を手伝ったり、放牧などをしているようだ。

 眼下に絶景を見ながら、道を行く。東はまだまだ高山があり、白い山脈が広がっている。西ははるかかなたに荒野が見える。

 快晴の日差しの中で風を避けて、岩の裂け目で昼食を取った。

 翔一は村の果物を干したものや山羊の乾燥肉などを齧る。フロールは高いところで弓を持って警戒している。

 隠密精霊を呼んで彼を覆う。最近、フロールはこの手の術に文句をつけなくなった。

「ハイエルフって、どんな生活してるの」

 アントンがダナに話しかける。登山中は喋る余力もなく、ようやく雑談を交わせる余裕ができたのだ。

「うーん、わからない。この世界に来る前の記憶がないの」

「え、じゃあ、君は異世界のエルフさんなんだね」

「うーん、たぶん」

 頭をひねりながら答えるダナ。

「この世界にもハイエルフはいるから、会ってみたらいいんじゃないかな。何かわかるかも」

「うん、会ってみたい。でも、どこに住んでいるの?」

「……ええっと、先進国に魔法の品物を売って、平和な里で大金持ちとして生きていると聞くけど、具体的には知らないなぁ。イスカニアとか先進国の街にいるのかな? ロニーさん、アメリアさんはハイエルフの住処に心当たりありませんか」

「イスカニアの東にある黒龍山脈にハイエルフの偉大な里があると聞いたが……そこは滅んだとも聞くぞ」

「イスカニアの首都、皇親大聖都内の一等地にハイエルフの街があるわ。物凄い金持ちたちで、普通の人間は会うこともかなわないわね。皇帝ですら、彼らには命令する権利がないと聞くわ」

「ああ、聞いたことがあるぞ。いけ好かない奴らだ」

 ビアンカが乾燥肉を齧りながらいう。

「ビアンカさん、ダナちゃんの前で……」

 アントンが批判的な目をする。

「ああ、すまない」

「うーん、会ってくれるかどうかわからないけど、アーロンのシルビア王妃とガルディアのダナ王妃は二人ともハイエルフね」

 アメリアは冒険者らしく世事に通じている。

「シルビア様なら会ってくれるかもしれないよ。本当に天使みたいに優しいって評判だから。ダナ王妃はかなり気難しいらしいけど」

 アントンがダナに向かって述べる。

「私と同じ名前の人は、怖いわ」

 ダナはしっかり翔一のフカフカした手を握る。ダナの守護神はモフ熊の翔一なのだ。

「ダナ様は凄い優しい人だったクマ。たぶん、ご本人は大丈夫クマ」

「え、熊君、あのダナ王妃に会ったことがあるの?」

 アントン、驚愕する。

「魔物を退治した時に宮廷でご褒美貰ったクマ。その時にお会いしたクマ」

「すごいわね、どんな人だったの。美人だった?」

 アメリアも興味津々だ。

「びっくりするほどの美人だったクマ。どんな人だったか、うーん……毛皮をモフモフしてたクマ……」

「それだけ?」

「それだけクマ」

「確かに、モフらせ魔力は高いですよね、熊君」

 アントンはなんとなく翔一の耳をモフる。

「ずるいわ、アントン様。私もモフりたい」

 そういうとアメリアも翔一の頭をなでる。

「あ、だめよ、クマちゃんは私のものなの」

 ダナが翔一のお腹に抱き着く。

「ちょっとぐらいいでしょ」

「うーん、ちょっとだけなら」

「フフ、女の子にモテモテだね、熊君」

 アントンは少し苦笑する。だが、彼もこっそり翔一の毛皮をモフっていた。

「ハハハ」

 ビアンカが笑っている。

(フロールさんなら、録画しておいて、モフ時間分料金請求するかもしれないクマ)

