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騎士王の帰還

『う~、都市防壁の増改築は必要かなぁ……』


 恐らく、破砕された中核都市ウィンザードの防壁と東門をレヴィアは思い出したのだろうが、個人的には余り賛同できない意見だ。


『そもそも、防壁で外敵から民を護るという発想が “前時代的” だな』

『えっと、どう言うこと?』


 疑問の感情を接続された騎体きたいの神経節経由で伝えてくる赤毛の少女に応じ、強力な火力を備えた兵器が登場した時点で、“重厚な防御” は形骸化するので意味を成さないと(さと)す。


 そんな会話を相棒とわすかたわら、自騎じきの集音器と連動する内部スピーカーより、途切とぎれなく聞こえるライゼス副団長と衛兵隊長のりを断片的に拾っていれば、ゆるりと防壁の北門が解放された。


「アルド騎兵長、王の帰還だ… 大通りの人払いを頼む」

「了解です。第一小隊ッ、出るぞ!」


「「「了解!!」」」


 指揮に従った兵卒らが並足で馬を歩かせ、巨大騎士ナイトウィザードが通り抜けることを吹聴しながら、そこまで遠くはない王都エイジアの城郭じょうかくに進んでいく。


 さらにロイド達の乗騎であるベガルタが門をもぐり、わずかに遅れて此方(こちら)騎体きたい追随(ついずい)し始めると、少しの間を置いて後方にいるディノ達の四番騎や、輜重(しちょう)隊などの移動に伴う雑多ざったな音が届いた。


 別段、振り返って確認するほどの事柄ことがらでもないため、大通りの道端みちばたから見慣れぬ新鋭騎しんえいきに向けられた民達の歓声を聞き流して、王城の敷地内に設けられた駐騎場を目指す。


 そこでは騎士団長のゼノスが出迎えに来ており、馬身ばしんを寄せたライゼスと並んで、黒銀(こくぎん)巨大騎士(ナイトウィザード)あおいだ。


「これが秘蔵品のベルフェゴールか、中々《なかなか》に(いか)つい騎体だな」

「ニーナ卿の趣味が多分に入っているものの、性能は実戦で確認済みだ」


「それもふくめて、詳細な報告が欲しい」

「あぁ、ブレイズもまじえて話さねばならんこともある」


 やや小難しい表情を浮かべたライゼスを自騎じきの疑似眼球でとらえつつ、居残り組の整備兵らに誘導されて工房内へ入り、月ヶルナヴァディス兄妹の騎体きたいと同じくハンガーに収まって両肩を固定される。


 後はいつものごとく、胸部装甲を開いて昇降用ワイヤーペダルに足をけ、風魔法の上昇気流アップドラフトで落下速度をととのえているレヴィアと一緒に降りれば、片手を軽くかかげたジャックス整備兵長が駆け寄ってきた。


うち(ゼファルス)で戦闘もあったらしいが、無事で何よりだ」


「ニーナ殿が愛蔵していた逸品いっぴんのお陰だな」

「うぅ、私としては心臓に悪かったけどねッ」


 あの状況で吶喊とっかんした俺に恨みがましいジト目を向けてから、赤毛の少女は眼前にいる米国人や、周囲の整備兵らに当時の戦況を語り始める。


「ふむ、左腕のギミックにバースト機構か、(いじ)り甲斐のありそうな躯体くたいだなぁ」

(ただ)でさえ扱いづらいんだ、やめてくれ」


 漏れ聞こえる不穏な言葉に危機感をあおられ、ぼやきが口を突いて出た直後… 黒い軍服のそでをレヴィアに引かれて振り向けば、その途中で此方こちらに近づいてくるフィーネの姿が見えた。


「申し訳ありません、陛下。ブレイズ様が城内でくわしい話を聞きたいと……」

「私も父さんのところ、行った方が良い?」


 などと、気遣きづかう発言とは裏腹に、しばらりに顔を合わせた同性の親友へ積もる話でもあるのか、あかい瞳は団長殿の義娘に向けられている。


「まぁ、俺だけでもかまわないだろう」


「ん、いってらっしゃい」

「また、帝国での土産話みやげばなしを聞かせてくださいね」


 仲睦なかむつまじく手を振る少女たちに見送られ、工房の出入り口で待つ主副両名の団長と合流して、城内の応接室へと足を運ぶ。


 円卓を囲んで並べられた椅子いすには魔術師長のほか、窓から差し込む日差しでつややかな黒髪と白肌を際立きわだたせたイザナがすわっており、背後には護衛をねた隻眼の魔術師サリエルがたたずんでいた。


「おかえりなさい、クロード」

「少々、遅くなってすまなかった」


 屈託くったくのない笑顔に気まずくとも微笑を返し、隣の椅子いすをポンポンと叩いた貴種の少女に従って着座する。


 その際、つなぎの伝令役に預けていたカフが細い手首にめられているのを見遣みやりり、帝国領からの贈り物が問題なく届いていたことに一息()きながら、意識を対面にいるブレイズへ移した。


「留守中、特に問題はなかったか?」

「二度、リヒティア公国の防衛線を越えた異形どもに侵入されたが……」


「大型種が(ろく)にいなかったのでな、リガルド砦の部隊と配備しているクラウソラスの八番騎と九番騎で事は足りたぞ」


 元々、(くだん)の公国が防壁の役割をになっているのもあり、過日の精霊門をめぐる戦いのような事態は例外にとどまる。


 “滅びの刻楷(きざはし)” を迎え撃つ国家間の同盟に()いて、俺達の役目は諸国へ送る支援物資の調達ちょうたつおよび、救援要請に応じて援軍を派遣することだ。


(それもんで、ニーナ嬢の要求にこたえなければな)


 数秒の瞑目めいもくを挟み、ひとまず給仕のメイドらを退室させて、持ち帰った取引の話を切り出す。


「実はな、ゼファルス領で国産騎体(きたい)の開発をうながされたんだ」

「といっても… 我らに魔導核や心臓部は作れないぞ、業腹だがな」


 何を言っているんだという態度のブレイズに向け、肌身離さず管理していた革製の大封筒からライゼスが書類束を取り出し、おもむろに机上きじょうへ乗せた。


「これは… まさかッ、秘匿ひとく部位の設計図!?」

「おい、対価は何だ? あの女狐殿がタダでくれるはずなかろう」


 胡乱(うろん)な視線を投げてくるゼノスらに腐れ縁の副団長殿が向き合い、諸事情をつまんで説明すると、片方だけが納得の顔をのぞかせる。


「なるほど、ひとつ借りができたな」

「いや、ちょっと待てッ、この資料を魔術師長、つまり私の名前で出すのか!」


便宜上の開発者(スケープゴート)は口が堅いほうが良い、観念しろブレイズ。内容的に武骨な私やゼノスが名乗りを上げても不自然だ。そうであろう、クロード王?」


 みずからが人選した事実には一切触れず、しれっと同意を求めてきた壮年の騎士にうなずき、打ち合わせ通りに “王命だ” と伝えれば… 無駄な抵抗を試みていた赤髭あかひげの魔術師長はあきらめて、がっくりと項垂(うなだ)れた。

『続きが気になる』『応援してもいいよ』


と思ってくれたら、下載の「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にお願いします。

皆様の御力で本作を応援してください_(._.)_

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