13 吸血鬼の城
涼子はフックロープから地上に降りる。
平原の日当たりのいい場所で、ダナを守って待つのだ。
「あの娘に任せておけば大丈夫だ。その辺の雑魚には負けない」
フロールは涼子を信頼している。
「あの小さな子、結局、治ってはいないのね。ハスタ師には会ったの?」
エルザは死ぬ寸前だったダナの姿が目に焼き付いていた。
「ハスタさんはレイド王に殺されかけていたから助け出したクマ。ダナちゃんはハスタさんが何とかぎりぎりのところで救ってくれたけど、凄い呪詛がかかってて完治はしないクマー……僕たちがいつかダナちゃんを助けるクマクマ」
「……偉いわ、あなたたち。こんな時代に人を助けるために……」
「俺は警官だからな。人を助けるのが仕事なんだよ。誰も報酬くれないが」
苦笑するフロール。
「異世界から来たのよね、あなたたち。……あの後、レイドから直接ここに来たの?」
「いや違う、一度ガルディアに逃げたが、捕まって殺されかけた。だから、逃げてきたってわけだ。ガルディアはあまり熱心に俺たちを追わなかったがな。理由はわからん」
「ガルディアなんて、所詮、打算ばっかりなのよ。あなたたちみたいに純粋な気持ちで人を助けるなんてことが理解できない」
レイド人の心境として、ガルディアをあまり好きになれない。エルザもその一人だった。
「黒騎士領の人とは仲良くやれたクマー」
「ガルディア王と違って、英雄アモンは素敵よね……一度お会いしたいわ」
「そろそろ、仲間を助けに行くぞ」
フロールが促し二人は付いていく。
渡り廊下は何度も階段があり、徐々に登っていく。
廊下の突き当りは、城門になっている。門構えは上古人のつくりで異常に頑丈だが、扉は近年作った物のようだった。
扉は半壊し、無造作に開いている。
翔一はいうべきか迷っていたが、扉の横に王冠をつけた大柄な幽霊が干からびた顔を見せて立っている。
「待ってほしいクマ、目の前にただものではない幽霊がいるクマ」
入ろうとする二人を止める翔一。
「あなた幽霊が見えるの?」
エルザはちょっとびっくりして、翔一の陰に隠れる。
「んなもんいねーよ。気合が入っていないからそんなものが見えるんだ」
「あなたにはそんな繊細なものは見えないのよ、クマちゃんに任せましょう」
エルザはハーフエルフなので確かに何かを感じていた。
ダーク翔一が話を聞きに行く。しかし、彼は翔一にじかに話しかけた。
高貴な人物と思われる幽霊は翔一の眼前に行く、
「獣の男よ、我は、失われた城塞の主」
「僕は翔一クマ」
「お主に頼みがある、我が同胞がおぞましき魔に凌辱されておる。彼らの魂を解放してくれぬか」
「いいけど、方法がわからないクマ」
「我の一族は、魔王の贈り物を受け取り、魂を地獄に呪縛された。虚ろな亡骸は悪霊の住処になり、あの女シャザルナの下僕と化している」
「贈り物?」
「指輪だ、黄金の指輪。それをその清らかな剣で破壊すれば……」
「いいけど場所を教えてほしいクマ」
「隠し通路がある。そこを行くがよい。お主はあの女の妹の魂を持っておる。結界も素通りできるはずだ。通路を抜けた先は霊廟になっておる。そこに同胞の亡骸が安置されている」
「わかったクマ。でも、城塞の主さんはなぜ大丈夫クマ?」
「我への贈り物は死後盗賊に盗まれた。我亡骸は敵の攻撃により落城した際、破壊され、四散した」
「主さんの敵はどんな奴だったクマ?」
「今は滅んで、消え去った。魔王に魂を売った同胞だ」
「……」
城塞の主の声は消え入るような悲しみに満ちていた。翔一は慰める言葉も出なかった。
