Going MyWay?
彼の御仁は火箸で掴んだ赤熱する金属素材を金床に載せて、何度も槌で打ち付けながら刀身の形を整えていく。
元々、ある程度まで鍛造を終えていたらしく、少し眺めていると温度を下げながら鋼を締め、厚みを整える工程に入った。
それが済めばひと段落つき、ようやく鍛冶師の手が止まる。
「お前達、暇なのか? 鍛冶場に突っ立っていても仕方ないだろう」
「平時だからな、王にも多少の暇くらいはあるさ」
「偶にはゆとりも必要だよね」
などと嘯くも、常に自然体で我が道をいくレヴィアはさておき、俺達より先に居たエレイアが影のある笑みを零す。
「ふふっ、やりたいことは他にもあったのですけど」
「付き合わせてすまなかったね、昼食は外で僕が奢るよ」
「細やかな気遣い、さすがお兄様です♪」
ちょろいと言えばいいのか、推しの一言で上機嫌となった妹にロイドが微笑むのを一瞥して、若干の溜息を漏らした宗一郎氏は壁際まで歩き、立て掛けられている業物を掌中に収めた。
先ほどから視界の片隅に入り、気になってはいたが、やはり受領する逸品のようであり、此方の傍へ寄るとぶっきらぼうに突き出してくる。
「色々と無理を言いやがって、岩玄さんの孫でないなら、匙を投げていたぞ」
「…… うちの爺さんと知り合いだったのか、初耳だ」
少々驚きつつも太刀を受け取り、高密度かつ複雑な魔法術式が刻まれた鞘より刀身を引き抜けば、露になっていく白刃が波紋の影響で名状し難い色彩を放った。
「ミスリルと玉鋼を融合させた素材で打った呪錬刀 “不知火”、注文通りに中級程度の魔法なら斬り裂いて霧散させることが可能だ」
「ありがたい、これで魔法の遣い手にも遅れを取らずに済む」
「あれ、この武器… 無属性の魔力を帯びてるんだけど」
脇から興味深げに眺めていたレヴィアが小首を傾げ、ちらりと訝しげな緋色の瞳で此方を窺う。
「クロードって稀人だから、魔法を使えないよね?」
「あぁ、ブレイズが考案してくれた仕掛けがあってな」
「うちの父さんが?」
勿体ぶらずに種明かしをすると、柄に騎体動力と同じ魔力結晶が格納されており、設えられた特殊な鞘から抜いた時点で刀身が魔力を帯びる寸法だ。
まぁ、結晶自体は使い捨てなので、乾電池の如く交換する必要はあれども、生身で扱う対魔法兵装の要求仕様は満たせている。
ざっと要点を掻い摘んで赤毛の魔導士娘に説明してやると、近場で聞いていたロイドが子供のように目を輝かせた。
「ソウイチロウさん、この仕掛けは僕に打ってくれる太刀にも?」
「いや、手間と資金が掛かりすぎる」
「兄様のことはどうでも良いと? 月ヶ瀬家も名門の端くれ、正式な抗議を……」
「…… 蔵人、この嬢ちゃん、何とかしてくれ」
すっと瞳を細めながら、ずずいと詰め寄るエレイアに辟易して、なげやりな態度のまま鍛冶師が面倒事を押し付けてくる。
仕方がないので、騎士国の金庫番たる魔術師長殿に相談する旨を伝えて納得してもらえば、申し訳なさそうに少女の兄が頭を下げた。
「何やら、申し訳ない」
「聞いてみるだけだ、遠慮は要らない」
「と言われてもね、君達も一緒に昼食はどうだい?」
「ん、ロイドさんの奢りかな?」
あざと可愛いらしく微笑んでみせたレヴィアに銀髪碧眼の優男が頷いて、図らずも四人で昼食に赴く運びとなり、鍛冶場の主に謝意を示してから市街地へ向かう。
途中で駐騎場へ立ち寄ると国産騎の素体が組み上げられており、剥き出しの人工筋肉など覆う軽硬化錬金製の装甲を取り付けられる段階に進んでいた。
(順調そうでなによりだ)
ジャックス整備兵長の指揮で作業に従事する技師らを見遣り、この時は呑気にそう思っていたのだが… 後日、火急の知らせが隣国のリヒティアより届くことになる。
その発端となった迎撃都市群のひとつ、ラディオルでは公国所属のクラウソラスや後継騎として開発されたアルブス、一般兵科の随伴兵らが布陣して異形の軍勢に睨みを利かせていた。
『日常って儚いものですね、連隊長』
『いや、これは我らの浅慮を恥じるべきだな』
ここ数ヶ月は大規模侵攻こそ起きなかったものの、同時多発的な小競り合いが生じており、日々の対処に追われた挙句、大局を見る視野が狭まっていたのだろう。
交戦回数は多くとも討ち取った怪物のうち、大型種の数が少ない事実に気付けず、“滅びの刻楷” に戦力の集積を許してしまい、現状の窮地へ繋がっている。
『でっかいのはもとより、小型や中型の異形も結構いやがりますね』
『何さ、その変な敬語は?』
『いや、緊張してきて……』
やや声の調子を落として相棒の魔導士に応え、言葉を詰まらせた若い騎士の心持ちは歴戦の指揮官たるドレルにも、分からなくはない。
国境付近から各地へ向かう軍勢を監視していた斥候小隊の報告だと、少なく見積もっても公国軍の大半を投じた前線の総兵力と同等以上の規模があり、指揮を執る敵知性体の専用騎まで幾つか確認されていた。
本都市に関して言えば防衛側も十数体の巨大騎士を有しているが、数に勝る大型種を押し留めるのは難しく、中型種に至っては歩兵隊や魔術師隊に任せざるを得ない。
(不利は承知だが、戦わずして退くこともできない)
迎撃に重きを置いた都市と謂えども、多くの民間人が日々の生活を送っており、個々の事情を優先させた者達は領主であるベルクレド辺境伯の勧告に従わず、今更になって恐慌を引き起こしているような有様だ。
さらに防衛線を抜けられた場合は内地被害が甚大となるのが自明なので、公都か近隣国より派遣される援軍の到着まで相手の侵攻を遅らせるため、最悪でも相応の損害を与えておく必要がある。
諸々《もろもろ》の状況から否応なく緊張感が高まる中、敵勢の両翼に展開した小振りな異形の群れが先陣を切った。
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