 少し不安になって、高い場所にいるフロールを見上げる。

 目が合ったような気がした。

 するとフロールは隠密状態を解いて、静かにしろとゼスチャーする。

「おい、何か来たぞ。かなりの数だ」

 フロールの警告を聞くと、全員は一斉に武器を抜く。

「概要を教えてくれ」

 ロニーが鋭い視線で問う。

「オークとホブゴブリンの混成軍、数は百ぐらいだと思う。狼に乗っている奴らがいるから、捕捉されると思う」

「魔神信徒のウルフライダーです。奴らは精鋭ですよ!」

 オークのリーダーが小さく叫ぶ。

「ダナ王妃が滅ぼしたんじゃないのか?」

 フロールが問う。

「アーマーラ信仰の支配を嫌った奴らはホブゴブリンの下僕になったのです」

「殺し合う以外方法はなさそうだな。こちらは二十人。狭いところに誘い込めば……」

 ロニーが腕を組む。

「あのちょっとした高台に上って、その上にオカルトで土の壁を作る。そうすれば射撃戦に持ち込んで有利に戦える」

 フロールの指す先にはこんもりと地面が盛り上がっている場所があった。

「そうですな、土の壁が作れるなら、理想的な臨時砦になりますぞ」

「俺、あんまり弓得意じゃないんだよな。石でも投げるか……遠隔武器の修業必要かなぁ」

 ビアンカがぶつぶついう。

「話は決まったね、急いで行こう」

 アントンが皆を先導する。岩の裂け目からその場所までは概ね死角のまま移動できるようだ。

 しかし、後、五十メートルほどの場所で狼に乗った邪悪そうなオークに見つかってしまう。彼らは優秀な斥候兵なのだ。

 三匹の狼騎兵がオークの護衛に向かって突撃してくる。

「見つけたぞ! エルフの下僕の裏切り者共!」狼騎兵の叫び。

「殺せ! 魔神信徒の狂人どもを殺せ!」オークの護衛が叫び返す。

 狼騎兵は短弓を乱射する。弱い弓で、オークの皮鎧を抜けない。しかし、数人のけが人が出る。

 ブオンという音共に、アメリアが二つ名の由来である、黒い剣を抜いた。

 漆黒の刃に黒いオーラ。

 気が付いた狼騎兵が単槍で突進してくる。アメリアは思ったより動きが緩慢だった。

 剣をゆっくり真上に振りかぶる。

 不思議なことに、敵も飲まれたかのように大上段の黒剣を見つめて動きが止まった。

 渾身の力で振り下ろされる剣。騎兵は盾で受けるが、盾は真っ二つに割れて、敵の左腕をへし折ってしまう。苦痛とショックでバランスを崩し、同時に少し負傷した狼はオークを振り落として逃げてしまう。

 倒れたオークはビアンカが殴り殺した。

「あれは闇の精神混乱だ、悪意を持って剣に近寄るほど恐怖で体が竦む」

 精霊界でダーク翔一が腕を組んで解説してくれる。

「知っているクマ!? ダーク君」

「俺の知識が増えると、お前も助かるぞ。もっと魔術書を持ってくるのだ」

「わかったクマ」

 残りの狼騎兵はオーク護衛を翻弄していたが、二人ともフロールの矢を喉に喰らって絶命する。

「なんと、フロール殿は弓の名手ではないか!」

 ロニーが絶賛だった。

 狼は命令者がいないと、襲ってくることはなかった。負傷者を担いで、一行は高台に上る。

 敵は気が付いたようで、角笛を鳴らしたようだ。ゆっくりと迫ってくる。

 台に上ると、フロールが木の枝でガリガリと範囲を示す。

「ダナ、この線に沿って土の壁を作ってくれ」

 ダナはうなずくと、微かに呪文を唱える。

 ゴゴゴと地面が盛り上がって、台の頂上を取り囲む形で土の壁ができた。壁の幅は一メートルはあるだろう、高さは複雑な地形のためにあまり一定しないが、一から二メートル程度のはある。

「泥石もする?」

「正面だけでいい」

 更に正面の壁は石化された。

 壁が盛り上がった時に、敵は一瞬止まった。驚いたのだろう。

 しかし、叫び声を上げると、より強い意志で迫ってくるようだった。

「魔法使いがいる!」「殺して『白い御手』に献上するのだ!」「術者は魔法の防御を使え」

 翔一の耳にはかすかにこのような声が聞こえる。

「敵には術者がいるクマ。僕が守護の精霊を呼ぶクマ!」

 うなずくダナ。ダナは何かの魔術に集中している。

「全員弓を持て、合図までは打つな!」ロニーの声。

 オークと人間たちは弓を構える。

 唸り声を上げて魔神信徒のオークたちが突撃を開始する、少し距離を開けてホブゴブリンは様子見。

 こちらの方がかなり高い位置なので、弓による射撃戦はワンサイドゲームだ。

 オークたちはこちらの矢を喰らって倒れていく。

 それでも急造の砦なので、回り込んで肉薄するオークもいた。

 翔一は射撃戦ではあまり役に立てなかった。石ころを拾って投げたが、ことごとく命中しなかったようだ。

「やっぱり、剣じゃないとダメクマ」

 翔一は聖剣を抜いた。敵は数も多いので手加減はできないと感じたからだ。

 新しい長柄を取り付けて、壁を乗り越えようとしたオークを振り回して叩き落す。手足が飛び、武器や盾が聖剣によって切断される。

 背後を見るとこっそり登ってきた奴がいたので、これも斬り伏せる。

(刺すと、抜くのに手間取りそうクマ)

