表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/143

アンノウンとの出会いは突然に

 その崩落音を契機(けいき)に整備兵らが動き出し、アインストの騎体きたいであるベガルタL型や、クラウソラス後期生産型の固定装置が外される中で、妹魔導士エレイアの手を引いた優男ロイドが工房に駆け込んでくる。


 そんな(にわ)かに喧騒けんそうが増した状況より、さかのぼることしばし……


 ゼファルス領東端の町、ディメル近郊きんこうの森林から飛び出したリグシア領の新鋭騎しんえいき “ナイトシェード” が六体ほど、濃緑色のボディを夜闇にまぎれさせて、女狐の巣食すくう中核都市ウィンザードを目指していた。


 隠密性にすぐれた巨大騎士の背後では、煌々(こうこう)と燃える炎がらめき、そこに暮らす動物ごと樹々を飲み込んでいく。


『陽動で火をけた側が言うのも、なんですが……』

『あまり気は進みませんね、レオナルド卿』


 露払いの騎体きたいる騎士と魔導士より、念話装置での通信を受けた青年将校は数秒だけ瞑目めいもくすると、諸々《もろもろ》の迷いを断ち切った。


『任務遂行に欠かせない行為だ、釣られた相手方の騎体きたいに始末は任せる』

『『了解ッ』』


 事ここにいたっては偽善的な感傷にひたるのも愚かなので、主君たるハイゼル侯爵がとなえる主張のうち、いくつかかなっている部分を笠に着て、与えられた職責をまっとうするのが利口りこう… と言えなくもない。


(不穏分子の排除とリグシアの発展、つまりは領民のためだ)


 長い歴史の変遷へんせんにより皇室が権力を失っている以上、どこかの一領地が武力を持ちすぎるのは確かに危険であり、それを棚に上げてでも自領の軍は増強すべきという世情があったりする。


 恐らく、今回の動きにかんづいた各派の領主は西部戦線を支えるゼファルスの女狐に対し、破壊工作を仕掛けるくらいの認識だろうが、襲撃部隊はニーナ・ヴァレルの殺害も視野に入れている。


 ここ半年に()いて、急激に騎体関連の技術が向上したこともあり、(くだん)の人物に “退場” を願えればハイゼル侯爵が後釜となれるのだ。


『こちらに革新をもたらしたファウ殿も相当な曲者くせものだがな』

『ん、同意する、《《白狐》》は好きじゃない』


 耳元で聞こえた魔導士エルネアの声に意識を引き戻され、思索を中断したレオナルドは騎体きたいを毎時50㎞前後の巡航じゅんこう速度で西進させる。


 およそ一刻がつと、中核都市の食糧事情をまかなう耕作地に差しかった。


『レイナとジクスの二体は迂回うかいして、西門から時差攻撃を仕掛けろ』

『分かりました、また後ほど』

『ご武運を……』


『残りは東門を破って、市街地に突入する』

おうよッ!』

『『了解です!』』


 短い指示を挟み、鋼鉄の足で田畑を踏み荒らしながら二手に別れてほどなく、指揮官たる青年将校は壁外に拡張された新市街を疑似眼球の視界へ収め、乗騎を一気に加速させた。


 街区には魔導灯の光もあるため、防壁の衛兵隊がナイトシェードに気づき、曳光えいこう弾が装填された後装型の信号拳銃を引き抜いて、直上に放つも時すでに遅し。


 途中から整備された幅広い街道を使い、駆け抜けてきた正体不明の巨大騎士(ナイトウィザード)短戦槌たんせんついを振り上げ、勢いよく自身の背丈よりもやや低い防壁門へたたきつける!


「「うぉおおぉおおおッ!?」」

「「うわぁああぁ―――ッ」」


 砕け散った防壁の欠片諸共(もろとも)に衛兵達が宙を舞い、顔に恐怖を張り付けたまま落ちて地面へ衝突した。


 その大半は脳漿のうしょうを散らしていたり、折れた骨が腹や臓器を突き破ってたりと、生きているようには見えない。


「うぅ……ッ、あぁあ……ひぁ、ぐべッ!?」


 運よく背が高い建物の上に飛ばされて一命を取り留めた者も、後続の敵騎てっきがメイスを門付近へり下ろしたことにより、もう一度ばらかれた破片に潰されて()えなく命を落とす。


 当然、被害はそれだけにとどまらず、東門周辺の家々も壁の残骸に破壊され、()()うの(てい)で住民達が逃げ出してきた。


 就寝中に飛散物の直撃を受けた者もいないとは限らず、かなりの死傷者が出てしまっているのは想像に容易たやすい。


 されども襲撃者らの手はゆるまず、何度も打撃武器がたたき込まれた防壁門はまたたく間に破砕はさいされていき、とどめの騎体重量を乗せた中段蹴りで、ついに板金扉が吹き飛ばされてしまう。


『良しッ、突入するぞ!』


『先行します』

『援護は任せましたよ!』


 ずは前衛二体のナイトシェードが大通りに踏み入り、動力と直接関係するためにわずかな回数のみ許された魔法攻撃を考慮して、もっとも効果的に小城を狙える位置まで、距離をめるが… 進路上にゼファルス領側の騎体(きたい)が姿を現す。


『敵影二体、内一体は報告にあったベガルタ、残りは不明!』

『隊長、魔法攻撃の許可をッ』


『レオ、勿体(もったい)ぶっても仕方ない』

『そうだな、射撃用意ッ、此処ここで仕留める!』


 念話装置経由の号令に従い、近接武器をおさめた前衛の二体が片膝立ちとなって、低い姿勢で鋼鉄の両掌りょうてのひらかまえれば、僚騎りょうきの頭越しに隊長騎を含む後衛の二体も両腕を突き出した。


 その光景を第二世代の新造騎体(きたい)、ベルフェゴールの疑似眼球で見据みすえていた赤毛の少女がほほを引きらせ、悲鳴染みた声を上げる。




「ち、ちょっとッ、正気なの!? 街中で魔法なんて!」

「くッ、回避の仕様(しよう)がないだと!」


 何故なぜか大通りに出るなり鉢合はちあわせて、危機的状態におちいった俺も叫びたいのは同じだが、嘆いている寸暇(すんか)もない。


「ッ、吶喊(とっかん)する」

「え゛、嘘よね、クロードッ」


 敵方の各騎が両掌りょうてのひらの間に焔弾(えんだん)や、風弾(ふうだん)を形成させていく最中さなか、頑強な爪付きの左腕で上半身、アームシールド付きの右腕で下半身を護り、早々に使う羽目となった騎体きたいの背部バースト機構を()かせた。

『続きが気になる』『応援してもいいよ』


と思ってくれたら、下載の「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にお願いします。

皆様の御力で本作を応援してください_(._.)_

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 今度は夜間戦!? 色々な戦場でバトルがあるので、読んでて楽しいです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