表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/143

スケープゴートは必要です

 寸刻(すんこく)だけ、自国の特色に想いを()せていたら、此方こちらの様子を(うかが)っていた令嬢が痺れを切らしたのか、さらに言葉を重ねる。


火急かきゅうおり、何らかの事由じゆで助勢が不可能になったら、皆と貴国へ亡命させてもらうオプションはどうかしら?」


「…… 国境までしか出張でばれない挙句あげく、そちらの動向どうこうさっする手段もない」

「ん~、ご多分に漏れず、リゼルの密偵も領内にまぎれていると思うけど」


 さらりとげられた事実に疑念を抱き、振り向けた視線で素知そしらぬ顔のライゼスに説明をうながすも、あきじりにまゆしかめられてしまう。


「この場で話せと? 適切な話題とは言えんな」

「まったくって、その通りだ」


 帝国の領主貴族に聞かせる話ではないと思いいたり、諫言かんげん反駁はんばくすることなく、素直に同意して思考を戻す。


「亡命の腹案をかんがみるなら、悪い条件でもないか」

「好きに判断すればいい、すべては御身おんみが決めることだ」


 “それを丸投げと呼ぶのでは?” と溜息をきたくなるが、最終的な決定権は騎士王にあるのでいたかたない。


 ただ、不味まず裁可さいかなど出そうものなら、宰相兼任の魔術師長を筆頭にして、重臣の三銃士から矢継ぎ(ばや)に文句を言われるため、大きく道をあやまることはないはずだ。


(取りえず、此方こちらの内情はさておき…… )


 ざっと出(そろ)った事柄を(まと)め、黙して返事を待つニーナと向き合う。


互助ごじょ支援の取引、おうじさせてもらおう」

「ん、商談成立ね、そっちはどこまで巨大騎士(ナイトウィザード)の技術を持ってるの?」


 あざと可愛らしく、小首をかしげながら見つめられても、門外漢(もんがいかん)の俺には分からないことであり、少なからずの見識がありそうな副団長殿に任せる形で身を退いた。


「先日、騎士国の技師エンジニアらがクラウソラスK型を全面改修したさい、魔導核と心臓部以外の構造はおおむね理解できたそうだ」


「途中から、他国への転移が規制された部位ね」

「それを俺達に与えても良いのか?」


 帝国内で不利益をこうむらないよう、領主たる令嬢をおもんばかった発言にも関わらず、何故なぜ面喰めんくらった相手に大胆不敵な微笑を返されてしまう。


すでに取引は此処ここの三人と廊下で聞き耳を立てているアインストだけの密約、今更その部分に(こだわ)って日和ひよる意味がないわ」


「ぐッ、確かにな」


 先ほどの密偵(がら)みの件にくわえ、このりもふくめて、どうにも腹を探り合うような会話は苦手だ。


 だからと言って、(やいば)を振るうだけでは為政者いせいしゃなどつとまらないため、日々精進しなければと気を引締めつつ、言質げんちを取りにいく。


「騎士国に魔導核や心臓部の技術供与があると考えても?」

「違うわ、貴方たちが自身で開発するの… 建前の話だけどね」


「あぁ、それで騎体きたいごとの国産品か」


 徹底的にニーナ・ヴァレルの関与を伏せ、隣国が独自に組み上げた巨大騎士ナイトウィザードという名目で、世に送り出す意図があるのだろう。


「それなら、スケープゴートも用意すべきだな」


「えぇ、該当部品の仕様書や設計資料を渡すから、適当な人物に模倣もほうした書類を作らせて、計画の主導者に仕立したてると良いわ」


「ふむ、リゼル国籍の技師エンジニアから、愛国心が強い者を… 別に口が堅いという条件ならブレイズでもかまわんな」


 言い掛けた言葉を止めたライゼスの機転により、本人のあずかり知らぬ間に留守居るすい組の魔術師長が初めての国産騎こくさんきに付き、その開発を成功させた賢者に祭り上げられることが決まってしまう。


 後日、赤毛の魔導士レヴィアの父親でもある彼が必死に関連資料を書き写した末、ブレイズ・ルミアスの名前は自国の騎体きたい開発史に刻まれるのだが……


 ともあれ、他にも追加の教導技師を訪問団にまぎませて出向させることや、互いの連絡要員を駐在させることが円滑に取り決められた。


 また、戦力的な問題もあり、最低でも数騎以上は早い段階で稼働状態に漕ぎ付けて欲しいとの要望が出され、必要な具材の一部はゼファルス領にゆかりのある帝国商人を経由させて、密かに輸送される手筈てはずとなった。


「当面はこんなものかしら?」

「そうだな、付随ふずい的な諸々《もろもろ》は状況次第になる」


 大体の思いつく懸案けんあん事項をニーナとり合わせ、初対面の時と同じく握手を交わして微笑んだ後、柔らかい手を離してライゼスと共に執務室をす。


 なお、事の発端ほったんとなったディメル近郊きんこうの森林火災は結構な被害を出しており、後発の騎兵隊と入れ代わりで三体のクラウソラスが襲撃の翌朝に帰還したものの、残り半数の騎体きたいはまだ戻れないそうだ。


 そんな事情もあって、都市防衛の一翼を引き受けた俺達も駐騎場のある城郭じょうかく内にしばられ、未だ帰還のけないため、わりと時間だけはあったりする。


「というわけで、剣をりにいこう」

「うぐぅ、全然、意味が分からないよ」


 戦場では一蓮托生(いちれんたくしょう)なこともあり、日頃から(そば)にいる時間の多いレヴィアと並んで、木漏れ日が射す小城の中庭を抜けて兵舎付近へ向かう。


 目指す先はゼファルス領の将兵らが技を磨く練兵場で、毎朝の鍛錬に上乗せして身体を動かすには最適なスポットと言えた。


 打ち合える相手がいたら尚良なおよしなので、王都エイジアの木工職人に造ってもらった木刀持参で石畳の広場へ踏み入り、知己(ちき)がいないか周囲を広く見渡す。


 そこには馴染みの薄い領兵らが木剣をるう姿に混ざり、珍しくも副団長殿が木槍をかまえて、流麗な動きをみせる姿があった。

『続きが気になる』『応援してもいいよ』


と思ってくれたら、下載の「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にお願いします。

皆様の御力で本作を応援してください_(._.)_

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 密約……何だかいい言葉ですね! 新機体が今から楽しみです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