骸の騎士再び
脇腹付近に魔弾を喰らった公国騎は既に頽れており、左太腿に被弾した方の騎体も血色の魔力液を撒き散らしつつ、片膝立ちで姿勢を維持している有様だ。
『ちッ、先を越されたか、撃て!!』
『『『了解ッ』』』
念話装置の共有回線から苛立ちを含むヴィクトの大声が響くと、麾下の各騎が一斉射撃の指示に合わせるべく、発動段階に留めていた属性魔法を撃ち放つ。
『クロード王ッ!』
『時間差を持たせる。前列は屈め!!』
逸る藍色髪の騎士を抑えて、跪いた僚騎の頭越しにベルフェゴールの左腕を突き出させれば先読みと違わず、攻撃直後で障壁防御が間に合わない魔術師型の巨大骸骨らを庇うため、ディサウルス達が身を挺して射線上へ割り込んだ。
威力重視で選んだと思われる豪焔弾や豪風刃など対大型種用の魔法を受け、叫び声を上げる獣脚類の数匹が倒れ込んだ機に乗じて、騎士国側も垣間見えた厄介な標的に狙いを定める。
『今だッ、撃て!』
『切り裂いて、エアバレット・バーストッ!!』
騎士王の声に専用騎体の魔導士レヴィアが応じて、構築済みの魔法を発動させると、大爪付きの武骨な左掌より炸裂風弾が射出された。
ほぼ同時に前列の巨大騎士に同乗するエレイアやリーゼ、他の魔導士達も収束させていた魔力を解き放ち、其々《それぞれ》の騎体に搭載されている攻撃魔法を巨大骸骨の一団へ撃ち込む。
多種多様な射撃系魔法の中には大型種未満を想定した範囲重視の光散弾等も含まれるが、それらは渾然一体となって、魔術に優れる代償で防御力は乏しい異形どもの躯体を削り砕いた。
「「「ウァア……ァァアァ…………」」」
空気振動による怨嗟の呻きを上げ、自重に耐えられなくなった哀れな骸骨数体が土埃を巻き上げて崩落する最中、左右後列から複数の矢が風切り音を鳴らして飛び去っていく。
二体のスヴェルS型が連射した計四本のうち、一本が健在な個体の頭蓋骨に刺さり、鏃に付与された属性魔法 “フレイム・ボム” を炸裂させた。
「アァッ……」
『ん… 初撃破、かな?』
聞こえてきた琴乃の呟き通り、頭部を破壊された外套姿の巨大骸骨は一瞬の硬直など挟み、躯体の維持に必要な魔力循環を断たれて倒壊する。
その傍らではポニテ少女の僚騎が放った矢により、それを受けたディサウルスの右太腿が凍り付き、上手く身動きができずに足掻いていた。
『氷結系の付与魔法も便利そう』
『うぐぅ… 浮気、良くない』
不満げな騎体付き魔導士イリアの声を拾いつつ、琴乃がスヴェルの疑似眼球越しに敵勢を窺うと、先陣に立つ十数頭のディサウルスが再び駆け出して、後列の魔獣達も引き連れながら彼我の距離を一気に詰めてくるが……
『ギャウウゥウ!?』
騎士国の面々《めんめん》よりも外側へ廻り込んでいたバルディアの巨大騎士小隊が石散弾の魔法を撃ち込み、獰猛な獣脚類らの横腹を穿って前のめりに倒れ込ませた。
それでもなお肉迫してくる大型種の異形達に対して、各騎が自由に動けるだけの間隔を設けた半円陣となり、僅かな後退を交えて迎え討つ。
『無理に踏ん張るなよ、引き込んで数を減らす』
『囲まれると厄介だからね、良い判断だと思うよ』
平時と変わらぬ調子で応えたロイドが乗騎たる双剣仕様のベガルタを下がらせて、噛みついてきたディサウルスの大顎を躱す。
さらに上体を起こして振り抜かれた凶悪な右爪も交差させた二本の得物で受け止め、焦ることなく十分に威力を削ぎ落してから、閃かせた左の鉄剣で巨大な異形の喉元を深く切り裂いた。
「ガフッ、ギグウゥア!?」
痛みと動揺で暴れ出した獣脚類に対して淡い灰色の騎体が少し距離を取り、間髪入れずに繰り出した右の鉄剣を脳天に突き刺せば、絶命して力を失った巨躯が地面に斃れていく。
『ッ、次が来ます、兄様!』
『あぁ、分かってるよ』
短く言葉を交わした銀髪碧眼の兄妹が駆る巨大騎士に大型種の魔獣サーヴァエルが飛び掛かり、爪牙と双剣がしのぎを削る近傍では、彼らより遅れてディサウルスの一頭を斬り伏せたディノ達の改造騎ガーディアにも同種の魔獣が迫っていた。
それは騎体の右側に抜けると見せかけたフェイントを織り交ぜて、武器を持たない左側に抜けて斜め後方から横腹に噛みつこうとするが、この場合は相手が悪いとしか言えない。
『消し飛びやがれ、畜生がッ!!』
「グォアッ!?」
振り向きざまに専用の中型盾が叩き付けられた刹那、反応装甲の数個が爆散して不運な巨大虎の頭部を粉々《こなごな》に吹き飛ばした。
乗騎の特性を上手に活かした戦い方ではあれども、貴重な火薬を遠慮なく消費する藍色髪の騎士に手堅い性格のリーゼが思わず愚痴る。
『その内、請求書が送られて来たりしないかな……』
『知るかよ、騎士王が何とかするだろ』
などと、軽い調子で押し付けられた当人と言えば、吶喊してきた巨大な獣脚類を相手取り、鋭い爪牙を躱しながらもベルフェゴールに振るわせた白刃で屠ったものの、異形の群れに紛れて斬り込んできた甲冑姿の単眼騎に押し込まれていた。
『会エテ嬉シイゾ、リゼルノ騎士王!』
『…… 骸の騎士か』
『イザナ様が言ってた空気を読まない《《不埒者》》だね』
多少の軽口を叩きつつ、自騎に同乗するレヴィアが魔導炉の出力を上げていくのに合わせ、鋼鉄の左掌も添えた魔導錬金製サーベルで受け止めている黒刃を押し戻す。
呼応した相手は嬉々として単眼騎の両腕に力を籠めてくるが、不利な土俵で勝負してやる義理は無いため、その膂力も利用して一度後方へ飛び退いた。
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