19 山脈へ
ダナの誘拐騒ぎがあってから、しばらく経った。
捕まえた男、ホルス人の隠密は思ったより簡単に口を割った。
廃墟に転がっている死骸を回収し、首見分などをさせたら諦めたのだ。
「ああ、まさか、皆殺しにされるなんて……こんなつまらん動物に」
かなりすさんだ雰囲気を持った奴だったが、自分以外が殺されたのはショックだったのか、それ以降は素直に白状した。
「俺たちはフリーの冒険者『酷殺団』のメンバーだ。ガルディアで謎の依頼主から金貨一万枚でハイエルフのダナという少女の誘拐を依頼されたのだ。団員以外のメンバーも腕利きをそろえた」
全員が『酷殺団』ではなく、犯罪者などをかき集めた集団だという。
「依頼主のことはわからないのか」
フロールが問う。彼は自称元警官なので尋問は得意だという。
「俺たちは依頼主のことなんて興味がない、金が払われるかどうかだけだ。仲介の奴が仕事を回したから受けた」
「本当だろうな、嘘をいうなら……」
「今更嘘をついて意味があるのか、どうせ死刑になるんだろ」
諦めきっている雰囲気だ。
「他に依頼を受けた奴や、お前の仲間が更にいるということはないのか」
「『酷殺団』はあれで全部だ。数が足りないから、フリーの犯罪者を引き入れたのだ。他に依頼を受けた奴がいるかは知らないが、俺の知る限りそういう動きはなかった」
「今後また同じ依頼を受ける奴がいるかわかるか」
「俺たち、裏社会ではかなり有名な方だぜ。それがあんな小動物一匹に皆殺しにされたんだ……余程の腕利きか、頭のおかしい奴しか来ないだろう」
「ビアンカ、こいつのことは知ってるか」
「『酷殺団』は聞いたことがあるぜ。悪事ばっかり請け負ってるコソ泥集団だってな。当然、冒険者ギルドには入ってない」
コソ泥といわれて、ムッとする表情をするホルス人。
「この人たち、隠密は凄かったクマ」
翔一が正直に褒める。
「当然だ」
「なにいばってんだよ。ゴキブリが!」
ビアンカが怒鳴るが、男は表情一つ変えない。
フロールは警備を二人程残して、ビアンカ、翔一と尋問部屋を出る。
「あいつのいってることに嘘はない」
「へえ、あんたそんなことわかるんだ。心が読めるのか」
「嘘をいってるかどうかはわかる」
「じゃ、じゃあ、またああいう人たちが襲ってくるクマ」
「多分大丈夫だ。あれほどの隠密はそうそういないし、居ても同じようにやれば負けるとうわさが広まっただろう。犯罪者の集団がこっそりという手段はとらないと思う」
「タマゴの推測は正しいと思うぜ。手練れたちもむざむざ死ぬとわかってくることはない」
「じゃあ、一安心クマ」
「それも甘い考えだ。他の手段を使ってくると思った方がいい」
フロールが腕を組む。
「そうだろうね。ここは小さな村だ、孤立してる。一万枚も出せる奴なら、傭兵部隊雇って襲ってくるとか、そんなことも不可能じゃない」
「軍、部隊となると、誰かの支配地域を通らずには無理だから、そうそう簡単には……」
「それがそうでもないぜ。一般人の振りして少しづつ集まって、一気に迫ってくるとか、金さえあれば手段はいくらでもある。あと、そうだな、あまり大声ではいえないが、村人を買収するなんてこともできる」
「村人はあまり外に出ないからそれはそんなに心配ないぞ」
「この村は新規が多いからな。甘い考えは禁物だぜ」
「戦いに備えておけ、スパイも警戒しろ、考えたら普通のことだな」
フロールはそういうと、村人の名簿を取り出す。
「それは?」
「村人は義務として警備と防衛任務を負ってもらっている。今は最低限だが、これから強化するにはどうするか……」
「ギルド紹介の冒険者は使える奴が多いぜ、忠誠心も高い。それと、意外とあいつらも……」
