表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/143

人目を忍んで森に潜むモノたち

「さて、行っちまったか……」

「新しい騎士王はどうでしたか、お館様?」


「はっ、昨日今日の付き合いで、なにが分かるかよ」


 てらわず、格好もつけない自然体の言葉に侍従の女性、リーディが風に吹かれる長い栗毛を押さえて微笑ほほえむ。


(そば)からお見受けした限り、お気が合いそうな御仁(ごじん)でしたけど?」

「切れ者は面倒なんで好かないが、そこまで嫌な奴とは感じなかったな」


 武人特有の無骨な右掌で頭をき、昨日のことを思い出して黙考する主の邪魔にならないよう、小声でリーディがボソッとつぶやく。


「皇統派の動きを教えても、良かったのでは?」

「私は中立派だぞ? 恩は売れるかも知れんが、現状だとリスクの方が大きい」


左様(さよう)ですか」


 出自しゅつじが帝国貴族の次女にぎない彼女は政治や、戦争のことなど知らないため、自身がつかえる経験豊富な主の言うことを鵜呑うのみにして、うたがわずに素直な同意を返した。


「このご時世(じせ)に愚かな内乱とか、起こらないと嬉しいのですけど」

「まぁ、望みは薄いのかもな」


 この時点でラドグリフは皇統派の中にいて、ニーナ・ヴァレルの危険性を強く(うった)えていたリグシア領の侯爵に着目しており、少なくない数の密偵みっていを彼がおさめる領地にはなっている。


 勿論もちろん、何かをやらかしそうだと思い、先手をこうじたわけだが… 送り込んだ者達の複数筋から、中核都市エアルトようするレガルド領との境界付近に向け、物資が流れているとのしらせが届いた。


 それにくわえて、女狐殿があらたに公開した第二世代の技術を使い、隠密性や機動性が求められる対人戦仕様の騎体きたいを極秘裏に組んだと、少し前に聞いている。


(何故なぜ、そこまでの工業力を良い方向に持っていかないんだろうな)


 大方おおかた、世間に知られていない正体不明の巨大騎士でレガルド領を突っ切り、最前線の三領地に騎体や領兵を送っているため、防備が手薄なゼファルス領に嫌がらせを仕掛けるのだろう。


(狙いは開発施設の適度てきどな破壊、しくは…… ま、良いか)


 中立を(よそお)腹積はらづもりの自身には関係ないと割り切って、考えるのを止めたラドグリフは侍従の女性などともない、住みれた領主の館に戻っていく。


 そんな伯爵の予想にたがわず、すでにハイゼル侯爵の密命を受けた奇襲部隊は自領をっており、現在はレガルド領内の大森林で隠蔽されていた物資による補給を済ませながら、人目など避けた移動ができる夜を待っていた。


 彼らの強襲型騎体(きたい) “ナイトシェード” は黒に近い濃緑色(ダークグリーン)のカラーリングを持ち、木々の合間へまぎれてしまえば日中でも遠目には分かりがたく、早々に存在が露見することもない。


 仮に近隣の猟師などに目撃されても、六騎に随伴(ずいはん)する整備技術もあわせ持った斥候兵らがすみやかに仕留める手筈てはずとなっており、この場にいたる過程でも二名のあわれな現地民が殺害されていた。


『…… あまり、騎士として誇れる任務じゃないな』


『すべては帝国の安定、ひいては人類が異形いぎょうの怪物に打ち勝つためです、隊長』

『ゼファルスの女狐は脅威ですから、均衡(きんこう)を取るためにも、むを得ません』


 各騎が持つ念話装置の秘匿回線を経由して、思わず漏れた部隊長レオナルドの声におうじ、近傍きんぼうで駐騎姿勢を取らせていた部下達が答える。


 巨大騎士(ナイトウィザード)を与えられた精鋭たる彼らとて、任務に対する葛藤(かっとう)を抱えているのはさっした上、部隊長である青年将校は先の言葉を取り消すことにした。


『失言だった、私事しじ(こだわ)るより、大義に寄り添うのが騎士のつとめだ』


 とは()えども勝てば官軍、負ければ賊軍となるため… 大義なんてものは主張するやからの数だけあるのだ。


 先の読めない愚かな身だと、その時々でみずからの信念に従うしかない。


(それが、俺の騎士道か……)


 余計なモノやしがらみを取っ払って考えれば、自分達が関わっているのは皇統派とニーナ・ヴァレルを信奉する一派の権力闘争にぎない。


 されども、此処ここにいる皆には家族やまもるべきものがあり、リグシア領の人間としてのつとめを果たす義務があった。


(綺麗ごとでかざっても、結局は軍人だな)


 従来の巨大騎士より細身なナイトシェードの操縦席にて、人工筋肉に埋もれながら瞑目めいもくする相棒の心中をおもんばかり、一緒に騎体きたいる魔導士の少女がコッソリと(ささや)く。


『レオ、考え過ぎちゃダメ、いざという時に動けなくなる』

『ありがとう、エルネア。俺は頭が固いからな、どうにも難儀で困ったものだ』


 苦笑いを浮かべつつも、レオナルドは散逸さんいつ的になっていた意識を引きめ、いざという時に判断を鈍らせないよう、心の内で決意を深めた。


(迷いは部下にも伝播(でんぱ)する。ならば、今はおのが責務を果たすのみ)


 入念に計画されたゼファルス領への浸透工作、それを無駄にはできないため、余計な雑念は捨て置き、次の潜伏先までの経路を再確認する。


 人目につかない要所には此処ここと同じく、動力源の “魔力結晶” など隠された補給物資(モスボール)が眠っており、敵地での継続的な騎体運用をささえていた。


(多大な時間と労力が投じられている以上、失敗はできない……)


 ひとつ溜め息を吐いた後、夜間の移動にそなえて仮眠するため、見張りを斥候兵に任せてから、彼は浅い眠りに落ちた。


……………

………

『続きが気になる』『応援してもいいよ』


と思ってくれたら、下載の「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にお願いします。

皆様の御力で本作を応援してください_(._.)_

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 葛藤ですね! 続きが気になって……… でも寝なきゃ……………………
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