表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/70

14 復興

 白腕嶺の北側のふもとに緑のわずかな帯があり、そこにポツンと大きな墓碑が立っている。

 墓碑には何も刻まれていない。

 精霊が花を咲かせ、墓碑の周りは一面の花畑になっている。

「ふう、疲れたクマ」

 翔一は子熊になってゴロっと横になった。

 そろそろ、正午だろう。

 風は気持ちいい。小さな花々が揺れる。

 馬に乗った人間が数人やってきて、降りる。

 そして、翔一の元に歩いて来る。

 フロール、コンラッド、エルザ、マクシムだ。フロールはエルザの後ろに乗っていた。

「立派な墓碑を作ったな」

 コンラッドが最初に口を開く。

「何も刻まれていないわ」

 エルザが墓碑を眺める。

「俺たちは異世界の人間だ。あんたたちで犠牲者を弔う文を書いてくれよ。思い入れはあんたたちの方があるはずだ」

 フロールも墓碑を眺めて穏やかにいう。

「そうね……」

「それは、ここの領主になった奴がやればいい。……それはそうと、翔一、話が決まったから教えるぜ」

 コンラッドは話を変えて、立ち上がった翔一に話しかける。

「?」

「ここのトンネルを守る城は上古人が建てたものだが、現代でも使われていた。十年前、レイド王国全土でアンデッド災害が起きたが、その時から女吸血鬼の巣窟になった。しかし、今、ようやく解放されたんだ。生き残った人たちも、概ねレイド王国の生き残り難民で、彼らも国土の復興を望んでいる。だから、この城を『青剣城』として俺たちが守って、復興の礎とする」

「それはいいけど、村はどうするクマ」

「元からの一行は行ってくれ。俺はもう任務を果たしただろう。ここから先は距離も大したことがないし、あんたたちの方が詳しい」

 コンラッドが肩をすくめる。

「私とコンラッド、マクシムはこの城に残って、ゲール地方復興を目指すわ」

「ここは神聖平原で最も危険な場所だ。どう見ても冒険のネタは尽きないだろう。文明地の貴族の道具になるより魔物退治の方が好きだからな、俺は」

 マクシムがニヤリとする。

「城にはかなりの財宝が眠っていた。俺たちは二割貰う。後はコンラッドに渡して、城の復興資金にしてもらう」

「フロールさんがお金を諦めるとか……大丈夫クマ?」

「俺は金を使うところには使う主義なんだ。貯め込むだけじゃないぞ。今はこの地域はインフラ投資しないとダメだ。道路とか城塞とかな。そういうものに金を使わないと、人々が暮らしていけない。人が住めないところで金貯め込んで何の意味がある?」

「正論と思うクマ。そうだ、黒騎士領の偉い人が復興目指す人を支援するっていってたクマ」

「領主を立てないとだめだな。コンラッド、あんたがやったらいい」

「おいおい、俺はそんな柄じゃないぜ。放浪の剣士でしかない。エルザ、あんたがやれよ。レイドの元将軍だろ。最も王国の復活望んでるのはあんたじゃないか」

「知ってるわよ、あなた王子だったんでしょ。だったら、適任はあなたしかいないわ」

「……お、おれは、王子なんかでは……」

「とにかく誰かがやらないとダメなんだ。翔一と俺では見た目が人外すぎる。マクシムは明らかにレイドの人間じゃないしな……。地域出身でやれそうなのはエルザかコンラッドしかいない。どちらかが暫定でもいいから。……くじ引きでもするか?」