翔一は振り返って仲間に隠し通路の件と、悪霊化した古代の貴族たちの話をする。
「もし、そのような通路があるのなら、試す価値はあるわ。シャザルナは下僕を集めるのが大好きなの。あいつの王座の周りには様々な存在がいるはずよ。一々倒していたらきりがないわね」
エルザは大きな乳房の下で腕を組みながら答える。
彼女の魔法の軽装鎧は水着のような鎧である。
「狭い隠し通路となると、これは邪魔だな」
フロールは例の神像をお気に入りのバックパックに放り込む。
通路は巧妙に隠してあったが、崖の一部の岩を探ると、亀裂のような入り口が見つかる。
滑るように入ると、予想通り狭い通路だった。
「俺と翔一は立っていけるけど、エルザはしゃがまないと無理だな」
「あんたたちはちっさいから楽でいいわね」
エルザは膝をついて、四つん這いで行くしかない。彼女は女性としてもかなり大柄な方なのだ。
「僕が前、フロールさんが後ろで、エルザさんは動きが取れないから、二人で守るクマ」
翔一、エルザ、フロールの順でゆっくり進む。
フロールが前を見ると、エルザのお尻で見えない。
「エルザさん、大きなお尻で前が見えないんだが」つま先立ちをするフロール。
「後ろを見てなさいよ!」
「しー! 静かにするクマ!」
結界の話を聞いていたので地獄のダイヤを出し、翔一は隠密精霊も張って進む。
通路は最初こそ自然の亀裂のようだったが、すぐに、石で作った狭い通路になる。
毛皮を逆立ててゆっくり移動する。フロールとエルザは少し離れて追う。
小さなア―チがあり、そこを抜けるときダイヤが光る。
「結界を抜けるクマ、二人は先に行って」
翔一が手招きすると、二人は急いでアーチをくぐる。翔一も後からついていく。
その部屋は十メートル四方の部屋で石の棺が三つ安置されている。
棺の横に三つの人影。
「半実体の幽鬼だわ、気を付けて! 普通の武器は効かないわ」
ここは天井が高いので立ち上がってサーベルを抜くエルザ。
翔一は聖剣を抜く。幽鬼たちは少し後ずさりした。
「スタンもショットガンも効きそうにないな、奴ら体が透けてるぞ。ああっと、これ効くかもな」
結局、例のタコ頭の神像を取り出す。謎の金属製で、殴れば痛いだろう。
エルザはフェンシングの突きのような動きで幽鬼を刺す。すこし苦しむようだが、すぐに回復して両手の爪でエルザを薙ぐ。
エルザは素早いステップでひらりと回避する。
翔一は聖剣を両手で持って、ぶんっと右斜め上から左に斬る。
幽鬼は狭い為に避けられず、腕で受けようとするが、腕ごと切断し、体を真っ二つにする。
「お、やったぞ!」
フロールが叫ぶ。
しかし、倒された幽鬼は煙になって棺に戻り、また棺からゆっくり出てくる。
「これでは終わりがないクマ」
フロールは神像を手に持って、関節を伸ばして、鉄球と鎖の要領で敵に叩きつける。
これも狭いために敵は避けられない、避ける気もあまりないのかもしれない。
破壊力は抜群で、おぞましい干からびた頭蓋はべこっと破壊される。しかし、そいつも煙になると、棺に戻り、同じように暫くすると、何事もなかったかのように幽鬼が現れる。
「これではキリがないな。そうだ、指輪を壊せとかいってなかったか?」
フロールは幽霊の主の話を思い出す。
「誰もつけていないクマ!」
翔一は二回目の幽鬼を煙にしながら叫ぶ。幽鬼の指を見るがそれらしい装身具は付けていない。
「そうだ、棺の中の奴が付けているんだ!」
フロールはそういうと、タマゴ転がりで目の前の敵の脇をすり抜け棺に取りつく。
