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11 前門の虎後門の狼

 翌日、涼子と翔一は食堂に通される。

 アレックスとキャシーもいる。翔一が寝入ったころにキャシーは城に来ていたのだ。

 一人の人物が待っていた。

「私はアモン伯爵の代官ローセン。主がいないときは私が宰領している。君達がこの街に巣くっていた人獣を退治したと聞き及び、主が招待したのだ。主は残念ながら急用ができてもう出立してしまった。ささやかながら、朝食を用意した。そして、褒美を受け取ってくれ」

 侍女たちが短剣を持ってくる。黒騎士が佩く剣は『ナルドリス』というのだが、それをかたどった紋章が入っている。

「これはこの街、この国での身分証代わりになる。その子熊にも渡せとのご命令だ。持っていくがよいぞ」

 翔一は短剣に紐をつけて、首にかけてもらう。

 食事をしながら、ローセンはアレックスとキャシーの出自を問う。彼らはアーロン出身の冒険者で、金を溜めたら結婚する予定だった。今回の冒険でかなり儲かったので、どこか静かな田舎で暮らすという。

 涼子も出自を聞かれる、

「私とこの熊は、目が覚めたら山中に居たのです。何か恐ろしい化け物が現れたので逃げました。鼠や小動物で糊口をしのぎ、山を下りたら死人荒野という場所だった。そこで難民と出会い、白腕嶺の北側に小さな村を建てました」

 眼鏡をかけた涼子。喋っているのはフロールだろう。

「フム、漠然としているが不思議な話だ。山中に居た以前の記憶はないのか。化け物はどんな奴だった」

「記憶はありません、記憶喪失です。化け物は人間の体に獣の顔がいくつも生えていました」

 涼子は一切の感情のこもらない言葉で話す。

「……嘘はないようだな」

 ローセンは密かに何かの魔力を使ったらしい。翔一の後頭部の毛皮がビリビリする。

 涼子はロボットなので、わざとやらない限り感情が出たりはしないのだ。うそ発見器的な探知ならごまかせたはずだ。

「村を建てたといったが、白腕嶺の北側はホブゴブリンの領域だろう。危険すぎないか」

「難民には山を越える余力はありませんでした」

「数は何人だ」

「二十人です」

「それなら、……我が国に来て住んでもいいぞ。土地はある」

「彼らはゲール地方の民。踏みとどまって、復興したいと申しております」

 翔一は初耳だった。彼らはそんなことをフロールに話していたのだ。

「勇敢な人々だ。庶民だとしても。我が国も余裕があるわけではないが、援助しよう」

「ならば、北に抜けるルートを教えてください」

「少し西に行けば、山脈を抜けるトンネルがあるはずだ。昔は利用されていたが、オークやらホブゴブリンやらで北が混乱し始めるようになって使われなくなり、今は山賊が住んでいると聞く。あそこを抜けられたら楽だがな。それ以外だと、少し東に行って登山ルートがある、そこは本当に危険なルートだが、賊はいないだろう」

 ローセンは地図の写本をくれた。

 翔一たちは城を出た。

 仲間が待つ宿に帰る。

「フロールさん」

 翔一が部屋に入ると、暇そうなタマゴロボットがゴロゴロしている。

「よう、帰ってきたな。街はお前たちの話題で持ちきりだぞ。『凶悪人獣を十五匹も倒した英雄現る』ってな」

「うわ、何このゴーレム」

 キャシーもついてきた。

「この方がフロールさんクマ。大魔法使いですクマ」

「思ったより、かっこいいだろ、キャシー君」

 タマゴの腹を掻くフロール。

「思った以上に最悪ね。ほら、金よ。五割増しにして貰ったから、七十枚よ」

「おい、ちょっと少ないだろ」

「マジックアイテムの鑑定料は半分にして負担してもらったわ」

「マジックアイテムはどんなのを手に入れた?」

「魔法の剣が一本、魔法の弓、魔法の兜、魔法の長ナイフ、魔法の杖ね」

「戦いはほとんど俺の下僕、翔一が決したのだ。俺たちが三つ貰う」

「ええ、お好きにどうぞ。守銭奴タマゴ」

「僕はこの本と像を貰ったから、アイテムはあげるクマ」

「大盤振る舞いしている余裕はないぞ。三つ貰う。これに変わりはない」

 剣、長ナイフはよく切れて硬いという特徴以外なかった。ナイフはヤニスが持っていたものだ。爆発魔力があったナイフは翔一が噛み砕いた。弓は一発撃つと、魔法の矢が追加で一発追加される、連射の魔力がある。兜は硬くて軽い。杖は魔法全般補助。

