都市陥落と戦略的撤退
『『………………』』
魔弾の直撃で騎士と魔導士の双方が即死したことにより、姿勢維持できなくなった巨大騎士が後方に傾くのを鋼の左腕で支え、連隊長騎のアルブスL型は残る右腕を斜め上空に突き出す。
『喰らえやッ!!』
発動までに至った搭載魔法 “ライトニングボルト” の矛先を変えたドレルが咆え、浮遊する異様な騎体に向けた右掌へと雷属性魔力を収束させた。
(私ガ無策デ姿ヲ現ストデモ?)
冷ややかな態度の死霊クライスが愛騎に掌中の錫杖を掲げさせた刹那、地から天へ駆け上がる稲妻が煌めく。
眩い閃光は杖頭の遊環に籠められていた中位の魔法障壁とぶつかり合い、雷光を撒き散らした。
その残光が消える直前に凡その目測を付け、曲射のような弓構えを取ったアルブスS型の二体が空中の標的へ矢を放つ!
『ナッ、ウォオオォ!?』
どさくさ紛れの射撃に慌てた死霊は躯体の上半身を捻らせ、右肩と脇腹に刺さりかけた矢を掠める程度で避けたものの、擦過の衝撃によって励起した豪焔弾の付与魔法に襤褸い外套を燻され、狼狽えるという醜態を晒す羽目になった。
『フム、慢心ガアッタヨウダナ… 余計ナ傷ヲ付ケルト、白エルフノ技師ガ煩イゾ』
『…… 面目アリマセン、ガイウス様』
殊勝な死霊が低空を滑るように “機械人形” レブナントを退かせれば、麾下の怪物どもを大通りの路肩に押しやりながら、本陣より出張ってきた “機械仕掛けの魔人” アルゴルが姿を覗かせる。
彼の単眼騎は屈ませた二匹の巨大虎を踏み付け、強靭な魔獣が立ち上がる際の膂力も加えて大きく跳躍すると、さらには獣脚類らの巨躯を足場代わりにして前面へ飛び込んだ。
どう対応すべきかと公国側の操縦者らが思考を巡らせる間にも数歩つめ、脇構えの状態から大剣を豪快に振り抜く。
『オオォオオ――ッ!!』
勢いの乗った巨大な黒刃は左前衛騎のクラウソラスが持つ中型盾を弾き、ざっくりと胸部装甲を半分近くまで切り裂いた。
『ぐぶッ……』
『うぁ……ッ……』
跪き崩れていく巨大騎士を疑似眼球の視野に収めつつ、先ほど斃れた騎体を路傍に寄せたばかりの連隊長騎が身構えて、中衛の僚騎と同じく躍り出てきた単眼騎に鉄槍の穂先を向けて牽制する。
『イレーネ、ヴィクト… S型は近接戦に向かない、離脱しろ』
『そんなッ、連隊長!』
『ッ、御武運を… 退くぞ』
思わず躊躇した女騎士に声を掛け、もう一人の騎士が狙撃仕様のアルブスを転進させれば、遅れて彼女も自身の同系騎を続かせた。
その行動を黙認していた骸の騎士ガイウスは、僅かな寡兵で残った指揮官の覚悟に満更でもなく、躯体の発声器経由で気まぐれな言葉を紡ぎ始める。
『戦端ヲ開イテカラ此処マデ中々《なかなか》ノ手際ダ。是非、貴殿ニ私ノ御相手ヲ願イタイ』
『異形を従えた上位種族は人族より深い知性があると聞いていたが……』
『まさか言葉を交わす機会があるなんて』
何とも言えない感じで呟いた動力を制御する魔導士の妻リアナに断りを入れ、敵将に傷でも負わせることができれば撤退時間を稼げるという判断から、ドレルは誘いを受けることに決めて僚騎を下がらせた。
『公国騎士団、第一連隊長ドレル・トライゼ、推して参るッ!』
『ハッ、ソウデナクテハナ!!』
威勢よく互いに自騎を踏み込ませながらも、間合いに利のある槍装備の連隊長騎が機先を制して、相手の腹部へと鋭い刺突を繰り出す。
単眼騎に正眼の構えを取らせていたガイウスは動じず、槍先に剣腹を添えて側面へ逸らしつつ、半身になることで一切の無駄なく槍撃を回避した。
続けて剣戟が届く位置まで躯体を割り入らせると同時、上段に掲げた重厚な黒刃を袈裟に振り落とさせる。
『オォオオォ――――ッ』
『ぐうぅッ』『うぁ……』
咄嗟にドレルは騎体を後退させたが、鉄槍を支える左腕が柄と一緒に肘まで切断されてしまう。
『ッ、まだだ!!』
感覚の共有による激痛を精神力で抑え込み、残された右腕で腰元の鞘から鉄剣を引き抜かせるも… 既に相手は大剣を左脇腹へ引き付けており、いつでも強撃を放てる体勢となっていた。
情け容赦なく単眼騎が横一文字の黒閃を描けば、やや遅れて翳された鉄剣を物ともせず、勢いのままに跳ねられた連隊長騎の頭部が零れ落ちる。
『ッ!?』
『あ…』
大破したアルブスL型からのフィードバックは耐えきれる範疇でないため、ドレルとリアナの意識が暗転する中で、無造作に突き込まれた剣先が胸部装甲を穿ち、二人の命と未来を諸共に奪った。
それを見届けた中衛の僚騎は機敏な動作で退却など試みるが、赫い単眼を鈍く光らせた “機械仕掛けの魔人” アルゴルは右掌に魔力を収束させると、不規則な回避行動も織り交ぜて逃げる標的に魔槍を放つ。
緩い弧の軌道で追尾する漆黒の槍に背中を貫かれ、石畳に倒れ込んだ巨大騎士が大きな音を響かせた。
『御見事デスガ、此方モ其レナリニ被害ハ出マシタナ』
揺ら揺らと低空浮遊で近づいてくる脚部の無い “機械人形” に一瞥をくれて、腹心の言葉を省みたガイウスは思索に耽る。
『目的ノ迎撃都市ハ占拠シタ、今ハ此レデ良シトシヨウ』
『御意ニ… シテ、追撃ハ?』
『ソウダナ……』
現状を鑑みれば主力の大型種が狭い街中で手間取り、時間を浪費するうちに東門から抜けた複数の巨大騎士が両翼支援に廻って、中型種以下で構成された左右の軍勢を壊滅に追い込んでいる可能性も高い。
それを見越してクライスが問い掛けた追撃の可否につき、骸の騎士が否定を返したことで本都市に於ける戦闘は収束へ向かう。
公国側は連隊長を含む数名の騎士を失い、一般兵科の者達や市民にまで多くの犠牲を出せども、“滅びの刻楷” に相応の損害を与えて足止めと成し、第一報の時点で同盟国に要請していた援軍と合流するため、公都方面へ退いていった。
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