 そう考えたので、長槍の間合いで剣を振り回して、殺害より排除を重視して背面と側面を守った。

「ホブゴブが来るぞ!」

 矢と魔法が飛んでくる。矢に対し、皆は盾で防ぐ。ダナは何らかの矢避けの術を使っているのか、彼女に当たりそうな矢は途中で止まって落ちる。魔法は守護精霊の魔力で途中で消えた。

 少し犠牲者が出た様だ。オークは装甲が薄いので負傷が多いのだ。

 人間はハーフプレート装備。全員士族身分で民兵ではない。その辺りの差も大きいのだろう。

「こちらは二十、敵は六十。しかし、こちらは壁の後ろ。勝てるぞ! 勇気を出せ!」

 ロニーの大声。皆勇気づけられる。

 暫く射撃戦になる。ギリギリの射程で撃ち合う感じで、イライラとする戦いだった。敵の方が若干犠牲は出ている。

 オークの残兵が集結し始めている。オークの数は半減した。

 守護精霊が消えかかっていたので、翔一はそれは帰して、元気なのを呼ぶ。

 ホブゴブリンの隊長は三人居て、彼らは髑髏の兜をかぶった術者のようだった。しきりに小ぶりの魔術を発射していたが、効かないとわかると、何やら、長めの詠唱を始めた。

「ダナちゃん、敵の呪文何かわかるクマ?」

「三人で一斉に一つの呪文やってるわ。あ、仲間を殺した……あれは生贄よ」

 隊長たちは三人の奴隷のようなオークを殺した。

 すると、地面に大きな漆黒のゲートが開き、のそりと巨大な何かが出てくる。

「あれは、巨人のゾンビだ。丘巨人ゾンビとでもいえばいいか」

 ダーク翔一が腕を組んで説明しくれる。

「知っているのかダーク君!」

「うむ」

「弱点はあるクマ?」

「聖なる武器で殴ってれば、いずれ死ぬ」

「……まあ、そうだろうね、クマクマ」

 仲間たちはいっせいに矢を放つが、巨人ゾンビには全く効果がなかった。

 巨人ゾンビはゆっくり特大の丸太を振り上げる。

 ドゴッという音と共に、壁を叩き潰し、一人の人間が戦死ししてしまった。

「トミー! クソ、よくも!」

 アメリアが剣を抜いて襲い掛かる。黒き波動は出るが巨人には全く効果がない。

 彼女の斬撃は伸ばされた腕を何度か斬るが、深々と斬っても、全く動じる様子はなかった。

「電撃!」

 ダナから幾条もの電撃が放たれる、巨人は動きを止めるが、これも効いている雰囲気はない。

 ホブゴブリンとオークの残党が突撃している。

「みんなはホブゴブをやっつけて、僕が巨人を倒すクマ!」

 翔一はコートを脱ぎ、少し大きくなって壁の上を走る。

「クマちゃん、これに乗って!」 

 ダナがエアーエレメンタルを出す。

 巨人が丸太を振り上げた瞬間、壁を蹴って跳躍しエレメンタルに乗り、更にエレメンタルを蹴って、落ちる様に巨人に突撃した。

 剣を顔面に向かって振り下ろす。

「チェストオオオオ!」

 聖剣は敵の頭蓋に当たる。

 頭蓋をバリバリと割って、腐った脳を断ち、右の眼球を潰し、顎の骨を断ち斬る。

 しかし、鎖骨は斬れなかった。

 翔一は落下して、巨人の胸に当たって跳ね返り、地面に当たってゴロゴロと転がって落ちる。

 脳を潰されて、巨人は動きが止まった。力を失い、丸太が落ちてくる。

 丸太は地面に落ち、柔らかい土に当たるとずるずると滑っていく。

 翔一は慌てて立ち上がり、剣を探す。

 地面に刺さっていたので、抜いたのはいいが、その隙をついて、二人のホブゴブリンが斬りかかってきた。

「しまった!」思わず手をかざす。

 万事休すと思われたが、矢を喰らって二人は倒れた。

 壁の上から、フロールとアントンが矢を放ったのだ。

「僕は弓が得意なんです!」

 アントンの自慢げな声。

 頭部を破壊され、ゆっくりと崩れ落ちる巨人。

 翔一は土煙を上げて倒れる怪物を無視して、ホブゴブリンの隊長に突撃を開始する。

 高台ではホブゴブと戦う一行の姿が見えた。

 ビアンカが大暴れしている。近距離接近戦では彼女にかなうホブゴブリンはいなかった。しかし、数の劣勢は否めない。