ビアンカが指さした方向にはオークたちがいた。
彼らは村に一軒家を建てて、交易業務の出店場所にしている。
オークの産品は主に鉱物、皮革、食料、嗜好品、石炭、宝石といったところである。この村とも取引は行う、そして、青剣城との取引も始まっている。中継地として、子熊村はさらに発展するだろう。宿屋はできたが、できた端から規模が小さいという問題が出てしまうありさまだった。
「オークは交易以外人間との接点を減らしているという。防衛には使えないぞ」
「しかし、ここは奴らにとって大事な中継点になったんだろ。それに、石炭とかかなり大量に買い込んだじゃない? お得意様になったんだよ」
ビアンカの指摘は事実だった。村は木々の伐採を避けるために、石炭を購入して燃料に充てる予定だった。木々を伐れば大地が痩せてしまう。今後の農業や牧畜のためにも樹木は残しておきたいという要求があったのだ。
「交易路警備の目的で、オーク部隊を受け入れるか……うーんそこまで信じていいのか悩むな」
「あいつら、平和思想のアーマーラ大地母神信仰だから、大丈夫じゃない? 魔神信徒はあの『滅殺魔女』のダナ様が皆殺しにしたんだろ」
元ガルディア王妃のダナが大オーク王に就任した前後で、大戦争があったという。ダナが魔神を信奉するオーク部族を抹殺したのだ。
「ふむ、まあ、いいか。数を限定しよう」
オークの交易担当と話をすることになる。
「警備部隊? 山中では部隊をつけてますが、たしかに、子熊村からはつけてませんね。許可を頂けるなら部隊をつけたいのが我々の本音です」
交易担当のオークは細身で眼鏡をかけたインテリ風で、武器も持っていない。
「普通の交易商は警備つけてどこでも行くからな。あんたらがオークというだけで不利に扱われているともいえる。エルザと話しつけるから、その代わり、この村の近辺に駐屯部隊を置いてくれ」
「村を防衛しろと仰るのですか」
「ウィンウィンだろ」
「フム、まあいいでしょう。大祈祷師様に許可を貰います」
「大祈祷師? 族長とか大オーク王とかじゃないのか」
「族長会議は最近権力が低下して、アーマーラ母神の大祈祷師様が最高権力なのです。尚、大オーク王の位は畏れ多すぎて、空位になっています。空からやってきた恐怖、地獄の顕現、無限の死、それが大オーク王。我々にとってそれは真の恐怖なのです。誰かが受け継ぐようなものではありません」
大オーク王を語るとき彼は若干汗をかいている。暑いわけではなく、恐怖の冷や汗なのだ。
「そんな怖そうな人に見えなかったクマ。とっても優しくてきれいでいい匂いがしたクマ」
「ヒィ、あ、あの方と遭遇して、殺されなかったのですか」
しきりに汗を拭く担当官。
「大丈夫クマ」
「あの方に会いに行った屈強の戦士百人が、一睨みされただけで物いわぬ骸になったとか、屈強の将軍がほんの一言ダナ様を批判しただけで頭が爆発したとか、色々うわさがあるんですよ」
「さすがにちょっと、うわさが独り歩きしすぎだと思うぞ。んなわけない」
フロールが苦笑する。
「まあ、あの恐怖を体験しない人間たちには理解できないと思いますが……」
「そうだ、その大祈祷師って魔力は凄いのか、知識も」
「ええ、相当なものだと思いますよ。彼女、大祈祷師ゴル・サナス様は『七人の魔女』の一人に数えられています。世界的な術者ということです」
「『七人の魔女』……すごい人たちクマ? 知ってるクマ?」
「筆頭は死の魔女、死を齎す『白い手の貴婦人』。二番手に『白銀の乙女』ハイエルフのダナ。三番手に我らが『大祈祷師』ゴル・サナス様。四番手が『混沌を齎すもの』魔女ビビアン。五番手がシンシアの魔術女王。六番手がアーロンの聖なる吸血鬼魔女。七は存じませんね。五番手くらいから人によって意見が割れるみたいです」