棺の中には干からびて、副葬品に埋もれた死骸が入っていた。フロールは神像で副葬品を跳ね飛ばして手を確認する。
「あったぞ、金の指輪つけてる! 翔一、これを壊せ!」
翔一はフロールの横に跳ぶと聖剣を金色の指輪めがけて突き刺す。
見事、聖剣は金の指輪を真っ二つにし、骨と薄い皮を砕き、棺自体も貫いて、床まで剣の先が届く。割れる石の棺。
突如死骸がぎょろッと目を見開き、翔一を睨む、しかし、
「グオオオオオオオオオオ!」
おぞましい悲鳴を上げて少しもがくが、すぐに黒い気配が消失し、単なる物言わぬ亡骸になった。
「指輪を破壊するんだ。ドラァ!」フロールは隣の棺の死骸に取りついて、タコ神像で強打する。
慌てて幽鬼が襲ってくるが、指輪を神像の触手で貫通されると同じように悲鳴を上げながら死骸となり、幽鬼も消える。
三つめはもっと簡単に翔一が剣で叩きつぶして終わった。
「苦戦したわ。刺しても効かないし、逃げ回るだけだったから」
エルザは少し息が荒くなっている。がむしゃらに迫ってくる幽鬼を体術で回避し続けていたのだ。
「エルザさんが惹きつけてくれなかったら、勝てなかったクマ」
「このサーベルは駄目ねぇ。下級吸血鬼は倒せたけど、それ以上は無理みたい。高かったのよ……エルベスの祝福された剣だっていって。やっぱりあいつ詐欺師だったのね」
剣を眺めて、ため息をつくエルザ。
「やっぱり、これだよ、この神像すげぇわ。俺気に入ったから」
フロールがタコ神像をなでなでしている。
「あ、フロールさん、そのタコさんは僕お気に入りクマ。乱暴に使うなら返してほしいクマ」
「傷一つついてないだろ、けち臭いこというなよ」
「これあげるから、返してもらうクマ」
翔一は顔の無い尖がり頭の神像と、樹木みたいな蹄の神像を渡す。
「フム、まあ、こちらの方が武器としては使えそうだな」
神像を交換する。
翔一は霊視を使って状況を確認する。
棺の中の品はかなり魔術的物品が多いようだった。
「礼をいいたいそうだぞ、こいつら」
ダーク翔一が精霊界から声をかけてくる。
見ると、後ろに三人の古代人の幽霊が立っている。何れも高貴な男女だった。
彼らは悲しく優しい顔をしていたが、翔一の毛皮を一度なでると、そのまま消えてしまった。
「死骸は大地に埋葬して、剣とか副葬品は使ってくれってさ」
「じゃあ、遠慮なく使うクマ」
翔一は一本の剣に注目していた。細くて長い剣。白く輝いている。
「エルザさん、これいいと思うクマ」
剣を渡す。
「うーん、でも副葬品でしょ。ちょっとね」
「持ち主たちも使ってくれっていってたクマ」
エルザが若干怯えた顔でキョロキョロする。
「そ、そうなの、幽霊見えるのよねクマちゃん。それなら使おうかしら……」
「これで悪を倒すのなら、持ち主たちも喜んでくれるクマ」
「わかったわ、ありがとう幽霊さん達」
「悪党を倒せたら、死骸は大地に埋葬するクマ」
フロールは何か工作をしていたが、終わったのか見せに来る。
「おい、これ凄いだろ、名付けて、トゲトゲデスメイス」
先ほどの樹木のような神像を副葬品の錫杖に瞬間接着剤で引っ付け、結索バンドで固定したものだった。
「た、確かに強そうクマけど……」
絶句する翔一だった、その発想はなかった。
「あんたにも作ってやろうかエルザ。トンガリ神像デスメイスとか」
「絶対要らないわ!」
「しっ! 静かにして、誰か来るクマ」
部屋の先には小さな扉がある。微かにその先からやってくる気配があるのだ。
「二人は隠れていて」
