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第二世代の巨大騎士

「また、随分(ずいぶん)と異質な騎体きたいだな、兵装は後部冷却ユニットの上に取り付けた手槍型の “雷装”、それにサーベルと…… あの(いびつ)な剛腕も武器に含めるのか?」


「ふふっ、後でベルフェゴールの取説(とりせつ)を渡すけど、アレ伸びるの♪」


 どうやら左腕はたたまれた状態のようで、戦闘時に展開して伸ばすことも可能なようだが、それを聞いて一抹いちまつの不安がよぎってしまう。


「おさっしの通り、感覚共有のせいで気持ち悪いですよ、自分が性能評価試験でためした時は最悪でしたから」


 辟易(へきえき)した表情を浮かべ、一言()えた精強な騎士を見遣(みや)り、その視線をニーナにてんじて仲立ちなどうながす。


「アインスト・レンベルク、彼はゼファルス領の騎士長ナイトマスターよ」

騎士長ナイトマスター?」


 耳慣みみなれない響きに多少の疑問を抱いて、思わず反射的に聞き返せば、(そば)にいたライゼス副団長が口を挟んでくる。


「帝国の各領地にける筆頭騎士だ、クロード王」


「なるほど… アインスト殿、滞在中は宜しく頼む」

(かしこ)まりました、騎士王殿」


 慇懃(いんぎん)な態度で一礼する壮年そうねんの騎士長にうなずき、再び独特なフォルムの騎体きたいあおぎながら、面識ができたばかりのかれに問う。


「性能評価のさい、気になったことは?」


「色々とありますが… 初動や反応速度が早すぎて、むしあつかがたいのと、背部のバースト機構は危険だというくらいでしょうか」


「過去の話ね、再調整を(ほどこ)して出力も低減させたから、事後の追加試験では安定動作を確認できているわ」


 自信満々に言い切ったニーナが腕を組み、わずかに背を()らしたので、豊満な胸が突き出されて目のやり場に困ってしまう。

 

 それは周囲の騎士や、技師エンジニア達も同じなので… 皆がそっと視線を(はず)した。


「どうかしたの?」


「いや、気にしないでくれ」

「う~、うらやましいよぅ」


 少なくない敗北感に打ちのめされたレヴィアが自身の胸元をまさぐり、凹んでいるようだが、武士のなさけで捨て置き、くだんのバースト機構とやらについて確認しておく。


「端的に言えば、圧縮させた魔力による意図的な暴発を引き起こし、それを機体の推進力に利用する装置のことね、付属兵装の雷槍と併用する想定」


「便利そうに聞こえても、燃費は悪そうだな」

「………… よく気づいたわね、戦闘で使えるのは数回だけ」


 ほろ(にが)い表情で、改良次第(しだい)では革新的な機構になると言い始めたニーナの持論に今暫いましばらく付き合い、切りの良いところで受領予定の残り一騎についても言及げんきゅうする。


「ん、第二世代の汎用機体 “ベガルタ” はあれよ」


 臙脂えんじ色の瞳で示された左側の壁面、そこに固定されたアッシュグレイの機体はバランスの取れた造形をしており、漆黒に塗られた各部の装甲が特徴的だ。


 初見しょけんでは第一世代のクラウソラスより、全体的に引き締まっている印象があった。


「あれが兄様と私の新しい騎体きたい… どこか機能美を感じます」


「ありがとう、可愛らしい御嬢おじょうさん。汎用機だけに統制の取れたフォルムを追求したから、そう言ってもらえると嬉しいわ」


 忖度そんたくないエレイアの所感しょかんで機嫌を良くした領主令嬢の話によれば、そもそも第二世代の騎体きたいは敏捷性に重きを置いた設計思想があるようで、従来の巨大騎士と比べれば運動性能が高まっているらしい。


 それにくわえ、魔力圧縮及び炸裂に指向性を持たせる技術にて、左腕から魔法銀ミスリル含有がんゆうのワイヤーアンカーを射出できる機能もあり、背部冷却ユニットに組み込まれた “巻取り機” で引き戻す方式となっていた。


