撤退行動は迅速に
「「「グウゥウウッ!?」」」
何匹かのディサウルスが魔法射撃により傷つき、バランスを崩して頭部から地面へ倒れ込むと、恐竜の群れに紛れ込んでいた魔術師型の巨大骸骨らが露わとなる。
垣間見えた標的を疑似眼球に捉えて、巨大騎士隊の左右後方に位置する二体のアルブスS型が弓矢の狙いを定めた。
『目標確認、狙い撃つ!』
『これでも喰らいなさいッ!!』
個々の掛け声と一緒に其々《それぞれ》の騎体が射撃をおこない、勢いよく射出された矢が風切り音を響かせて飛翔し、厄介な大型種の頭蓋や骨盤に突き刺さる。
次の瞬間、鏃に付与された炸裂風弾の魔法が衝撃を引き金に励起して、少なくない範囲の白骨を爆散させた。
「ウゥッ」
「アァ…」
短く呻いた巨大骸骨は躯体の魔力循環を維持できず、ガラガラと崩落していったものの攻勢は此処までとなる。
後続の敵勢は巨大虎の魔獣サーヴァエルなども含めて数十体が存在しており、囲まれると撃破の憂き目に遭うのは明白だ。
昨今の戦いは大型種と巨大騎士が趨勢を決する最大要因であるため、騎体を駆る者達が斃れた場合は連隊所属の各兵科も長くは持たず、早々に瓦解するだろう。
『…… 今のうちに撤収だ』
『『『了解』』』
連隊長騎の発声器から響いたドレルの指示に従い、各騎が機敏な動作で西門を潜っていくのに続き、彼自身も市街地の大通りに自騎を踏み入らせて、反対側の出口となる東門を目指す。
追随するディサウルスらは狭い門など構わず、次々と防壁に体当りするが、その裏側には “滅びの刻楷” との戦いを鑑みたL字型鉄骨が短い間隔で取り付けられおり、そう簡単に破砕することはできない。
手間暇かけて対大型種用に補強された防壁は徐々に崩れつつも、肉薄した巨大な怪物どもの侵攻を受け止めて、開いたままの西門へ誘導する。
『…… 今までずっと守ってきた市街に踏み込まれるのは腹立たしいですね』
『最早、ほぼ無人の都市だ、背に腹は代えられん』
未だ傷病で動けない者達も残存する事実を斬り捨て、騎体を後退させながらドレルは大通りに出てきた巨大な獣脚類を睨みつけた。
一応、巨大騎士の運用を想定して拡張された道幅は20m前後あると謂えども、双方にとって手狭なことに変わりなく、これで前面に立てるのは互いに精々《せいぜい》二体ほど。
敵勢の数的優位を奪ったことにより、彼は追撃の備えにクラウソラス二体と自騎を含むアルブス二体、同系の狙撃仕様であるS型二体を残して、他の騎体を東門経由で両翼へと向かわせていた。
到着次第、既に撤退を始めている各部隊の支援に移り、中型種や小型種の異形どもを蹴散らす手筈となっている。
『後は此方の問題か、退き際を間違える訳にはいかない』
『…… 子ども達の為にも、切り抜けましょう』
『重いことを言ってくれるなよ、リアナ』
こんな時に公都へ疎開させた幼い子息を思い出させた魔導士の妻に溜息してから、ドレルは自騎の両腕を前衛二体の肩に廻させて、諸共にしゃがみ込ませた。
それに合わせて後衛のアルブスS型二体が構えた弓より矢を放ち、狙い違わず駆けてくる先頭のディサウルス達の腹部に鏃が刺さった瞬間、付与された豪焔弾の魔法が発動して内臓を焼き焦がす。
「グウゥッ……」
「ギィ……アァ」
小さく呻いた獣脚類が石畳へ倒れ込んだのも束の間、斃れた同種の異形を乗り超えて、後続が立ち上がったばかりの前衛に吶喊してきた。
「グルゥウ……グガァアァアァ!」
「グォオオォアアッ!!」
『くそッ、上等だぜ!』
『簡単には倒れてやらんぞッ!!』
迎え討つクラウソラスの二体は叩き付けられた鋭い爪を左手の中型盾で受け止め、右手の鉄剣で鋭い刺突を繰り出す。
右前衛騎の突き込みは相対するディサウルスの喉元に刺さって致命傷を与えたが、左前衛騎のそれは相手の左鉤爪で弾かれて、逆に右肩を強力な大顎で嚙み潰されてしまった。
『ッ、痛ぇええ!!』
『うぁあぁああ――――ッ』
騎体との感覚共有で身体が咀嚼される激痛を感じた操縦者らが絶叫して、舌の根も乾かぬうちに押し倒されそうになった間際、中衛の連隊長騎が噛みついた獣脚類の頭部目掛けて槍撃を喰らわせる。
穂先に脳天を穿たれて力尽きたディサウルスが頽れ、鋭い牙から解放された左前衛騎はよろめいて後退した。
『…… 大丈夫か?』
『連隊長、右腕が上がりません、これでは剣が……』
『守勢に徹しろ、もう少しだ』
先駆けした大型種四体の死に躊躇した異形達を牽制しながら、ドレル麾下の小隊は幾度か振るわれた巨大魔獣の爪牙なども防ぎ、追加の数匹を仕留めつつも東門付近まで退いていく。
後は連隊長騎が温存していた魔法 “ライトニングボルト” を直列に並んだ怪物どもへ撃ち込み、各騎転進するだけとなった段階で敵勢の後方から、襤褸を纏った異様な騎体がふわりと低空に浮かび上がった。
『図ニ乗ルナ、下等ナ猿風情ガッ!!』
怒気を孕んだ死霊クライスの声が響き、脚部の無い浮遊型 “機械人形” レブナントが錫杖を突き出して、周遊させていた複数の黒い魔弾を転属的に撃ち放つ。
狙われた右前衛騎のクラウソラスが慌てて翳した中型盾は初弾で撥ね退けられてしまい、僅差で飛来した次弾が胸部を操縦席ごと砕いた。
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