「弓は俺が貰う。杖はダナにやる。兜は翔一がかぶれ。剣とナイフは大して価値がないからお前らにやる」

「そろそろ、この糞タマゴお仕置きしたくなってきたわ」

 キャシーの額に青筋が見える。

「喧嘩はやめるクマ。この破壊魔力の斧とナイフを交換するクマ。それで穏便にしてほしいクマ」

 斧の破壊力はアレックスも見ていたので、悪くないという顔をする。

「まあいいわ、その斧は確かにいいものよね。地下でも見たから」

 分配が終わる。翔一は兜をかぶってみたが、どうも合わない。精霊界に放り込む。長ナイフは護拳に棘が付いている。見た感じはかなり禍々しいが、強力なナイフだ。翔一はヤニスみたいに操ろうとするが、彼ほど器用じゃないので上手くいかなかった。

 分配後、一階の食堂で会議になる。

 フロール、翔一、ハスタ、涼子、コンラッド、キャシーとアレックス。

 コンラッドは酒臭く、しかも、かなり美人の水商売っぽい女性を連れている。

「コンラッド、その女は?」

 キャシーが冷たい目で見つめる。

「お、おてんば姫のキャシーじゃないか久しぶりだな。この女性は俺の恋人で名前は……」

「んなことはどうでもいい。関係ない人は帰ってくれ!」

 ブリキタマゴフロール・高倉に怒鳴られて、女はぶつくさいいながら会議室から出てしまう。

「おいおい、ブリキの旦那、ちょっといい過ぎじゃないか。関係いうなら、キャシーとアレックスだったか……その男は無関係だろ」

 コンラッドがムッとする。

「あんな水商売の女と一緒にしないでくれるかしら。私たちはこの人たちについていくのよ」

「おいおい、聞いてないよ、そんなこと」

 コンラッドが渋い顔。翔一も初耳だった。

「あたしたちは田舎で定住する予定だけど、タマゴさんの村ならいいと思ったの。ゲール地方で踏みとどまりたいって人たちの村だから、開拓農民の子孫としては手伝いたいのよ」

 死人荒野は俗称で本来は『ゲール地方』と呼んだ。

「ハスタさん、あんたも年だろ、危険な旅だし、安全な村とはいえないぜ。場所が場所だけに」

 コンラッドは遠慮が全くない。

「私は……エクセレス神殿がある都市にはいられない。大神殿に連行され、大金持ちたちの治療に回される。そんなことになるくらいなら、危険が多い田舎でもは構わない。それに、ダナは私の患者だ。今見捨てて去るわけにはいかないのだ」

