寒村の少年
都から山を一つ越えた海沿いの寒村に少年が老人とともに沖に出る準備をしていた。
名を那由多、歳は今年の春に十五になったばかりで、海水と日差しのせいで浅黒い肌を持ち、煤けた茶色の髪を後ろで乱暴に結んでいた。
父親の顔は知らず、母親も先年病死した、二つばかり歳の離れた妹と爺の三人暮らしで村の端近くのボロ屋で暮らしていた。生計は那由多が海の幸を都へ売ることで立てていた。
いつもと変わらず、爺を連れて、舟を漕ぎ出し沖へ出る。今日は素潜りで、都で値が高く付く、貝の宝玉を探す予定であった。妹の婚姻が近いため、調度品を揃えてやりたかったのだ。
梅の花がほころび始めた時分であったので、まだ風は冷たく、これから入ろうという海も冷たいことが予想された。いざ潜る前に水の冷たさを計ろうと手を入れると、那由多は思わず眉をひそめた。まだ春先だというのに夏のように水が温いのだ。
けれども、これなら予定していたよりも長く潜ることができる。
「爺、水がいつもより温い。予定より長く貝を探せそうだ。舟の上は寒いが、待ってておくれな」
「そりゃあ、重畳。なぁに、今日は着込んでいるからゆっくりとやりなさ。わしも上で草鞋を編んでるよ」
「そうさせてもらうよ」
那由多は着物を脱ぎ、膝までの下履きのみになると、頭から温い海へと飛び込んだ。
いつもより魚が多く、海藻も茂っており、一足先の春に喜んでいるような光景が広がっていた。
いよいよおかしな話だと思いつつ、宝玉を探すと簡単に見つかった。普段は岩の裏や見つかりにくいところにあるにもかかわらず、何故か岩山の天辺に集まっていた。
すぐに宝玉を一通り集め終わり、不思議がりながら爺とともに村に戻ると、浜辺で大人たちが揉めていた。
「なんだろう、ちょっとみてくるよ。爺は先に家に戻っていてくんな」
大人たちの元へ駆け寄ると騒ぎの中心にいたのは、全身ずぶ濡れの少女だった。白玉のような肌に髪は朝日の輝きのような黄金色で、瞳は海の浅いところのような青だった。袖がなく、裾が嫌に長い白い服をまとっている。明らかにこの辺りの人ではない。
「根津さん、どうしたんだい」
那由多は大人たちの中でも若い者を取りまとめている男性に声をかけた。
「ああ、那由多か」
根津は那由多に気付くと頭の後ろをガシガシと掻きながら、どう説明したものかと空をみる。
「そこの女が、突然浜から上がってきて、天子様に御目通りしたいというんだ」