「そうだな、それでもいいぜ。運任せ、神様の御意志だ」

 さっとコインを出すコンラッド。

「わかったわ、それで決めましょう、表ならあなた、裏なら私」

 うなずくとコンラッドはコインを飛ばして、地面に落とす。

 翔一が好奇心いっぱいで見に行く。

「数字が書いてあるクマ」

「裏だ、じゃあ、女領主エルザ殿。『青剣城』を頼むぜ」

「はぁ。これから大変よね……」

「これを見せたら、黒騎士領と仲良くやれると思うクマ。支援するとローセンという人がいっていたクマ」

 翔一は胸に下げた短剣を渡す。

「……ありがとう、遠慮なくいただくわ。どんな支援でも欲しいから。ローセンはガルディア七剣士の一人よね。今は黒騎士アモンの宰相やってるわ」

 エルザは一瞬躊躇したが、結局、受け取る。

「大英雄アモンはレイド王に捕らえられて酷い目にあわされたが、ガルディア王が救出。体が完全に治ってから黒騎士領を建てたんだぜ。だからアモンはガルディア王と仲がいい。そして、アモンはレイド人だ、『青剣城』は友好関係は築きやすい。……ガルディアと仲がよすぎるがな」

 コンラッドは王族だっただけに、近隣の政治にも詳しい。

「そこが問題よね、レイド人はガルディア嫌い多いのよ。特に貴族には。でも、現状であの生きのびてるレイドと組む気持ちだけは起きないわ。追い詰められているのに圧制を止めない暗愚と組めるわけがない」

「黒騎士でいいだろう、援助相手に贅沢なんていってられないぜ。レイドは手を貸してはくれないだろう。あいつらはかつかつだ。コネもあるし義侠心もあるアモン大王に縋るのが最も現実的だぜ。このチビさん達と俺たちが大悪魔・女吸血姉妹を倒した武勲は必ず外交で有効に使える」

 コンラッドがアモンのことを「大王」と呼んだのは若干の皮肉である。

「ええ、やはりそれがいいわよね」

「お願いがあるクマ。あの女吸血鬼はエルザさん、コンラッドさん、マクシムさんで倒したことにしてほしいクマ」

「おいおい、どう見ても違うだろ。人の名誉横取りなんてできないぜ」「同感だ」男たちは誇り高く首を横に振る。

「僕はまともな姿じゃないから、あまり目立ちたくないクマ。それに、有名になるとダナちゃんを守れなくなるクマ」

「お前たちが世話している、あの病気の少女か……まあ気持ちはわからんでもないが……でもなぜそんなにこだわるんだ、あの子に。困ってる子供なんてこんなご時世、大勢いるだろう」

 マクシムが髭をひねりながら聞く。

「目の前で困っているダナちゃんを助けたい。それだけクマ」

「それだけの理由であの怪物を倒したのか! しかも、名誉も何もいらないとはな。……彼は本物の騎士だ……フフフ、このご時世、こんな御仁は滅多にいないぞ」

 マクシムがニヤッと笑いながら褒める。

「一緒に戦ったのは事実だから嘘ってこともないだろう。俺たちの名前は出さないでくれ」

 フロールもそれには同意だった。

「わかったわ。でもちょっと残念ね。可愛い英雄さんたちのことをみんなに教えたいのに」

「この辺の奴らは知ってるから、それで我慢するしかないぞ、領主さま」

「あら、もう領主呼ばわりなの、コンラッド殿」

「女領主さまクマクマ」

「偉い人になったんだよ、エルザ様」

 コンラッドが恭しくひざまずく。

 皆笑い、エルザだけ憮然とする。


 その後、翔一たちは一週間は青剣城に滞在して、廃墟の街の修理などを手伝った。

 特に街壁などの防御施設は急務だった。危険なこの地域で壁無しで生きるなどということはありえなかったのだ。

 翔一は大熊になって土石の運搬、石の積み上げを手伝う。

 ダナも病床から魔術を使って、アースエレメンタルを呼び、作業をさせる。

 古い町の壁も大きな穴がふさがったところで、一行は出発することにした。

「じゃあ、気をつけてね。一応、ホブゴブリンの動きはないけど、安全とはいえない道よ」

 エルザが見送ってくれる。既に、難民の主だった人々が側近としてついているようだった。

「ああ、わかっているさ。こちらより、この城の方が心配だよ」

 フロールが外壁の応急修理を指さす。

「心配しないで。新しく領土が立ったことと、従属同盟結ぶことで黒騎士領から領土安堵してもらうことになったから。援軍も来る予定よ。トンネル開けたのは大武勲だって評判なのよ」