 あまりしゃべらないハスタが珍しくしゃべってくれた。

「しかし、考えてみたら、病人をそんな村に連れて行かなくても……」

 コンラッドが無精髭の顎を撫でる。

「ダナは人獣たちの親玉の親玉に狙われているクマ」

「何、それ」

 皆初耳だった。

「エパットという化け物が人獣の大元クマ。でも、それを下僕みたいに従えている黒髪片目の男がいたクマ」

「ああ、エパットは覚えているけど……そういえばあんたを初めて見た時、何かあの暗闇で話をしていたな」

 コンラッドの記憶から黒髪片目の男は消えていた。

「覚えていないクマ?」

「うーん、何かいたような」

「と、とにかく、あの時山の中で目覚めた三人は片目の男とエパットに狙われているクマ。奴らは世界で陰謀を張り巡らしているクマ」

「陰謀、どんな陰謀だ」

 若干、馬鹿にした感じのコンラッド。

「黒髪片目の男はイスカニアという国で皇帝と関係があるようなことをいってたクマ。エパットはエラリアとかいう国を背後から襲って倒すとかいってたクマ」

 エラリアと聞いてコンラッドは突然無表情になる。

「エラリアのことを教えてくれないか」

「人獣軍団を作って、背後から襲うといってたクマ」

「……」

 コンラッドの表情がかなり怖くなる。そして、無言。

「あと、あの一般人たちはついて来るのね」

 キャシーはフロールに尋ねる。

「ああ、あいつらのことは気にするな。一緒に来るしかない連中だ」

「レダの様子がおかしかったけど、何かあったクマ?」

「あいつの母親いたんだ、何とか男爵夫人。レダが会いに行ったんだが、護衛兵が奴を捕らえて、路地でこっそり殺そうとしたから救出した。それから、何かあいつぶつぶついってるし気持ち悪い」

「いや、それ、普通、凄いショックでしょ、母親に殺されかけたんだから」

 思わず突っ込む翔一、クマもつかない。

「数も多いし、病人も抱えているから、東の山越えルートは難しいわね。登山だから馬車は無理よ」

「そうなると、西のトンネルルートしかないが……」

「単に山を大きく西に迂回しないのか?」コンラッドが地図を指し示す。

「見晴らしのいい丘があって、ホブゴブリンが常駐している。馬車隊なんてすぐに発見されて撃破されるぞ。倒してもきりがないし」

 フロールが腹を掻きながらいう。

「トンネルルートしかないクマ。戦って通ることになるクマ」

「おいおい、危険すぎるだろ。特別報酬を要求するぞ」

「この魔法の兜あげるクマ、どうせ、被れないし」

 翔一は精霊界から取り出す。銀でメッキされたオープンフェイスのプレート兜、魔法じゃなくてもそれなりの価値がある。コンラッドは受け取ると、魔術で鑑定を行う。

「ほう、これはなかなかな逸品だな。いいだろう、やってやるよ」

 一行は急ぎ準備をして、翌日には出発することになった。


 西に平地を行き、山に入っていく。

 雑草の生い茂る道だったが、まだ、道としては機能していた。

 馬車は二台体制になり、後ろに荷物、前は貴重品と人間が乗っている。

 馬をかなり持っているので、乗馬できる人間は馬に乗っている。

 翔一、フロール、ダナのちびっ子軍団は馬車に乗っている。ハスタは老いても乗馬が上手く、看病の時だけ馬車に乗ってくる。

「馬とか財宝とかガルディアから盗んだものが多いクマ、同盟国だから連絡が来て追われると思っていたけど、何もなかったクマね」

「隔離施設から逃げたのもいるからな、追手が来て当然だと思ったんだが、来ないな。確かに。考えられるのが、あのヘタレ不倫野郎のケヴィンが情報を出していないか抑えている。誰かもっとえらい奴が、俺たちを追わないという決定を下したとか……後はもっと大事が起きたのでそれどころじゃないとかだな」

 腕を組んで考えるフロール。

(王妃が止めたのかな、そんな気がするクマ)

 翔一は理由は不明だがそう感じた。

「……ケヴィンが窃盗をもみ消して、俺たちの逃亡もうやむやにした可能性があるな。不倫をばらすと脅したから」

 フロールが結論付ける。

「不倫ばれると怖いクマ。イメージ暴落で番組降板、CM打ち切り、莫大な賠償金背負う、ネットでぼろくそに叩かれる、変なネタキャラにされて永久にバカにされる、いろいろ地獄クマー!」

「地位のある奴なら、失うものも大きいからな」

「ねえ、クマちゃん、私も馬に乗りたい」

 ダナが本を読むのを止めていう。

「ダメダメクマクマ。もうちょっと大きくなってからクマ」

 ぷっとむくれて、ダナは本に集中する。魔術書は彼女のお気に入りだ。

 しかし、すぐに機嫌を直して。

「翔一見て」

 ダナは読んでいた本を虚空に消す。そして、重そうに別の本を取り出す。

「んっしょ。本は好きだけど重いわ」

「荷物はどこにやってるクマ?」

「私専用の異次元ポケット作ったの、クマちゃんもやってるでしょ。私も真似したかったから、魔術書読んだらそういう術があったわ」

「へぇ、凄いクマ。ダナちゃんも精霊界に作ってるの?」

「精霊界? アストラル界よポケットがあるのは」

「多分系統が違う術なのよ。私のは魔道魔法、クマちゃんのは祈祷師魔術、精霊術ともいうわ。似て非なる存在なのよ。魔道魔法は誰でもそれなりに習得できるし、極めると神に近い存在になれるけど、祈祷師魔術は民間人のおまじないを越えるものじゃないわ」