「ふうむ。大祈祷師ゴル・サナス様とやらがそこまでの存在なら、ダナの症状を治してくれるかもしれないな」
「ハイエルフの少女を見せたら恨み骨髄クマー、にならないクマ?」
「ハハハ、たぶん、人徳だけでいうなら大祈祷師様が魔女たちの中で最上級ですよ。偉大な母性、アーマーラ様の大巫女。常に人を殺すな恨みを捨てろ、互いに優しくしろと仰ってます。それに、大オーク王が倒したオークたちは魔神信仰の奴らです。大地信仰のオークとは不倶戴天の敵で、大祈祷師様と大オーク王は早々に同盟しています」
「同族の敵の方が憎しみ合うなんてありそうな話だな」腕を組むフロール。
「ちなみに、私は魔神信仰部族出身ですが、命の方が大事ですからね、大地母神信仰に乗り換えました。今は強制される憎悪から解放されて本当に気持ち的に楽ですよ」
「あんた、この村のダナのことは知ってるだろ、彼女は大いなる呪詛とやらを受けている。何とか対症療法で維持しているが、根幹は治っていない。その祈祷師様にその子を診てもらえないか、打診してくれ。金なら何とかする」
「あなた方にとって、その少女はそこまでする義理があるんですか? 家族とか親戚でもないんでしょう? すみません、ちょっと好奇心が湧いたので、お聞きしますが」
「助けたい、それだけだ」
「絶対助けるクマー」
「ハハハ、愚問でしたね。わかりました、お伝えしますよ」
翔一は賊との戦いで聖剣を使わなかった。
代わりに使った斧、棍棒、そういったものを習熟する必要を感じていた。狭い空間での戦いを考えずにいたのは不覚だった。
勝ったのは事実だが、かなり綱渡りであり、負けた可能性もあった。
妖術に頼らなければならなかったのも後悔している。
宿精のダーク翔一はご機嫌だったが、翔一はもう使いたくないというのが本音だったのだ。
翔一は例のヤニスの剣術指南を紐解く。
ここには短剣など、小型武器の使い方が数多く紹介されている。
「狭い場所での戦いを想定しているクマ。なんだか悲しいけど、広い場所だと槍に勝てないと書いてあるクマ。長い兵器で叩きのめしてから小さい武器でとどめを刺すのが一般的……」
たぶん、これがヤニスの感想なのだろう。
小型武器しか使わなかったヤニスの技は、ディザームからのカウンターが多い。ヤニスの長ナイフや爆発短剣などは普通の形だったが、防御からめとりを考慮した形状にした方が使えるとあった。
「小型武器はたくさん持てるので、投げつけろ……うーん」
翔一は投げる訓練もする。これは小型武器が槍などの大型武器に対抗する方法の一つだが、武器が一個しかない場合は使えない。
「精霊ポケットの精霊を受祚して、小型武器を入れておくクマ」
翔一は小さな腕輪を作って、それにポケットの精霊を封印祚物を作る。
敵から手に入れた魔法武器を幾つか入れておく。大型なので聖剣は入らないようだ。
手練れの『酷殺団』は魔法の武器を多く持っていた。戦利品として回収してきた。
「投げの応用で、鎖や紐をつけた小型武器……これは難しいクマね。修業時間が必要クマ」
小石に紐を結わえ、標的にぶつける。思った以上に難しい。翔一は飽きずに修練を繰り返した。
少し慣れたところで、思いっきり振り回すと、翔一のお尻を直撃する。
暫く悶絶して動けなかった。
「いたた、痛いクマー」
「キャハハハハ」「アハハ、クマたん大丈夫?」
ダナと村の子供たちが偶然通りかかって目撃し、大笑いされる。
子供たちはすぐにどこかに行くが、代わりにフロールがやってくる。
「おう、翔一やっとるな。ワシが稽古つけてやるでござる」
「フロールさんって武術できたクマ?」
「あのなぁ俺は平家の子孫だぞ。武士の家系なの。農民と一緒にするなよ」
