表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/143

職業選択の自由

<あのッ、此処(ここ)は何処なんですか!>

<リゼル騎士国の王都エイジア、その王城だ>


<違ッ、そうじゃなくて!>

<…… この世界という意味なら、異なる歴史を重ねた地球かな>


 包み隠さず女狐殿の仮説を伝えたことで、油が切れたように硬直した少女から、ひどく怪訝けげんな表情を向けられてしまう。


 疑う気持ちは理解の範疇(はんちゅう)であれども、知り得た事実を(かんが)みるに並行世界の地球説は否定しがたい。


<本当に? 湿原を彷徨(さまよ)っていたら、危険な謎生物(なぞせいぶつ)にも何匹か遭遇したんだけど>


<一応は地球の動物と《《類似性》》があっただろう?>

<うぐっ、そうかも>


 やや(うつ)いた相手が思考を(まと)めるまで数秒ほど待ち、早々に済ませておくべきだった通過儀礼を踏襲するため、華やかなドレス姿の少女と向き合った。


<改めて… 俺は斑目(まだらめ) 蔵人(くろうど)、皆にはクロードと呼ばれている>

<あたしは石堂(いしどう) 琴乃(ことの)、そんな場所に座っている理由を聞いても?>


紆余曲折うよきょくせつあってな、若輩じゃくはいながらも王をつとめているゆえだ>

<一体、何があったのよ……>


 思わず琴乃が言葉をまらせた機に乗じて、稀人(まれびと)の観察にてっしていた壮年の副団長殿が横合いより口を挟む。


「この者、クロード王と同郷で相違そういないか?」

「あぁ、大和人やまとびとのイシドウ コトノだ」


「ふむ、ゼノスが騎士団に迎え入れると言っていたが、戦えるようには見えんな」


 思案顔で考え込むライゼスに触発されて、“石堂” という姓と和弓を所持していた点から日置(へきりゅう)流が脳裏に浮かび、(えにし)を確認すると琴乃ことの曖昧あいまいな感じでうなずいた。


<けど、部活の事情もあるし… 本家で仕込まれた武射(ぶしゃ)とか、何年もやってないよ>

<なら、(まと)を撃つときは明治以降の近代射法か>


<古流の “斜面打起こし”、(すた)れてるよね>

<“正面打起こし” よりも実戦的だと思うがな>


 戦場いくさばでは素早く射撃体勢をととのえる必要があり、両腕を高く上げずに肩程度(ていど)とどめて、弓構ゆみがまえの動作に押し開きをふくませた斜面打起こしは理にかなっている。


 ただ、近代弓道は本多流の影響が大きく、左右の腕に均等な力がかるように複数の手順を加えた正面打起こしが主流だ。


 そこに精神修養の要素を取り入れた当世の弓道は儀式化しているので、彼女が(つちか)ってきた技は実戦からほど遠いのだろう。


 生身は言うにおよばず、巨大騎士ナイトウィザードを駆るにしても苦労は多いはずだ。


「…… 待てよ、そもそも、騎体きたい用兵装の中に弓矢はあるのか?」


「確か、アイウス帝国の西方を護る三領主が最前線で導入していたな、騎士国も検討の余地はあると思うぞ」


 公式な場ではないため、相変わらずの素っ気ない態度で答えたディノを琴乃ことの見遣(みや)り、何か言いたいことでもあるのか、躊躇ためらいつつ半歩だけ身を寄せてくる。


<彼と恋人さん? には良くしてもらったから、感謝を伝えたいんだけど……>

至極しごく、当然のことだな>


 礼節を重んじた要望にこたえるのは(やぶさ)かでもないので手招てまねき、玉座まで近づいてきた彼女に小声で簡素な言葉を教えていく。


 何度か復唱して記憶に焼きつけた後、柔らかな微笑を浮かべながら、くるりとポニテの少女が振り返った。


「ディノさん、リーゼさん、助けてくれてありがとう」


「気にするな、職責を果たしただけだ」

「なんて、格好つけてるけど、ただの照れ隠しだからね」


「そういうのは余所よそでやれ、二人とも」


 例によって、緩み始めた空気を引き締めると、お目付け役のライゼスは射抜くような鋭い視線を琴乃ことのに向けて値踏みする。


 言語野に恩恵を受けておらず、会話もできない稀人(まれびと)市井(しせい)で生計を立てるのはいちじるしく困難で、すぐに窮状きゅうじょうへ追い込まれてしまうのは明白だ。


 また、騎士団で保護するにしても、延々と無駄飯を喰わせるわけにいかない。


肝要かんようなのは騎体きたい特性、しくは生身での技量… それさえあれば、他の者達も受け入れに納得できよう」


 生真面目きまじめな副団長殿らしい結論にいたったようだが、騎士団に属した時点で遠からず戦場まで(おもむ)くため、本人の意志を事前に確認してからの話だ。


 (ろく)な判断材料もなしに選択を迫るのは公正さに欠けるので、世界情勢や “滅びの刻楷(きざはし)” の存在を説明すると、露骨ろこつな溜息が聞こえてきた。


<想像以上に物騒な世界ね、(うつ)だわ>

おおむねの共通認識がされた上で提案させてもらう、騎士団にくわわる気はないか>


<断ればどうなるのかな?>

<数ヶ月くらいは保護できるが、限度はある>


 その場合、短期集中的に西方大陸の共通言語を教え込み、猶予ゆうよ期間内に街中のつとめ先を見つけることなど、現状で思いつくプランを琴乃ことのに提示する。


 あわせて近隣諸国にける稀人(まれびと)の立場が微妙なことや、言葉の不慣れで職業選択の幅がせばまる現実にも言及げんきゅうしておいた。


<どっちにしても、大変そう… 蔵人(くろうど)さんは何故なぜ、戦う道を選んだの?>


此処(ここ)では異形いぎょうどもの侵攻があるからな、他人任せの情勢で振り回されるのは性分に合わない。多少の逡巡は挟んだが、団長殿の誘いを受けた>


 明確な人類の敵が存在する以上、普通に暮らしていようと戦いに巻き込まれる可能性は否定できず、いざという時になって無力をなげくなど御免被(ごめんこうむ)りたい。


 さらに言えば世話になった皆や、戦えない者達のために刃を振るいたいとの想いもあり、それもなやめる少女との()()りに織りぜておく。


<ん~、話を聞いていると、騎士団も悪くない気が……>

<無理だと思ったら、めてもかまわない>


<うん、どう転ぶかなんて分からないけど、しばらく厄介になるよ>

<あぁ、歓迎させてもらおう>


 ペコリと頭を下げた琴乃ことのに対して、過度かど負荷ふかを負わせないように自戒じかいしつつも、俺は差し伸べた右掌みぎてのひらで握手をわした。

ロボモノ小説、もっと流行ると良いですね(*'▽')


『続きが気になる』『応援してもいいよ』


と思ってくれたら、下載の「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にお願いします。

皆様の御力で本作を応援してください_(._.)_

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