戦場にて刃を振るう
なおも追い縋る単眼騎は振り落とした大剣の切っ先を地面に擦りつけながら、強烈な逆袈裟の切り上げを繰り出してくる。
迎え撃つ此方はベルフェゴールの右足を斜め後ろに退かせて、騎体を旋回させると同時に重心も下げ、右腕に備えられたアームシールドを迫る黒刃に叩き付けた。
『斬ッ』
『ッ、喰らうかよ!』
耳を劈く金属同士の不協和音が響き渡った直後、想像以上に高威力だった斬撃で腕盾が損壊して、腕部まで剣身が喰い込んでいく。
『ッ、うぅ……』
『堪えてくれ!』
感覚共有による激痛で呻くレヴィアに一声掛け、低くなっていた騎体の姿勢など戻しつつも左腕を掬い上げるように振り抜き、単眼騎の顎先目掛けて堅く握りしめた鋼鉄の拳を打ち込む。
『ガッ!?』
狙い違わず直撃させた拳撃で相手を怯ませ、さらに操縦席があると思しき胸部にサーベルの切っ先を突き入れるが、紙一重で大剣の柄を手離した単眼騎の右腕に払い除けられてしまう。
暫時の攻防に区切りを付けて近接状態より、ある程度の距離を自騎に取らせれば、籠手のような装甲を切り裂かれた敵騎の外部拡声器から、隠せない愉悦混じりの笑いが響いた。
『良キ哉ッ、コノ滾リ、生ヲ実感スルゾ!』
『貴方、不死者でしょうッ!』
苛立ちを含んだレヴィアの声が後部座席から聞こえたものの、骸の騎士が言わんとすることは武侠の端くれとして、少しくらいは理解できてしまう。
ただ、“刹那の剣戟に懸ける修羅” となるのも一興なれど、赤髭の魔術師長に託された一人娘を道連れにして散るのは論外だ。
『有難くも、難儀なことだなッ』
踏み込んできた単眼騎に応じて騎体右脚を斜め後方に運び、振り下ろされた大剣をサーベルの刀身で受け流してから、脚部関節へと下段切り払いを放つ。
その斬撃は惜しくも強引に飛び退いた相手の装甲を刻んだに過ぎず、今度は此方が攻撃直後の隙を狙われてしまった。
『ハッ、楽シイナ、騎士王!』
『否定はしないッ!!』
咄嗟に突き込まれた黒刃を切り上げて逸らし、自騎の左肩装甲を削らせる程度に留め、お返しとばかりに淡い魔力光の灯った左掌を単眼騎へ叩き込む。
『ッ!? 瘴気ノ浮遊盾』
『切り裂いてッ、エアバレット・バースト!』
奇を衒って打撃に乗せたレヴィアの炸裂風弾は不定形な黒盾に阻まれながらも、至近からの威力で破砕して装甲ごと脇腹を切り裂いた。
されど血液たる赤い魔導液を撒き散らして後退した敵騎は止まらず、寧ろ人工筋肉を滾らせて嵐のような乱撃を放ってくる。
『呵々ッ、追イ込マレテカラガ、“機械仕掛ケノ魔人” アルゴルノ真骨頂ダ!!』
『ぐッ、面倒な奴め!』
純粋な膂力だと相手に分があるため、絶えず位置取りを変えるなど、あの手この手で猛攻を凌ぎ続けるが… 過負荷に晒されたベルフェゴールの躯体は徐々《じょじょ》に軋みを上げていく。
……………
………
…
他方、周囲で大型種の異形達を相手取っているリゼル所属の騎士達も苦戦の最中にあった。
単眼騎とほぼ同時に姿を現した “機械人形” レブナントが時折、有象無象の巨大な怪物どもの後方から低空へ浮上し、遠慮なく複数の魔弾をばら撒いてくるため、落ち着いて眼前の敵に集中できない。
『もうッ、鬱陶しいわね!』
『落ち着いてコトノ、今の状態だと中たらない』
同年齢の魔導士に諫められて一呼吸だけ挟んだものの、敵勢の背後に隠れて魔法構築を済ませ、場所替えして浮かび上がる敵騎を狙うのは至難の業だ。
手持ちの矢で牽制するしかできない彼女を仇笑うかのように、再び浮揚してきた異形側の騎体が錫杖を掲げ、扇状に複数の魔弾を撃ち出す。
『兄様ッ』
『ん、面倒だね』
大きな虎型の魔獣 “サーヴァエル” の噛みつきをサイドステップで躱し、灰白色の騎体に双剣を振るわせようとしていたロイドが諦め、退避させることで魔弾を凌ぐ。
その際に “体勢を崩す” 仕草も織り交ぜておくと、釣られた相手が好機とばかりに着弾後の砂塵を割って飛び込んできた。
「グルゥアァァアァッ!!」
空中の巨大虎は開けた顎で獲物の首筋を捉え、勢いのまま自重で押し倒そうとするが、そこに月ヶ瀬兄妹の乗騎であるベガルタの姿はない。
『誘いを受けたのだろうけど、軽率だよ』
冷めた言葉と共に横合いより、無防備な蟀谷へ右の鉄剣を突き入れて、手際よく猛寧な魔獣を仕留めた某家の子女らと対照的に… “機械人形” レブナントの魔弾で左脚を損傷していたクラウソラスの二番騎からは切迫した声が響く。
『駄目だッ、捌き切れない!』
『べアルド、転移で脱出しッ、きゃああッ!?』
精彩を欠いた騎体が巨大虎の動きに翻弄され、右側面からの突進を腰部に受けて倒れ込めば、それが致命的な隙となって胸部を鋭い牙で噛み砕かれてしまう。
『ふざけるなッ!!』
一緒に鍛え合った輩の絶叫を怒鳴り声で搔き消して、対峙するディサウルスの足を槍撃で払ったレインの四番騎が斜めに飛び退り、いまだ僚騎に喰らいつく魔獣の頭部を鉄槍で穿った。
『ギッ、ア… アァッ……』
『斃れッ、獣め!!』
若干の冷静さを失い、死に逝く魔獣に意識を奪われた彼女の騎体に向け、初手の攻防を潜り抜けていた魔導士型の巨大骸骨が錫杖を翳す。
『ッ、あぁああ!?』
『うぐッ』
深く頭蓋に刺さった鉄槍を手放すことで、迅速な回避行動を取った四番騎の左腕に豪焔弾が当たり、直情的な性格の騎士令嬢は相棒のヨハン共々《ともども》に苦鳴を漏らした。
結果的に丸腰となった手負いの獲物を狙い、新たに巨大な猪型の魔獣が肉迫するも、それは後輩の援護に入ったディノ達の改造騎が横腹へ銃剣を突き刺して屠る。
段々と消耗戦の様相を呈しつつ、他国も含めた騎士達の奮戦により彼我の戦力差が縮まっていく状況の下、単眼騎と切り結ぶベルフェゴールは… 大小様々な傷を無数に負いながらも、密かに躯体内側の魔導核から漏れる光の輝きを増大させていた。
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