決闘、そして図らずも寝取ってしまう
「うちの脳筋がすみません… クロードさん、手は大丈夫ですか?」
「あぁ、問題ない」
澄まし顔で微笑む年頃の少女を見遣り、紹介してくれという意図を込めて、隣のレヴィアに視線を向け直す。
「クラウソラスL型の魔導士フィーネ・ダンベルク、騎士団長の養女でもある」
「不束者ですが、宜しくお願いします」
「いや、此方こそ」
やや痛む手をさすりつつ、下げられた頭に応じて自身も会釈を返したところで、団長殿と同世代に見える痩せ気味の騎士が一歩進み出た。
「クロード殿、貴殿の手腕は伝令兵より聞かせて頂いた。ゼノス、彼にクラウソラスを任せてはどうだろう?」
「ふむ、だがな……」
巨大騎士を操るのは動力制御を担う魔導士が必須なのに加え、現状で五体しかない兵器には其々《それぞれ》専属の操縦者がいるはずだ。
つまり、あぶれた誰かが、騎体から降りる羽目になる訳で、集まった騎士達に微かな緊張が走った。
「言いたくないが… 私情で王より預かった将兵を危険に晒すのは愚かに尽きるぞ。先刻、四番騎に損傷を受けたのはディノの未熟ゆえ、ならば責任を取らせるべきだ」
「ま、待ってくださいッ、ライゼス様」
「お前、下手をすれば魔術師長の一人娘を死なせていたんだぞ」
「ぐッ……」
「…… ごめんね、ディノ」
窮した藍色髪の青年が幼馴染の少女に振り向くも、申し訳なさそうに小さな拳を握り締めたまま視線を外されてしまう。
そんな光景に居たたまれなくなり、武人としての誇りを傷つける事無く、どうにか掛けられる言葉を探していると、鋭く睨まれてしまった。
「クロード、貴様に決闘を申し込む! ゼノス団長、俺が勝てば四番騎を降りなくても良いですよね!!」
「まぁ、構わんか… 誰か、クロード殿に武器を貸してやれ」
「ん、これを使うと良いよ、同輩」
「ちょっと待っ……」
言い切る前に祖先を辿れば大和の血筋だと嘯きながら、長身の優男が剣帯から得物を鞘ごと外して、遠慮なく放り投げてきたので掴み取り、ズシリとした重さに溜め息を吐く。
「おいおい、真剣かよ……」
引き抜いた後の鞘を差し出されたレヴィアの手に渡し、既に鉄剣を構えたディノに対して断れる状況でもないため、僅かに左足を退いた左甲段構で向かい合った。
「いざ尋常に… 始め!」
「せぁあああぁッ!!」
気合一閃、先手必勝とばかりに繰り出されたディノの袈裟切りを迎え打ち、刃相鳴らした刹那に左足で無防備な右上腕を蹴り飛ばして、交えた剣身ごと横にずらしながら体勢を崩す。
そうして露になった首筋へ柄頭を叩き込み、バックステップで距離を取った。
「ぐうッ、ふざけるなぁ!」
致命的な隙を晒したにも関わらず、斬るのではなく打突で済ませた事に怒りを感じたのか、よろけた状態から大きく踏み込んだディノが咆哮と共に斬り上げを放つ。
「… 悪気はないんだけどな」
人を喰らう異形の怪物ならまだしも、血の通った人間を斬る覚悟が無いだけなので、その面では俺よりも彼の方が数段優れているのかもしれない。
などと思いつつも、刃の腹に左手を添えて、押し出すように剣戟を受け止め、左足で踏み込んできた相手の軸足を外に払う。
「あっ… ぐべッ!」
小さく声を漏らして前に倒れ込んだディノの顔面を再び柄頭で穿ち、転倒に巻き込まれないよう斜め側方へ避けてから、今度は彼の首筋に刃を当てた。
「くっ、殺せよ……」
「………………」
何やら女騎士が言いそうな言葉を野郎から貰って見下ろす事暫し、徐々《じょじょ》に熱の冷めてきたディノの顔色が蒼白となっていき、隠せない怯えが窺える。
「そんな面で言われてもな… 斬らないといけないのか、団長殿?」
「決闘だからな、生殺与奪も含めて勝者の自由だ」
「ならやめておくよ」
「くそがッ、何で俺は……」
最後に見せた自身の不覚悟が許せないのか、藍色髪の騎士は手甲に覆われた握り拳を力の限り、膝を突いた姿勢で地面へ打ちつけた。
「自傷行為は褒められませんね、治療をしますので此方に……」
口端から血を流す青年の腕を掴んで立ち上がらせ、身体を支えたフィーネがゆっくりと天幕に連れていく。
「…… ディノ」
「行かなくていいのか?」
所在なさげに佇むレヴィアに問えば、彼女は小さく左右に首を振った。
「ライゼス副団長が指摘した通り、貴方と組んだ方が皆の生存に繋がると思っちゃったし、今は掛ける言葉がない」
「ふむ、後で様子を見ておこう、あいつも騎体を動かせる希少な適性者だからな」
「宜しくお願いします、ゼノス団長」
ぺこりと触り心地の良さそうな赤毛を揺らして、深く頭を下げた少女の向こう側から、小型の異形を討ち払ってきた騎兵隊や、歩兵隊の姿が垣間見える。
それに合わせるかのように日和見していた技師風の集団が眼前のクラウソラスに取り付き、騎体の整備作業に掛かり始めた。
「ジャックス、四番騎の損傷程度はどうなっている?」
「魔力液の充填と、人工筋肉の補修で何とかなりそうです、装甲の強度劣化は受容してください。それで構わないなら、明け方までに何とかしますよ、副団長殿」
さっきまで乗っていた巨大騎士を担当する整備兵長の発言を受け、レヴィアがほっと胸を撫でおろす。
「思ったより、大丈夫そうで良かった。魔導炉とか、中枢部にまで影響が出ていたら、帝国のゼファルス領でしか対処できないから」
誰にともなく呟いた彼女の視線を追い、どう考えても歩兵隊が持つマスケット銃等と比べて、オーバーテクノロジーである巨大騎士を一緒に眺めた。
「これ… 実はね、隣国の稀人領主が開発したものを供与されているの」
「そうなのか?」
赤毛の少女曰く、滅びの刻楷と呼ばれる異形どもが姿を現し、海峡を越えた先にある島国のイグラッドを滅ぼしてから数年……
大陸側でもフランシア王国が滅ぼされて国家間の同盟締結が進む最中、各国が威信を掛けて普及に取り組んできた革新的な新規兵装が巨大騎士との事だ。
改めて見ると本当に西洋甲冑といった姿形のロボットで現実感に乏しく、ずんぐりとしたフォルムが実用性を感じさせる程度に留まる。
これを一国家の地方貴族に過ぎないゼファルス領主である稀人、“救世の乙女” とも称されるニーナ・ヴァレル嬢が世に送り出し、異形の軍勢に混じる大型種を食い止めたことで、大陸に住まう人々へ希望を与えたという。
★騎体情報:クラウソラス
ずんぐりとした全高16m程の第一世代に属する巨大騎士であり、指揮官用のL型・貴人用に装甲を厚くしたK型が存在する。
主兵装は重厚な鉄剣だが、精霊門を破壊するために爆薬を仕込んだ破砕兵装“雷槍”がニーナ・ヴァレルより供与された。
また、火・風・土・水の基本四元素に加え、カスタマイズすれば光・闇・雷・無などの属性魔法もインストール可能だ。現在、開発国であるアイウスと同盟諸国に普及している騎体がこれに当たる。
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