「九州の人は全員平家の子孫クマ」
「あれは妄想、俺は本物。俺の槍術を見ろ、今さっき鎗術アプリ入れた」
「便利でうらやましいクマ」
フロールには鎗を使ってもらい、翔一は槍の間合いにわざと苦戦することにしてみる。
短剣、斧、小剣、ナイフ、普通の剣でもほぼ勝ち目がない。聖剣を使えば威力が高いので槍は簡単に破壊できるが訓練でするようなことではない、普通の武器では明らかに劣勢である。
アプリを入れただけのフロールは勝ち誇っている。
「元の世界に戻ったら、槍で犯罪者を皆殺しだ!」
カッコよく槍を振り回すタマゴロボ。
「うーん、腹は立つけど、勝てないのは事実クマ」
「あんたら面白そうなことやってるねぇ」
ビアンカが来る。
「ビアンカさん、相手が槍だったら格闘でどう戦うクマ?」
「ああ、それね。普通は勝てないよ。でも、やらなきゃ仕方がない時は絡めとるね」
実際に、フロールの槍と戦ってもらうことにした。
ビアンカは両手首に何らかのマジックアイテムを装着しており、槍の穂先をかすめると、槍は簡単に大きく弾かれてしまう。がら空きになった間合いにビアンカは飛び込み、大きなお尻でフロールにのしかかる。
お尻に潰されたフロールは倒され、拳を突きつけられる。
「ま、まいった、凄い食い込みパンツだな」
「動きやすさ重視よ。何か文句ある」
今度は翔一もやってみるが、力を込めても槍の穂先を魔力で強く絡まれて弾かれてしまう。さっと槍を持たれて、結果はフロールと同じ。
「むぎゅ、大きいお尻クマ」
「魔法がなければ勝てないのよね。この腕輪、先進国では結構流行ってるよ。力場の腕輪ってんだけどね。槍使いが減った原因だね」
「お、重いクマ……」
「毛皮座布団は黙ってて。でも、座り心地いいわね」
お尻から解放された翔一は槍や薙刀を研究する。
「基本、槍と薙刀というものは相手をぶっ叩くものだ」
「突きまくれば強いクマ」
「実際の戦場ではそう使わないらしい、鎧着てる相手には刺さらないのだろう。叩いて衝撃で相手の動きを止めて、短く持って接近して止め刺すとか、短剣抜いて首狩るとか、んな感じだ」
「薙刀は隙が多い感じがするクマ」
「その破壊力でその間合いだぞ、戦場では敵をぶっ叩く破壊の権化だ」
「それなら、聖剣に長い柄をつけてブっ叩いたら最強クマ」
「長巻みたいだな。面白いからやってみるか」
フロールはそういうと、短剣の改造と含めて翔一から注文を貰って工房に籠ってしまう。
翔一も依頼を受けていた祚物作りを行って過ごした。
一カ月以上もかかったが、大祈祷師との面会は許可が下りた。
オークの駐屯部隊も許可が下り、村の東側の山中に彼らは砦を建設して兵を常駐させることになる。
エルザ女伯はオークが信用しきれなかったのか、同数の人間の兵員の常駐も求めてきた。
黒騎士領で傭兵募集して、谷の入り口側に小さな砦を作り、常駐してもらうことになる。費用は村と青剣城で折半になった。同時に子熊村は正式にエルザ伯の領土となり、納税も行う。
村はさらに人口が増え、兵員も増えている。翔一が戦った古代遺跡を整備して、村の出張監視施設として使うことにもなった。賊の拠点になりやすいロケーションでもあったのだ。少人数でも置く意味はあった。
翔一は荷物を整理する。
聖性、迅速、守護、幸運の各祚物。ネックレスなどの装身具にして、じゃらじゃらと首からかける。
精霊の働きは地味だが、白い道を選ぶたびに強くなっていた。
『酷殺団』から手に入れた武器は、魔法の短剣が幾つかあったので、三本を投げ用に改造し、一本を大きな鍔をつけて、ディザーム用に改造する。護拳が付き、からめとりの鋭い鋼の棘が二本飛び出している。ヤニスが考案したナイフで、イラストがあったのでそれを真似したのだ。逆手に持って使う。接近してきた敵の腕や武器を棘で制して、そのまま切りつけたり、反対側の手に持った武器で仕留める。