「そ、そうなのクマ? 僕にはよくわからないクマ」

 セクトが違うと相手を貶して過小評価する、そういうものかと思って翔一は反論しなかった。

「だから、私にはこの妖術の書は合わないわ。実際使えないし、アストラル界より、精霊とか邪神の領域の書ね」

 ダナは盗んできた妖術書を見せる。

 翔一は受け取ると、何となく目を通す。

「敵の行動阻害する精霊の召喚、敵の心臓を握りつぶす術、敵を呪う、敵に悪霊を取りつかせる……確かに、ちょっと気持ち悪い術が多いクマ」

「この淫紋ってのは何だ」

 横からフロールが口を出す。

「ええっと、女子の体に刻印すると、メロメロのエロ女になってあなたのいいなりになるクマって書いてある」

「はあ、つまらん術だな。俺が元の肉体取り戻したら、高身長イケメンだから、女子なんて群がってくるし。もてない男の悲しい妄想だよ、そんな術」

「多分、フロールさんの元の体の方が妄想クマだと思う」

「翔一、その本返すわ。全部読んだし、覚えたけど、面白くないから」

 ダナは別の本を読みながらいう。

「わかったクマ、精霊界にしまっておくクマ」

 翔一が精霊界に手を突っ込んでしまおうとすると、誰かがその本を手に取る。

 精霊界を覗くと宿精のダーク翔一が本を受け取っていた。

「ありがとう、本をくれるなんて」

「そういうつもりでは……」

「これはお前の分身である私が読む」

 そういうと、ダーク翔一は熱心に妖術書を読み始めた。

「お、面白いクマ?」

「ああ、これは凄く面白い。精霊界ポケットにおいてある『名もなき祭祀書』も読んでいいか」

「名もなき? ああ、あの本か、祭祀の本だから、神社関係とかかな? いいと思うクマ、神様お参りするのはいいことクマ」

 話題も尽きて無言になったので、翔一はヤニスの剣術指南書を取り出すと、じっくり読む事にする。

 ヤニスは確かに相当な使い手だった。様々な剣術の解説、そして、それの撃破法対処法が書かれている。

 本を読むと、アレックスの剣術は正派、コンラッドの剣術は正派剣術の双剣術だとわかる。

 自分が剣をふるって戦う技の解説書なのだ、ヤニスが悪人だったとはいえ、剣技の解説は翔一にとって非常に重要な情報だった、一心不乱に読む。

 食事と休息で止まるごとに、翔一は剣技を実践してみる。まずは、ヤニスが目の仇にしている正派剣術だ。

 正派剣術はこの世界の剣士ならだれでも多少なりとも習っているような剣術だという。

 構え方、振り方、動画で見た日本刀の使い方とは違うが似たところもある。

 非常に多彩で、片手で使う突き技が多い。ヤニスがそれを一々破る解説も入れているのだが、とりあえずは、それはそれとして、正派剣術を一通り習得する事にする。

「ふう、片手と両手の技だけでも相当数があるクマ。でも、剣のための技だから、僕の剣に合ってるのは事実クマ」

 やはり、両刃剣を日本刀の技で使うのはちょっと違和感があったのだ。

 翔一が技を試していると、

「よう翔一、おまえもあの変な剣術止めてまともなの使うことにしたのか」

 コンラッドが来る。

「剣術の解説書を拾ったけど、結構わかりにくいクマ」

「やってるの見たけど正派だろ。俺が教えてやるぜ、命助けてもらったからな」

 コンラッドはヤニスの本には興味がないらしく、ちらっと見て、汚い本だとわかると見向きもしなかった。

 結局、翔一はコンラッドの教育を受けることになる。聖剣より重い棒を持たされて、様々な剣技を教えられる。

「正派は色々な人間が技を入れ過ぎて、全部網羅してる奴なんていない剣技になってる。全部覚えて全ての状況に対応できたら無敵かもしれないが、それは人智を越えている。俺でも基本使ってるのは十個ぐらいだ。あのアレックスなんて、馬鹿正直に三個の技を繰り返し使ってる。それでも、素人みたいな奴らなら勝てるんだ」

