仲良きことは美しきかな
「何やら楽しそうですね♪」
「“仲良き事は美しきかな” だなッ」
亜麻色髪の義娘と一緒に幾つもの革袋を纏めて担ぎ、呵々大笑した騎士団長殿が歩み寄ってくるのを見遣り、腐れ縁の御仁が重い溜息を吐く。
「他人の娘だと思って気軽に言うんじゃない、イザナ様の立場もあるだろう」
「そこは《《折り合い》》が付いていますから、大丈夫です」
何やらすまし顔で義父を庇うかの如く血の繋がらない娘が言及した通り、以前に政略結婚の相手である高貴な黒髪少女と街へ繰り出した際、幼馴染の親友なら “側室” に迎えても良いと、明確な意思表示を受けたことがあった。
路地裏のカフェ ”蜂の巣箱” で交わした会話を脳裏に過らせながら、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で驚きつつも、すぐに取り繕ったブレイズを視界の端に収める。
「……フィーネ嬢の話は本当なのか、レヴィ?」
「あぅ~、また後でね、お父さん」
衆人環視の中で仔細の確認をしようとする父親に戸惑い、困り顔のレヴィアが助けを求めるように見つめてきたが、あまり良い判断とは言えない。
(その反応は寧ろ、誤解を誘発するだろうに……)
此処にイザナの護衛を勤める御付きの魔術師かつ、姉代わりのサリエルがいない事実に安堵する傍ら、気まずい話題を変える意図も含めて、緩りと団長殿が持つ沢山の革袋に手を伸ばす。
「ひとつ貰えるか」
「おぅ、陛下達の分だ」
多少の重さを感じる革袋の中身を確認すれば、長期保存が利く固めのパン、嵩張らない干し肉に缶詰めなど、三日程度は食い繋げそうな食料が二人分の他、少々大きめの革水筒が詰まっていた。
これを操縦席の下にある空間へ放り込み、取り急ぎ援軍に駆け付けるため随伴兵を伴わず、巨大騎士隊のみで先行する。
「一応、確認しておくが… 公都を訪れた経験はあるのか?」
「あぁ、公務で何度か出掛けたことがある。水先案内は任せてくれて良いぞ、今回はライゼスの野郎が居残りだからな」
鍛え上げられている分厚い胸板を張ったゼノスの言うように騎体適性がない副団長殿は留守居役であり、魔術師長と一緒に王都を護る手筈となっていた。
流石に騎兵隊を引き連れた移動速度では時間が掛かり過ぎてしまい、下手をすると全てが終わった後に戦場へ辿り着いた挙句、遅きに失した援軍として無様を晒すことだろう。
因みに騎体の巡行速度なら、丸一日もあれば王都エイジアから公都ヴェルンまでの約180kmを踏破できるが… 届いた書状を鑑みるなら、迎撃都市ラディオルを突破する可能性が濃厚な敵勢も強行軍は可能なため、この場で皆の意見を聞いてみる。
「ふむ、中型種以下の異形を捨て置き、大型種のみで首都を強襲か。旧フランシア王国北部と南部経由の侵攻を留めている城塞や、近隣が狙われる可能性もあるぞ?」
「ん~、其処を襲う確率は低いと思いますよ、義父様」
「そう考える理由を聞いてもいいかな、フィーネさん?」
疑問符を浮かべる琴乃の言葉に頷いた彼女の理屈によれば、どちらかの城塞に挟撃を仕掛けた場合、一度は退いた公国軍の第一連隊が反転攻勢に移り、自軍も挟み撃ちになり兼ねないとの事だ。
さらに同盟国からの援軍が予想される状況下だと、公都を陥落させた方が以後の波及効果に於いて、実利は大きい点も付け加えられた。
俺も同様に考えた上、電撃的なヴェルンへの強襲を配慮すべき事項に入れており、彼女の見立てに反論するつもりはないため、黙りながら話の続きに耳を傾ける。
「本題の陛下が危惧された件ですけど、公都までの途上には魔術師兵を伏せられる林野が多々あります。たとえ強靭な大型種でも、数人掛かりの共鳴魔法を不意打ち気味に叩き込まれたら、まったくの無傷とはいきません」
「つまり、大型種の異形達を敵地で独立的に運用するのは危険が伴う訳だな」
「斥候代わりの小型種も必要、こっちの騎体運用と変らないんだね」
呟いた琴乃に向け、微笑を浮かべたフィーネは大型種のみによる強襲が成功しても、我が国の巨大騎士隊と鉢合わせてしまい、疲弊状態のまま連戦となる可能性等に触れていくが… 持論を否定されて悔しかったのか、すべてをゼノスが豪快に覆す。
「まぁ、所詮は机上の空論だがなッ、戦況は絶えず変化するものだ!」
「もうッ、そんな身も蓋もないことを… だから脳筋と言われるのです」
「素晴らしい褒め言葉でないか、磨き上げた肉体美を見せてやろう!!」
「義父様、いきなり脱ごうとしないでくださいッ」
仲睦まじく父娘喧嘩など始めた二人を眺めつつ、結局は正確な現状把握のためにも馳せ参じるしかないと思い知った頃合いで、不意に頭上から元気な声が落ちてくる。
「王様ッ、左腕の動作状態を確認したいのです」
「二人とも、宜しくお願いするのです!」
「あぁ、分かった」
「ん、了解だよ」
快く承諾したレヴィアと歩幅を揃え、ジャックス整備兵長の操作で降りてきた高所作業車の荷台に乗るエルフ娘達の下まで、先ほど団長殿から受け取った革袋を片手に向かう。
後発の整備要員も含んだ輜重隊とは暫く合流できない故、自騎の調整を注意深くするに越したことはない。
他の操縦者らも同様に騎体付きの技師達と意見を交わし、其々《それぞれ》に出撃前の準備を進めていき… 日が暮れる少し前には国産騎 “スヴェル” のS型も加えて、総勢十体の巨大騎士が王都エイジアを出立した。
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