戦況は絶えず移り行くものだ
「凄いものだな、こうやって見ると」
「本当だよね~」
同意するレヴィアと巨大騎士の内部構造に感嘆を漏らせば、耳ざとく聞きつけたジャックス整備兵長が振り向く。
「お、来たなレヴィアの嬢ちゃんにクロードッ」
気さくな笑顔を浮かべ、機械油と鉄の匂いを纏いながら歩み寄ってきた職人気質の技師だが… 筋骨隆々な団長殿にギロリと鋭く睨まれてしまう。
「うぉっほん、ライゼスの野郎みたいなことは言いたくないが…… 」
流石に皆の前で王を呼び捨てるのが駄目なのか、それとも他国から派遣されている立場が問題なのか、分からないもののゼノスは言葉を濁して注意すべきだと伝えた。
「悪いな、陛下、元々住んでいた合衆国は封建的な支配階級がないし、こっちでは相応に苦労してるんだ」
「所謂、文化的な違いというやつだな」
「ふ~ん、王がいないって、ジャックスさんの祖国は共和制なんだ」
異界の国家に好奇心の一端を刺激されたのか、緋色の瞳を煌かせたレヴィアに苦笑しつつ、段々と話が逸れていくのを避けるため、適当にはぐらかした整備兵長が本題を切り出す。
「修理したクラウソラスのK型だけどな、嬢ちゃんに魔導核の調整を頼みたい」
「あぁ、その件だが、少々扱いの変更がある」
「えっと… 私達、そのまま四番騎を使おうと思うの」
「は? ゼノス団長、最初の注文と違うじゃないか!!」
ちょっと待ってくれという風体で眉を顰め、湿ったジト目を向けるも、おっさん三銃士の筆頭は “戦況など絶えず移りいくものだ” と嘯いて素知らぬフリだ。
その様子に周囲の整備兵らが落胆する姿を窺い、彼らが使い手である騎士達から無茶振りされて、わりを喰う事例も多いのだろうと察する。
「すまない、我が侭を罷り通させて」
一言だけ詫びた後、王専用騎のK型をクラウソラスL型に改修する件や、二番騎と五番騎をゼファルス領に預け、そこで全般検査する件も耳に入れておいた。
「まぁ、クライアントの要望に従うのが俺ら技師の仕事だからな。それは良いとして、改修後の指揮官騎は誰が使うんだ?」
既にL型を与えられているゼノス団長や、最新鋭騎を女狐殿から貰い受ける俺を除き、操縦者の適性がある騎士は銀髪碧眼の優男ロイド、個人的な事情で絡みにくいディノ、寡黙で朴訥なザックスの三人だ。
純粋な剣技の優劣で決めるなら新陰流を扱うロイドだが、月ヶ瀬の兄妹には此方と同じく、受領予定の第二世代にあたる騎体を宛がうので、必然的に二択となる。
「確か、光属性の魔法が搭載されているんだったな、レヴィア?」
「ん、その通り」
「であれば、ディノとリーゼに使わせたいな」
出会い頭の決闘が尾を引いて、どうにもディノを気遣う癖があるため、客観的な意見が欲しくて横目に団長殿の反応を窺う。
「良いんじゃないか、あいつも近頃は筋肉美に目覚めてきたしな、ははっ」
「そ、それは別として、私も賛成かな?」
若干、引きながらレヴィアも賛同するが、彼女も一度は騎体を降ろされた幼馴染に負い目があるので、あまり参考にならない。
何やら、指標にする相手を間違えたかと思えど、特段の反対意見はないことから、その方向で取り敢えずは話を擦り合わせる。
先に述べた通り、K型に埋め込まれている魔導核の属性と、ディノの相棒である金髪緋眼の女魔導士は適合しており、搭載魔法の変更があるにしても初期化は不要だ。
それもあって、明るい表情になった整備兵達がキビキビと動き出す。
「ジャックスさん、リーゼの姉御を探してきます」
「おう、頼んだ、さっさと終わらせて一杯いこうや」
「皆ッ、兵長の奢りだぞ」
「やった、ただ酒が飲めるぜッ」
「待てや、誰が奢ると言った!」
俄かに気心の知れたゼファルス領出身の派遣組が湧き立ち、彼らに技術を教わるリゼル側の者達も次々と便乗して、瞬く間に工房内が活気づいていく。
そんな様子に呆然とするヒスパニック系アメリカ人が独り、片手で頭を覆いつつ、やりきれない声音で言葉を紡いだ。
「おいおい、マジで酒代を持てと?」
「それで皆が頑張るなら良いじゃないか、後は任せる」
「くそッ、了解だ。非の打ち所がないほど、きっちり仕上げてやるさ!!」
やけくそ気味に吼えたジャックスと整備兵らにより、旅次行軍の足手纏いにならない程度に五番騎が修繕される傍ら、クラウソラスのL型改が組まれるも……
有償修理に廻す二番騎と五番騎を歩かせる都合上、月ヶ瀬兄妹とディノ達の二組が同行することになって、頼んでもいないのに何故か、原型を留めないほどチューンアップされたL型改は暫くお蔵入りとなった。
因みに工房の連中が好き勝手している折、此方もブレイズ魔術師長が帝国領訪問に備えた資金や物資などの準備、ライゼス副団長が巨大騎士に随伴させる将兵の選抜を行い、騎兵と荷馬車を集めた小規模な部隊が編成される。
その指揮はお目付け役が自ら執るようで、補佐にアルド騎兵長を指名していた。従って、軍部の留守居組はゼノス団長と麾下の準騎士、デレス歩兵長らとなる。
人選自体に問題は無いが、神経質で “石橋を叩き壊して渡らない” 副団長が同伴してくれるのを面倒だと嘆くべきか、否かは微妙だ。
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