さすがお兄様です!
因みに襲撃側が廻り込んできた経緯から、反対側の大通りで魔法の砲火を浴びている騎士王達と異なり、防壁が破られたのを契機に始まったのは接近戦闘である。
『貴様らぁああぁッ!!』
壊れた壁材の破片で潰れた家々、周囲に散見される衛兵や領民の死体を見たクラウソラスの操縦者が逆上し、街路に転がる門扉を踏み越えながら突撃していく。
『落ち着けッ、ダニエル卿』
『多分、聞こえていませんよ』
冷静な妹の声を受け、先走ったゼファルスの騎士を援護するため、やや初動の遅れたロイドは双剣騎を駆けさせた。
その疑似眼球が捉えた視界の先では、味方騎が慣性の勢いに任せた斬撃を放つも、剣腹に左掌を添えて翳した細身の敵騎に受け止められている。
(見掛けよりも膂力があるのか、厄介だな)
警戒の度合いを引き上げた銀髪碧眼の騎士は二振りの鉄剣を構え、切り結んでいるダニエルの騎体を狙い、斜めから刺突を喰らわせようとした敵方へ斬り込んだ。
『ちッ、簡単には殺らせてくれないか!』
途中で攻撃を諦めた相手は僚騎と同じく、翳したロングソードで斬撃を凌ぐが、それは誘われた動きに過ぎない。
わざと防御が間に合うよう大振りされた右手の長剣は本命に非ず、ロイドの乗騎であるベガルタD型は打ち合わせた得物を押さえつけた状態から、敵騎の腹部関節へ左手の短剣を繰り出した。
『疾ッ』
『はっ、遅いんだよ!』
紙一重で身動ぎ、装甲部分に刃先を滑らせた相手の体勢が崩れると、彼の騎士は倒れ込むように躯体を圧し掛からせる。
『鬱陶しいな、おいッ!!』
悪態を吐いた敵方の騎士はバックステップで一定の距離を取ったものの、それも強引な攻勢によって迫られた選択のひとつだ。
間髪入れず、開いた空間にロイドが双剣騎を踏み込ませ、味方のクラウソラスと交戦している敵騎とすれ違いざま、渾身のバックハンドブローを喰らわせた。
『うあぁッ!?』
『ッ、くぅう』
死角から飛んできた鋼の拳に後頭部を強打され、人工筋肉の神経節を経由した感覚共有で操縦者らの意識が瞬断したことにより、リグシア領の強襲型騎体は棒立ちした無防備な姿を晒す。
『うぉおぉおお―――ッ!』
絶好の機会を逃すはずもなく、鉄剣を腰だめに構えた味方騎が体当りして、自重の乗った刃先を胸部装甲へ埋め込み、抉るように捻って破損個所を広げた。
『あぁ… レイナッ、畜生!!』
仲間の騎士と魔導士が討たれる様を見遣り、戦況不利と見た残敵は騎体の腰元へ手を伸ばすと、円筒状の音響線光弾を掴んで前方の地面に叩きつける。
刹那、轟音と眩い閃光が辺りを包み、視界が奪われる中でロイドは双剣騎を連続的な跳躍にて飛び退かせつつ、急所への攻撃に備えて両腕を交差させたが……
『ぐッ、何なんだ一体、俺の目がッ!』
味方騎の外部拡声器から、怒鳴るようなダニエルの声が響き、警戒する月ヶ瀬の兄妹に届くのみ。
緩やかな視覚の回復に伴い、騎体の疑似眼球で周囲を見渡せば、敵影は忽然と消え去っていた。
『…… 撤退したか、それにしても注意すべき兵装だな』
『うぅ、兄様~、涙が止まりません』
愚痴り出す妹魔導士を宥めながら、銀髪碧眼の騎士はベガルタD型を歩かせて、街路に転がる円筒状の殻まで歩み寄り、拾い上げて興味深そうに眺める。
その頃には東門の戦闘も終息しており、深夜の襲撃事件は看過できない人的被害の爪痕を都市に刻みつけて、ひとつの区切りを迎えていく。
ただ、第二波がある可能性も否定できず、先に戻ってきた騎体を収める工房内では整備兵や、技師、錬金術士らが忙しなく補修作業に取り組んでいた。
「よしッ、西門から帰還した二体は派手に損傷してないぞ!」
「ありがとう御座いますッ、ロイド卿!!」
『何やら凄く感謝されています、さすがお兄様!』
『ん~、間違っては… 無いか』
仕事が省けたと喜ぶ整備兵達の歓待と誘導を受け、まんざらでもない優男は壁際に移動させた双剣騎の片膝を突かせ、駐騎姿勢で待機させる。
そこに二台の高所作業車が取り付き、雑多な工具やチェックリストなど手にした技師らが各部の点検を始めた。
『少し休んでおこうか、エレイア』
『はい、万一もあり得ますから』
頷いた彼女が疑似眼球を通して、ちらりと様子を窺ったのは両肩をフックで固定され、装甲部分の補修を受けるベルフェゴールだ。
あの状態では再度の襲撃に即応できると言えないため、追加の有事で駆り出されるのは彼女ら、月ヶ瀬兄妹の可能性が高い。
『それにしても、クロード様は賊如きに手を焼いたようですね』
『僕らも近接する前に出くわしていたら差異はないよ、両側を建物に挟まれた直線的な街路で躱す余地もなく、魔法攻撃を喰らう羽目になる』
仮に上手く避けたとしても射程範囲を鑑みれば、小城や併設された工房、リゼルの訪問団が寝泊まりする兵舎に被害を及ぼすだろう。
結局、損失の拡大を防ぐには受け止めるという選択肢しか残されてない。
(正直、僕は御免被りたいけどね)
過酷な戦闘を乗り越えてきた故、多少の同情も籠めた眼差しを仲が良い騎士王らに向けると… 工房に姿を現した令嬢と話すため、騎体から降りたところだった。
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