 首魁を上げれば敵は撤退するだろう。更に変な魔法を使われたくないというのもあった。

 翔一は飛ぶように跳ねて近づくと、

「エイ! エイ!」と気合の元、剣を振り下ろして、敵を叩きのめしていく。

 包囲されても、コンラッドから教えられた正派剣術を使って縦横無尽にぶった斬ると、敵は狼狽し始めた。

「熊だ! 熊の化け物だ!」

 狼に乗って敵の隊長は逃げ始める。

 一番近くにいた隊長に斜め上段を叩き込んで、狼ごと両断した。

 しかし、残りの二人は全力で逃走。

 その時点でホブゴブリンの士気は崩壊していた。一斉に背中を見せて逃げ始める。

 仲間たちは弓矢を放って敵を倒すが、深追いはしなかった。

 斜面を下り敵を追ってきた仲間と合流する。

「よくやった、翔一。腕を上げたな」

 フロールは簡潔に褒める。

「お前とお前は息の根を止めて回れ、けが人はすぐに名乗り出ろ。元気な奴は矢を回収しろ」

 ロニーが兵士に指示を出し続けている。

「敵がこれだけとは思えないクマ。すぐにここを出るべきクマ」

「そうだな……」

 フロールはそういいながらじっとこちらを睨む狼に矢を向けていた。

 翔一はその狼が少し可哀想になった。何かの術をかけられているのだ。

 鎮静精霊を呼んで、張り付かせる。

「フロールさん、撃つのは待ってほしいクマ。……おいでおいで、何も心配いらないクマ」

 狼はのそっと翔一に近寄り、匂いを嗅ぐ。

 狼が近寄った時点で、軽く聖剣の柄で狼の後頭部を叩くと、何かの呪いが解けたようだ。狼の目から凶暴さが消える。

 撫でると、大人しく翔一に従う。

 干し肉を出すと、モグモグと食べ始める。

「おいおい、大丈夫か、そいつ。かなり凶暴だぞ」

「この子は悪者に変な術をかけられていただけクマ。術を解けばかわいい狼クマ」

 翔一はそういいながら、他にもうろうろしている狼を二匹集め三匹とも手懐けてしまった。

「お前、動物使いの才能あるな」

 翔一が狼を手懐けている間、人々は荷物を纏めていた。

「戦利品はあんたらが取ってくれ。犠牲者も出たんだ、保証に充ててくれ」

 フロールがオーク人間双方にいっている。

 人々は金や装身具、武器などを拾うと、移動を開始する。重いものはその場に置いて行く。

「ありがとう、タマゴさん。ところで、あの狼たち大丈夫よね」 

 アメリアが心配そうに聞く。

「翔一が大丈夫っていってるから大丈夫だろう」

「翔一君、僕もその狼触ってもいいかい。というか、乗ってみたいんだけど」

 アントンは興味津々である。

 翔一は狼と少し話をする。

「乗るのはちょっと無理だと思うクマ。身長制限に引っかかるクマ」

「ええ!? 乗りたかったのになぁ」

「クマちゃん。私、乗りたい!」

 ダナが微笑むと翔一は抵抗できない。

「いいけど、ゆっくりだけクマ」

「わかってるわよ」といいながら、ダナは白銀の強そうなやつを選んで撫でる。

 すると、狼は乗れといわんばかり地に伏せた。

 ダナが乗ると、狼はひょいひょいと岩の上に跳んで、辺りをかなり早く走る。

「わあ、凄い! 早いね!」

 ダナが狼のたてがみをなでると、狼は嬉しそうにしている。

「狼君、もっとゆっくり走るクマ!」

「お、俺も乗る!」 

 フロールも黒っぽい毛皮の狼を選んで乗ると、ダナを追うように走った。

「これは面白いぞ、人狼一体!」

「タマ狼一体の方が合ってるクマ」

 翔一も残った一頭に乗ってみる。

 素直に従うのを確認したらすぐに降りて、引いて歩く。

 その大人しい灰色の狼に荷物を載せると、狼は一行についていくようだ。

 騎乗用狼は普通の狼とは違い、使役されることに慣れている。


 その日は、それ以上問題も起きず、一行は適宜な場所で野営することになった。

巨人との戦闘シーンが若干わかりにくかったので修正しました。

誤字脱字、重複表現なども修正しました。

話の筋に変化はありません。

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