 そういいながらも、コンラッドは翔一に、覚えきれないくらいの技を伝授した。

 翔一は聖剣を片手で使う自信がついてきたので、左手には長ナイフを持つことにした。それを見立てた棒を使う。

「二刀流だな。先進国ではそれが流行ってるぞ。先進国は金属の加工技術が進んで、細い剣でも頑丈に作れるようになってる。だから、長い細剣と防御専用短剣で敵を突き殺す剣技だ。もう、正派とはいわないらしい」

 コンラッドとの打ち合いは、手足が短く指も短い翔一にほとんど勝ち目はなかった。リーチも技も負けている。ただ、速さと力は翔一は負けていなかった。

 人獣の力を解放したら、もちろん、いい勝負になるが、練習で使うような力ではない。

 徒歩がいないので、かなり早い旅程だったが、それでもトンネルまで一週間かかる、道が消えかかっている場所も多く、距離以上の時間がかかったのだ。その間、翔一は暇があったらコンラッドと練習をしていた。

 コンラッドと練習していると、彼は正派剣術を批判しながら、同時に相当愛情を持っていることが感じられる。

 翔一はヤニスの邪道ともいえる攻略技の指南書を精霊界にしまって、一人の時だけ読むことにした。このような本はコンラッドを怒らせるだろう。

(僕が使うかは別として、使う剣術の弱点を知ることは助けになるクマ)

 翔一はそう考えていた。


 トンネルに近づくにつれ、道は石畳になっている。

 轍が刻まれ、過去にはかなり利用されていたことがうかがえる。

「気のせいかな、何か嫌な予感がする」

 コンラッドが背後を振り返りながら、馬を駆る。

 彼の勘は正しかった。

 血を流しながら全裸で歩く老若男女の幽霊がトンネルの方角から歩いて来る。翔一は慌てて。

「止まってほしいクマ!」

「ん、何だ?」

 フロールが寝ぼけた声。スリープ機能のアプリを入れて、ゴロゴロしていることが増えたフロールだった。

 御者のディックとハリーは停止する。

「ちょっと調べたいことがあるクマ、少し待ってほしいクマ」

 翔一はダーク翔一を呼ぶ。幽霊から話を聞いてもらうのだ。

 ダーク翔一飛んで行って話を聞く。

「罠がある。トンネル入り口の石積みの上に、魔術で偽装された小屋があり、そこから矢が降ってくる。両サイドの崖に巧妙に隠された出口があり、そこから賊が湧いて出る」

 翔一は、トンネルの罠を告げると、

「ふむ、確かに、俺のスコープでもおかしな場所を幾つか発見した、赤外線センサーで見ると、敵は地底にいるから反応はないが、あからさまに、生活の熱を噴き出している穴がある。確かに何かが住んでいる」

「トンネル周辺の出口だけが奴らの洞窟じゃないだろう。生活するための出入り口が近くにあるはずだ。そこから入って、奴ら叩きのめしてやる」

 コンラッドが剣を抜く。

「おい、見てみろ!」

 フロールの声。

 待ち伏せの賊は、こちらが気が付いたことを知って動き始めた。ぞろぞろと、地下から湧き出してきたのだ。

 背の低い、目つきの悪い不気味な人間たち。

「半オークだぜ、奴ら」コンラッドが剣を構える。

「気をつけろ、後ろからも来るぞ!」

 ハスタの声。彼はしんがりをキャシーと見張っていたが、慌ててやってくる。

 後ろから全速力で、二十騎程度の黒衣の集団がやってくる、いかにも暗殺者風だった。

「前後の奴らは仲間じゃないと思うけど、俺たちの敵に違いないな」

 フロールは魔法の弓を出し、馬車の上に乗る。

 馬車は急いで二台並べて一面を合わせて置き、多少なりともガード不要の場所を作る。馬車内部では、荷物や空箱を後ろに並べて、バリケードにする。戦えない連中はそこに籠るのだ。

