表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

91/143

うぅ、クロードがまた身も蓋も無いことを…… by レヴィア

 なお、全力疾走の状態にある騎体は第一世代の改良型で時速80km以上、第二世代に至っては高機動実験の過程で組まれた試験騎が時速180kmを記録している。


 この騎士骨格が剥き出しで武装を持たない巨大騎士(ナイトウィザード)の開発者も勿論、蠱惑的な肢体と美貌を持つ女狐ニーナ・ヴァレル嬢なので、彼女が誇る祖国ドイツの詩人シラーに因んだ騎体名 “Damon(ダイモン)” が与えられていた。


 彼の著書では「ウイリアム=テル」が有名なものの… 処刑されるのを承知の上で親友Pythias(フィジアス)のためにDamon(ダイモン)が走る物語「人質」、要するに太宰治が編纂した「走れメロス」の原本より、主人公名が採用されたのは騎体速度に主眼が置かれていた(ゆえ)だろう。


 ともあれ、ゼファルス領の巨大騎士(ナイトウィザード)隊が彼我の距離を()め、魔法射撃の有効範囲に至るまで(およ)そ4分に満たない。


 その間に魔導砲をもう一発喰らわせるべく、リグシア領側の混成騎士隊では遠目だと小さ過ぎて捕捉できなかった随伴(ずいはん)小隊が動き回り、砲撃専用の騎体 "キャノンディール” の魔力供給ユニットを換装させていた。


「急げよ、お前らッ! 命が幾つあっても足りねぇ!!」

「… 何で俺達、騎体同士の戦場にいるんでしょう」


「泣言や文句は生きて帰ってから白狐(ファウ)に言え、あいつの設計が悪い!」

「と、うちの隊長が申してましたって、本人に伝えておきますね!!」


 半場やけになりつつも、彼らは二班構成で(とどこお)りなく作業を進めていき、騎体両脚と個別に繋がった魔力結晶入り格納器の伝導ケーブルを手際よく解除する。


 先制の長距離射撃で使用済みとは()え、重さ100㎏前後ある格納器は時間短縮の観点から二台の荷馬車に乗せたまま運用しており、作業に注視していた輜重(しちょう)兵達が()かさず馬の手綱を引いた。


「よし、次の持ってこいッ、二番騎の連中より先に終わらせるぞ!」


「あ、向こうの分隊より早かったら、何か奢ってください」

「いいっすね、それ」


 手を止めずに軽口を叩いている整備兵らに感心しつつも、リグシアの騎士長ヴァルフは進撃してくる相手方の騎体群を見遣(みや)り、鋭く碧眼を細める。


 乗り手の意思は人工筋肉の神経節を通じて騎体と連動しているため、グラディウスMr-Ⅱの疑似眼球も焦点を絞らせた。


「僅差であと一撃って感じかしら?」

「あぁ、そうだな」


 専属の魔導士として同乗している従妹の問いに短く応え、彼は戦闘時の常時共有回線で各騎に呼び掛ける。


『砲撃後に前面へ出る。魔導士達は術式の構築を始めておけよ』

『『『了解ッ!!』』』


 威勢の良い返事から数十秒…… 互いの魔法射程が重なる間際となり、再び二体の砲撃騎が紫電を走らせようとするも、森林側の死角より飛来した軽硬化錬金製の巨矢が片方の砲身に刺さり、(やじり)に付与されたフレイム・ボムの魔法を炸裂させた。


『ぐッ!?』

『だ、駄目ッ、暴発… きゃああッ!!』


 騎体付き魔導士らの切羽詰まった声が漏れ聞こえた直後、魔導砲を穿(うが)たれたキャノンディール一番騎の右半身が爆炎に包まれ、ぐらりと(かし)いで地面に(たお)れていく。


 無事な二番騎がゼファルス領軍の指揮官らしき騎体を砲撃する最中、大半のリグシア騎士達が自騎を振り向かせた先、迷彩柄の外套を(まと)って背景の森に溶け込んだ複数の騎影があった。


『北西1.6~2kmの地点、敵騎多数を確認!』

『魔獣の森を抜けてきたかッ!!』


『ちッ、正面に気を取られ過ぎたな… エイドス領の部隊は新手を、此方(こちら)は既存の軍勢を叩く!!』


 騎体の外部拡声機を通したヴァルフの声に従い、第一世代の改修騎グラディウスや、強襲型ナイトシェードを合わせた麾下(きか)の三十数騎ほどが漸進(ぜんしん)する。


 指揮系統の異なる援軍の騎体も連携して動き始め、迷彩外套を脱ぎ捨てた伏兵の騎体群と正対しながら、慎重な足取りで徐々に距離を潰していった。



 その様子を眺め、やや放心していた射手たるリゼルの弓騎士がぼそりと呟く。


『… 敵騎、派手に爆散したけど死んでないよね、蔵人(くろうど)さん』

『余計なことは考えるな、琴乃。迷いは自身と仲間を殺すぞ』


『うぅ、クロードがまた身も蓋も無いことを……』

『この場合は適切ではないと思われます、陛下』


 若干の非難が籠められたレヴィアとフィーネの言葉を受け、どうやら対応を間違えたのは理解したが、是非(ぜひ)も無し。


 戦場で集中を欠くのは危険極まりないため、真摯(しんし)に同郷の少女を案じていれば、耳に痛くとも言及せざるを得ない。


『覚悟が定まらないなら、後方支援に徹するだけで構わない。ダーヴィ、面倒を見てやってくれ』


『了解です、任せてください』


 兵装の弓を掲げさせたスヴェルS型二番騎の姿を一瞥(いちべつ)してから、運動性が高い近接特化のF型を露払いとする前衛組に(まぎ)れ込んで、黒銀の騎体ベルフェゴールを前方に駆けさせる。


 直線的な軌道だと敵騎の魔法射撃を喰らう事もあり、ある程度の間隔を開けた各騎と同様、緩やかな蛇行をしつつ剣戟の間合いとなるまで接近していく。


 実戦経験が浅そうな皇統派の騎士達は(あせ)ったのか、曖昧(あいまい)な狙いで突き出した騎体の右掌から魔弾を放つも、矢面(やおもて)に立つリゼルの精鋭らに直撃させる事はできない。


 絶妙な角度を付けたスヴェルF型の腕盾でレインやザックスに受け流され、又は銀髪碧眼の月ヶ瀬兄妹(ルナヴァディス)が駆るベガルタの双剣で弾かれて明後日の方角へ消えた。

走れメロス、日本以外だとダイモンなんすね(;'∀')


★ 物語の書き手としての御願い ★


私の作品に限らず、皆様の応援は『筆を走らせる原動力』になりますので、縁のあった物語は応援してあげてくださいね。


『面白い』

『頑張ってるな』

『応援しても良いよ』と思って頂けたら


下記の評価欄から応援をお願いします。

※広告の下あたりにポイント評価欄があります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ミリオン達成おめでとうございます このまま書籍化を通り越して漫画化まで突っ走って下さい
[良い点] 砲撃仕様活躍中 ただし重装甲や砲弾を弾く盾が出来たら旧式になりますね [気になる点] ガンキャノンみたいに素手なのか短刀とか持ってるのか? 接近されると物凄く弱くなるのが砲撃仕様なので …
[一言] かなうなら一騎くらいはお持ち帰りしたいですね。 騎士の運用費もバカになりませんし。 ここで勝っておかないと後が大変でもありますし。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