エルザはそういうと飛び上がり、天井の梁に握力だけで張り付く。
暫くすると、足音が聞こえ、一人の人物が入ってくる。
「地獄の貴族たちよ、いかがなさ……」
最後までいえなかった。天井から鋭い剣が伸びて、彼の頭蓋を顎まで貫いたのだ。
聖なる魔力が全身を貫き、男は塵になって崩れていく。
床に降りるエルザ。
「なかなかいいわね。聖剣ってほどじゃないと思うけど、相当強力な魔物退治よ、これ」
「今の奴、いかにも執事って感じだったな。急いだほうがいいな、奴が帰ってこないとなると警戒が厳重になるぞ」
「隠密精霊で行くクマ」
三人はなるべく密着して、精霊の隠密効果を高めて動く。部屋の先は長い廊下である。窓一つないので地下通路なのだろう。
やがて、建物の階層と思われる場所に出た。倉庫とキッチン。
倉庫はかなり大きな洞窟で、天井から大きな革袋がいくつもぶら下がっている。ざっと見て百個はあるだろうか。ぷうんと血の匂いがする。霊視で見ると、袋からオーラが見える。全部ではないが。
「生きた人間がぶら下げられているクマ……」
「仮死状態にして、時々血を抜いてるのよ。吸血鬼の食料庫ね」
さらに捜索すると、下級吸血鬼の召使が二人ほどいたが、エルザが背後から刺し殺してしまう。
城の生活空間といった場所だったが、それ以外には誰もいなかった。
ざっと見まわして、大広間に続く階段を発見する。
大広間からはかなり大勢の人間の気配、そして、濃い血の匂い。階段の脇に見覚えのある半オークの幽霊がいたので、ダーク翔一が聞く。
「半オークどもは吸血女に皆殺しにされて、血を吸われた。他の奴らは支配されているが生きている。今処遇を決めているようだ」
三人は隠密精霊を再び張って、極限まで静かに広間に入る。
古い像や柱、ボロボロのカーテンなど、隠れやすい場所が多いので、落ち着いて状況を見ることは可能だった。
「僕を吸血鬼の仲間にしてください。食料にされるのは嫌だ!」
レダの声。
「なんてガキだ。恥を知れ」
コンラッドの吐き捨てるような声。
そっと覗くと、人々は体は動けないが、意識と口だけは自由にしてもらっている。
あの、異常に手足の長い不気味な女シャザルナと、全身フルプレートアーマーの護衛兵が四人。
シャザルナは王座にどっかりと座わっている。
硬直した翔一の仲間たちが王座に対面するように立ち、動けないようだ。そして、同じように動けない黒衣の集団二十人。広間の足元にはばらばらに引きちぎられた半オークの死骸が幾つも転がっている。
「坊や、吸血鬼になって何かしたいことがあるの?」
「復讐するんだ。僕をこんな境遇にした奴らに!」
レダが叫ぶ。
「ほう、何か事情があるのかい?」
レダは自分が貴族であるのに、浮浪者のような立場であること、弟や両親の陰謀で家から捨てられた経緯を話す。
「なんて可哀想なの。う、うう」
嘘臭い涙を流すシャザルナ。
「僕を助けてください。仲間にしてください」
「わかったわ、あなたには私の血を分けてあげる」
ニューっと王座から女の首が伸びてくる。不気味に口が裂けて、牙が見える。
臭い息が全員の鼻腔に入る。吐きそうなほど臭い。
落ちるよだれ。恐怖にひきつるレダの顔。もちろん、レダだけではなく、否応なしに目撃させられる全員の顔が恐怖にひきつっていた。
「翔一、引き付けろ」
フロールの声。
もちろん、翔一も止めるつもりだった。
「そこまでだ! 悪党ども! 成敗するクマァ!」
若干大きくなって、聖剣を抜いて現れる翔一。