投げナイフも練習した。最終的には投げ武器全般に習熟した。魔法の金属をぶつけられるだけでも打撃にはなる。意味はあるだろう。
最後に、聖剣に金属製の長柄をつけた。これは取り外せる。広い場所で敵がポールウェポンを使った時に、間合いで劣勢になるのを防ぐための備えである。広い場所でしか使わないが、威力はさらに増してる。
食料、水、寝袋、テントなどを精霊界ポケットに入れると、かなりの重量だった。
「ちょっと重いクマね」
精霊界に置いた物質は形を失っているだけで、存在はしている。質量は術者が背負うのだ。気軽に詰め込めるようなものではないが、翔一は怪力なので、普通の人よりは大量に運べる。
「オウ、翔一、準備はどうだ」
弓を持ちいつものバックパックを背負ったフロールが来た。
「フロールさんは忙しいクマ。無理に来なくても……」
「ダナを助けると決めたのはお前だけじゃないぜ。それに村長はジョシュにやらせる」
「村長辞めちゃうクマ?」
「もう、最初期の村とは違う。人も増えたし、経済的にも潤ってる。俺がやらなくてもよくなったんだよ。それに、防衛任務は青剣城の家臣がやってくれるからな」
「村の皆はそれで納得してるクマ?」
「気にするな、いつか奴らも独り立ちしないといけない」
翔一は村の人間がフロールに頼りきりなのを知っている。大丈夫なのだろうか、心配になったが、あまりに人間と違う容姿のものが人間の村の代表ということも無理なのではないかとも思った。
「ハスタさんは何かいってたクマ?」
「解毒剤持って行けってよ。先生は高齢だから連れて行くのはどうかと思うし、ある意味セカンドオピニオンだから、医者としてちょっと気分がよくないかもしれないな」
「この話に先生は何もいわないクマだよねそういえば」
「自分のできる限界を知っているということだろう。だから俺はあの先生を尊敬してるんだよ。多少実力があるだけで天狗になる奴なんて世の中いっぱいいるからな」
「……」
「先生は気遣ってくれているんだよ。俺たちはできることを頑張ってやるだけだ。ダナを大祈祷師の元に連れて行くとか、そういうことだ」
翔一はうなずく。
「あとはダナちゃんだけど、しっかり装備は作ったクマ」
ダナの装備は、高山を意識して猪皮のコート、鹿皮の服。かなりあったか装備である。ダナが着てくる。これは村の女たちが作った。
翔一はしっかり作り込み、精霊なども封じてある。
「ちょっとあったかすぎじゃないかしら」
「山の上は寒い寒いクマー。ダナちゃんの普段の服ではちょっと無理だと思うクマ」
翔一は震える仕草をする。普段の服はこの世界にきた時から着ている服で、明らかにエルフ仕立ての魔法の服だが、シンプルなワンピースなので寒い地方には向かない。
「私たち三人だけなの?」
「一応、オークの奴らが案内をつけてくれる」
フロールが弓を調節している。
「フロールさんは関節とか大丈夫クマ? 劣化してるとかいってたクマ」
「心配するな、アダマンタイトで部品作ったら、かなり改善した。それに高山は熊に乗って移動するから。俺歩かないし」
「え?」
「だから、翔一がいつもの乗熊になって、俺とダナを運ぶんだよ。それ以外ないだろ、常識的に考えて」
「たまにはフロールさんも歩いた方がいいクマ。健康にもいいよ」
「ねーから、だるいだけ」
「ロボだから疲労とか無いでしょクマ」
「いいから、俺とダナを乗せていけ。気合入れろ!」
「楽がしたいだけなのに、ここまで上から目線の人は初めて見たクマ。ある意味清々しい?」
