↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

62/143

陛下、それは自爆…… もとい、やり過ぎというものです by フィーネ

 夜分ではあれども駆動音に引き寄せられ、時折《ときおり》通りに面した建物の窓から好奇を含《ふく》んだ視線など向けられる中、乗騎たるベルフェゴールを闊歩(かっぽ)させて公都の中心部まで向かう。


 城郭《じょうかく》の入口で待ち構《かま》えていた衛兵達に駐騎場まで誘導され、昇降用のワイヤーペダルで手狭な操縦席より地面に降りると、公国側の官吏《かんり》が歩み寄ってきた。


「ようこそヴェルンへ、此度(このたび)は援軍要請に応じてくださり、感謝の限りです」

「延(ひ)いては自国の為だからな、そんなに気遣(きづか)われると心苦しい」


「ふふっ、リゼルの騎士王殿は噂に違《たが》わず愚直な方ですね。宿泊して頂《いただ》く兵舎に私も控《ひか》えておりますので、御用《ごよう》の際《さい》はこのミランダに申し付けてください」


 薄く微笑んだ妙齢の淑女《レディ》に首肯したところで、傍《そば》に来ていたゼノスが遠慮の欠片もなく野太い声を響かせる。


「ありがたい、此方(こちら)での夕食を当てにして、まだ食べておらんのだ」

「うぐぅ、義父(とう)様… もっと言い様《よう》があるでしょう」


「構《かま》いませんよ、厨房の料理人に暖かいものを用意させましょう」


 快《こころよ》く応じてくれたミランダ嬢は素早く視線を巡《めぐ》らせ、巨大騎士《ナイトウィザード》から降りてきた皆の人数を把握すると、衛兵の一人に細《こま》やかな指示を出す。


 隣で傾聴(けいちょう)していたレヴィアが “やった” と嬉しそうに呟くのを聞き流しつつ、無視できないほどに大きくなってきた車輪と石畳が鳴らす音へ振り向けば、駐騎場に乗り入れてくる二頭引きの馬車(キャリッジ)が視界に入った。


「どうやら、貴国の駐在官殿も戻られたみたいです」


 耳触(さわ)りの良い声で指摘された通り、滑り込んできた馬車には第三代騎士王に由来すると思《おぼ》しき、清和源氏の家紋を西洋化させたリゼルの国章が刻まれており、公都防壁で知己《きち》を得たばかりのザイゼルが降りてくる。


 取り敢《あ》えず、主要な人員は揃(そろ)ったことから、魔力灯の明かりが漏れる兵舎の階段室(ステアケース)に場所を変えて、其々(それぞれ)が借り受ける部屋を選ぶという段《だん》となり… 銀髪碧眼(へきがん)の魔導士娘、エレイアの発言が物議を醸《かも》す。


「私のことはお構《かま》いなく、お兄様と一緒に泊まりますので」

「え゛、でも間借《まが》りする部屋のベッドは一つだよね?」


 事前の説明だと、此方《こちら》に割り当てられた兵舎の一部は将校専用の区画であり、すべてが個室となっているため、疑問を呈《てい》したレヴィアは正しい。


 ただ、そのやり取りで騎士団の面々(めんめん)が注目するにも拘《かか》わらず、渦中のロイドは爽《さわ》やかに言ってのける。


「別に珍しいことでもないかな? 結構、僕のベッドに潜り込んでいるからね」

「寒い冬場とか、先に寝床を暖《あたた》めておくのは妹の勤《つと》めです♪」


「何やってんのよ、あんた達……」


 若干《じゃっかん》、引いた様子で月ヶ瀬《ルナヴァディス》の兄妹から離れた琴乃《ことの》に対して、勝ち誇った表情を浮かべたブラコン娘に呆《あき》れていると、軍服の袖《そで》を軽く引っ張られた。


 何事かと向けた視線の先、悪戯《いたずら》っぽい仕草《しぐさ》で赤毛の少女が小首を傾《かし》げ、ここぞとばかりに揶揄(からか)ってくる。


「ね、クロード、私達も同室にする?」


 此方(こちら)が戸惑うと思って、レヴィアは身体を摺《す》り寄せてきたものの、生憎と頻繁《ひんぱん》に同衾(どうきん)してくるイザナのお陰で様々な耐性は獲得済みだ。


「あぁ、柔らかい人肌の温《ぬく》もりは悪くない」

「はぅ!? ち、ちょっと待って!!」


 意趣返しに隻眼《せきがん》の魔術師サリエル直伝の手管《てくだ》を使い、自然な動きで少女の腰に腕を廻《まわ》して引き寄せ、胸元にすっぽりと抱き留《とど》める。


「うぅ… 駄目、皆が見てる」

「大丈夫さ、冗談だからな、ははっ」


 種明かしと共に赤毛の頭をポフり、真っ赤になったレヴィアを腕から解放したのだが、何故《なぜ》か俺にも琴乃《ことの》の冷たい視線が突き刺さり、反応に窮《きゅう》する一同に気付かされてしまった。


 微妙な空気が漂《ただよ》うこと数秒、フィーネが可愛らしく咳払いして場を取り持つ。


「陛下、それは自爆… もとい、やり過ぎというものです」

「すまない、退《ひ》き際《ぎわ》を間違えてしまったようだ」


「むぅ、仲良きことは……」

「その台詞《せりふ》は要《い》らないぞ、ゼノス」


 何やら、出立前の折《おり》、耳にした言葉が無為に筋骨隆々な団長殿から聞こえてきたので、みなまで言わせずに遮《さえぎ》った。


 改めて客観的に考えれば魔術師長(レヴィアの父)や、イザナの御付き魔術師(姉代わり)に目撃された場合、書類仕事を上乗せマシマシで押し付けられたり、城の空き部屋に拉致されて矯正指導を受けたりするのは必定。


(…… らしくない振る舞いは避けるべきだな、後で詫《わ》びよう)


 俯《うつむ》いて黙り込んだ赤毛の少女を見遣(みや)り、ひとりで反省する間にも皆が動き出して、上階の好きな部屋へと散っていく。


 此処(ここ)に残っていても仕方ないため、俺も足を踏み出そうとしたら、レヴィアに上着の裾《すそ》を掴《つか》まれ、恨めしそうな表情を向けられてしまった。


「“蜂の巣箱(ワッフェル・ボックス)” の焼き菓子を所望」

「分かった、それで手を打とう」


 ささやかな帰国後の約束が出来たのを心に留めながらも兵舎の三階へ上がり、適当な部屋の扉を念のために叩いて、誰も居ないことの確認を済ませてから室内に入る。


 そこで剣帯《ソードホルダ》や軽装の防具などを外して軽(かろ)やかとなり、階下の食堂に集まって皆と遅めの夕食を取った後、将校向けの個室に備え付けられた簡素なシャワーを使わせてもらう。


 早ければ明日、遅くとも明後日には戦闘となるので、余計な時間を取らずにベッドへ潜り込み、意識を手放し掛《か》ける寸前《すんぜん》… 多分、面識が出来たばかりな相手の気配を廊下側に感じた。

『続きが気になる』『応援してもいいよ』


と思ってくれたら、下載の「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にお願いします。

皆様の御力で本作を応援してください_(._.)_

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 蜂蜜・・・昔は超高級食材だった 余談ですがお昔の火薬にも使われていたそうです [気になる点] こんな夜更けに一体誰だろう…? 冴羽さんモードなら即ハンマーお仕置きですねw [一言] 更新…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。