「コンラッドの姿が見えないが……」

「ああ、あいつに使者に行かせたの。伝令の話では大吸血鬼を二人も倒した大英雄だってことで、貴婦人やら町娘やらに滅茶苦茶にモテまくってるって話よ。あいつ、存分に鼻の下を伸ばしてるわね」

 エルザは肩をすくめ、マクシムはにやにやしている。

「わかってたよ、あいつの本性は。フニャフニャの根性をいつか叩き直してやるぜ」

「じゃあ、そろそろ出発クマ」

 一行は手を振る人々を残し出発する。


「結局、大冒険の割にはあまり変わらないメンバーね」

 キャシーの声がする。アレックスが応じるが聞こえない。

 道は以前、命辛々逃げたルートだ。

 古い道がかすかに残っている。

「多分、二か所くらいで、馬車は通れないクマ」

 フロールは道の様子を確認しながら、

「道を補修しながら行こうぜ。どうせやらないといけない。青剣城とのルートは絶対必要だからな」

「じゃあ、また大熊になって土木作業員するクマ」

「クマちゃん、エレメンタル呼べないの?」

 ダナが珍しく提案、昼間はけだるそうに座っている。

「試したことないクマ」

「やったらいいじゃない、精霊界ならたぶん簡単よ」

「やってみるクマ」

 大昔の石橋が残っている場所がいくつかあり、村に近づくにつれて、そのような構造物はなくなる。

 翔一は一番の難所だった急流越えに大地の精霊を使う。

「エレメンタルか……完全支配となるとこのサイズだ」

 ダーク翔一は大地の精霊を連れてくる。概ね人間サイズだが、自分の分野にはかなりの力を発揮するらしい。

 精霊を向こう岸に出現させると、彼に橋の土台を作らせる。

 山から大木を伐って、何本かかけて橋にする。これは人力で行うが、運搬はエレメンタルも手伝う。

 これだけで一日仕事になった。木を伐るのがかなりの難行だったのだ。

 翔一は大熊になって、丸太を置いていく。ロープで縛ると、どうやらとりあえずは橋になった。

「うーん、でも、これでは増水したらすぐに流れそうクマ」

 翔一は土砂で作った土台を見る。

「泥を石へ!」

 ダナが魔力の杖を振ると、橋の土台は石になる。

「凄い、コンクリートみたいクマ」

「疲れたから寝るわ」

 ダナはすぐに横になる。

「ぐっすり寝るクマ」

 そっと毛布を掛ける翔一。

「多分、植物の精霊呼んだら、すぐ植物は大きくなるわ。土手とか重要な場所はそうしたらどうかしら……」

 ダナは横になってつぶやく。

 翔一は早速、灌木の小さなものを取ってくると、橋の横の土手など、硬くなってほしい場所に植える。そして、植物の精霊を呼ぶ。

 精霊は木に取りつくと、一回り大きくなってしっかりと根を張る。

「これはなかなかいいと思うクマ。まだ、気休めだとは思うけど、時間が経てば……」

 一行は時間をかけて進んで行く。さらに一週間もかかったが、村に到着したと同時に、道が開通するという結果になった。


 村へ馬車で入る。

 村の様子は悪くなかった。粗末だが建物が増え、耕地も増えている。

 野原には様々な花が満開だった。荒地も若干減ったように見える。

「綺麗なところねぇ」

 キャシーの声が嬉しそうだ。

「おお、フロールさんご無事で、新しい方々も連れてきたのですね」

 ジョシュもやってくる。農作業中だったようだ。

「長い間留守にして済まなかった、何かあったか?」

「あれからは平和ですね。あのブラックエルフという奴も、結婚して、村人と仲良くやってますよ」

「それはよかったクマ」

「あ、クマさん、ご無事で。……まあ、あいつは元敵ですが、やる気があるなら断れないほど人手が足りませんからねぇ」

 ジョシュはそう答えながら汗をぬぐう。

