されども勝利には違いない
『ねぇ、クロード… これって、ベルちゃんが戦いたがってる?』
『あぁ、そんな感じだな』
俄かに魔導炉 “獅子心王” の出力が高まってきたことにより、いつの間にやら不死者が駆る単眼騎の剛撃を制して、騎体への過負荷なしに黒刃を受け流せている。
それに加えて、AI式だと双子のエルフが宣うベルフェゴールの核からは “闘争の為に造られた存在が持つ矜持” のようなモノが伝わってきていた。
『うぐっ、炉心の出力が限界突破、長く持たないかも……』
『………… 心当たりがあるだけに遣る瀬ない』
どういう了見か、森人達の隠れ里では一部の技術だけ失伝しておらず、ニーナ・ヴァレルの技量を凌駕すると移民系アメリカ人の整備兵長が勧めてきたので、王専用騎の主任技師に二人を抜擢した経緯があったりする。
他には思い当たる節がないのも省みつつ、繰り出されたショルダータックルを右側面に躱して向き直った瞬間、急制動を掛けた単眼騎は振り向きながらの横一閃など放ってきた。
『ウォオオォッ!!』
『ちッ!』
まともに打ち合えば質量の差でサーベルが大剣に圧し折られるため、咄嗟の退避で空振りさせた上、すぐさま自騎を懐に飛び込ませて、敵騎の顔面に鋭い刺突を繰り出したが… またしても、得物から離した右腕の装甲で切っ先が逸らされてしまう。
「其ノ動キ、最早 “機械仕掛ケノ魔人” ニ匹敵スルゾ」
『褒め言葉として、受け取っておこう』
互いに動きを止めることなく短い言葉など交わす傍ら、骸の騎士が単眼騎に円軌道のステップを刻ませて、遠心力のまま振り抜かせた斬撃を騎体による後方跳躍で凌ぎ、左腕のバースト機構を発動させる。
純粋な凝縮魔力の炸裂が生み出す運動エネルギーにて、普段は折り畳まれている腕部を瞬時に展開、爆音と共に伸びた鋼鉄の左掌で敵騎の右腕を掴み、腰の捻りも使って引き寄せた。
『ヌゥッ!?』
『せいぁああッ!』
突飛な行為で態勢を崩した隙につけ込み、左肩上の位置まで引きつけたサーベルの刃を首筋目掛けて振り抜くも… 渾身の斬撃は忽然と現れた不定形の黒盾に受け止められる。
『もうッ、またなの!』
『たが、連発はできないだろうッ』
役目を終えた魔力の盾が砕け散る最中、まだ掴んでいる右腕ごと敵騎を手繰り、鳩尾に膝蹴りを叩き込む。
さらに間髪入れず、剣柄を握り込ませたままの右拳でフックを放ち、反射的に掲げられた左腕の防御を掻い潜らせて、無防備な側頭部にも強打を喰らわせた。
『グウゥッ、小癪ナ!』
多々良を踏んだ単眼騎は剣戟の間合いまで離れて、脇構えから黒刃を閃かせようとするが、敢えて此方はベルフェゴールの背部バースト機構を噴かせ、勢い任せの突撃を喰らわせる。
『何ッ!?』
『侭よッ』
機先を制することで相手の剣勢が乗る前に密着状態となり、自騎の右脇腹が多少抉られる程度に抑えながら、途中で両手持ちに切り替えたサーベルの切っ先を敵騎の胸部装甲へ突き刺す。
耳障りな金切り音が響き、魔導錬金製の刀身は根元から折れたものの…… 刃先は深々と操縦席の付近を穿ち、敵騎に継戦が躊躇われるほどの損傷を与えていた。
「ハッ、此度ノ勝チハ譲ッテヤロウ!!」
『それって、単なる負け惜しみだよね?』
満身創痍なれども僅差で軍配は俺達に上がるため、レヴィアが呆れた声を漏らすのに構わず、“機械仕掛けの魔人” アルゴルが魔力液を破損個所から撒き散らして飛び退ると、彼我の間に大型種の異形が割り込んでくる。
ただ、戦場の趨勢は双方の被害を積み上げつつも、リヒティア公国を中心とした連合軍に傾いており、多種多様な怪物どもは後方低空より小粒な魔弾をばら撒く浮遊型騎の援護下で迅速に引き上げていく。
『軽々な追撃は藪蛇か……』
『ん、こっちも疲弊してる』
油断なく騎体の疑似眼球で広域を見渡せば、倒れ伏した巨大騎士の姿が幾つも視野に入り、すぐさま追撃戦に移行するのは難しいことが理解できた。
残念なことに自国所属のクラウソラスも二番騎と三番騎が大破して擱座、四番騎が中破して半壊した片腕をだらりと垂れ下げている。
『 レイン、まだ動けるか』
『はい、帰投するくらいなら、それより……』
気もそぞろな返事をした彼女の騎体が僚騎に歩み寄り、友人の安否を確認するため、歪んだ胸部装甲を外部から開けようと試みるが… 躊躇いで残された右腕が動かず、見かねたディノの改造騎が横から掌を添えた。
『確認は此方がする、お前らは下がっていろ』
『多分、貴女とヨハン君には刺激が強すぎると思う』
『…… お気遣いに感謝します』
『うぅ、面目ないです』
やや緩慢な動作で四番騎を動かしたレイン達と入れ代わり、L型改ガーディアの片膝を地面に突かせた藍色髪の騎士は斃れている二番騎の胴体など触り、既定のロックを解除させる。
勿論、それだけでは変形した胸部装甲は開かないので、強引に引き剝がして操縦席を疑似眼球で覗き込んだ。
『ッ、騎士ベルアドと魔導士セラノの戦死を確認』
『そうか……』
騎体の損傷具合より考えれば極めて妥当な報告を受け、暫しの祈りを捧げる。
御伽噺でもない限り、戦いで身内に犠牲が生じるのは必然、半数前後の巨大騎士が斃された公国側に比べると傷は浅いと謂えど… 割り切ってしまうことはできない。
(慣れてしまうのは恐らく、為政者として失格だ)
密かな自戒は騎体の人工筋肉に含まれた神経節経由で同乗するレヴィアにも伝わり、労わるような彼女の想いが身体の芯に染み入ってきたところで、状況を見計らっていたロイド達からも報告が成される。
『三番騎はザックス、リネアの二人とも転移の魔封石を使ったみたいだ』
『きっと、公国側の連隊兵に混じっていると思います』
『結果的に戦死者は二名だな』
『されども勝利には違いあるまい、此処は誇るのが仲間への手向けになる』
思わず零した俺の言葉を団長のゼノスが拾い、先日から続く “滅びの刻楷” の大規模侵攻を食い止めたことで、徐々《じょじょ》に活気づき始めた公国軍第一連隊の将兵達を見るように促してきた。
なお、異形の軍勢は “破壊” と “精霊門の建造” が主目的なため、要所を悉く潰した迎撃都市ラディオルを素通りして、旧フランシア王国のローヌ=アルブ領に帰還していったことが数日後に斥候小隊より報告される。
それを以って同盟国に対する援軍派遣に区切りが付き、合流してきた整備兵混じりの輜重隊から補給と修理を受けた後、公国軍の食客となっていた騎士国の面々《めんめん》は帰還の途に就いた。
ん~、そろそろ認めざるを得ませんね……
PVに比してブクマ率や評価率が微妙です。つまり、ロボ物であるとか以前に物語としての魅力が不足しているのでしょう(;'∀')
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