↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/143

“寡兵よく大軍を破る”とも言いましょう

 他方、アイウス帝国の首都であるベリルに近く、その南西方向に位置するリグシア領の中核都市ライフツィヒでは、件(くだん)の襲撃を敢行したナイトシェードが二体、人目を凌《しの》いで夜間に帰還していた。


 双方とも僚騎(りょうき)が殺《や》られた時点で本格的な白兵戦を避《さ》け、マグネシウムを主成分とする特殊兵装 “音響閃光弾(フラッシュバン)” の使用により、即座の追撃を封じて退《ひ》いたことから大きな損害などはない。


 ただ、操縦者たる騎士らの表情は極《きわ》めて陰鬱(いんうつ)だ。


「此処(ここ)を出た時は六体だったのにな」

「すまない、指揮を執(と)った俺が未熟なばかりにッ」


 慙愧(ざんき)に耐えないという態度の青年将校を見て居《い》たたまれず、やや年上の部下はバツが悪そうにそっぽを向き… 鋭《するど》く睨《にら》みつけてきた指揮官付きの魔導士、エルネアと視線が合ってしまう。


「レオは何も悪くない、元々の計画が杜撰《ずさん》なだけ。ジクス、貴方って馬鹿なの?」

「いや、別に責めたい訳《わけ》じゃねぇよ、お嬢ちゃん」


 やれやれと頭を掻(か)いた相手に対して、さらに言葉を重ねようとする薄紫色髪の少女に向け、庇《かば》われた側のレオナルドが首を左右に振《ふ》った。


「気持ちは嬉しいが、部隊長に一切の責任が無いなんて不謹慎(ふきんしん)だ」

「………… ん、それなら我慢する」


 一拍置き、内輪で揉めても不毛だと判断したのか、桜唇《おうしん》を引き結んだエルネアは諫(いさ)めてきた相棒にそっと寄り添《そ》う。


 その様子に自騎《じき》の制御など担《にな》う魔導士と顔を見合わせたジスクが呆れ、苦笑いを浮かべたところで城内から遣(つか)わされた衛兵が伝言を持ってきた。


「さて、ハイゼル様のお叱《しか》りを受けてくるとしよう」


 襲撃部隊の帰還を知った侯爵の招聘《しょうへい》に応《おう》じて、青年将校は失敗の泥を被《かぶ》るのも仕事だと宣《のたま》い、隠し切れない憂鬱《ゆううつ》さが滲《にじ》んだ顔を見られないように踵《きびす》を返す。


 この期に及《およ》んで待たせることはできず、足早に駐騎場を抜けて城門へ向かえば、その傍(かたわ)らにリグシア領の騎士長《ナイトマスター》ヴァルフが佇(たたず)んでいた。


「こんな場所で、何をされているんですか?」

「此方(こちら)も呼ばれてな、先に結果を聞いておこうと思ったのだ」


 騎士達を纏める立場上、城内に専用の職務室を持つため、騎体《きたい》工房から出向く相手に先んじていた精悍(せいかん)な御仁《ごじん》が低い声で、首尾《しゅび》を尋《たず》ねる。


「失敗です、申し訳ありません。十分な成果を上げられずに預かった新造騎体(きたい)の内、四体を失いました」


「…… そうか、ご苦労だった」


 苦虫を嚙み潰したような表情となったヴァルフが反転して、随伴(ずいはん)するレオナルドを従えながら領主の執務室へと向かう。


 然《さ》したる時間を要《よう》さずに辿《たど》り着き、許可を得て入室すると頑固そうな初老の領主以外にも、不健康なまでに色白い肌を持つ妖艶な娘が同席していた。


 腰まで届くような月白色の髪を揺《ゆ》らして振り返った令嬢が微笑み、色素の薄い瞳で見つめてくる中でリグシアの領主、ハイゼル・バレンスタインが口を開く。


「先《ま》ずは報告を聞かせてもらおう」


 響く言葉に他領での襲撃を指揮した青年将校が進み出て、上役である騎士長《ナイトマスター》に目配せで確認を済ませた後、執務机の椅子に座す侯爵へ一礼した。


「失礼致します。先日、夜闇に紛れて実行したウィンザードへの襲撃ですが……」


 事実を包み隠さずに伝えることしかできず、東西の防壁門を破壊して周辺へ与えた被害、大通りに於《お》ける敵方との遭遇戦など詳細を語るに連れ、聞いていた相手の機嫌が急激に悪化していく。


