何故かディノ君が言うと…… by リーゼ
『ディノ君ッ』
『分かっている』
直答するや否や、自騎の剣帯から専用兵装であるガンソードを引き抜かせて、低い姿勢となった僚騎に藍色髪の騎士が言い放つ。
『討ち漏らすなよ!』
『承知ッ』
威勢よく応じたレインの声を耳にしつつも、彼は複雑な軌道で襲来する巨大昆虫に真正面より、L型改ガーディアを吶喊させた。
「ギィイイィイィッ!」
『くぅッ』
金切り声を響かせて振り下ろされた鋭い鎌肢は言うまでもなく、堅い外殻を纏う相手の突撃自体が脅威であるため、引きつけた上で騎体に回避行動を取らせながら、節くれた脇腹へ横振りの斬撃を喰らわせる。
「ギッ!?」
すれ違いざまの一手が右側の肢ごと胸部を切り裂いたが、素早く旋回したグロウビートルは怒りを露わにすると、再び斜め後方からの突撃を仕掛けてきた。
『うおぉお!?』
巨大騎士を振り向かせた直後の光景に焦り、狼狽えたディノは専用兵装の中型盾で躯体を護る動作に合わせて、よろけるように自騎を後退させた。
ただ、完全に躱しきれるような状況でもなく、盾に取り付けられた爆発反応装甲と中型種に相当する虫系統の魔物が衝突した刹那、連なる轟音が湿原に鳴り響く。
「ギッ!? アィィァアァッ!」
『ぐぅううッ』『うきゃあ!?』
特殊な装甲へ仕込まれた爆薬が指向性を持って炸裂したことから、その反動で不安定な体勢だったガーディアが揺らぎ、斜め後方へ転びかけてしまう。
『ぐぬぅッ!』
傾き掛けた巨大騎士を気合で留めるディノと異なり、側頭外殻を大きく砕かれた巨大昆虫は脳漿を撒き散らして、少しだけ離れた場所へ落ちた。
それを見遣ったディノが微妙な表情を浮かべていれば、窮屈な後部座席でリーゼがぼやく。
『締まらないわね……』
意図しない形で二人が討伐対象を爆殺した一方、クラウソラスの四番騎を担う後輩騎士らの戦闘も佳境に差し掛かっており、何度も飛び込んでくる最後の一匹を屠ろうとしていた。
「ギシャアァァアァ!!」
『ふっ、羽虫風情がッ』
『ちょッ、危ないって!』
怯む年下の魔導士に構わず、不敵に微笑んだレインは騎体を数歩だけ走らせ、接触の間際に半身の姿勢で深く腰を落とさせる。
一連の動きに付随して、巨大騎士が手にした鉄槍の石突は大地へ宛がわれ、鋭い穂先が斜め上空に突き出された。
「ギィッ!? ギァアァアァアァアッ」
襲い来る巨大昆虫の鎌肢に先んじて槍先が急所を貫き、瞬間的に生じた衝撃は余さず地面へと吸収されていくが、途中で槍柄が軋みを上げ、あっけなく圧し折れる。
『あ゛… きゃあぁッ』
『えぇッ!?』
幸いにも運動エネルギーの大半は相殺されているため、致命傷を負った相手に騎体が倒される程度のアクシデントで収まり… 無様に曇り空を仰ぐだけで済んだ。
『うぅ、重いわ』
感覚共有による負荷を感じて呻きながらも、レインはグロウビートルの巨躯を四番騎の両腕で退け、腹下から躯体を這いずり出させると、補助兵装の短剣を眼球目掛けて深く突き込ませる。
『楽にしてあげる』
「ギィイッ、アァァ……ッ……」
鋭い刃で脳髄を抉って確実に仕留めた頃には、最初の攻撃魔法で堕ちた個体の傍へ改造騎が歩み寄っており、特徴的なガンソードで苦しむ相手に慈悲を与えていた。
『これで全部だな』
『何故かディノ君が言うと、そうでもない気がするわね。見落としてない?』
懸念を伝えてくる金髪緋眼の女魔導士が垣間見せた慎重さは良くとも、常日頃から揶揄されている事実もあり、一矢報いられないかと藍色髪の騎士は黙考する。
その邪魔をするように騎体の外部拡声器を通して、遠慮を知らない後輩騎士の声が会話に割り込んだ。
『リーゼさんの仰る通りです、慎重にいきましょう』
『はわゎ、失礼だよッ、レイン!』
『お前ら……』
『あ、いえ、そういう意味ではなくてッ』
わたわたと弁明を始める愚直な騎士令嬢に軽い溜息を吐き、皆の忠告に従ったディノは日暮れ近くまで探索を続けたが、他に危険な魔物の存在は確認されなかった。
『…… 結局は徒労かよ』
『あら、何もない方が嬉しいじゃない』
『こっちの武装も心許ないですからね』
二つに折れた鉄槍など掲げる僚騎を一瞥して、帰還のため王都エイジアの方角へ自騎を向かせれば、足元の草叢より大きな声が投げ掛けられる。
そのまま頭部を俯かせると、ボロボロな恰好をした少女が弓を振り回して叫んでいるものの、近隣諸国に於ける大陸共通語ではない。
〈ねぇ、そこのロボットッ、人が乗っているんでしょう!!〉
『言語野に恩恵を受けていない稀人?』
漏れ聞こえたリーゼの指摘は尤もであり、聞き慣れない言葉の羅列と黒髪、泥にまみれた普段着の衣服で凡その見当は付く。
『大和人の類か』
『保護しましょう、先輩』
『ちッ、あいつの手前、無視するのも気が引ける』
即断即決したレインに同意して、L型改ガーディアの片膝を地に突かせた駐騎姿勢となり、ディノは念話装置を僚騎との秘匿回線から、対象を限定しない広域回線に切り替えた。
『そこの貴様、異界の迷い人だな?』
〈ッ、頭に声が!?〉
問い掛けに反応を見せて、活気づいた少女が必死に身振り手振りを交えつつ捲し立てるが… 念話は一方通行なので、意志など碌に伝わらない。
何も返事がない有様に落胆して黙り込んだのを見計らい、藍色髪の騎士は黒髪を後ろで一纏めにした彼女の内面に語り掛けていく。
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