 半オークは五十人ほど、騎馬軍団は一定距離で止まって、傍観するようだ。無駄に三つ巴せず、一行が全滅するのを確認しようというのだろう。

「戦うしかないようだな。翔一、特訓の成果を見せろ!」

「ハイ師匠」翔一がそう呼ぶと、コンラッドはちょっと照れるような顔をする。

 翔一は聖剣と長ナイフを抜く。

 半オークたちは「ウォー!」と叫ぶと、斧や槍を構えて全速力で向かってくる。

 敵の射手が弓を射始める。

 しかし、すぐに沈黙することになった。フロールが魔法の連射弓で応戦始めると、敵の射手は次々と急所を射抜かれて絶命する。

「スマート魔法弓を喰らえ、センサーは付けた、弓アプリも調整済み。射撃戦で俺に勝てる奴はいない」

 しかも、矢が彼に当たっても、装甲版はチタン製であり、抜くことは不可能だった。

 しかし、フロールが後衛の射手を倒したことは、肉弾戦の半オークは素通りさせたことになる。

 馬車の周りに群がる半オークたち。

 キャシーはバリケードの後ろから、魔法の矢で次々と倒し、ダナも小さな炎の矢で敵を炎上させる。

 アレックス、ディック、ハリーの三名は武器を大振りして敵を近寄らせないのが精いっぱい。

 彼らは良くも悪くも普通の戦士だった。

 コンラッドは華麗な剣捌きで、次々と敵を屠っていく。

 翔一は少しだけ大きくなって、剣と長ナイフを振り回す。示現流のくせが付いたのか、敵に突っ込み剣を振り回して、存分に斬り倒す。

 敵の腰が引けたら、さっと馬車に戻って、敵の塊に突撃する。

 聖剣は全く刃こぼれもせず、血も脂も付着しない。しかし、長ナイフは敵を斬りすぎて血と脂の塊となって、単なる金属の棒のようになってしまった。

 コンラッドと翔一のポイントマンが敵を次々と斬り倒していく。

「いいぞ、翔一! 慣れた技でいい、無理をするな」コンラッドの声、命がかかっているのだ、生半可な技は使う場合ではない。

 しかし、敵は数が多い。

 数人では足止めできず、二台目の馬車に敵が突入してしまう。

 レダと双子が引きずり出される。

「うわーやめてくれ! まだ死にたくない!」「キャー!」

 翔一は助けに行こうと思ったが、敵が多すぎる。既に何度も敵の攻撃を喰らってもいるのだ。治るから戦えているが、無視して抜けることは不可能に思われた。

「私が行く、喰らえ、闇の呪縛」

 ダーク翔一が現れる。黒いマントをつけて宙に浮いた状態で魔法を撃つ。

 敵は動きが止まる。同時に三人の動きを止めたのだ。

 大地から這いずるような闇が現れ、半オークを縛り付ける。

「凄いクマ! ダーク君強い」

「半オークは妖術師が作った生贄種族だ。術が効きやすい」

 ダーク翔一は翔一以外には見えていないらしく、この事態に気が付いた人は不思議に感じたが、目の前に敵が迫る状況で詮索するものはいなかった。

「おい、そこのお前、仲間を裏切って殺せ」

 ダーク翔一が一人の半オークに命令を下すと、半オークは首を振って嫌がっていたが、諦めるかのように仲間を槍で刺す。驚いた仲間たちが、裏切り者を殺す。

 翔一は宿精の攻撃の陰険さにびっくりしたが、今は、それどころではない、こびり付いた肉と脂まみれの長ナイフを捨てると、目の前の数人を示現流の連打で一気に屠る。

「チェストオオオオ!」

 やはり、この技が一番慣れているのが現実だった。

「立木打ちは強いごわすクマ」

 レダと双子を急いで馬車の中に放り込む。

 敵は馬を取りたいのか、馬の側からは襲ってこない、馬車の背後に回り、人間への攻撃に執着している。半分以上死傷したのに諦めず迫ったくる。

「くそ、こいつら、なんて凶暴なんだ」コンラッドの毒づき。大けがはしていないが、鎧には敵の攻撃が何度も当たっているのだ。

 翔一も連打を喰らって、血塗れになる。数が多すぎる。

(これは巨大化するしかないか……)あまりやりたくなかった。戦いの中で巨大化すれば、理性や記憶が消し飛ぶかもしれない。

 突撃したかったが、馬車をがら空きにしたら、中の者たちが殺されてしまう。正派の剣術で敵の槍や斧と対抗するが、うろ覚えの技では勝手がわからず、大振りになる。なんとか一人の頸動脈を斬ったが、二人から槍で刺される。

