迎撃都市での防衛戦
『サテ、公国ノ連中ハドウ動クカナ?』
異形達の中央に陣取る巨大な獣脚類ディサウルスの後方、不死の眷属たる全高 14~16m ほどの魔導士型ヒュージ・スケルトンに囲まれて、“機械仕掛けの魔人” アルゴルの操縦席で骸の騎士ガイウスが呟く。
彼が搭乗する黒い歪な騎体は甲冑に覆われながらも生物的な印象を持ち、禍々《まがまが》しい角兜と一体化した面具の奥では赫い単眼が煌めいていた。
付近には襤褸を纏った脚部が無い亡霊のような “機械人形” レヴナントも浮遊しており、その騎体内部より外部拡声器を通じて、死霊のクライスが武骨な主の独り言に答えを返す。
『恐ラク、最初ノ勢イヲ挫イテカラ徐々ニ後退… 戦線ヲ引キ伸バシツツ、此方ノ損耗ト足止メヲ図リ、公都方面ヘ撤退スルカト思ワレマス』
『受ケ止メ切レル戦力差デモ無イカラナ、一戦交エテ戦力ヲ削ルト同時ニ注意モ惹キ、我ラヲ援軍トノ合流地点マデ誘イ出スノカ……』
対峙する相手方にとっての無難な行動を見抜き、承知の上で付き合ってやるのか、又は無視して周辺の都市や町を潰すのか、逡巡する間にも動かした両翼のうち、僅かに先んじて左翼が戦闘状態へ突入していく。
雄叫びと共に迫りくる小型種の異形ファングリザードや紛れ込んだ小鬼兵を狙い、横方向に小隊単位で配置された銃兵達の前列が片膝を突き、頭上から銃身を伸ばした後列と共に単発式のマスケットを構えた。
「「「撃てッ!」」」
各小隊長の号令で火を噴いた銃口の向こう側、途中で散開しながら接近してきた異形達の前列に鉛玉が突き刺さり、口径故の威力を以って周囲の肉ごと弾き飛ばす。
「「「グゥウ…ッ、ァアァ……ゥ」」」
「「ゲェエッ……エェ……」」
呻き声を上げて斃れた先鋒が障害となって、後続の足を多少緩ませるものの… 異形の軍勢は留まることなく、瀕死の同胞を無遠慮に踏み越えた。
「ちッ、前進する! 銃兵隊は下がれッ!」
「俺達も正面に出るぞ!!」
響く怒声に応え、陣形に設けられている狭間から鉄槍を把持した者達が進み出た直後、雑多な小型種の群れが白兵戦を仕掛けてくる。
「「「グォァアァァアァッ!」」」
「「「うぉおおぉ!!」」」
咆えた槍兵隊の面々《めんめん》が穂先を繰り出して、噛み付こうとする蜥蜴の異形達を鉄槍で貫いた際の隙など突き、割り込んできた複数の小鬼兵が貫通特化の刺突剣を彼らの胸に突き刺す。
吹き出した返り血に塗れてニヤリと其々《それぞれ》に嗤うが… 次の瞬間、間隙を縫って伸びてきた第二列の鉄槍に頭蓋や心臓を穿たれ、今度は自身の側が絶命した。
そんな消耗戦の様相を加速させるように小振りな怪物どもが所々《ところどころ》で左右に割れ、後方より魔術師姿の骸達が姿を見せて、淡い燐光に包まれた錫杖を構える。
「はッ、やらせるかよ!」
「喰らえやッ」
灯る魔力光を目印に放たれた弓兵隊の矢が降り注ぎ、鏃に上腕骨や胸骨を砕かれた不死の輩が崩落する傍ら、 健在な骸の魔術師達は動じることなく、淡々と無数の魔弾を放った。
「「ぐぶあぁ!?」」
「は、腹に穴… 嘘だろ、がはッ」
「隊列が乱れたぞッ!」
「くそッ、小鬼風情が調子に乗りやがって!!」
援護攻撃のために下がり、槍兵隊の後方で弾丸装填を済ませた銃兵隊が即応し、俄かに勢いづいた敵勢に射撃を浴びせて押さえ込めども、現状の拮抗を崩すべく全長 12~14m に及ぶ中型種の大蛇グロウ・ヴァイパーが数匹、小型種を掻き分けるように凄まじい速度で這い寄ってくる。
なお、敵右翼を受け止めた反対側も同様の戦況が繰り広げられており、温存されていた後衛の魔術師隊が複数人で共鳴魔法を組み上げ、前衛まで肉薄してきた中型種の大猿ビッグフットや、人面の知恵ある魔獣マンティコアなどに巨大な火球を撃ち込んでいた。
「ウガァァアァ―——ッ、アァ…… ゥ……」
「ウゥグッ、アアァ……ッ」
焔に包まれた人の何倍もの体躯を持つ怪物どもが暴れ廻り、他の異形も巻き込んで力尽きていく様子を視界に収め、近場にいた小隊長が配下の兵卒らに激を飛ばす。
「良しッ、もう少しだけ粘ったら撤退に入るぞ、踏ん張れ!」
「「「うぉおおぉッ!!」」」
他方、両翼の各隊が城壁上の弓兵達と連携して奮闘する状況下で、時間差を持たせつつも正面より迫ってきた大型種の獣脚類に向け、連隊長のドレルは巨大騎士の部隊に魔法射撃の体勢を取らせていた。
クラウソラスを中心とした各騎が突き出した両掌の間には、動力制御を担う魔導士らが発動段階で維持させている魔法の燐光が揺らぐ。
「そろそろですか、連隊長?」
「焦るなよ、十分に引きつけてからだ」
無精髭の騎士が見据えていたのは距離を詰めてくるディサウルスの群れではなく、隠れて忍び寄る魔術師型の巨大骸骨ヒュージ・スケルトン達だ。
既知の範囲では魔弾と魔力障壁を扱えるため、燃費が悪いことを踏まえても注意すべき大型種の異形と言えた。
「此処で数を減らしておきたいな… っと、頃合いだ、撃て!」
「「「了解ッ!!」」」
呼応した騎体の操縦者に合わせて、同乗する魔導士らが搭載された魔法を解き放ち、近接戦闘の距離まで踏み込もうとしていた怪物どもに豪焔弾や雷撃を撃ち出す。
即座に対峙する敵勢からも魔力光が奔り、外套を纏った巨大な骸骨達による半透明な幾何学模様付きの障壁が張り巡らされた。
それでも、すべての魔法を完全に凌ぐことは難しく、貫通した攻撃が盾役を務める獣脚類らの胴体に着弾して、継戦が不可能になるような深手を負わせていった。
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