こっちはお腹減ってるのに……
「もしかして、結構なSF好き?」
「日本の空想科学小説とか、そんな話が多いんだよ」
「それも興味があるけど、今は続きを優先しましょう。もし、取り返しのつかないほどに世界の進む方向性が違ってしまったら、どうなると思う」
統合できない程に分岐した世界は連続性を失う訳だから、元々属していた時空連続体から放り出されてしまう訳で、その結果として行きつく先は……
「並行世界として幾つもの可能性を手繰り寄せ、別の時空連続体になるとか」
「うん、私の意見と概ね同じ、恐らくこの世界はそこに属した地球よ」
思えば初日にレヴィアから林檎酒をもらった時、林檎が存在することに違和感があったし、以後の食材も偶に見たことないのが混じるくらいで、地球の物と大差なかったものの俄かには信じ難い。
「ニーナ殿、言い切れるだけの根拠はあるのか?」
「大気の組成、月と太陽の存在と位置関係、他にもあるけど地球じゃない確率は天文学的に低いわよ。どこで道を違えたのか、魔法なんてものまであるけどね」
徐に目を瞑り、現状までに体験してきた諸々を鑑みると精神的な抵抗感はあれども、告げられた仮説が妥当に思えてくる。
「まぁ、やることは変わらない。受け入れてくれた皆の為、刃を振るうのみだ」
「中々に粋な考え方ね。でも、私は帰りたいの」
「…… なにか、取っ掛かりになるようなモノは?」
「えぇ、貴方が運んでくれた精霊門の欠片、本当に感謝しているわ」
微笑みながら謝意を述べて、残り少なくなった天麩羅にニーナが箸を伸ばした。
次はいつ、日本食を食べられるか不明なのもあり、俺も遠慮なく野菜のそれを摘まませてもらう。
以後は雑談を交えつつ、同胞たる稀人らのことも考えて、帰還手段を講じている女狐殿の心情など聞かされ、理解を深めていくうちに眼前の料理は綺麗さっぱりとなくなった。
最後に冷めたお茶を啜って一緒に外へ出れば、待ち構えていたレヴィアから、ジト目で睨まれてしまう。
「遅い、こっちはお腹減ってるのに… 何を食べてきたの?」
「蕎麦と天麩羅だ」
「むぅ、なにか美味しそうな予感がする!!」
「ふふっ、兵舎の食堂で護衛役の分も用意させているから、早く帰りましょうか」
空腹を訴える赤毛の少女にくすりと微笑んだ令嬢の言葉に従い、騎士長のアインストが指示を出して、裏側の勝手口を固めていた手勢を呼び戻す。
路地裏より姿を現した者達には、エレイアが指揮する準騎士も混じっていた。
「撤収ですね、クロード様」
「あぁ、周辺の警戒をありがとう、あとロイドにも感謝だな」
「気にしなくて良いよ、これも僕の仕事だからね」
爽やかに応えた銀髪碧眼の騎士を労い、その妹も含めて他愛のない雑談を交わしていれば、全員の揃いを確かめたゼファルス領の騎士長が仕える主の傍へ寄り、手短な会話を挟んだ上で城郭に向けて歩き出す。
店主の源蔵に見送られて、此処の料理屋まできた時と同じく、相手方に追随する形で帰還の途へ就いた。
なお、此方の護衛役に用意された伝統な肉料理や、卵白と牛乳を使ったパンナコッタが気に入ったらしく、食堂を出る頃には拗ねたレヴィアも上機嫌となり、食後なのに讃美歌を口遊んでいたことも言及しておこう。
そして翌日の昼下がり、ベルフェゴールとベガルタを持ち帰るため、騎体に登録する魔導士の属性と合わせた核の換装など、様々な作業に係る待ち時間を使って街中へ繰り出す。
連れ合いがレヴィアと月ヶ瀬兄妹なので、行き先を決める多数決の際、妹に甘すぎる優男が当然の如く裏切り、デザートを食べられるカフェテリア巡りと相成っていたはずだが… 小物や装飾品を並べた露店に好奇心旺盛な赤毛の少女が惹かれて、何故かイザナへの手土産を選ぶことになっていた。
「ん~、これなんか似合いそう♪」
「では、それを買おう」
勧めに逆らわず、微細な彫刻が施された金の髪飾りを購入しようとするも、横合いから覗き込んだエレイアに駄目出しをされてしまう。
「言われるが侭に決めるのでなく、イザナ様を想って選ばないと気持ちが伝わりません。些か、礼節に反しますよ」
「…… ロイド、この黒い首飾りはエレイアの銀髪に映えると思わないか?」
目についた細めのベルトチョーカーを手に取って、銀髪碧眼の騎士に勧めると意図を察してくれたのか、悪戯っぽい顔で頷いてくれた。
「そうだね、買ってみようかな」
「え、良いんですか!? お兄…… あっ」
前言を翻すような言動に気づき、頬を染めながら俯いたエレイアに対して、件の装飾品を買い取ったロイドは丁寧な仕草で妹の首につける。
「うぅ、ありがとう御座います」
「ん、揶揄ってしまったお詫びだよ」
優しく頭を撫ぜる兄の姿など眺め、一瞬で蚊帳の外に追いやられた俺とレヴィアは反応できず、局地的な温度差に困ってしまう。
「結局は “誰が買ってくれたか” なんだね、クロード」
「何やら、現金な話だな……」
ただ、そう考えれば自身の選択に確証を持てなくても決断ができると言うもので、イザナに合いそうな銀細工のバングル型カフを俺も購入した。
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