「開発コンセプトは多目的に使える非火薬式の射出武器よ、硝石しょうせきが安定的に確保できる状況なら、必要性の低い武装だけどね」


「少しだけ、よろしいですか?」

「貴方は……」


 今度は立場が逆転して、臙脂えんじ色をしたニーナの瞳が向けられる。先ほどの此方こちらと同じく、紹介をうながす意図があるのだろう。


「ベガルタを受領する騎士、ロイド・ルナヴァディスだ」


「以後、お見知りおきを願います」

「お噂はかねがね、非常に腕の立つ騎士だと聞きおよんでいるわ」


 ととのった顔立ちの優男やさおとこと令嬢が手を取り、微笑みで牽制けんせいし合いながらも、無為むいに優雅な挨拶あいさつわす。


 途端とたん妹魔導士ブラコンが不機嫌そうな表情を浮かべ、兄に近づく悪い虫? のしなを定めようとするかたわら、渦中の女狐殿は余裕のある態度で桜唇おうしんを開いた。


「それで… なにか質問でも?」


騎体きたい左腕のギミックですが、剛糸ワイヤーの素材がミスリル合金なら、先端部まで魔法を伝播でんぱさせることも可能でしょうか?」


 意図せぬ質問だったのか、片手で口元を(おお)い、ぶつぶつと独り言をかさねた上で、検証されたと思しき結果がロイドに与えられる。


「多分、つたわるけど威力が低減されて意味をさないわ、魔法銀ミスリルぜたのは補強のため、含有量も10%未満に過ぎない」


 逡巡しゅんじゅんしつつも提示された回答は高純度な合金製ワイヤーであれば、射出後の先端部へ魔法を到達させられると、あん示唆しさするものの、量産前提の汎用機にそぐわない仕様しようとなってしまう。


「まぁ、雷撃系の魔法なら、ある程度の効果が見込めるでしょうけど、一時的に標的の筋肉を硬直させて、動きをにぶらせるくらいね」


 それを学者肌の領主令嬢は有効な攻撃手段と感じないのだろうが、一太刀に()ける武侠ぶきょうにとってはわずかな隙が勝機とることも多く、雷属性をあつかう妹魔導士が相棒のロイドであれば、上手くかせるかもしれない。


 続けて兵装を大小二つの双剣に変えて欲しいと、開発者であるニーナに追加要望を出してから、銀髪碧眼の騎士は謝意などべて話を終えた。


「さて… 適性におうじた魔導核の交換、魔導士の登録変更は明日にするとして、こんなものかしらね。丁度良い時間だから、夕食でもりましょうか?」


 もう此処ここでやるべきことは無いと身を返した領主令嬢にならい、アインストが指揮する護衛の騎士らに先導されて、リゼルの訪問団が待つ駐騎場へと戻る。


 此方(こちら)騎体きたいの検分を行っているうちに、ゼファルス領の官吏(かんり)らとアルド騎兵長の間で、派兵によって空き部屋だらけとなった兵舎を借り受けることが決められていた。


 それらの報告を受けた後、お勧めの料理屋で会食するというので、当方も騎兵隊から準騎士数名を護衛に選出して、案内されるまま市街地にり出していく。





★騎体情報 ベルフェゴール


 左右の腕部が非対称な第二世代のカスタマイズ騎、基礎設計部分は当初ベガルタの物を流用していた。ただ、新世代の騎体開発でストレスが溜まっていたニーナ・ヴァレルが暴走し、一から図面を引き直して設計したため、実質的には改造騎体(きたい)では無くワンオフの最新鋭騎となっている。


 特徴的な左腕は折り畳まれた二重構造で一本になっており、魔力の局所的増幅と爆散を利用した射出機構で瞬間的に伸ばす事が可能。同機構は背部冷却ユニット付近にもそなえられ、加速装置としての役割も果たす。


 武装は背部にアタッチメント接続された手槍型の破砕兵装 “雷槍” と、ゼファルス領の鍛冶師達が人海戦術で作り上げた魔導錬金製サーベル、右腕に付属した縦長たてながのアームシールドとなる。



★騎体情報 ベガルタ


 どこかずんぐりとしていた第一世代の騎体クラウソラスに比べて、幾分いくぶんも洗練されたアッシュグレイのボディを持つ巨大騎士。各部装甲だけ漆黒にられているのは、設計者であるニーナ・ヴァレルの趣味だ。


 それはさておき、第二世代の設計思想には全体的な無駄をはぶいて、運動性能を向上させるという観点があるため、装甲強度と敏捷性のバランスが絶妙に取られている。


 左腕にはバースト技術の応用で射出される低純度ミスリル合金製のワイヤーアンカーをそなえており、人工筋肉繊維を織り交ぜることによって、先端部の “かえし” の出し入れが可能となっている。なお、通常兵装は魔導錬金製ロングソードだが、ロイドの騎体きたいはそれにショートソードを加えた二刀流仕様となる。

『続きが気になる』『応援してもいいよ』


と思ってくれたら、下載の「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にお願いします。

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