「う、ぐ!」

 翔一の体はすぐに治るのだが、敵は武器を抜かなくなってきた。抜かなければ治らない。

 ふらふらする。

 その時。

「スリープ!」

 ダナの声。

 魔力が広がり、一気に十人以上の半オークが倒れた。

「今よ、寝てる奴を倒して!」

 キャシーの声。アレックス以下あまり強くない兵隊部隊が、半オークに止めを刺して回る。

 わずかに残った敵は恐慌を起こし逃げ始めるが、それは全て、フロールの矢の餌食になった。

「翔一、槍を抜け、治癒精霊を連れてきた」

 ダーク翔一が目の前に浮かんでいる。

 気合を入れて槍を抜く。噴き出す血液。

 治癒精霊がまとわりつき、一気に回復を始める。

「ふう、助かったクマ」

「お前、何か一つの剣技に絞った方がいいと思う」ダーク翔一が浮かびながら。

「しかし、コンラッドさんみたいにかっこよく戦いたいクマ」

「おまえの短い手足では無理。コンラッドの技は狭いところで長ナイフでやれ。広い場所では示現流を使え」

「示現流は強いけど、フロールさんの動画しかないからなぁ。情報が少ないし、達人にはなれないクマ」

「泣き言をいうな。お前は誰かの知識を見られるだけ、その辺の奴より有利だぞ」

「……」

 半オークは三十人以上を倒され逃亡した。トンネルの前の平地には彼らの死骸が散乱している。

 疲れ切っている仲間たちは騎馬軍団が迫っていることに気が付いていたが、戦う気力がかなり落ちていた。

 騎馬軍団の首領らしき奴が、向かってくる。

「おい! 皆殺しにされたくなかったら、レダという少年を引き渡せ」

「こちらが疲弊するのを待っていたんだ。汚い奴らだぜ」

 コンラッドは敵と自分の血でかなり汚れている。大けがはない。

「フロールさん、引き渡してはダメクマ。レダは殺されるクマ」

「……」

 フロールの沈黙。フロールの体の隙間からLEDが点滅する。

「フ、フロールさん……?」

「ぼ、僕はバルオン男爵家の跡取りだぞ! おまえたちはあの小生意気な弟の差し金だろう!」

 レダが馬車から顔を出して叫ぶ。

「さっさと渡さねば、貴様たちはその小僧と一緒に死ぬことになる」

 騎馬の男は冷酷非情な目をしている。

「僕は貴族だ、お前ら、僕を守れ!」

 翔一やコンラッドを指さすレダ。

「もう、見捨てようぜ、こんなガキ」

 コンラッドのつぶやき。

 騎馬の男が合図すると、騎馬軍団が迫ってくる。

「決めた! レダは渡さない。皆、トンネルの中に逃げ込め!」

 フロールが大声を出す。

 ディックとハリーが馬車を駆って、急いで動き出すが、どう見ても騎馬に追いつかれる。

「フロールさん!」

「俺は矢が尽きたから、翔一頑張れ」

 呆れるほど無責任なセリフが降りてくる。

「し、仕方ない、僕がしんがりを……」

 翔一が立ち止まって巨大化しようと精霊を呼んだ時、目の前がいきなり真っ暗になる。

「クマちゃん、闇を張ったから敵は入ってこないわ」

 ダナの小さな声が聞こえる。翔一の耳は聞き逃さない。

 ダナは闇を作る魔法をかけたのだ。トンネルの入り口に不自然な闇。

 現実的には単なる闇が作られただけだったが、黒衣の騎馬兵は恐れて入ってこなかった。

「今のうちにトンネルの奥に行くぞ。フォログラムだな、俺にはわかる」

 フロールの声。

 一行は、白腕嶺という山脈を縦断するトンネルに入る。

 彼らはトンネルの闇に包まれた。

 飲み込まれるように。

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