一斉に全員が翔一を見る。犠牲者たちの助けを求める視線。そして、邪悪なものたちの憎しみに満ちた視線。
聖剣の青く穏やかな光が広間を照らす。
「あら、あんた逃げたクマちゃんじゃない。可愛いわ、私の下僕になれば可愛がってあげるわよ」
ニコニコ笑うシャザルナ。気持ち悪い笑顔だが、本心でいっているらしい。
「断るクマ! 勝負だ悪党!」
聖剣を右上段に構える。
「オホホ、一人で何ができるの。私には仲間が大勢いるわ、……この子は嫌いよ、殺して」
その言葉を待っていたのか、護衛が翔一向かって殺到する。
護衛が来る前に翔一は跳んだ。初太刀で決めるつもりだった。
思った以上に速度が速く、一気に迫る翔一に女は慌てた。離れていたから油断したのだ。
しかし、レダとコンラッドが虚ろな目をして翔一の前に立ちふさがる。
翔一はレダを蹴って、後ろに跳んで事なきを得た。
「オホホホ! 仲間なのかしら、斬れないのよね、正義の味方ちゃん」
長い首を上空に浮かべて大笑いするシャザルナ。
「こっちだ、化け物女」
いきなり後ろから声をかけられシャザルナ。
振り向くと、腹から筒を出したタマゴがいる。筒の先には顔無き神の像が装着されていた。
「何……?」
ボン! 筒から圧縮空気が破裂し、像がまっすぐ飛んで女の顔面を直撃した。
「ぐわ!」
そして、物陰に潜んでいたエルザが王座に突撃して女の心臓を刺す。
「ブグウウウ!」
神像が口に嵌って叫ぶこともできないシャザルナ。
支配された人々はその瞬間倒れ伏す。
翔一は仲間を助けたい一心でさらに巨大化した。
鎧を二人跳ね飛ばして、女の顔面を聖剣で横なぎにする。
「チェストォオオオオオオオオ!」
口の神像ごと叩き斬り、頭部が天井に跳び、顎から下が残る。神像は粉々になった。
ブワっと、神像の黒い魔力が広がり、シャザルナの体は崩壊していく。
「フウ」
ため息のような声が聞こえる。
シャザルナは崩壊した体をあきらめるように、濃い霧になった。
フワフワとどこかに流れて行こうとする。
「逃がさないクマァ!」
霧を聖剣で薙ぐ。霧は聖なる力で霧散し、邪悪な霊魂は消えていく。
「ギャアアアアアアアアアアアアア!」
虚空から恐ろしい悲鳴が聞こえた。シャザルナの断末魔だった。
ボトリと落ちる黒い宝石。
がしゃ、鎧たちが兜を捨てる。中には怒りに満ちた吸血鬼たち。
彼らに変化はなかった。
主が死んでも存在は変わらないのだ。
「よくもご主人様を……」
彼らはシャザルナが特に気に入った剣士たちで、元はひとかどの人物だった。
ここから乱闘が始まる。翔一は二人の剣士を相手し、相当な剣技の前に追い詰められる。
エルザが駆け付け、こちらも敵の一人と剣技の応酬をする。
コンラッドはいち早く正気を取り戻すと、一人の剣士と丁々発止の打ち合いを始めてくれた。
フロールは例の棘棍棒を振り回して応援してくれるが、一蹴りで広間の端まで飛ばされてしまう。
「熊殿を守れ! 戦うぞ、黒牙団の名誉を守れ!」
黒衣の集団は意識を取り戻すと、シミターを抜いて援軍してくれる。
多勢に無勢、いかに敵が吸血鬼の手練れで、重装甲だとしても、ここまでの数を相手して勝てるほどではなかった。
翔一、エルザ、コンラッド、黒牙団の首領、この四人の戦力も彼らに劣っていない。
吸血鬼が特殊能力をほとんど持っていなかったのも幸いした。
結果、ボロボロに切り刻まれて、翔一やエルザに止めを刺され、殺され、浄化されたのだった。
「ふう、勝ったか。……一時はどうなるかと思ったぞ」
コンラッドが兜を脱いで額の汗を拭く。