「俺は元の体があった時は結婚なんて欠片も考えなかったが……素直にうれしいぜ、村の人が幸せになるのは。本当にいいことだ」

 フロールが遠くを見る目をする。

 人が死ぬのを見すぎた、彼でも少し堪えているのだ。

「ダナさんもご無事で……」

「彼女は以前よりはましだが、まだ病気は治ったわけではない」

 ハスタが声をかける。

「……こちらの方は?」

「彼はハスタ師だ。高名なお医者さんで、ダナを治すためにここに来ていただいたのだ。村の皆も彼を大事にしてくれよ」

 フロールが紹介する。

「そ、それは、ありがとうございます。皆、小さな病気でも治せず苦しんでいますから。大歓迎です」

 ジョシュはひざまずく。


 砦の前に来ると、人々が集まってきた。

「クマちゃん帰ってきた!」「ゴーレム旦那も元気そうだ」「ダナはまだ病気なのか……」「新しい人も来たね」

 様々な声が飛び交う。

 翔一が馬車を降りると、子供たちがやってくる。

「クマちゃん、好物の蜂の巣とハチミツ集めたの」

 子供たちは小さな壺を持っていた。蜂の巣が入っているようだ。

 翔一は受け取り、蜂の巣を少しつまむと口に放り込む。

 プチプチと潰れる蜂の子。甘味が口に広がる。

「おいしいクマ。ありがとうクマ」

 翔一は子供たちの相手をする。

 翔一は子熊状態の間、少し精神年齢が下がるようだ。かくれんぼなどに付き合う。

 灌木の陰に隠れた翔一の短い尻尾が見える。

「村人と俺が連れてきた人たちも、とりあえずは上手くいきそうだな」

 フロールは腕を組んで村人の様子を見た。 

「この谷の開発には全く人手が足りませんからね、大歓迎ですよ」

 ジョシュは素朴な顔に笑顔を見せる。

 この村は立ち上げたばかり、あまりに人口が少ない。

 村人と新しい人たちの交流が始まっているようだった。

 早速、新しい人々は生きるために目のつくことから作業を始める。

 彼らは住居が建つまでは砦に住み、農作業の手伝いなどをすることになった。


「何という糞田舎。貴族の子である僕がこんなところで……」

 一人、皆と距離を置いていたレダは絶句する。

 耕地は狭く、目につく限りはほとんどが自然だった。

「レダ君、ご託はいいから、さっさと肥え担ぎ頼むわ」

 手ぬぐいを鼻? に巻いて、桶を担いでいるフロールがやってくる。

「うわ、地獄タマゴ。……肥え担ぎ? 何ですかそれは」

「発酵させたウンコ=肥料を畑にまくという非常に重要かつ崇高な作業だ」

「うわー、最悪!」

「いいから、やれ!」

 ぶつぶついいながらフロールと肥え担ぎをするレダだった。




 ふと気が付くと、翔一は青剣城の正面に居た。

 あの死闘が行われた広間が門の奥に見える。

 城の正面は中庭で、平原を見渡すことができるようになっている。翔一は背後に人がいることに気が付く。三人の人間。ではなく、化け物だった。

 両脇に二人の女。かなり普通の人間っぽいが、例の吸血姉妹、姉シャザルナと妹ファオリナ。そしてその中央にがっしりした壮年の男。男は涙をぽとぽと落としている。

「酷い、酷すぎる。私の娘たちはとても優しい性格で、誰からも愛されている。それなのに……殺すなんて!」

 男は涙を流す。

「本当に酷いわ、私が何をしたの」「そうよ、何もしていないわ」

 翔一は死体の山を思い出して、怒りを感じる。

「嘘つき! お前たちは無数の人間を殺したクマ!」

「私たちは捕食者として餌を食べただけだ。何も悪いことはしていない」

 男はきょとんとしている。

「人間を殺すのは悪事クマ」

「おまえも大勢殺したのではないか。恨んでいる霊魂が沢山いるぞ」

