アンノウンとの出会いは突然に
その崩落音を契機に整備兵らが動き出し、アインストの騎体であるベガルタL型や、クラウソラス後期生産型の固定装置が外される中で、妹魔導士の手を引いた優男が工房に駆け込んでくる。
そんな俄かに喧騒が増した状況より、遡ること暫し……
ゼファルス領東端の町、ディメル近郊の森林から飛び出したリグシア領の新鋭騎 “ナイトシェード” が六体ほど、濃緑色のボディを夜闇に紛れさせて、女狐の巣食う中核都市ウィンザードを目指していた。
隠密性に優れた巨大騎士の背後では、煌々と燃える炎が揺らめき、そこに暮らす動物ごと樹々を飲み込んでいく。
『陽動で火を点けた側が言うのも、なんですが……』
『あまり気は進みませんね、レオナルド卿』
露払いの騎体を駆る騎士と魔導士より、念話装置での通信を受けた青年将校は数秒だけ瞑目すると、諸々《もろもろ》の迷いを断ち切った。
『任務遂行に欠かせない行為だ、釣られた相手方の騎体に始末は任せる』
『『了解ッ』』
事ここに至っては偽善的な感傷に浸るのも愚かなので、主君たるハイゼル侯爵が唱える主張のうち、幾つか理に適っている部分を笠に着て、与えられた職責をまっとうするのが利口… と言えなくもない。
(不穏分子の排除とリグシアの発展、つまりは領民のためだ)
長い歴史の変遷により皇室が権力を失っている以上、どこかの一領地が武力を持ちすぎるのは確かに危険であり、それを棚に上げてでも自領の軍は増強すべきという世情があったりする。
恐らく、今回の動きに勘づいた各派の領主は西部戦線を支えるゼファルスの女狐に対し、破壊工作を仕掛けるくらいの認識だろうが、襲撃部隊はニーナ・ヴァレルの殺害も視野に入れている。
ここ半年に於いて、急激に騎体関連の技術が向上したこともあり、件の人物に “退場” を願えればハイゼル侯爵が後釜となれるのだ。
『こちらに革新をもたらしたファウ殿も相当な曲者だがな』
『ん、同意する、《《白狐》》は好きじゃない』
耳元で聞こえた魔導士エルネアの声に意識を引き戻され、思索を中断したレオナルドは騎体を毎時50㎞前後の巡航速度で西進させる。
凡そ一刻が経つと、中核都市の食糧事情を賄う耕作地に差し掛かった。
『レイナとジクスの二体は迂回して、西門から時差攻撃を仕掛けろ』
『分かりました、また後ほど』
『ご武運を……』
『残りは東門を破って、市街地に突入する』
『応よッ!』
『『了解です!』』
短い指示を挟み、鋼鉄の足で田畑を踏み荒らしながら二手に別れてほどなく、指揮官たる青年将校は壁外に拡張された新市街を疑似眼球の視界へ収め、乗騎を一気に加速させた。
街区には魔導灯の光もあるため、防壁の衛兵隊がナイトシェードに気づき、曳光弾が装填された後装型の信号拳銃を引き抜いて、直上に放つも時すでに遅し。
途中から整備された幅広い街道を使い、駆け抜けてきた正体不明の巨大騎士が短戦槌を振り上げ、勢いよく自身の背丈よりもやや低い防壁門へ叩きつける!
「「うぉおおぉおおおッ!?」」
「「うわぁああぁ―――ッ」」
砕け散った防壁の欠片諸共に衛兵達が宙を舞い、顔に恐怖を張り付けたまま落ちて地面へ衝突した。
その大半は脳漿を散らしていたり、折れた骨が腹や臓器を突き破ってたりと、生きているようには見えない。
「うぅ……ッ、あぁあ……ひぁ、ぐべッ!?」
運よく背が高い建物の上に飛ばされて一命を取り留めた者も、後続の敵騎がメイスを門付近へ振り下ろしたことにより、もう一度ばら撒かれた破片に潰されて敢えなく命を落とす。
当然、被害はそれだけに留まらず、東門周辺の家々も壁の残骸に破壊され、這う這うの体で住民達が逃げ出してきた。
就寝中に飛散物の直撃を受けた者もいないとは限らず、かなりの死傷者が出てしまっているのは想像に容易い。
されども襲撃者らの手は緩まず、何度も打撃武器が叩き込まれた防壁門は瞬く間に破砕されていき、止めの騎体重量を乗せた中段蹴りで、ついに板金扉が吹き飛ばされてしまう。
『良しッ、突入するぞ!』
『先行します』
『援護は任せましたよ!』
先ずは前衛二体のナイトシェードが大通りに踏み入り、動力と直接関係するために僅かな回数のみ許された魔法攻撃を考慮して、最も効果的に小城を狙える位置まで、距離を詰めるが… 進路上にゼファルス領側の騎体が姿を現す。
『敵影二体、内一体は報告にあったベガルタ、残りは不明!』
『隊長、魔法攻撃の許可をッ』
『レオ、勿体ぶっても仕方ない』
『そうだな、射撃用意ッ、此処で仕留める!』
念話装置経由の号令に従い、近接武器を収めた前衛の二体が片膝立ちとなって、低い姿勢で鋼鉄の両掌を構えれば、僚騎の頭越しに隊長騎を含む後衛の二体も両腕を突き出した。
その光景を第二世代の新造騎体、ベルフェゴールの疑似眼球で見据えていた赤毛の少女が頬を引き攣らせ、悲鳴染みた声を上げる。
「ち、ちょっとッ、正気なの!? 街中で魔法なんて!」
「くッ、回避の仕様がないだと!」
何故か大通りに出るなり鉢合わせて、危機的状態に陥った俺も叫びたいのは同じだが、嘆いている寸暇もない。
「ッ、吶喊する」
「え゛、嘘よね、クロードッ」
敵方の各騎が両掌の間に焔弾や、風弾を形成させていく最中、頑強な爪付きの左腕で上半身、アームシールド付きの右腕で下半身を護り、早々に使う羽目となった騎体の背部バースト機構を噴かせた。
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