人々は恐怖から解放されて、安堵のため息をついた。
「あ、レダ、あいつ何してる?」
フロールが広間の入り口、外に続く正面の通路を指さす。
そこにはレダが一人、マントをつけて立っていたのだ。
「フフフ。皆さん、僕は吸血鬼になりました。名残惜しいですが、皆さんとは別れて、僕は仇を討ちに行きます」
マントを翻し、かっこよくお辞儀をするレダ。
「あいつ噛まれたクマ? 一応間に合ったと思うクマ」翔一は首をかしげる。
「ほんのちょっとだけ牙が刺さったのだ。僕は地獄の貴公子、フフフ、ハハハハハ!」
レダの高笑い。
突如、ワイヤー付きの小さな矢が飛び、レダの尻を直撃する。
「アバ! ブベベベベベ」
電流が流され悶絶するレダ。
「あ、やっぱり、普通の人間じゃん」
フロールがこっそり忍び寄っていたのだ。
「フロールさん、フルパワーでやったら死ぬクマ!」
「安心しろ、メモリは最弱にしてから撃ったぞ、小動物対応用だ」
「でも……倒れたクマ?」
「気絶してるだけみたいよ」
エルザが確認する。
「こいつは根性が欠片もないんだよ。針がチクッと来ただけで気絶するお坊ちゃんだ」
尻を蹴るフロール。
「はっ、ここは?」
「いいから起きたらさっさと片付けの手伝いしろ。人手は足りてないぞ」
棘棍棒でチクチクするフロール。
「いたっ、わかりましたよ、やめてください! このブリキは地獄タマゴだ!」
「誰が地獄タマゴだよ!」
翔一はほっとして、王座の前の段差に座る。
「ありがとう、熊殿。我々は黒牙団。アーロン王国高原出身の傭兵。俺は首領のマクシムだ」握手の手を出す首領の男。浅黒い顔に黒くて濃い口髭をしている。
「翔一クマ。レダを殺すのはやめてほしいクマ」
モフ手で握手する。
「あんたは我々全員の命の恩人だ。頼みとあれば聞くしかないだろう」
「よかったら、手伝ってほしいクマ。地下に大勢の人間が監禁されているクマ。彼らを解放して助けるのに人手がいると思うクマ」
「わかった、手伝おう」
彼らは非情な仕事ばかりやっている者たちだったが、悪事をやりたくてやっているわけではない。そういうタイプの人間だった。
翔一たちは吸血鬼の城に囚われた人々を解放する。
人々の救出には数日を要した。
ハスタが指揮し、袋に入っていた人々を中心に介抱することになる。
普通の食料がかなり多くあった。吸血鬼が犠牲者をすぐに殺さないためだと思われる。
人々は概ね、死人荒野のアンデッド災害から逃れた一般庶民であり、トンネルの通過ができないか試し、捕らえられた人々である。
死亡していた人、革袋に入って助からなかった人、虐殺された半オーク、過去殺された人々の白骨の山……、そして、幽鬼にされた古代人。
翔一は大熊になって穴を掘り、彼らを埋葬する。
作業している間、大勢の幽霊たちが翔一の作業を見守っていた。
彼等の顔は恐怖と苦痛で歪んでいる。
翔一は聖剣をだして大地に刺し、浄化の魔力を彼らに感じさせる。
幽霊たちは作業を静かに見守るようになった。
巨岩を持ってきて、墓碑とする。
幽霊たちは安心したのか翔一から離れ、大勢の霊がどこかに去っていく。
「怒りと恐怖の因縁が弱くなって、祖霊の導きが彼らに伝わったのだ。彼らは先祖の元に行く」
ダーク翔一が腕を組んで見守る。
「祖霊とか信じない宗教も多いのではないのかクマ?」
「感じ方が違うだけで、似たようなものだ。基本は一緒なのだ」
翔一も彼らを見守った。
多くの幽霊たちは翔一の毛皮を撫でてから去っていく。
毛皮も悪くない、翔一はそう思った。




