表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/143

迂闊な騎士と世話焼きの魔導士

「ディノ・セルヴァス、帰投しました」

「入ってくれて構わ(かまわ)んぞ」


 (かし)製の鏡板(かがみいた)を叩いてけた言葉に内側から許可がかえると、藍色あいいろ髪の騎士は開けた扉を通り抜けて一礼し、魔力灯が仄明(ほのあか)るくらす執務室の奥へと進む。


 続いて魔導士のリーゼも、ポニテの少女をうながしながら室内へと足を踏み入れた。


「私達も失礼しますね」

<…………>


 薄汚い格好かっこうの少女を見咎みとがめて、部屋のあるじ(いぶか)しげな視線を投げるかたわら、最後にレイン達が室内に入って扉を閉める。


「おい、出掛でがけよりも一人増えてるじゃないか?」

「グロウビートル討伐の件とあわせて報告します、ゼノス様」


 任務にいていた者達を代表して、二騎分隊の指揮を預けられたディノが三匹の巨大昆虫にかかる駆除成功や、連れてきた稀人(まれびと)に関する経緯けいいの説明を重ねていく。


 すべてを聞き終えた騎士団長は一度だけ、満足そうにうなずいた。


「ご苦労だったな、これで王都を目指す行商や旅人らも安心できる」

「お気遣(きづか)い、ありがとう御座います」


「ところでだ… こいつらの初陣はどうだった?」


 にやりと悪戯いたずらっぽく口端を吊り上げ、新任された騎士達の評価にゼノスが言及げんきゅうすれば、わずかに思案した “不肖ふしょうの弟子” は言葉を選んでおうじた。


「主兵装の鉄槍を早々《そうそう》にったのは失態ですが、おおむ及第点きゅうだいてんだと思います」


「うぅ、つい(はや)ってしまいました」

「いつもの話じゃないか……」


 不手際を指摘されて凹んだレインの脇腹を小突き、恨みがましく相棒の魔導士ヨハンが言い募る様子などながめ、彼女らの上官は破顔して豪快に笑う。


「俺も若い頃はよく得物えものって、ライゼスの野郎に怒られたな」

「何事も経験ですから、それより……」


 りし日の “おっさん三銃士” にまつわる物語が始まりそうな流れをち、リーゼが緋色の瞳を所在なさげにしていた稀人まれびとの少女へ向ける。


 その意図をさっしたゼノスはあらめて、保護された人物を上から下まで見遣みやり、握り締めている和弓に意識を傾注けいちゅうさせた。


「ふむ、言語野に恩恵を受けてないそうだが、武芸の心得こころえはあると見た」

「つまり、騎士団で身請みうけけすると?」


「ははっ、もしかすると陛下と同じで、一廉ひとかどの猛者かもしれんぞ」

「仮にそうでも、私達は彼女の名前すら知りません」


 言外に同郷の騎士王を呼んで来いとふくめて、金髪緋眼の女魔導士は口を(つぐ)む。


 されども近頃のクロードは日々の職務を終わらせた後、私室でイザナと仲睦なかむつまじく過ごしていることが多いため、見守る立場の重臣としては水を差したくない。


「面通しは明日か、今夜はセルヴァス家で面倒を見ろ」


「分かりました、では失礼させて頂きます」

「あぁ、夜道に気を付けてな」


 筋骨隆々な騎士団長に見送られながら、藍色あいいろ髪の騎士が執務室を出てほどなく、討伐に出向いた一党で王城の廊下を歩いていれば… にんまりと揶揄からかうような微笑をリーゼがのぞかせた。


「ディノ君、お屋敷に連れ込んだからって、手を出しちゃダメよ?」

「あ、それ私も思ってました。あまり性別とか、気にしませんよね、団長」


「はっ、馬鹿らしい、胡乱うろん大和人やまとびとの娘(ごと)きに……」

「ん~、待って、その考え方は良くない気がする」


 一転して真顔となった女魔導士が口を挟み、現在の騎士王が嫌いだからといって、一緒くたに同郷の者まで否定するのは駄目だと釘を刺す。


 痛いところを指摘された本人は口籠くちごもり、ばつが悪そうに態度をあらためた。


「すまない、軽率な発言だった」

<何、どうしたの?>


 突然、わけも分からず、振り向きざまに頭を下げられたポニテの少女は戸惑とまどうが、微妙な雰囲気ふんいきを打ち消すようにお腹の音が鳴り響く。


「え゛、僕じゃないよ!?」

「あうぅ、私です」


 慌てて無実を訴えたヨハンの(そば)、レインがちぢこまる姿に苦笑しつつもゆるんだ場の空気にまぎれて、こっそりとディノは歩みを再開させた。


 そのまま城外にいたり、兵舎住まいの者達と別れる間際まぎわ、去ろうとするリーゼを呼び止めて言いはなつ。


夜分やぶんに夕食の準備とか面倒だろう、屋敷うちの厨房ならすぐに出せる物もあるが?」


「えっと、もう遅い時間だから……」

「一晩(とま)っていけよ」


 さらりと述べられた発言に相棒の女魔導士が動揺して、皆にも好奇の視線を向けられること数秒、粗忽そこつな騎士は自身の迂闊(うかつ)さに思い至った。


「ちッ、違うぞ、いつも世話になっている感謝をだな!」

「ふふっ、取りつくろわなくていいわ」


 “その娘の面倒も見てあげたいから” と付け加えて、リーゼは夕食と宿泊の誘いを受けて承諾するも… 跡取り息子との関係性を疑ったセルヴァス家の両親に捕まり、質問攻めにされてしまう。


 そんな状況でも言葉が通じない稀人まれびとの少女を気遣きづかい、何かと世話をしていたのは人柄の良さゆえだ。


「…… 昨夜は善意が裏目に出たと言うか、うちの父と母が迷惑をけた」

「大丈夫、素敵なご両親じゃない」


 などと、取り留めのない会話を続ける二人に案内されて、若干じゃっかん疎外感そがいかんを禁じ得ないポニテの少女が辿たどり着いた先、仰々《ぎょうぎょう》しい扉をくぐれば軍服姿の若い男が玉座にしていた。




すでに討伐完了の報告は受けている。皆の働きに感謝だな」


 未だに慣れないが、お目付役のライゼスがひかえていることから、俺は鷹揚よくような声と態度でディノとリーゼを(ねぎら)い、此方(こちら)うかがう少女とも視線をまじわらせる。


 勿論もちろん、保護された稀人(まれびと)の件は気になっており、似たような境遇かもしれないという親近感は膨らむばかりだ。


<念の為に聞いておくが、日本人で間違いないか?>

<ッ!?>


 外見だけでは香港系中国人などの可能性も捨て切れず、実際に確認すると目を見張った相手は勢いよくうなずいた。

『続きが気になる』『応援してもいいよ』


と思ってくれたら、下載の「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にお願いします。

皆様の御力で本作を応援してください_(._.)_

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