「そうよ」「そうよ」

「僕は邪悪を退治したり、身を守るために剣をふるっただけクマ」

「じゃあ、我々は食事をしただけだ」

「殺される側として、お前たちから身を守るために倒すクマ それでいいか?」

 キッと魔物たちを睨む翔一。

「おまえは人間ではないようだが。熊ではないか? 殺される側とはいえない。お前も捕食者だ」

「僕は人間クマ」

「人獣……違うな、確かに、普通の奴らとは違う。……ああ、わかったぞ、お前の正体!」

 男が叫ぶ。

「しょ、正体? 教えてくれ!」

「おまえは……」


 男がしゃべる前に、違う場所に来た。

「ああ、何だろう知りたかったのに……」

 最初に異世界に来て難民を救った場所。

 死人荒野の丘だ。

 あの丘の美しい屋敷の前にいる。廃墟の街の屋敷だが、今、目の前にある邸宅は廃墟ではなく、鮮やかで瀟洒な建物だった。

 屋敷の奥から、一人の男がやってくる。

 背が高く、厳しい顔をした男。翔一と目の合った男だ。華麗な鎧を着ている。腰には翔一の青い聖剣を佩いている。

 レイド人ではない、もちろん、ガルディア人でも高原人でもない。背が高く、薄い灰色の髪と青い瞳。

「勇者よ、兄弟たちの魂を助けてくれてありがとう」

 翔一は『兄弟たち』が、あの城塞の主や棺の幽鬼たちのことだとすぐにピンときた。

「棺を壊したりして、申し訳なく思ってるクマ」

「気にするな、滅んだものが物に執着する意味もない。ただ、憂うのは、我らが苦しんだ結果が実を結ぶこともなく、未だに悪がはびこっている」

「それは……申し訳ないクマ。努力はしてるつもりだけど……」

「お主に罪はない。よくやっている」

「ありがとうクマ」

「この聖剣はお主が拾ったものだが、前の主としてお主に託す」

 男は鞘ごと剣を外すと翔一に渡す。

「本当にいいクマ? いつか正当な人が現れたら渡すつもりだったクマ」

「正当な人間は私の目の前にいる。毛皮が生えているようだが」

 そういうとクククと笑う男。

 翔一は剣を受け取る。

 とても凝った作りの鞘に入っていた。鞘には背負う用のベルトが付いている。

「綺麗な鞘クマー、凄いカッコいいクマ!」

 翔一は目を輝かせて見る。

 軽い金属で作られ、剣と同じく青く。輝く宝石が付いている。

 鞘を褒められて、男はニヤッと笑う。

 彼が作ったのかもしれない。

「さらばだ勇者よ、そうだ、魔王の指輪には気をつけろ。まだお前の世界に残っているぞ」

「あなたの兄弟が盗まれたとかいってたクマ」

 男はうなずくと、手を振って屋敷の奥に行ってしまう。

 翔一も手を振った。


 いつもの海岸に場面が変わる。

「黒、赤、銀、白、色々あるクマ」

 しかし、今回は少し様子が違っていた。

 黒の前にはダーク翔一。銀の前には刀を持ったかなり大柄で太った侍のような人物。白の前には素焼きの土器で作った面をかぶった原始的な男がいる。

「いいか翔一。まだまだ、異世界魔術の道は遠いぞ。宇宙の恐怖そのものになるのだ」

 ダーク翔一の誘い。

「俺はお前の先祖だ。お前はまだ剣術の高みが全く分かっておらぬ。剣を極めるにはもう一度くぐる必要がある」

 太った侍は力説する。

「翔一、俺は八千年以上前の先祖だ。おまえは精霊を使っているが、まだまだだな。俺が教えてやる」

 素焼きの仮面の男もくぐもった声で力説する。よく見ると彼の体は入れ墨だらけだ。

 いつもの女がやってきた。

「彼らは?」

「一度あの世に行ったのに、あなたの苦闘を知って駆けつけてきたの、あのクマちゃん以外は」

 ダーク翔一を指す女。