「…… つまり、陽動は成功したにも関わらず、目的を達することなく、女狐如(ごと)きの寡兵(かへい)に敗れて貴重な騎体《きたい》を失い、無様に逃げ帰ったのかッ!」


 凝(こ)り固まった皇統派である故(ゆえ)、彼《か》の侯爵は帝国貴族にも血筋や出自を求める傾向があり、自領では “下賤(げせん)な身分” に過《す》ぎない稀人(まれびと)のニーナ・ヴァレルが領地を治める現状に忌避感(きひかん)を持つ。


 ましてや、得体の知れない異界出身の人物が多大な戦力を保有するなど許されず、あるべきアイウス帝国の姿を取り戻そうと行動したのだが 、すべては失敗に終わってしまった。


「不甲斐ない結果となり、申し開きも御座《ござ》いません」

「くッ、どれだけの資金と時間を投じたと思っているんだ、この痴(し)れ者が!!」


 怒りのまま投げつけられた没食子(もっしょくし)インクの瓶がレオナルドの胸元に当たり、士官用の軍服に黒い染みを残す。


「侯爵様、お怒りを鎮めてください、“寡兵(かへい)よく大軍を破る” とも言いましょう」

「現実には殆(ほとん)ど有り得んよ、ファウ」


「あら、そうでしたか」


 小首を傾《かし》げて微笑んだリグシア領における騎体《きたい》開発の責任者を見遣《みや》り、ハイゼルは納得がいかない表情で言い捨てる。


「お前は悔しくないのか、自《みずか》ら設計開発した第二世代の新鋭騎《しんえいき》が女狐の造物《ぞうぶつ》に後塵(こうじん)を拝《はい》したのだぞ?」


「いえ、私の巨大騎士(ナイトウィザード)が “紛《まが》い物” に劣《おと》るというより、遣(つか)い手の問題ですから」


 しれっと責任は至《いた》らぬ操縦者と魔導士にあると転嫁しながらも、ファウと呼ばれた見目麗しい令嬢は言葉を続ける。


「それと、今回のような奇(き)を衒(てら)った戦術は多用できません、絡(から)め手がダメなら次は正攻法かと存じます」


「些(いささ)か性急に過《す》ぎます。皇室の権威が衰《おとろ》えた状況では不測の事態になり兼《か》ねない」

「ふふっ、面白いではありませんか? それに……」


 話の行き先を変えるべく騎士長《ナイトマスター》のヴァルフが口を挟んだものの、武官達が気付き難《がた》い部分で事は始まっており、皇統派や中立派の貴族連中への根回しなど、徐々に進められているのが実情だと白(・)狐(・)は嘯《うそぶ》いた。


「事前に地固めした上、機を見て判断する。無策で放置するのは危険だからな」


 現在は西部戦線で刃金《はがね》を振《ふ》るうゼファルス領所属の巨大騎士(ナイトウィザード)も、女狐が自由に動かせる手駒の私兵なので、ともすれば矛先が皇統派や帝国領内に向きかねない。


 実際にそうなる可能性は低いのだが… どこか異質なニーナ・ヴァレルに疑心暗鬼を募《つの》らせた侯爵は焦燥を抱いており、手が付けられる段階で気に入らない相手の戦力を削って、自身が優位に立たねばという歪《ゆが》んだ思いに囚《とら》われていた。

『続きが気になる』『応援してもいいよ』


と思ってくれたら、下載の「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にお願いします。

皆様の御力で本作を応援してください_(._.)_

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。