表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/143

リゼル騎士国のおっさん達は優秀です

「やはり親子という事ですか、血はあらそえませんね」


 失った片目を隠すようにらした前髪に触れ、彼女は先王のお忍びに付き合わされて出掛けた大衆酒場での出来事できごとを思い出す。


 酒が入っていたこともあり、些事(さじ)で揉めて殴り合った鍛冶職人も、喧嘩けんか相手がストラウス王だとは思わなかっただろう。


 さわぎを聞きつけて来た警邏中(けいらちゅう)の守備兵らの “鳩が豆鉄砲を食ったような顔” も今となってはなつかかしく、故人こじんとの貴重な思い出なのだが… 現状にける彼女の役目は姫君ひめぎみの護衛だ。


(できれば、不測の事態を誘発するような行為は(つつし)んで(もら)いたいものです)


 などと辟易へきえきするかたわら、イザナの意思をおもんじてひそかに探知魔法など仕込しこみ、かげながら護衛にてっしようと考えるあたり、心理的な距離が遠くなっているものの、姉代わりだったサリエルの意識は変わらない。


 ただ、それとは別に新たな事態が動いており、三人の少女らが色々と画策かくさくしている数日のうちに、隣国のゼファルス領からニーナ・ヴァレルの親書が届く。


 それを持参した使者がした後、玉座にもたれた若い騎士王はり固まった肩肘の力を抜き、手渡された羊皮紙を読み直した。




「精霊門の欠片かけらと新造騎体(きたい)の交換、損耗そんもうの大きい巨大騎士の有償整備はともかく、帝国領への訪問が難題でしょうね」


「んんッ、クロード王、臣民に対する敬語は(ひか)えていただきたい」


 能面のうめんのような表情のライゼス副団長から諫言かんげんていされ、やや気後れした俺は眉を顰めて、その上役を見遣(みや)る。


「慣れない上に精神的な抵抗が… 何とかしてください、団長殿」

「ふむ、公式の場以外ではざっくばらんでかまわんだろう、ブレイズはどう思う?」


 理解を示してくれたゼノスがそばひかえる宰相兼任(けんにん)の魔術師長に同意を取るも、すげなく首を左右にられて否定された。


「こういうのは日頃の習慣が出てしまう。私達なら問題ないが、先ほど他国の使者に敬語を使ったのは不味まずい、二人ともいさぎよあきらめろ」


「ということらしいぞ、陛下」

「くッ、馴染なじんでいくしか、ないのか……」


 王位にいたので、本人は嫌々ながらも職務上の会話をわすようになったディノや、練兵場でよく顔を合わす月ヶルナヴァディスの兄妹はさておき、自分の倍以上も歳をかさねた三人の重臣に常体じょうたいで接するのは違和感がぬぐえない。


 お陰で話の切り出しから(つまず)いてしまった感はあれど、あらぬ方向へ進みかけた軌道を早々に修正する。


「言葉(づか)いは善処する。それで良いな、ライゼス」


「御意に… それでヴァレル家の親書に書かれていた訪問の要請ですが、王自(おうみずか)らがおもむく必要はありません。多大な実績があろうと、ニーナ嬢は帝国の一領主に過ぎない」


名代みょうだいとして騎士団長の私が出向けば、女狐殿の顔も立つだろう」


 主副の団長がうなづき合い、双方ともに否定的な反応を見せたので、魔術師長たるブレイズの様子ようすうかがうと… 又しても、御仁ごじんは首を左右に振った。


「王よ、此処で特段の配慮を取れば、我らの協力関係はより密接なものとなる。そこまで遠くないゼファルス領に出掛でかけるのも一手では?」


「独自の騎体きたいを生産できない以上、仲良くした方がかしこいな」


 必然的に関わりが増える中で団長殿は元より、冷静かつ慎重な副団長殿も本質的に武人だと分かっているため、兼務宰相たるレヴィアの父親が発した言葉を真摯しんしに受け止めて吟味ぎんみする。


 さきんじて言及げんきゅうされたように軽々(けいけい)と王が他国へ足を運ぶのは考えもので、あなどられてしまう逆効果もいなめないが… ゼファルス領への招待が “新たな王” の度量を試している可能性も高い。


(場合によっては誘いを受けないと、リゼルの国益に反する)


 それに勿体(もったい)ぶっていると、玉座に()すだけの飾りになりかねず、みずからの望むところではない。ただ、ひとつだけ確認しておくべき点があった。


「ゼノス、(くだん)の女狐殿は信頼に値する人物か?」

「仁義は(わきま)えているぞ、打算的だがな」


「ならば、此方こちら見極みきわめるつもりだろう、誘いに応じよう」


 暫時の思考を巡らせて決断し、彼是あれこれと異議がありそうだったライゼスに本案件の仔細(しさい)を任せておく。


 されども、えて頼みむことで主体的に関わらせ、余計な遺恨いこんしょうじさせない配慮に気づかれたのか、あきれたような態度を取られてしまった。


「気(づか)いは無用、私も王やブレイズの考えは理解している。それに主命を実行に移すのが臣下だからな… まぁ、必要があるなら、その時は再考を願い出させてもらう」


「ははっ、どうだ陛下、こいつは頭の固さ以上に義理堅いだろう!」


 バシバシと筋骨隆々なゼノスが副団長の背中をたたき、露骨に迷惑そうな表情をされているのが印象的で、肩などすくめた魔術師長と顔を見合わせて苦笑いする。


「うわぁ……」

「何やら入りづらい雰囲気ですね」


「うん、その中にうちのお父さんもいるんだけど」

「奇遇ですね、私の義父とう様もいます」


 扉の隙間からこっそりと謁見えっけんの間をのぞき、伴侶との接し方で悩むイザナと親密になってもらう計画の一環で、彼女の想い人を探していたレヴィアとフィーネが固まってしまう。


 そんなことを知るよしもなく、彼の騎士王クロードは信頼できる先人(せんじん)達に内心で敬意をひょうし、これならば今後も上手くやっていけるだろうと確信を深めていた。

『続きが気になる』『応援してもいいよ』


と思ってくれたら、下載の「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にお願いします。

皆様の御力で本作を応援してください_(._.)_

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ドタバタが起きそうな新体制ですね! こういうのは大好物です!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