「ダーク君は闇の道が好きみたいだから……とりあえず、村の復興大地の復興に精霊を使いたいから白い道に行くクマ。お侍さん、次まで待ってほしいクマ」

「わかっておる、遠慮をするな。お前が正義の道を行く限り、俺はお前を待っているぞ」

「おい、翔一、俺はどうでもいいのか?」

「ダーク君、一回行っただけでもありがたいと思ってほしいクマ」

 翔一はそういうと、仮面の男と白い道を行く。

 男は翔一の毛皮を嬉しそうに撫でながらついてきた。

「レベル六です」




 翔一とフロールの住む村は子熊村という名前になった。

 新しく来た人たちは特に問題もなく馴染み、一年も経過すると、単なる村人となった。

 盛んに結婚も行われ、適齢期で独身という人はいない。

 翔一は武道と祈祷師の術に励み、フロールは村の治水や土壌改良、植林、もめごと解決、防衛計画……、結局、この村の村長はフロール・高倉ということになったようだ。

 基本的に、農業は難民たちの生業だったので、細かく指導するようなことはなかった。

 彼らが困っていることを解決したら、概ね物事は進むということである。

 翔一は寝るごとに仮面をつけた男が現れ、呪術を教えてくれることに気が付く。

 彼は聖別、精霊の召喚、精霊の受祚じゅそという三つの基本技と、特別な精霊を教えてくれるようだった。

 聖別は呪術の基本で、儀式の場所を作る行為。場合によっては魔を祓う術であるともいえる。

 召喚は宿精の仕事だが、宿精を使わずに行うこともできる。宿精は便利だが、それに頼っていては祈祷師とはいえないようだ。宿精と相性の悪い精霊なども存在する。

 受祚じゅそは精霊やその他霊魂を物品に宿らせる術である。

 邪悪な精霊での攻撃や悪意で精霊を宿す場合は呪詛と呼んだ。人を助ける目的で精霊を宿した物体は受祚物と呼ぶ。単に祚物そぶつともいうが、翔一は物品に精霊を宿す行為に熱中する。

 砦の一室に祈祷所を作って、そこで儀式の作業研究を行う。

 魔力を強化する精霊、魔力から身を守る精霊、炎を出す精霊、武器を強化する精霊、鎧を固くする精霊、怒り狂う感情の精霊、心を静める精霊、病を治す、傷をいやす、呪詛をする……。

 聖性の精霊というものいる。呪詛や魔の力を阻害中和する精霊である。それをお守りに受祚してダナに持たせると、わずかだが呪詛が力を弱める。

 それを持って以来、ダナは少しなら外を出歩くようになった。

 効果を喜んだ翔一は次々と受祚物を作る。元から魔法がかかっているものにはできないようだったが、普通の鎧や装身具・武器、そういったものに、使えそうな精霊を宿らせる。

 結果、村人の武具は精霊が宿り、普通の武具より強いものになった。更には村落を守る場所に樹木を植え、作物も一気に成長させ、荒地に植えた植物も加速度をつけて繁茂させる。オカルト嫌いのフロールも如実な結果を見ると、認めるようになったようだ。

 村人たちは翔一を非常に尊重するようになり、クマちゃんではなくクマ様と呼ぶ村人まで出る始末だった。

 朝と夕に剣術修業、立木打ちも欠かさない。

 翔一の日々はそのようにして過ぎていく。 

 一方、フロールは村に口は出すが、砦に在中して最近動かない。

「フロールさん、あまり最近動かないクマね」

「俺はマシンだからな。この世界では修理ができない。ナノマシンで可能な限り再生はしているが、限界はある。要は壊れてきたってことだ」

「え、じゃあ……」

 不安になる翔一。

「そうだ、俺は長持ちしないだろう五年くらいかな、持つのは、それは涼子も同じだ。あっちは生体パーツが多いから長持ちするし、極力生体パーツに換装してるけどそれでも、そうだな……三十年くらいで機能停止になると思う。もちろん、大きく壊れたらもっと早い」