病気の治療をするだけなので三人でいってすぐに帰るという計画だったが、エルザが横やりを入れてくる。
大祈祷師ゴル・サナスと謁見できるチャンスなので、エルザの部下が数人同行することになった。もちろん、オーク陣営と事前に話はつけているようだが、フロールと翔一は出発直前に話を聞かされて、彼らと面会して同道することになった。
「根回し下手だよな、エルザ。そんなんだからガサツ女剣士行き遅れオールドミスになるんだ」
「フロールさん、家臣の皆さんに聞こえますクマ。不満は心の中でお願いしますクマ」
「うぉっほん! ワシはエルザ女伯の家臣、ロニー・マン子爵だ。この少年は、由緒あるイェル家の後継者、アントン・イェル男爵と申す」
同行する人々は今紹介された二人と、そのお付きの者数人の戦士だ。
ロニー・マン子爵は白髪で矍鑠とした老人。眼光鋭く、口はへの字。六十歳手前だろう。かなりの堅物だと感じられる。アントン・イェル男爵はまだかなり幼さの残る少年であるが、健気に重い鎧を着て、剣を腰に下げている。十四歳くらいだと思われる。
「アントンです。翔一さんとフロールさんですね。エルザ様から聞いております。よろしくお願いしますよ」
少年であっても彼は背が高く、翔一は見上げながら握手をする。ロニー・マンは握手をしようともしなかった。
「フフ、フカフカの手をしているね」
にっこり微笑むアントン。少女といわれたらそのまま信用してしまうような美少年だった。
「あんたらはどうやって行くんだ。かなりの高山だぜ。年寄りと子供にはきついのではないか」
フロールは手加減がない。
「ワシは戦場往来四十年。まだ衰えてはおらんわ!」
ムッとしてロニーはさらに口をへの字に曲げる。
「ぼ、僕もがんばりますよ。これでも毎日修業してるんです」
「心配ご無用よ、我々がお二人を守りますわ」
護衛兵の女隊長が断言する。背の高い麻色の髪をした女。三十代くらいの美女である。
「俺もエルザに雇われたぜ、タマゴ野郎」
ずかずかと入ってくるビアンカ。
「冒険者のビアンカね。知ってるわ、エトワールの仲間でしょ」
「元冒険者のアメリアだな。俺も知ってるぜ。『黒剣』アメリア。冒険者やめたのか?」
「故郷を復興させようとしているエルザ様に忠誠を誓ったのよ。ロニー様もアントン様もそれは同じ」
アメリアの腰には魔力を帯びた剣が下がっている。善悪は関係なく、強いと翔一は感じた。
「そういうことだ、我々は民を助け、国を再び興す。そのためにエルザ様に仕えることにしたのだ」
ロニーが胸を張る。彼は基本的に姿勢がいい。
「そのために、強国オークとの友好樹立か……気持ちわわかるが、俺たちは一人の少女を助けるためだけに行動している。あんたらの助けにならなくても、恨まないでくれよ」
「心配ご無用だよ。君たちの義侠心には我々も感心しているんだ。大祈祷師殿との謁見だけじゃなくて、少女ために僕たちも戦うよ」
アントンはさわやかな笑顔。
「ありがとうクマ」
翔一はアントンの手を握って、喜ぶ。
フロールがダナを連れてくる。
「彼女がハイエルフのダナ。あの有名人とは別人だからな」
ダナは無言で優雅にお辞儀する。
アメリアが笑顔。
「あら、凄く可愛いわね」
「ダナちゃん。この人たちが一緒に行く人たちクマ。エルザさんの部下だからな心配ないクマ」
ダナは翔一の毛皮の背中に張り付いて、ちょっと人見知りをする。
「ハイエルフか。ワシは初めて見た。確かに、美しいものだな」
ロニーのような老人でも見たことがないのだ。
「僕はアントン。よろしくね」
にっこり微笑むアントン。
ダナは少しはにかむような笑顔を見せる。
窓から朝日が刺し、少女は光り輝く天使のように見えた。
2020/5/24 変換ミスを幾つか修正しました。




