三位一体、一蓮托生
ともあれ、一度決まってしまえば物事は動き出し、各々がやるべき事に取り組んでしまうため、イザナをお忍びで街へ連れ出せとは言い難くなってしまう。
「次の機会にした方が良いのでしょうか?」
「大破したクラウソラスの五番騎とか、本格的な修理が必要だからね」
「私と兄様の二番騎もです」
「「ひぅッ!?」」
覗き見の最中、突如背後から掛けられた声にフィーネとレヴィアが振り向いた先、廊下へ差し込む陽光に輝く銀糸の髪を垂らし、小首を傾げたエレイアが佇んでいた。
「お姉様方、一体何をなされているのですか?」
「え、えっと……」
「謁見の間から義父様の笑い声が聞こえましたので、少し気になったのです」
さらりと答えた亜麻色髪の娘など斜に眺めつつ、一瞬だけ見せた胡乱な表情を繕うと、似て非なる銀髪碧眼の少女は視線を戻して、工房で預かった伝言を届ける。
「ジャックス整備兵長が修理上がりのK型を調整するそうです」
「ということは、レヴィアが必要なのですね」
「ん~、私が現状のままクロードとペアで良いのかなぁ」
どこかでイザナに申し訳なく思い、赤毛の魔導士が表情を曇らせたところで、背後から聞き慣れてきた当人の声が届く。
「お前以外と組む気は毛頭ないんだが、他の魔導士も試した方が良いのか?」
謁見の間から出ると、話し込んでいたレヴィアを見つけたので、声を掛けながら、徐に伸ばした手で柔らかい赤毛を撫でつけた。
「あぅ~、でもK型は “極光の矢” が “いんすとーる” されてるから、リーゼさんと乗った方が属性の初期化を省けるし、魔導核の調整は簡素になるかも?」
「おいおい、勘弁してくれ……」
それだともう一度、ディノから相棒を奪ってしまう羽目になるだろうと溜息しつつ、発音が多少おかしくとも聞き覚えのある “インストール” という言葉を鑑みて、傍にいたゼノス団長へ視線を投げる。
「因果の涯からきた稀人の技師どもが使う専門用語だ。寧ろ、陛下の方が知っているんじゃないのか?」
「既知と同じ意味で使われているか、確かめておく必要があるだろう」
「まぁ、それなら構わんよ」
軽く頭を掻いた団長殿の説明は当たらずも遠からずで、騎体に魔法を組み込む作業をインストールと女狐殿が称し、それがゼファルス領に集められた稀人の技師達に浸透して定着したらしい。
(まぁ、分からんでもない話だな)
それより、然ほど意識してなかったが、第一世代のクラウソラスに組み込める魔法は一つだけで、出力調整は可能なものの、二つ目の魔法が搭載できないようだ。
「因みにレヴィア、俺達の四番騎に搭載されていたのは?」
「ん、範囲攻撃を優先した“炸裂風弾”だね」
「私と兄様の二番騎は見たでしょうけど、制圧特化の “雷撃” です」
「一番騎のL型はフィーネの得意魔法 “石柱防御陣” だ」
その場の流れで応えてくれた皆の話だと、騎体の核と魔導士に密接な関係があり、さらに騎士の技量も相まって各騎の戦闘様式が定まるらしい。
(まさに三位一体か… っと)
やや思考に意識を割いていたら、いつもの如く控え目に軍服の裾を引かれ、上目遣いのレヴィアと視線が絡む。
「で、K型の件はどうするの?」
「ふむ、今回は使わないつもりだ」
王都防衛の必要性から全六騎のクラウソラスを含む戦力のうち、ゼファルス領まで引き連れていく騎体や、随伴兵の数は制限する予定だ。
それらの点も踏まえて道中の危険を避けるため、無駄に目立つ装飾が施された王専用騎を持ち出したくはない。なるべく、こっそりと出掛けて、可及的速やかに帰還するのが最良だろう。
「むぅ、陛下の考えは理解できるが、もはや用済みか……」
「あぁ、向こうで第二世代の騎体に乗り換える」
「ならばクロード王、K型は他の騎士が乗れるように改修すべきだな」
「残念ながら貴重な戦力を遊ばせておく余裕など、我が国にはないのだよ」
少しばかり話し込んでいる間に、帝国領への訪問に係る段取りの相談を終えたようで、室外へ出てきた副団長殿と魔術師長も会話に混じり、さらりと騎体の運用に纏わる意見を述べてきた。
手駒が増える分には困らないので異論を挟まず、ここは二つ返事で頷いておく。
「そうだな、ライゼスの案を採用しよう、書類上の裁可は必要か?」
「通常の騎体なら騎士団の権限で十分だが、王専用騎は我々のような事務方の領分になる。すぐ文官に書面を用意させよう」
さっそく動いてくれるのか、身を翻したブレイズが立ち去ってから暫く、此方も廊下での立ち話を切り上げ、レヴィアや団長殿と一緒に整備工房へ歩を進める。
なお、駐騎場の奥に作られた煉瓦造りの施設は内部が吹き抜けとなっており、二体までの巨大騎士を収容できるようになっていた。
「いずれ、拡張しないとな」
「う~、でも土地が無いよ、クロード」
「この場所を確保する時も、結構な苦労をしたんだぞ」
渋い顔となったゼノスの言葉に偽りはなく、後発的な存在である大きな人型兵器を踏まえて、王都の街づくりがされている訳でないため、これ以上に工房を大きくすることは難しいのだろう。
「妥当な案だと、郊外に施設を造るかだな……」
「あ、それお父さんも言ってたよぅ」
既に代替案があるなら、もう魔術師長に任せれば良いかと思考を打ち切り、整備用のハンガーに収容されているクラウソラスK型を仰ぐ。
補修済みの胸部装甲は大きく開かれており、操縦席が取り外されて背側の排熱機関と直結した心臓部、及び埋め込まれた魔導核が剥き出しになっていた。
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