 フロールが吸血鬼に蹴っ飛ばされたことを思い出す。

 あれから動きが鈍いのはなんとなく感じていた。

 翔一は試しに、機械修理できそうな精霊を探したが、ダーク翔一はないと冷たくいい放つ。

「以前、機械精霊というものを聞いたクマ」

「あれは真逆だ。機械を破壊したり、機能停止させるものだ」

 ダーク翔一は調べてきた結果そう答える。

 そう聞いてがっかりしたが、それでも、あきらめられない翔一は、物体強化、潤滑、そういった能力を持つ精霊をさがし、細かく関節などに受祚する。

「フム、どうやったかは知らんが、治ったようだぞ」

 フロールが以前と同じように動いている。

「関節とか動く部分がすぐに壊れる。機械の宿命だよ。逆に、ソフトは早々簡単には壊れない。五年で壊れるといったが、ソフトはたぶんもっと持つだろう。いずれ、動けなくて喋るタマゴになるってことだよ」

「そんな状態にはさせないクマ」

「おまえは優しい奴だなぁ……ありがとう翔一、でも、その優しさは戦士としては失格かもしれんぞ」

「ベ、別に失格でもいいクマ。凄い戦士は凄い人殺しになるということクマ」

「おまえの好きに生きろよ。俺もそうしてるから」

「うん、そうするクマ」


 翔一は再び、精霊の研究に入る。

 彼の中で今は剣術はちょっとお休み状態だった。立木打ちは継続していたが。新しい技などは覚えなかった。覚えた技の反復以上のことはしない。

 ある日、ダナがけだるそうにして作業場に見に来る。

「クマたん。最近精霊術ばっかりやってるのね」

「精霊のパワーが増してきたから、ちょっとダナちゃんの病気をどうにかできないかやってみるクマ」

 翔一は聖別した空間にダナをそっと寝かせる。

 精霊界を見て、ダーク翔一と話す。

「ダナの状態はどう見えるクマ?」

「よくわからない、たぶん、神界から鉤爪の手が伸びてきて、ダナをがっしり掴んでいる」

 初めて聞く話だった。

「神界……無理やり引きはがすようなことはできないクマ?」

「それをすれば、彼女は引き裂かれる。引きはがせたとしても、殺してしまうだろう」

「じゃあ、その手をぶった切るとか」

「それも難しい。これは、邪神や魔神が直接呪詛している」

「エパット?」

「奴はそれほどの存在じゃない。もっと上位の力を奴が借りた結果だ」

「片目の男クマ? 確かにあいつなら……」

「その可能性は高いが断言はできない。そいつは神ではないのだろう? この娘を治すには、神を倒すか、アバターの片目の男を倒すか、呪詛からすり抜ける手段を探すか。そんな感じだな」

「呪詛からすり抜けるとはどういうことクマ?」

「手をこじ開けるか、油でスポっと抜けるか。たとえるならそんな感じだ」

「聖性精霊の力はどうなってるクマ?」

「これは多少邪魔してる。翔一渾身の精霊でもこの程度なので、期待はしない方がいいだろう。以前呼んだ祖霊も努力はしているが神が相手では聖性精霊とほぼ変わらない。ただし、小康維持はできている。無理をしなければ前みたいに死ぬ寸前に追い込まれはしないだろう。それに、毒素はハスタが消してるからな」

「わかった……」

 これ以上何もいえなくなった。

 呪詛が強すぎて、今は何もできないということが分かっただけだった。




コイントスは執筆中に本当にやって、なろうの神様の御意思に従いました。


2022/10/16 微修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